乙女ゲームの主人公になったけど、やる気ゼロです。

こうじゃん

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24 カインside

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―――その日、世界が震撼した。



1年生が初めての演習で、ハイキングに毛が生えたくらいの演習の予定だ。

学園から提供された携帯食を食べ終わり、再出発しようと荷物を片付け始めた時、

遠くから、ドンと鈍い音が響き、そのあと、魔力の衝撃波がきた。

小鳥たちが、何かに脅えるように一斉に飛び立ち、森の動物たちが、逃げ出していく。

「なんだ?」「何が起ったの?」「こわい」

ざわめく1年生達。冷静な先輩達の指示で近くのチェックポイントまで、退避することになった。

何やら召喚獣で気配を探っていたエリカが叫んだ。

「アルベルト様、西から、西の方から、モンスターの大群が来るそうです!」


つえの性能テストの帰りに、エリカから打ち明けられた言葉が脳裏に甦る。

『今度、森に行く演習で、モンスターに襲われるんだ。小型から中型、5、6匹だったと思う。

だから、念のため、演習で気をつけて欲しいんだ。』

おい! エリカお前、小型から中型、5、6匹って言ったよな? モンスターの大群って何だ?








途中でモンスターに襲われたがなんとか無事チェックポイントまで戻った。

そこから女子を残し、モンスターと交戦中の班の援護に向かう。


近くの班がモンスターと苦戦中と伝令が入る。

向こうの森から、煙が上がる。

あそこが、交戦中の地らしい。

森の中を駆けつけると、騎士科で一緒のアイリーンの班だった。

アイリーンは赤毛の美しい女騎士だ。スピードのある剣技でなかなか強い、性格も気さくでいいやつだ。



アイリーンの班は、シャドーウルフとナーガの群れに囲まれて苦戦している。

ファイヤーボールも使ったのだろう、木がくすぶっていた。



シャドーウルフは、オオカミ型のモンスターで影渡りが出来るので倒すのが難しい。

倒すには、攻撃するために実体化した時を狙って切りつけるしかない。

ナーガは蛇にトカゲの腕がついたようなモンスターだ。

毒があるので、噛まれないように注意が必要だ。



エンバー先輩が氷の魔法を使い、モンスターの群れを凍らせる。

凍ったのはナーガだけで、シャドーウルフは影渡りで逃れた。

襲い来るシャドーウルフを剣で切りつけつつ、ナーガにトドメを刺してゆく。



アイリーンが、影から飛び出したシャドーウルフに剣を振るっているとき、氷が溶けたナーガがアイリーンの後ろから跳びかかってきた。

「アイリーン、危ない!!」

とっさにアイリーンをかばって、ナーガを切りつけた。

だが、一瞬遅かったらしい左足に激痛が走る。ナーガに左足を噛み切られてしまった。



太ももを縛って、止血しようとするが血が止まらない。

戦いは、アルベルト様やエンバー先輩の奮闘で、モンスターを倒し、集結した。



俺を含め、負傷者を連れて、チェックポイントに帰った。

皆、ボロボロだ。

エリカが、俺を見て、目をまんまるにする。



ロベリア先生が一番の重傷者の治療に取りかかる。



「時間が無い。エリカ、貴女がやりなさい。まず、出血を止めて。」ロベリア先生が指示する。

俺の担当はエリカのようだ。かなり不安だ。



「ごめんなさい。私をかばってやられたの。」アイリーンが、泣いている。

いや、俺がナーガを切りつけるのが遅かったせいだ。アイリーンのせいではない。



出血のせいか、意識がもうろうとする。

エリカが、ズボンを切り、足を露出する。水をかけ洗って消毒する。
おお、エリカ、ちゃんと手当が出来るじゃないか。


エリカが、ヒールをかける。

血が止まらない。


エリカが、ヒールをかける。

血が止まらない。


エリカが、ヒールをかける。

血が止まらない。




「もういい。足は捨てた! 将来、かわいい娘を受付にして、おじさん受けが良い治療院を経営しようと思ってたけど、諦めた! しょうが無い。カイン、受付にする。生きて! 死なないで!」



エリカのやつ、とんでもないことを言う。

勝手に人の足を捨てるな!

勝手に俺を、お前の治療院の受付に内定するな。



ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒーーーーーール!!!!!

エリカが泣きながら、つえを振りつづける。



俺のためにこんなに必死になってくれてるのかと、思うと、こんな時だが、かなり嬉しい。

エリカのグシャグシャの泣き顔を見ながら、足がダメになったら、こいつの治療院の受付するのも、いいかなと思った。



雷が光るように、周りが真っ白になり、エリカが意識を失った。



おれは、けが人より先に気を失うなよと、思った。



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