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14 侍従ヨハンの日記
しおりを挟む×月○日
最近、坊ちゃんの女遊びの激しい。
もともと来る物拒まず遊んでいたが、何があったのだろうか?
ついに、御当主様の堪忍袋の緒が切れた。
結婚して落ち着け命令が出る。
うんうん。分かる分かる。そのくらい坊ちゃんの遊びぷりはひどかった。
婚約者にしたい娘があれば、言えとおっしゃる。
まあ、気に入った娘なら落ち着くだろうという親心だろう。
坊ちゃんは、子爵家のイレーヌ様を指名した。
坊ちゃんが言い寄っても、珍しいことに相手にされなかったお嬢様だ。
まあ、彼女には婚約者がいらしたのだから当然なのだが、
昨今のお嬢様は肉食なのか婚約者が入らしても坊ちゃんが言い寄ると、簡単になびいていた。
それだけ、坊ちゃんが優良物件という事なのだが……
あの時の意趣返しだろうか?
坊ちゃんも意地が悪い。
×月△日
坊ちゃんが婚約した。
女遊びの激しい坊ちゃんだったが、ようやく落ち着くらしい。
例のイレーヌ様だ。
彼女には婚約者が居たが、違約金を払うことで話が付いたらしい。
元の婚約者と仲よさげだったのに、かわいそうに。
今日は子爵家との顔合わせ。
坊ちゃんがウキウキしている。
朝から嬉しそうだ。
イレーヌ様を愛おしそうに見ている。
アレ? アレアレ?
どうやら坊ちゃんは本気でイレーヌ様がお好きなご様子。
遅い初恋か?
「坊ちゃん、思春期男子の初恋ですか?」
すかさず、坊ちゃんが俺の頭をチョップする。
「俺は今まで恋なんて馬鹿にしてた。
精神薄弱なヤツがかかる気の迷いだと思っていた。
――せつない
側にいるだけで嬉しい。
ときどき胸が痛い」
「ヨハン、彼女を何に例えれば良いかな? 天使かな? 薔薇だと在り来たりかな?」
遅い初恋をした男が非常にうっとおしいことを僕は思い知った。
「だいたい女遊びも、作戦の内だ」と得意げにおっしゃる。
「女遊びがすぎれば、俺の家が望む有力貴族が、娘の婚約者にしようと思わないだろう。しかも、親が女遊びをやめて身を固めろというだろう、そこで、イレーヌ嬢を望んだんだ」
「坊っちゃんは、幼い頃から優秀でいらっしゃるのに、時々バカみたいなことをなさいますね」
「悪かったな!」
うちの坊ちゃん優秀なのだが、ときどきアホだ。
なんだかんだ言って坊ちゃんに甘いご両親なのだから、へんな作戦など立てずとも、真剣に直談判すれば、聞き入れて下さるだろうに……
まあ、職務で成果を上げろとかいろいろ条件は付くだろうけど。
○月☆日
坊ちゃんから、イレーヌ様の元婚約者の家を欺して金を持ち逃げした者の行方を捜すよう言いつかる。
「坊ちゃん、この通り手配してよろしいのですか?」
「ああ、選択肢カードは全部揃える主義なんだ。」
「あとで、困っても知りませんよ」
詐欺師が見つかって元婚約者の家に金が戻れば、違約金を返して元サヤに戻るという可能性もあるのに、いいのだろうか?
○月□日
坊ちゃんは毎日、いろんな修飾子でイレーヌ様を口説いてらっしゃる。
イレーヌ様は、キョトンとした表情であまり効果はないようだ。
坊ちゃんが、なかなかイレーヌ様と上手くいかない何か良い手は無いかとおっしゃる。
イレーヌ様、前の婚約者がまだ忘れられないご様子。
「相手の幸せを思って身を引くのもひとつの愛情の形だと思いますよ」
「それはあり得ない。イレーヌ嬢は俺が幸せにすればいい」
むくれた坊ちゃんに、ため息をつく。
「それならば、学園祭で剣の試合で、良いところを見せるんです。
それで、『君のために勝利を捧げる!』なんて言ってご覧なさい。
若い女の子なんてイチコロで、『きゃー、フィリップ様カッコイイ。なんて強い方!! ステキ! 抱いて!! 』ですよ」
といって、自分自身を抱きしめてくねくねしてみた。
すかさず、坊ちゃんが俺の頭をチョップする。
「ステキ!抱いて、か」
坊ちゃんが、ニヨニヨする。気持ち悪い。
「でも、マルクがいるから優勝できる自信が無い」
「じゃあ、準決勝で勝利捧げちゃえばいいじゃないですか」
「そんなんでいいのか」
「良いんですよ。女の子なんて格好良く勝って勝利を捧げてくれたら、もうメロメロですって」
&月△日
今日は学園祭だ。
剣のトーナメントで坊ちゃんは今年も準優勝した。
坊ちゃんは作戦通り準決勝で華麗に勝って、イレーヌ様に勝利を捧げていたが、イレーヌ様に華麗にスルーされていた。かわいそうに。
最近、坊ちゃんのファンからイレーヌ様が嫌がらせを受けていたので、本人に気付かれぬよう警護に就く。
学園祭の帰り、馬車を待つイレーヌ様が誘拐された。
本人に気づかれぬよう距離を置いていたのがまずかった。
目立たぬよう馬車の跡をつける。幸い人通りの多い町中を通ったので攫った者もスピードが出せず、うまく跡を追えた。
連れ込まれた家を見張る。賊は一人で後からご婦人が人目を避けるようにして中に入った。
後から来た坊ちゃんと伯爵家の護衛と中に入る。賊はあっけなく制圧された。
イレーヌ様を攫った犯人はダリア様だった。
坊ちゃんは助けに入ったのに、イレーヌ様に頬を叩かれていた。
帰りの馬車では、女遊びを説経されていた。
つくづく報われない人である。
まあ、彼女の友人に手を出していた坊ちゃんがクズなのだが、坊ちゃんがクズなのだが……
(大事なことなので二回言っておく)
女遊びをするならターゲットの友人ぐらいはチェックしないと。
坊ちゃんも、詰めが甘い。
&月%日
あれから、坊ちゃんは女遊びを反省したらしくお詫び行脚を続けている。
先日は、逆上した女に脇腹を刺された。
幸いにも、冬服で厚着だったので3センチくらいの浅い傷で済んだ。
「学園2位の実力でなんで女性に刺されるんですか? 取り押さえるとか避けるとかして下さい」というと、
「いや、ちょっとくらい刺された方が相手の気が済むかと思ってな。まあ、直撃は避けて軽傷で済むようにしてるから」とドヤ顔でおっしゃる。
今度からお詫びに行くときは、洋服の下にくさび帷子を装備してもらおう。
#月○日
イレーヌ様の元婚約者の家を欺して金を持ち逃げした者を発見し、捕獲した。
伯爵家の情報網、恐るべしだ。
残念ながら持ち逃げした金は半分以上使われた後だった。
坊ちゃんに報告すると何やら考え込んでるご様子。
#月△日
今日は、イレーヌ様が奥様の講義を受けに来る日だ。坊ちゃんがイレーヌ様に大事な話があるので、講義が済んだら必ず執務室に来るようにと言われる。
いつになく真剣な顔だ。
執務室にいらしたイレーヌ様に、自分と婚約破棄してアラン様の元に戻って良いと言われる。
イレーヌ様の幸せを思って身を引くようだ。
ああ、坊ちゃんも大人になられて、ヨハンうれし涙が出そうですぅ、じゃない、
いやいや、そうすると坊ちゃんが廃嫡になる可能性が…、イレーヌ様には悪いがお止めせねば!
お止めようとしたその時、イレーヌ様が、
「私ね、何があってもずっと貴方の側にいますわ。もう婚約破棄はこりごりですの」
とにっこり微笑んで上目使いで坊ちゃんを見つめる。
その後は、坊ちゃんチョロかった。
イレーヌ様を力一杯抱きしめると、こう言った。
「ずっと側にいてくれるのか。君だけが俺を守るため頑張るんじゃ無くて、俺も君を守るために精いっぱい頑張る。お互いに手を取り合い、助け合い、支え合って、やっていこう」
本当に、ほんとうに嬉しそうに笑った。
――ああ、坊ちゃんメロメロだ。イレーヌ様をメロメロにする予定がメロメロにされている!
あんなに嬉しそうな顔は初めてだ。
僕もとても嬉しかった。
『イレーヌ様、あんな坊ちゃんですが、末永くよろしくお願いします!』と心の中で叫んだ。
後で本当に、坊ちゃんがいないところでよ~くお願いしておこう。
#月*日
確かにイレーヌ様は平凡な容姿なのだが、くるくると変わる表情が愛らしい。
笑う顔もきりりと怒る顔も、生き生きとして美しい。
坊ちゃんとイレーヌ様を見ていて思ったのだが、イレーヌ様は坊ちゃんが好きだということに気づいてないご様子。
今日も坊ちゃんは、ウダウダ悩んでいる。
「そんなに好きなら告白なさればいいのに。ウジ虫みたいですよ」
「主人をウジ虫にたとえるな。フラれたら死にたくなる。恋したことの無いお前にはわからないんだ」
なぜか僕が恋したことの無い人に認定された。
――僕はすでにイレーヌ様の侍女のアンナと真剣交際中だ。しかも坊ちゃんと違って相思相愛ラブラブだ。これを知ったら、坊ちゃんは、どんな顔をするだろうか、今からとても楽しみだ。
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長いことお付き合い頂きありがとうございました。
ブックマうれしかったです。励みになってます。
これで完結です。
最後までお付き合い頂きありがとうございました。
こうじゃん
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