12 / 14
12 誘拐後
しおりを挟むフィリップ様が、子爵家まで馬車で送ってくれるという。
馬車の中で二人きりになると、フィリップ様が
「悪かった。君が刺されて死んでしまうかと思うと、心臓が止まるかと思った」と謝った。
自分のせいで私を巻き込んだことだろう。
刺されてないのに、人騒がせだったのは、悪かった。
だが、しかし、ここはキッチリ言わせてもらおう。
「フィリップ様、人のね、恨みを甘く見ちゃいけないのですよ。
どんな人でも侮られたり落ちしめられたら悔しいのです。
貴方が過去に弄もてあそんだ貴婦人やご令嬢たちは、怨み辛みから嫌がらせをするかもしれないし、
単なる嫌がらせだけじゃなくて伯爵家に被害が及ぶこともあるんですのよ。
たとえば、ダリアさんのお宅は大商人です。家の力を使って伯爵家との取引を切るとこもできるし、
商売で伯爵家が不利になるように持って行くことも出来るわ。
そうしなかったのは、彼女のプライドだと思うし、優しさだと思うの。
貴方が弄もてあそんだ本人だけでなく、親や家族も貴方のことを憎く思うでしょう。
彼女たちが結婚すれば、その夫も貴方のことを面白くないと思うわ。
貴方が一人の女性を弄んだことでそれだけの敵ができるですよ。
嫌がらせって、本人だけじゃなく周りも含まれるの。
貴方の妻や、将来の子供もね。
伯爵家として敵を作らなければならない時もあるでしょう。でも、作らなくて良い敵まで作ることは無いと思うのです」
「すまない、考えが足りなかった」
フィリップ様が項垂れている。
ああ、この人はちゃんと謝れる人なのね。
「そういう私も幼馴染みの元婚約者に恨まれているから偉そうに言えないですけどね……
そもそも、どうしてそんなに女遊びをなさってたんですの?」
「伯爵家の跡取りというだけで、女性が寄ってくるんだ。金目当て地位目当てで寄ってくる女がいやだったんだ」
「生涯を賭けるんですもの、少しでも良い条件をと、思うのは当たり前ですわ。
寄ってきた方の中にはダリアさんのように純粋に貴方のことが好きな方もいらしたと思いますわ。
残念ですが、私はお金目当てですけどね」
「君は、アランを助けたかっただけだろう」
――知ってたんだ。気づいてたんだ。
**
ダリアさんとのことは事件にしなかった。彼女を罪に問いたくないし、伯爵家としても子爵家うちとしても公にすると外聞が悪いのだ。
そもそも誘拐された本人が、されてないと言うのだから事件になるはず無いのだ。
単に友人の隠れ家にちょっとワイルドに遊びに行っただけなのだ。
数日後、ダリアさんからお宅でお茶に誘われた。
ダリアさんのお宅は大商人らしく豪邸だった。クラッシックな伯爵家と違ってモダンな雰囲気だ。
部屋で二人っきりになると、ダリアさんは頭を下げた。
「こわい目に遭わせてごめんなさい。ちょっと脅かすつもりだったの。本当に刺す気はなかったのよ」
「いいわ。ダリアさんの気持ちも分かるし。そもそもフィリップ様が悪いと思うの」
ダリアさんと優雅にお茶を飲む。さすが大商人、茶葉も良い物をお使いだ。
お茶菓子も美味しい。弟に少しお土産にいただけないかしら?
「ねえ、よかったら、どうしてフィリップ様と婚約することになったか教えてちょうだい」
ダリアさんなら、聞く権利があるだろう。
幼馴染みの家を助けるために、大金が必要だったこと。お金目当てに婚約したことを説明した。
「まあ、お金が必要なら私がご用立てしましょうか?」
「有り難いお申し出ですが、貧乏子爵家でまったく返す当てがございませんの」と、ニッコリ笑って首を振った。
「ねえ、貴女はフィリップ様のことどう思ってるの?」
「ここだけの秘密にして下さる?」
「ええ」
「チャラ男ですわね。職務など真面目なところもお有りですが、困った方。修飾詞が多い。あと、女の敵!」
「まあ」
ダリアさんが目を丸くする。
「貴女にかかると容姿端麗で優秀なフィリップ様も形無しですわね。好きな方に思われず、前途多難みたいだから、気が済んだわ」
ふふふと、ダリアさんは笑った。
そういえば、フィリップ様、恋の辛さを最近知ったって言ってたっけ? うふふ、好きな方に思われてないのね。
お菓子を見る表情に出てたのか、お土産にお菓子をどっさり頂いた。
やっぱりダリアさん良い人だ。
**
最近、フィリップ様は、つきあった(遊んだ?)女性達にお詫び行脚を続けてるらしい。
自分が傷つくのはともかく私が傷つくのは我慢できないのだそう。
それが済むまでは婚約しないそうだ。
交際の噂だけでこれだけ嫌がらせが有ったのだから、婚約したら危険だと思ったみたい。
ちなみに誘拐事件のあと、フィリップ様は女性に刺されている。
冬で厚着であったのと肋骨に当たって、傷は3cmくらいですんだ。
今日は、フィリップ様はお詫びした女性に殴られたのか頬を腫らして現れた。
「頬が腫れてますわ。もっとご自分を大事になさって下さい」
「俺は気にならないが」
「貴方は気にならなくても周りは気にしますわ。見た目は貴方の数少ない長所なんですから大事になさってください」
「他にも長所が有ると思うぞ」
「脇腹のお茶目な傷とか、かしら?」
「!?」
彼は日々、女の怖さを学習してるらしい。
ちょっとざまーみろだ。
11
お気に入りに追加
101
あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は攻略対象者を早く卒業させたい
砂山一座
恋愛
公爵令嬢イザベラは学園の風紀委員として君臨している。
風紀委員の隠された役割とは、生徒の共通の敵として立ちふさがること。
イザベラの敵は男爵令嬢、王子、宰相の息子、騎士に、魔術師。
一人で立ち向かうには荷が重いと国から貸し出された魔族とともに、悪役令嬢を務めあげる。
強欲悪役令嬢ストーリー(笑)
二万字くらいで六話完結。完結まで毎日更新です。

【完結】お父様。私、悪役令嬢なんですって。何ですかそれって。
紅月
恋愛
小説家になろうで書いていたものを加筆、訂正したリメイク版です。
「何故、私の娘が処刑されなければならないんだ」
最愛の娘が冤罪で処刑された。
時を巻き戻し、復讐を誓う家族。
娘は前と違う人生を歩み、家族は元凶へ復讐の手を伸ばすが、巻き戻す前と違う展開のため様々な事が見えてきた。


【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!
春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前!
さて、どうやって切り抜けようか?
(全6話で完結)
※一般的なざまぁではありません
※他サイト様にも掲載中

田舎娘をバカにした令嬢の末路
冬吹せいら
恋愛
オーロラ・レンジ―は、小国の産まれでありながらも、名門バッテンデン学園に、首席で合格した。
それを不快に思った、令嬢のディアナ・カルホーンは、オーロラが試験官を買収したと嘘をつく。
――あんな田舎娘に、私が負けるわけないじゃない。
田舎娘をバカにした令嬢の末路は……。

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……
希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。
幼馴染に婚約者を奪われたのだ。
レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。
「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」
「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」
誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。
けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。
レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。
心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。
強く気高く冷酷に。
裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。
☆完結しました。ありがとうございました!☆
(ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在))
(ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9))
(ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在))
(ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))

王太子が悪役令嬢ののろけ話ばかりするのでヒロインは困惑した
葉柚
恋愛
とある乙女ゲームの世界に転生してしまった乙女ゲームのヒロイン、アリーチェ。
メインヒーローの王太子を攻略しようとするんだけど………。
なんかこの王太子おかしい。
婚約者である悪役令嬢ののろけ話しかしないんだけど。

当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!
朱音ゆうひ
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」
伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。
ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。
「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」
推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい!
特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした!
※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。
サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる