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11 誘拐され中
しおりを挟む――うふふ、貴女を亡くして悲しむフィリップ様を私が慰めるの。素敵でしょう?
そういうと、ダリアさんは妖艶にわらった。
いやいや、ちっとも素敵じゃないから!
「ダリアさんみたいな素敵な人に、フィリップ様みたいな遊び人なんて勿体ないわ。
ダリアさんならもっと誠実な良い男の人がたくさんいるわよ」
私はお金もらっちゃったからしょうがないけど、ダリアさんは心の底から勿体ないと思う。
「フィリップ様は、私のこと、綺麗だ。素敵だって言ったわ。
わたしが一番魅力的だって、どんな花より綺麗だって、甘く囁いてくれたの。あれが本気じゃないなんてことあり得ないわよ」
ああ、例のいろんな物に例えるシリーズかしら?
それとも、頭が迷子シリーズかしら?
女性はアレによわいのかしら?
ダリアさん、欺されちゃダメ。アレ、皆に言ってるのよ。私にも言ってるぐらいだから!
その時、部屋の外で争う音がした。ガタガタと音がしてドアが開く。
「……俺はそんなこと言っていたかな? ダリア嬢」
フィリップ様だ。助けに来てくれたのかしら?
ありがとう!フィリップ様。まあ、貴方のせいで攫われたのだが……
「君は遊びでいいって…」
フィリップ様、さ・い・て・い!
思わず手が出て、パシンと、頬を打った。
心の声が漏れてたようで、フィリップ様が分かりやすく肩を落としてうなだれている。
「ダリアさん、遊びでも良いって言うくらい、フィリップ様のことがお好きでしたのね」
ダリアさんが頷いた。
フィリップ様、本当にひどい。女の敵だわ。
「人の心をもてあそんで楽しいんですの?」「いや」
「貴方、本当に人を好きになったことがありますか?」「ある」
へええ、有るんだ!
「こんなことをしてらしたら、本当に好きな人ができても本気にしてもらえませんよ」
「――ああ、いま痛感してる」
フィリップは、辛そうに顔を顰めた。
「すまない、ダリア嬢。俺は他人の気持ちに無頓着だった。
恋がこんなに辛い物とは知らなかった。嫉妬する苦しさも最近知った。本当にすまなかった」
「謝って済むと思うの? ひどいわ。本気で好きだったのよ」
ダリアさんが、ポケットからナイフを取り出す。
ナイフを持つ手が震えている。そのまま、フィリップ様に向かって行った。
「ダリアさん、ダメっー!!! こんな男でも刺したら犯罪者だから!」
ダリアさんを止めようとしたが間に合いそうにない。とっさにフィリップ様を守ろうとして間に入った。
ナイフの刃が私の脇腹に当たる。
刺されたショックと今まで張り詰めていた緊張が途切れて足から力が抜けた。
へなへなとその場に倒れそうになった私をフィリップ様が抱き留めた。
「……なんで、君が俺をかばうんだ?」
「ちゃんと貴方を守るわ。だって婚約者でしょ?」
「俺は、お前に守られたいんじゃない、お前を守りたいんだ、イレーヌ」
とりあえず、フィリップ様に怪我はなかったようだ。ほっとしたら、気が遠くなってきた。
「ああ、イレーヌ死なないでくれ」
フィリップ様は泣きそうだ。
「盛り上がり中のところ、悪いけど刺してないわ。
ほら見て、刃がさやに戻るでしょ?これ、手品で使うナイフよ」
ダイアさんがナイフの刃を指で押して見せる。
――あ、確かに切られてないわ。やだ、恥ずかしい。刺されたと思ってたわ。
「もういいわ。気が済んだわ。何なの貴方達。こんなところでイチャつかないで、さっさと出て行って!」
怒っていたはずのダリアさんは、顔を覆うと肩を震わせ始めた。
振られた男とその婚約者に泣き顔を見られたくないだろう。
私たちは黙って部屋を出た。
部屋の前には縛られた誘拐犯とみられる男と、ヨハンさんがいた。
ヨハンさんはこっそり私の警護に付いてたらしい。
攫われた私の跡をつけて、フィリップ様に知らせてくれたそうだ。
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