9 / 14
9 学園祭
しおりを挟む伯爵家にて、ダンスのレッスンが始まった。
もちろんお相手はフィリップ様だ。
「麗しの薔薇。一曲お相手願えますか?」
私の手を取って、手の甲にキスをする。
ああ、今日は薔薇が私のことらしい。毎回、フィリップ様は何かにたとえて私を呼ぶ。
ちょっとめんどくさい。普通に呼んでくれて良いのに。
「はい。喜んで」
音楽に合わせてフィリップ様と踊る。ダンスは得意だ。
幼馴染みのあの子とよくダンスの練習をした。
――アラン、くるくる回して。
――持ち上げて欲しいの。
――イレーヌ、無理、重い……
――何ですって。羽のように軽いわよ。アラン、頑張って!
――そんな重い羽ないとおもうけど……。 あ~、ごめん、転ぶ。
――きゃあ。
二人して転んで、見つめ合ってクスクス笑った。
軽やかにダンスを踊る。
あれ?
「ごめんなさい。足を踏んじゃったわ」
「気にしないで。イレーヌ嬢になら踏まれてもいい。むしろ踏んでくれ」
フィリップ様、変わった性癖をお持ちなのかしら?
フィリップ様のリードはさすがなのに、どこか
しっくりこない。
――ああ、このヒト、あの子より少し背が高いんだ。
胸が苦しくなって、そっと目を伏せた。
「すまない。執務があるから、これで失礼する」
フィリップ様はため息をつくと、仕事に戻られた。
忙しい中、ダンスのレッスンに付き合ってくれたのね。
ダンスのレッスンが終わって、何か手伝えることがあればとフィリップ様の執務室による。
部屋からヨハンの声がする。
「坊ちゃん、この通り手配してよろしいのですか?」
「ああ、選択肢カードは全部揃える主義なんだ。」
「あとで、困っても知りませんよ」
「ああ、大丈夫だ。この書類は、イレーヌ嬢の目の届かないところへ仕舞っておいてくれ」
まだ伯爵家に入ってない私には見せれない書類もたくさんあるだろうと納得する。
言ってくれれば、極秘のものは見ないのにと、思う。
**
秋の終わりを告げる頃、学園祭が行われる。
学園祭といっても小さな物で、日頃の研究成果の発表、生徒達による楽器の演奏、演劇、最後にクラス代表による剣のトーナメントがある。
フィリップ様も毎年出場されている。
幼馴染みの彼の剣の腕前は平凡だったので、あまり興味が無くてちゃんと見たことが無かった。
今年は、フィリップ様が是非見に来て欲しいと力説するので、スタジアムに向かう。
ちょっと嫌な予感がするので、本当は観戦したくなかったのだが、しょうが無い。
浮き世の義理と言うヤツだ。
婚約者様を応援しよう。
フィリップ様は順当に勝ち進み、準決勝が始まった。
相手は同学年のロバート様だ。
剣の刃は潰してあるが、危険なことにかわりわない。
「始め!」
審判の合図で闘いは始まる。
お互いが探るように剣を打ち合う。
パンパンと剣の音が響く。
ロバートが地面を蹴り、剣を振り上げ襲い掛かる。
フィリップは、一瞬の隙を突き、相手のふところへと踏み込んだ。
相手が突きを打ち払おうとして放った剣を、右によけて躱す。
フィリップは低い体勢から、突きを放つ。
フィリップの剣が、相手の剣を持った手にバシリと当る。
ロバートの剣がクルクルと宙に舞った。
そこをすかさず、フィリップの切っ先がロバートの喉元すれすれに突きつける。
「そこまで!」
「勝者! フィリップ!!」
審判が高らかにフィリップの勝利を宣言した。
観客から勝利への賞賛がわき起こる。
確かにフィリップ様は格好良かった。ファンが増えるはずだわ。
フィリップは他の観客などに目をくれず、私を嬉しそうに見ると「君に勝利を捧げる!」手を振った。
小さな子どもみたいに目がキラキラしている。親に褒めて欲しい子供のような顔をだわ。
ああ、悪い予感当たった!!
ええええ、ばっかじゃないの? やっと嫌がらせが止んだのに、なんでやるかな?
フィリップが手を振ると同時に、私はひょいと頭を下げて人混みに身を隠した。
周りは、「きゃ~、フィリップ様、私に手を振ったわ!」「私に勝利をプレゼントされたのよ!」と大騒ぎであった。
次の決勝戦は、騎士団長の息子マルク様があっさり勝った。
よくやったマルク様!
2回もさらし者になりたくない。
**
学園祭がおわり停留所で迎えを待つが、うちの馬車が来ない。
貧乏子爵家うちの馬車は一台なので、今日はお父様が使われたのかも知れないわ。
仕方がないので、学園のロータリーから坂を下って乗り合い馬車の停留所へと歩き出した。
次の瞬間、腕を捕まれて停まっていた見知らぬ馬車の中へと引き込まれた。
悲鳴をあげる前に、口を押さえられる。
馬車の中で目隠しされ後ろ手に縛られた。
――うわぁ、わたくし、攫われました!!!!!
お金に目がくらんで、幼馴染みを婚約破棄した罰バチが当たったのかしら…
10
お気に入りに追加
101
あなたにおすすめの小説
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにて先行更新中

貴族の爵位って面倒ね。
しゃーりん
恋愛
ホリーは公爵令嬢だった母と男爵令息だった父との間に生まれた男爵令嬢。
両親はとても仲が良くて弟も可愛くて、とても幸せだった。
だけど、母の運命を変えた学園に入学する歳になって……
覚悟してたけど、男爵令嬢って私だけじゃないのにどうして?
理不尽な嫌がらせに助けてくれる人もいないの?
ホリーが嫌がらせされる原因は母の元婚約者の息子の指示で…
嫌がらせがきっかけで自国の貴族との縁が難しくなったホリーが隣国の貴族と幸せになるお話です。

悪役令嬢は攻略対象者を早く卒業させたい
砂山一座
恋愛
公爵令嬢イザベラは学園の風紀委員として君臨している。
風紀委員の隠された役割とは、生徒の共通の敵として立ちふさがること。
イザベラの敵は男爵令嬢、王子、宰相の息子、騎士に、魔術師。
一人で立ち向かうには荷が重いと国から貸し出された魔族とともに、悪役令嬢を務めあげる。
強欲悪役令嬢ストーリー(笑)
二万字くらいで六話完結。完結まで毎日更新です。

【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!
春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前!
さて、どうやって切り抜けようか?
(全6話で完結)
※一般的なざまぁではありません
※他サイト様にも掲載中

そのご令嬢、婚約破棄されました。
玉響なつめ
恋愛
学校内で呼び出されたアルシャンティ・バーナード侯爵令嬢は婚約者の姿を見て「きたな」と思った。
婚約者であるレオナルド・ディルファはただ頭を下げ、「すまない」といった。
その傍らには見るも愛らしい男爵令嬢の姿がある。
よくある婚約破棄の、一幕。
※小説家になろう にも掲載しています。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々
くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

【完結】お父様。私、悪役令嬢なんですって。何ですかそれって。
紅月
恋愛
小説家になろうで書いていたものを加筆、訂正したリメイク版です。
「何故、私の娘が処刑されなければならないんだ」
最愛の娘が冤罪で処刑された。
時を巻き戻し、復讐を誓う家族。
娘は前と違う人生を歩み、家族は元凶へ復讐の手を伸ばすが、巻き戻す前と違う展開のため様々な事が見えてきた。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる