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<4-1>打ち解けるふたり

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「ネストール」
「はい。なんでしょう、セト様」

 平時が続き、ネストールに呼び出され、奉仕を受け数度射精する。セトの局部の状態から、ネストールが十分だと判断したのが普段よりも早かった。

 垂れ幕から見える空は明るく、夜までまだ少し時間がある。この機会に、ネストールにいくつか聞いてみたかった。

「お前は、何故医官に?」
「私に興味が湧いてきましたか」
「悪いか」
「いいえ、ありがたい限りです。軍部の地位ある方に気に掛けていただけるなんて、医官としてこれ以上の名誉はありません」

 ネストールが諸々の片付けをし終え、果物を浮かべた紅茶を出してくれる。セトが居室に戻るまで時間があるのが、言葉にしなくとも伝わっている。

「セト様と、似ていると思いますよ」
「似ている?」
「私も孤児で、軍部の施設で育ちました。セト様は体格を活かす方へ進まれたでしょう?
 私は線が細いこともあって、医官の道へ。調剤室が与えられてからは、いつか隊長職へのご奉仕があると、ひとり訓練を重ねました」
「訓練……」
「セト様は今でも、野営に出陣されない平時には時間を見つけて、平の武官に混じって訓練をされますよね。それと同じです」
「知っているのか」
「担当医官ですから。隊長になられたのにご立派です」

 隊長職に就いてから、訓練への参加は任意になった。単純に、担当医官からの診察や上層部との話し合いなど、他のことに時間が割かれるからだが、上官になったからといって訓練を怠るような武官はいない。筋力は落ちていくし、戦闘の勘も薄れる。

「医官の訓練は当然、傷や怪我の手当が中心ですが、調剤室を与えられた後は、上官を満たすための訓練も加わります」
「俺への手技、だな」
「セト様が受けられているものは、私が訓練で身につけたものですが、少し変わったものです。他の医官も手技は一通り覚えますが、どちらかと言えば武官に組み敷かれても平気な身体作りをします」
「そうか」

 セトがネストールを組み敷くことはなく、医官の身体作りがどんなものか、考えることすらしなかった。セトの興味はネストールについてで、ネストールがしていないことに興味はない。

「医官になって六年と聞いた」
「はい、その通りです」
「他の隊長の担当になったことは?」
「ありますが、ご満足いただけなかったようです。力を振るう軍部の人間が、こんなやり方を好むはずがないのです。医官の上に馬乗りになって、女の代わりに使うのが一般的かと」
「っ……」

 ネストールの上に乗る想像ができず、顔を顰めた。ネストールは小柄で細身、髪を伸ばしていれば女に見えなくもない。体格の良いセトが乗れば折れてしまいそうなほどだ。

「私が聞いた限りでは、セト様には私が合うと、昔から判断されていたようですよ」
「は……?」

 セトは戸惑いを隠さなかった。担当医官であるネストールには、隊長としての顔をすっかり向けなくなっていた。

「セト様は辛い訓練にも興奮せずに耐えますし、体躯の割に淡白に見えるので、主導権が医官にある方がいいだろうと」
「間違ってなかったな」
「そう不貞腐れずに……、幼く見えますよ」
「悪かったな」
「このようなつもりではなかったのも理解できますが、立派な隊長のひとりに変わりありませんからね。そのお身体を癒して差し上げられることが、何よりも嬉しいです」
「そうか」

 セトが聞きたかった、ネストール個人の話は聞けた。居室に戻ろうと立ち上がると、ネストールが引き止めるように続けた。

「六年掛かりましたが、ようやく私にとっての対を見つけたのです。少々重いかもしれませんが、お付き合いください」
「本人に言う言葉なのか、それ」
「セト様になら受け入れていただけるかと」
「まあ、年齢差もあるからな。腕も確かだし、信頼してる」
「ありがたきお言葉です、セト様」

 両手を胸の前で合わせ礼をするネストールに見送られ、セトは多少の気まずさを感じながら調剤室を後にした。


 ◇


 野営がないのは平和でいいのだが、セトが滾ることも少なく、ネストールは不満そうだった。

 セトは元々淡白で、魔物討伐で気分が昂らなければ本当に鈍いのだと、ネストールから諭されるものの、セト自身は特に困っていなかった。

 午後に調剤室でネストールの手技を受けた後、居室に向かうには陽が高く、ネストールと話す時間が増えた。

「セト様、担当医官として、ご提案を」
「なんだ」
 
 ネストールに呼び出され身体に触れられるのは嫌いではないし、上官が皆行っていることなら、従っておくべきだろう。

 まだ若く経験の浅いセトを蔑ろにするような上官はいないが、平の武官は異なる。自らの部隊の指揮が取れなくなれば、魔物討伐は失敗する。平の武官からの反発を避けるために、上官として先輩に当たる他の隊長職の習慣を、セトも真似ておくべきだ。

「脱毛を考えられませんか」
「脱毛……?」
「初めは剃毛し、その後薬剤を使って生えにくくする処置です。完全に脱毛するには数ヶ月掛かりますが、野営での拭き取りが楽になるので清潔さが増します」

 剃るなら、身体に刃物が当てられることになる。医官であれば、手術の範疇だろう。

 上官からではなくネストールから言われるのであれば、脱毛の範囲も読めてくる。

「……手技がやりやすくなると」
「ええ。足や腕などもしていただくと、万一縫うときの邪魔にもなりません」
「ネストールが仕事をしやすくなるんだな?」
「そう捉えていただいても構いません」
「その処置も、ネストールがするんだよな?」
「もちろんでございます」

 目の前にいるネストールの腕や脛に、毛は生えていない。医官なら皆、済ませている処置なのだろう。

「ん、受けよう。その口ぶりだと、他の上官もやってるんだな」
「ご名答です」

 平の武官だった頃は、皆で水を浴びることもあったが、上官になると外で肌を晒さなくなる。居室で担当医官が清めるためだと思っていたが、ネストールの手技を受けてからは別の理由が思い浮かんだ。

 何かしら、手技の跡が身体に残っているのだろう。脱毛もひとつ、手技を受けている証拠だ。


 ◇


 いつものようにネストールに呼び出され調剤室に入ると、今ではもう懐かしいとさえ感じる、甘ったるい匂いが漂っていた。

「セト様は無抵抗ですし、あの香油の必要はないのですが、局部に近いところへ刃物を当てる関係で、本日は焚いております」
「……ああ」
「拘束はしませんから、ご安心ください」
「ネストールに任せる。いいようにやってくれ」
「かしこまりました」

 ネストールに触れられて、勃たないわけがない。
 セトはその点に関して、とっくに諦めていたが、ネストールなりに気を遣ってくれたのだろう、いきなり局部の剃毛から始まった。

 軟膏とは異なる、白い弾性のある薬剤を塗られ、剃刀が肌をなぞる。

 腕や足から始まっていたら、ずっと意識し反応し、身体を震わせ唸り声を上げていたはずだ。始めに最も過敏な場所を終えてしまうのは、さすが担当医官で、セトの身体をよく理解している証拠だった。
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