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<3>一時の平和
しおりを挟む次の野営でも、上官から宛てがわれた医官はネストールだった。
今までの野営では、セトの地位が上官ではなく、平の武官として武官の集まる居室で雑魚寝をしていたし、手当を担う医官はその都度変わっていた。
セトが上官になったからこそ、ネストールという担当医官と過ごすことになったのだ。
セトの恥部を知るネストールと、同じ屋根の下で過ごすことが気まずかった。今回は傷が少なく、ネストールに触れられる箇所が少なかったのは救いだった。
◇
隊長となり二回の野営を経験して少し経ち、武官棟や医官棟を歩いていると、上層部がやたらと目に入るようになった。ネストールの言うことが間違っていないと、納得できてしまった。
怪我などで治療者一覧に入っていない将軍の執務室に、担当医官だと思われる特定の医官が出入りしている。医官個人に宛てがわれた調剤室にも、怪我の報告のない隊長が通っている。
皆、魔物討伐で成果を上げ人間的にも尊敬できる上官たちだ。セトも、ネストールを宛てがわれ、その仲間入りを果たしている。
◇
魔物出没の報告がなく野営のない日が続き、ネストールに呼び出された。
隊長と担当医官の関係が野営時とその直後だけだと思っていたセトは、上層部を見て、その呼び出しに応えない選択は取れなかった。
快感を得たいわけではなく、隊長として、担当医官とは信頼関係を作っておくべきなのだ。
「……今日は、匂いが違うんだな」
「ここに来るのが妙なことではないと、お気付きになる頃かと思いまして」
「まあ……」
「あの香油は強制的に力を抜かせるもので、本来は手術などに使うものですから」
「だろうな」
ネストールの案内で、下穿き以外の服を脱いで寝台へ上がった。どうせ剥がされる下穿きを履いたままなのは、せめてもの抵抗だ。
ゆっくりと身体を横たえると、この場で受けた昂りを思い出し、すでに陰茎が勃ち上がってくる。
「軍部の隊長職以上、つまり将軍や大将など上層部も含めた上官たちは皆、医官を使って昂りを抑えられています。担当医官を固定できるか、対を試している最中の隊長や医官もいます。
戦闘中には似た興奮を覚えると言いますし、上手く発散しきれなければ、戦果に響きますからね」
ネストールによれば、今までセトが戦闘中に性的な興奮を覚えなかったのは、そもそも武官としての任務にしか興味がなく、体躯の割に性欲が淡白だからと言われた。
隊長という責任を負った任務でその血が目覚めたのだろうと、言葉は続いた。
「女に触れたいと思ったことは?」
「特にない。軍部ではほぼ会わない」
「会わないからこそ、妄想して昂るものなのですよ。頭の中であれば、好き放題犯せるので」
「犯す……?」
セトには想像しにくい話だった。
女を孕ませるためにどうすればいいのかは知識として知っているが、その行為をセトはずっと横になったまま、ネストールに任せている。おそらくセトは、ネストールに犯されていると言えるのだろう。
「ちなみに、何をどう処理なさっているかは、その対次第です」
「どうって?」
「基本は、武官が医官を組み敷いているはずです。セト様は、私がご奉仕させていただきますが」
セトは聞き返したことを後悔した。言い換えるなら、他の上官たちは担当医官を犯すことで冷静さを保ち、魔物討伐で成果を上げていることになる。
セトがネストールの調剤室で受ける奉仕も、確かに発散には役立っている。訓練外でも剣を振りに行くことがあったが、その必要がなくなった。
ただし、これからそういった気分になることがあれば、ネストールに頼まなければならないが。
「反論されないのですか?」
「……あれだけの醜態を見せておいて、何か言えると思うか?」
「いえ。私の手技がお気に召したようで何よりです。野営がなければ、定期的に来ていただきますよ」
下穿きを剥がされる。そうなることが分かっていてもまだ、セトは自分で脱いで寝台に上がる勇気を持てなかった。きっと、次回も同じように下穿きを着けたまま、寝台へ上がるだろう。
◇
「セト様、我慢なさらずに出してください。魔物と冷静に対峙するために、必要なことです」
「っう、わかっ、てる……、っく……」
びくびくと腹筋を震わせながら射精をするセトは、少しずつではあるが、ネストールが素肌に触れることに慣れてきたようだ。
ネストールが感じるセトの身体や反応から考えるに、セトはおそらく男同士の抜き合いすらも経験がないのだろう。
魔物討伐では気が立ち、それに伴い局部も滾るのが一般的で、男しかいない野営では武官同士擦り合うと聞く。
ひとつ屋根の下だが、セトはその状況には巡り会わなかったのだろうか。医官であるネストールには、セトに尋ねない限り出ない答えだ。
セト自身は気付いていないだろうが、顰め面が緩まり、単純にネストールの手技に癒されているようにも見える。そろそろ、頃合いか。
「少し、手技の範囲を広げてもよろしいですか」
「範囲?」
「このあたりとか……」
「っ!!」
「ああ、やはり感じられますね、よかったです」
セトの鼠蹊部に親指を当て、揉みほぐすように力を入れる。触れられた感覚に驚いて、セトの膝が足の間にいるネストールに当たるが、すぐに力は抜け、むしろ足を広げて明け渡してくれる。
一度射精を終えたばかりだが硬さを残す若い陰茎が、ぴくぴくと反応し、触れてほしいとばかりに先走りを零す。
眉間に皺を寄せたセトは、身体の横に置いた手で敷布を握りしめ、不慣れな感覚に耐えようとしていた。
他人から触れられることに極端に慣れていないようで、今までの手当はどうしていたのかと問いたくなるほど、セトは敏感だ。おそらくこの敏感さが、上官として目覚めた証拠なのだ。
ネストールの触れ方が他の医官と異なると言われれば、それも間違いではない。
ネストールが触れることでセトの過敏さを引き出せているなら、やはりセトの担当医官はネストールにしか務まらないし、ネストールが担当医官としての訓練を受けてきたことがやっと身を結ぶ。
股関節の骨格や筋肉の形に合わせて親指を這わせると、それだけでもセトは腹筋を震わせ、亀頭からは制御のできない先走りが更に溢れる。
「あ……、う、んんっ」
「出そうであれば、出していいんですよ。我慢はなさらないでください」
「うっ!」
陰嚢から肛門に続くまでの会陰にも触れる。おそらく今のセトにはまだ、肛門から前立腺を刺激するなど違和感しかなく、快感どころではないはずだ。
会陰など、誰にも触れられないところにネストールが触れる。その意識だけでも十分だろう。
睾丸を手のひらで包みそっと揺らしながら、指で会陰を擦る。当然、立派な陰茎も握ったままだ。
「っはあ……、ネストール……」
「っ……」
ネストールは完全に油断していた。セトからはネストールの下半身は見えていないはずだ。この奉仕の間、ネストールは衣服を脱がない。余裕のないセトの声に、下穿きの中で射精してしまった。
「……ネストール?」
「いかがされましたか、セト様」
「……いや、なんでもない」
誤魔化せただろうか。快楽に溺れていても、上官は上官である。基本的には部下の機微に聡い。ネストールは、まだ弱冠十八のセトの経験の浅さに賭け、気付かれていないことを願った。
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