妖からの守り方

垣崎 奏

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第二篇

12.翠月の異変 1-3※

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 緑翠がそっと翠月の肩を押し、腰を下ろした柘榴が受け止めた。翠月の太腿をぐっと引き寄せ、開かせる。柘榴が擦っていただけの秘部は、突き立てられるのを待ち望み、濡れて震えている。

「ああっ!!」

 先端を押し当てるだけでも、翠月の声が響く。ここは黄玉宮で、緑翠は翠月に声を上げさせたくはないものの、我慢させるとより辛くなる。

「んん、あああっ!!」
「ぐっ、翠……」

 翠月との共寝には慣れている緑翠ですら、声が出るほどの熱さと柔らかさだった。一気に奥まで突いたせいか、普段に増して、まとわりついて離そうとしない。馴染むのを待っていると、正面から柘榴の声が降る。

「…少し、触れますよ」
「んっ、ああっ! まっ、あっ、ああっ!!」

 柘榴が乳首を弄びながら、首筋や耳にも舌を這わせ、普段よりも強い快感が翠月を襲っているのは、締め付けからも分かる。緑翠はゆっくりと一息吐いてから腰を動かし始め、徐々に強めていく。手を伸ばし、小さな頬を包みながら唇を噛まないよう、親指を入れた。翠月の瞳は快さを拾って、焦点が合っていないようだったが、一瞬交わった気がした。

 その潤んだ瞳が、引き金となった。最奥に、大きく動いてしまった。

「んんんっ!」
「くっ……、翠、気を保っていられるのか」

 相変わらずまとわりついて緑翠を搾り取ろうとするのを感じつつ、翠月の顔を見ると、虚ろではあるが目は開いていた。

「普段は、堕ちてしまうと?」
「……」

(ああ、不快だ……)

 今回は、抜かずに翠月の中で果てなければならなかった。緑翠の想定よりも早かったことに問題はないが、柘榴が目の前にいる羞恥には、耐えるしかなかった。無防備な翠月を、他の誰にも知られたくなかった。緑翠の妻なのだから当然ではあるが、今は御客の柘榴の前、楼主として振る舞わなければならない。翠月も、本来ならば内儀としての所作を守るべき場面だ。

 緑翠にとって救いなのは、柘榴が皇家とほぼ同列の高位貴族で、取引相手でもある最高位貴族をないがしろにはしないと思えるところか。

「まだ薬が抜けていないとするなら、僕も、ですかね。避妊薬の用意は?」
「……」

 座敷の端に追いやられた翠月の着物の袖を探ると、念の為にと芸者には持たせている小さな巾着が見つかる。その中には、飴玉より二回りほど小さい錠剤が入っている。

 それを確かめた緑翠が自らを引き抜き、ひとりで身体を支えることもままならない翠月を正面から抱き締め、続いて柘榴が竿を沈めた。一度果てていても自然と張り詰めるのは、やはり発情の強い高位貴族ゆえか。

「…っ、はぁ…、なんて名器を…。翠月が床に出ない理由が分かりましたよ」
「……それはどうも」

 緑翠の返事を聞いた後、柘榴が翠月の腰に触れ、そのまま尻を撫でた。ゆっくりと抽送し、楽しみ始めた。

「これは、本当に罪深い…」
「んっ、ああっ、あっ、まっ…」

 緑翠にもたれるように四つん這いになった翠月の奥には、柘榴の男根がよく届いているだろう。柘榴に突かれ、緑翠の首にしがみついてくる翠月を支えながら、乳首にも触れる。規則的な律動が速くなり、柘榴が果てるのも近い。

「ん、あっあっ、んあ…、あっあああっ!」
「っ……」

 中に放ち切った柘榴が、翠月から離れる。仰向けに返した翠月は、目を閉じてしまい、その拍子に涙が一粒、頬を伝った。緑翠が親指で拭い、その小さな口に錠剤を水と共に流し込んだ。身体の火照りがやっと落ち着いたのだろう、翠月は穏やかに息をしていた。

「……とりあえず、大丈夫そうですか」
「おそらく…」

 事の終わりを察したのか、翠月付きの世話係が湯桶と手拭を持って入って来た。翠玉宮に連れ帰るにしても、この姿の翠月を抱えて番台を通るのは避けたい。緑翠は替えの着物も受け取った後、世話係を退出させた。黄檗の間は、眠ってしまった翠月と、柘榴、緑翠の三名に戻った。

 堕ちてしまった翠月に、普段の通り手拭を当てていく。柘榴は邪魔になると判断したのか、着物を直した後、卓に戻って酒を飲んでいた。

「…慣れていらっしゃいますね」
だからな」

 息を吐いた柘榴は、この光景に何を考えているのだろうか。裏が隠密である以上、全てを晒すのは危険だが、ここまでの事態になってしまえば、取り繕うことは無意味だ。

「もうしばらくは、注意が必要ですね。僕から言わずとも、緑翠さまならそのおつもりでしょう。今日の見世も、僕でなければ休ませていたはず」

 杯を傾けながら話しかけてくる柘榴の声は、当然耳に入っていたが、緑翠は翠月から目を離すことができなかった。緑翠と柘榴、ふたりの放出を受け入れた秘部からは、濁液がまだ零れて溢れてくる。手拭を巻き当て、別の手拭で白い肌に浮いた汗を拭きとっていく。

(万一も、ないわけでは…)

 芸者は皆、床見世があれば避妊薬を飲む。多数の床に入る下位芸者は特に、御客と想い合って事前に相談しない限り、宿っても誰の子かは正確には分からない。

 翠月の体内に放出したのは緑翠ですら初めてだ。ニンゲンの翠月に対して避妊薬がきちんと効くのかも、定かではないと考えるべきだろう。

 以前、翠月の身体を診てもらった折に、瑠璃が避妊薬について何も言ってこなかったのは、翠月が床には出ておらず、共寝の相手が緑翠しかいなかったからだ。同じニンゲンで芸者の天月は男で、心配せずとも芸者をやれている。

 その疑問に辿り着いたのが、今であることに、激しい焦燥感を覚えても遅い。翠月が来てからというもの、緑翠は後から物事に気付いて、後悔することが増えた。当然といえば当然、翠月が来たからこそ、最高位貴族の当主の座を手に入れた。周囲からの目は変わった。緑翠が、変化に取り残されている。

(翠も、変化に疲れると言っていたな…)

 今更自覚したことを、将来に活かすしかない。前もって対策が取れない以上、翠月を守っていくためにやれることは、後手になっても寄り添うことだ。何か恐怖を感じるようなことがあれば、言い出してもらえるように。

 ぐるぐると考えている間に拭き終え、世話係が用意した着物でさっと翠月を包んでしまう。

「……あまり、ご無理なさらず。これが廓を継いだ宿命なのかもしれませんが、緑翠さまも顔が青いので」
「っ……」

 慌てて、口を手のひらで覆った。ゆっくりと、柘榴を見やる。

「見世でも、翠月の様子から想い合っているのが伝わってくるので、本当に羨ましい限りですよ」
「…巻き込んで、すまない」

 最高位貴族が謝るなど、予想していなかったのだろう。緑翠は素直に思ったことを口に出しただけだが、柘榴は杯を持ったまま、凍り付いた。

「……廓で起きたことですし、僕は何も。ただ避妊だけが心配ですが」

 じっと、瞳を覗き込まれる。扇家の裏家業は、隠密だ。

「ここは夜光さまの箔のある最高級館。何かしら手段はお持ちでしょう?」

 柘榴がどこまで皇家の裏を知っているのかは分からない。おそらく、全てを調べた上で御客として来ていると思っていい。

「僕も、は好きですからね。これからも楽しませてほしいだけですよ」

 そう言って、柘榴は胡坐から正座へと足を組み直し、緑翠に頭を下げた。高位貴族として、緑翠を立てているのが分かり、どうも腹の内は見えない。

「僕は、朝まで休みますから」
「……では、こちらで失礼いたします」

 最後の最後で、ようやく楼主として言葉を返した緑翠は、気を失ったままの翠月を抱え、翠玉宮へと引き上げた。
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