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第一篇
84.掌中の珠 2 ※
しおりを挟む「…翠、おいで。身体は俺に預けていい」
翠月を膝立ちさせ、その腰を自身の上半身に当てるように支えてやる。秘部に触れ直し十二分に愛液を絡めた後、翠月の中へ指を一本進める。
「あっ…、あっ、んんっ!!」
(狭いが…、欲しがって動いているようだ)
緑翠は座ったまま、指をゆっくり動かしてやる。声の上がる部分を指の腹で掻いてやると、翠月に頭をぎゅっと抱えられる。抽送ではなく、一点に触れられ続ける方が悦いらしい。身体の震えも止まらない。
「んっ、…んんっ、あっ…」
逃げ出そうと動く腰を抱き寄せ、目の前の白い肌へ口を付けながら、徐々に速度を上げていく。
「んんっ、あっ…、あっ、んめっ!」
翠月の蜜壷に締め付けられた手に、勢いよく何かが当たる。
「翠、お前……」
緑翠の肩で息を荒げ黙ったままの翠月が、腰を落とさないように片腕で支える。男と実際の床は初めての翠月が、潮まで吹いて震えている。
(ああ、そうか…、淡雪が、ずっと翠の快感を育てていたから…)
翠月がひとりで見世に出るようになってからは、淡雪の蒲公英の間へ出向いた報告を受けていなかった。話していないだけで、見世の合間に続けていたのだろう。翠月の床への意識は相当に高かったし、自然な流れだ。
翠月から少し身を離し、目を合わせる。涙目の翠月は、緑翠の熱をより高ぶらせる。
指を抜かずに、もう片方の手から狐を呼ぶ。翠月が寝つきにくい日に、重しとして出していたものだ。
「……?」
「俺の分身とでも言っておこう」
ほんの少しの出来心だ。翠月なら、楽しんでくれるだろう。 可愛い狐などと思う余裕を、緑翠は与えない。足先や背中など、分身の狐の尾で触れさせる。触れられる感覚は本物で、くすぐったさに身をよじってくる。蜜壷は緑翠が、指を増やして弄り続ける。
「あっ…、まって、まっ……っ!」
翠月が、胡座をかいていた緑翠の内腿の上に座り込んでしまう。結局腰が抜けてしまい、緑翠は支えきれなかった。
指は未だ入ったままで、蜜壷が緑翠を求めて締め付けてくるのを感じ、笑みが零れる。抽送が難しいほどに、翠月は緑翠を求めている。
この愛おしい内儀を、どう貫いてやろうか。楼主として見慣れたはずの女の身体に、発情期のない緑翠がここまで興奮するとは、思ってもみなかった。さすが、翠月とでも言おうか。ここまで高まるのであれば、ふたりの初めての床は良いものになるだろう。
「…休憩、するか?」
緑翠の肩で俯いたままの翠月を、敷物に寝かせた。
返答はないが、足を開かせ内腿や割れ目に舌を這わせても、抵抗してこない。目に入る秘部は綺麗な桃色で、無理にされた痕は外見では何も残っていない。当然、愛液が光って見えているが、愛撫を止める気はない。
(どんな御客でも、欲ほど豹変させるものはないからな……)
硬くなった蕾を吸い上げてやると、翠月の腰が浮く。腕で押さえながら、吸った先を舐めてやると、声が漏れてくる。それが、先程から何度も緑翠を刺激してくる。
緑翠の想定よりもずっと敏感な翠月は、何度も達しそうになっているのが見て取れる。翠月の小さな手を握って、力が返ってくるのを感じながら、翠月の様子を探る。果てさせてもいいのだが、この調子だと最後まで持たないのも予想できた。緑翠がこんなに欲情できるとも思っておらず、翠月に最後まで意識を保ってほしいと、強く願った。
(翠も俺も、意識を失うほどの床がいいものだと思えるわけがない)
緑翠が攻める手を緩めたことに気付いた翠月が目を開ければ、緑翠の膨らんだ着物が映るだろう。
(…やはり、強張るか)
「……男の竿を、この距離で見るのは初めてか?」
翠月は、素直に頷いた。涙目で頬を赤らめた翠月を直視すれば、竿はさらに大きくなる。緑翠も着物を脱ぎ、身についているのは組紐だけになった。唇に口を寄せる。
「怖いか?」
反応がない。戸惑っているのだろう。天月との一件の時も、翠月は気を失っていた。耳元に顔を寄せる。
「翠に興奮している証拠だ。できるだけ、優しくする」
翠月の足を広げ持ち上げ、まずは沿わせるだけだ。翠月が震えているように感じられ、それは興奮か恐怖か、緑翠には区別がつかなかった。
(力を、抜けっ……)
目の前でぶらぶらと揺れる、首から下げた石のはまった組紐を、背中に回す。首が締まるほど、重いものではない。
擦り合わせている間に口寄せをして意識を逸らした後、抱きしめながらゆっくり奥まで竿を進める。淡雪のところで秘具・張り形を使っていたことも、緑翠は知っている。ある程度の深さまでは、翠月が受け入れられることも見当がついていた。
それでも、やはり全てを挿れる手前で、当たる感覚がある。翠月も背中を反って震えている。
「っ…、っ!」
「辛いか?」
「んんっ…」
涙を流しながら、頭を振る翠月が見える。痛さで泣いているのではなく、感じすぎている。堕ちるのも近いのだろうか。
「…嫌なら、教えて」
腰の下に枕を入れて支えた後、翠月の太腿を押さえ、浅く、ゆっくりと腰を振っていく。翠月も自ら快感を追い、動いているように見える。
「気持ちいいか?」
返事の代わりに伸ばしてきた手を取り、起き上がらせた勢いのまま腕の中に収めてしまう。
「いいところ、探してみろ」
(顔は見ないでやるから…、俺との快感を拾え、翠)
膝裏から腰に手を回し、力の抜けた翠月が身体を下ろし切ることのないように支えながら、翠月が前後・上下に動くのを手伝ってやる。翠月の様子を見つつ、緑翠は快感の程度を選んだ。
「奥に、当たっているのが分かるか?」
「んっ、…んんっ!」
「上手だ、翠」
翠月の歩みに合わせてやろうと思っていたが、欲には勝てない。緑翠も腰を揺らせば、翠月はたまらなくなるのだろう。少しは休憩できたのか、緑翠の首に回す腕に力が入り、しがみついてくる。
「あっ…、んんっ…、っ、…ああっ」
「果ててもいいぞ」
「っ、はっ…、まっ、まっ…!」
「まって」と言う翠月に、緑翠は動きを緩めて応える。挿入していることもあり、翠月に負荷がかかっていることは分かっている。
「苦しいか?」
翠月が答えない。息を整えているようにも見える。快感には、淡雪のところで慣れているはずだ。耐えられないほどに、感じているのだろうか。
「止めるか続けるか、どうしたい?」
「……りょくすいさまは?」
耳元で翠月の掠れた声が、甘く響く。
「翠の望む通りに」
顔を見られないように抱きしめつつ、耳元で囁き返した。息を多少落ち着かせた翠月が、少し考える間を取ってから、答えた。
「……つづけてほしい」
「ん」
「んん…、ん、あっ…、あ、だめ、だめ、んああ!」
再度、腰をしばらく振ると、翠月が反る。震えながら、もたれてくる翠月の上半身と頭をしっかり支えてやる。
「……翠?」
快感に溺れ、堕ちてしまったようだ。気を失ってほしくはなかった。涙を拭うように口を寄せると、目が開く。
「っ……」
翠月の表情が、緑翠を煽る。翠月を床に戻し、足を広げ支える。おそらく、翠月は限界を迎えているだろう。
(……これが、欲か)
「少し激しくする」
「ん、んあっ!」
「翠……」
「あっ…、んん、んっ…、あっ、あん…」
「声を、我慢するな」
「んっ、あっ…、りょく、すい、さまっ」
「ん」
(……それは、反則だろう)
翠月の足を肩まで上げ、太腿を押さえて打ち付ける。翠月は首を横に振りながら、敷物に支えとしてついている緑翠の腕を叩いてくる。普段なら、絶対にしてこない。
「んああっ、まって、まってえっ!」
「今のは翠が悪い」
「んっ、ああっ、だめっ、まっ、んあああ!」
「くっ…」
翠月が果て、締まった蜜壷に刺激され、緑翠も引き抜き翠月の腹で果てた。翠月の胸に額を当て、息を整えてから身体を起こすと、そこには目を閉じた翠月がいた。
「…いい子だ、翠。お休み」
髪を撫で、額に口を寄せた後、緑翠は翠月の身体を拭いて、香油の側に置いていた避妊薬を口移しで飲ませた。普段なら緑翠が寝ている方の布団に翠月を移し、同じ布団で横になった。
緑翠が持つ宝石を腹側へと戻し月明かりの中で眺めていると、不安が戻ってくる。緑翠の竿が翠月には入り切らないと身長差から予想はしていたし、実際そうだと分かったにも関わらず、欲に負け、打ち付けてしまった。翠月は直前まで意識があったが、結果として気を失わせてしまった。
内儀である翠月に対して、許可なく心を視ることは、できる限り避けたい。
(痛みなど、残らなければいいが……)
翠月の寝顔に、苦しさはなく、穏やかそのものだ。その寝顔を見ているだけでも、癒され、心が落ち着いていく。こんなにも、触れていたいと思う相手がいる。緑翠はひとり、幸福感にも浸っていた。
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