妖からの守り方

垣崎 奏

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第一篇

37.各々の床見世 4

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 久々天月が翠玉宮の広間に遊びに来た。春霖・秋霖が用意してくれた茶を啜りながらふたりで話す。

 ここ最近、床見世希望の御客と君影の発情期が重なり、朝は回復に努めていたらしい。天月は元々受けで、君影との床でだけ攻めをするそうだ。それもあって、御客の発情期と君影の発情期が重なると「身体が動かなくなる」と、教えてくれた。天月が蒼玉宮から出られない間も、君影は何もなかったように翠月と朝食を食べていたから、そんな理由だとは思ってもいなかった。

「翠月は、今いろんな床を見てるんだよね」
「うん」
「僕と君影のは、どう映った?」

 天月からの質問にどう答えようかと迷ったが、思ったことをそのまま言うことにした。淡雪にも直接伝えて、それで問題なかった。

「…綺麗だった」
「綺麗?」
「ふたりともぼんやりした灯に当たってるのに、すごく綺麗だった。神秘的というか」

 言葉が返って来ず天月を見ると、少し目を細めていた。何か変なことを言ったのかと伺っていたら、茶を飲んで口を開いてくれる。

「…それは、僕たちだけに思った?」
「あと淡雪さんにも思った。紅玉は激しくて、本能的というか感情的というか」
「うん、その感覚、大事にね」
「どういう意味?」
「いずれ、分かると思う。時期が来れば、緑翠さまが教えてくれるかもね」

 微笑んだ天月に聞いても、答えてはくれなかった。天月も、それから緑翠も、たまにこういう言い方をする。きっと、口で説明することもできるけど、翠月が感じたり考えたりして辿り着くのを待っている。そうしないと、意味のないことなのだろう。

「そうだ、僕の常連客との床も見る?」
「え、いいの?」
孔雀くじゃくさまとの床は特殊だから、意外でいいと思うんだ」
「楼主さまに、聞いてみる」

「たぶん、だめとは言われないよ」
「そう?」
「勉強になるのは間違いないし、孔雀さまは宝石持ちの御客だから。まだ会ったことないでしょ?」
「うん、ない」
「初めての高位貴族にはもってこいの御方だよ。見た目はちょっと怖いけど、優しいよ」
「宵さんみたいな?」
「うん、そうだね」

孔雀石マラカイトは、模様のある濃い緑だったはず)

 おそらく、翠月が今まで見習いとして見世に出た御客は、宮番や緑翠が選んだ相手だ。だから、高位貴族に会うことはなく、見世の経験を積んでこれた。天月の誘いで、黄玉宮の道筋からは外れることになってしまうかもしれないが、それも緑翠が調整してくれるだろう。


 *


「何度も言うが、普段は女禁制、許可なくは入れない」
「はい」

 宵に連れられ、番台から蒼玉宮にやってきた。今日もまた、水縹の間を見学させてもらう。

 帳の奥で待機するように言われ、隙間から座敷を覗くと、孔雀の姿が少しだけ見える。確かに、宵のようなガタイの良さと短髪を持ち、宝石は唯一身に着けている小物の指輪に嵌められているのだろうか。翠月の位置からは石を確認することはできなかった。

 まずは緑翠と孔雀が、楼主と御客にしては近い距離でやり取りをした後、孔雀から手紙が差し出され、緑翠が受け取った。その行動に天月も宵も特別触れることがない。いつもの光景なのだろう。緑翠は高位貴族の中でも位の高い家系だし、今回の御客も高位貴族だ。高位貴族にしか明かせないものもあるかもしれない。

「孔雀さま、見習いを紹介してもよろしいでしょうか」
「おお、男色が増えるのか?」
「いえ、男色ではない者ですが、孔雀さまとの一夜は特別ですので、僕が見世に誘いました」

 帳の方を振り返った天月と目が合って、姿を見せる。見習いとして見世に立ち会うため、前もって春霖・秋霖に薄い青色の着物を着せてもらっていた。

「ああ、確かに何もしないからな。落ち着いて見ていくといい。名は?」
「翠月と申します、よろしくお願いいたします」

 礼をすると、すぐに頭を上げるように声が掛かる。姿勢を正すと、頭の先から順に、確認するように視線が這っていくのを感じた。

「…天月が育てているのか?」
「育ててはないですね。同じ人間なので、よく一緒に居るんです」
「そうか、偉くなったものだ」
「そんな、偉くなんて」
「出会ったときは見習いだったのに、半年も経たず一番手だ。頑張ったろう」
「それは…」
「翠月にも、後に続いてもらわないとな」
「…そうですね」

 天月が照れて、孔雀に頭を撫でられている。芸者と御客の関係ではあるが、信頼を積み重ねれば、こんなに親し気な距離感も成り立つんだと、実感した。


 *


 孔雀は大柄で、天月が子どもに見えるくらいの体格差だが、食事を楽しんだ後はただ添い寝をするだけで何もしない。寝転んで触れあってはいるが、交わる雰囲気はなく、ただ抱きしめ合ってじゃれ合って、温かさを感じているだけのように見える。

 淡雪も飛燕・胡蝶も、どちらも絡みのある床だった。天月も、君影と練習で交わっていて、そうではない床見世もあるのだと、新鮮に映った。

(天月の言っていた、特殊って、こういうことね…)
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