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5.保護
しおりを挟む「レンさえ良ければ、俺の部屋に住まないか」
「え?」
「その方が守りやすい。今の家も長かったから、引っ越すにもちょうどいい」
何度か訪れたことのある飲食店で、今日はオムライスを食べていたら、そんなことをオスカーに言われた。レンには理解できず、とりあえずどういうことか説明を求めた。
「えーと? 話が見えてこないです」
「見た目が変わらないから、同じところに留まると面白がられてね……。俺が吸血鬼だと、研究仲間や大学の一部の人間は知っているが、一般人は知らない。見た目が歳を取らないから、好奇の目で見られてしまう。元々定期的に引っ越しているから、特別レンと一緒に住むために引っ越すわけではない。レンが気に病む必要はない」
「そう、ですか」
吸血鬼の感覚では、一緒に住むのは普通なのかと疑問に思いつつ、レンは下宿のお金も節約できると、了承した。レン自身、元々あまり人には興味がないが、オスカーとなら家まで一緒でも過ごせると思った。
レンが惹かれているのは確かだが、オスカーはレンを恋愛対象には捉えていないだろう。レンは、一度献血に協力した後もいろんなところへ連れて行ってくれるオスカーに、どんな意図があるのか、結局知らないままだった。
オスカーが今まで住んだことのないエリアで物件を選び、内見にはレンも連れて行ってくれた。最終的に決めた物件には、それぞれの個人部屋はなく、寝室もひとつだ。
オスカーはシェアハウスのつもりで、個人の部屋は最低限用意するつもりだったが、レンは写真の加工や投稿、課題のできるパソコンが置ける机があればよかったし、それは共有リビングでできるからと、安く済む物件を選んだ。
「家賃は俺が出すから部屋を分けよう」と、オスカーは粘ったが、レンは首を縦には振らなかった。オスカーに惹かれてしまったレンにとっては、オスカーと近づける方が都合がよかった。
オスカーはオスカーで、何かあった時にひとりになれる場所が家にないことに、不安を感じた。何せ、レンは好液者なのだ。一緒に住んでもいいと思えるほど、レンは素直で手放したくない人間だから誘ったが、好液者であることに変わりはない。自分を制御できなくなれば、何を利用してもレンから離れ、研究室で落ち着くのを待つしかない生活が待っている。
ふたりとも、互いにどう思っているかなど、面と向かって話していなかったのだ。
*
「レンは、ひとりで暮らすのは今年が初めてか? 高校の時は?」
「家は変わったけど、生活自体は変わってないです。高校の時もひとりで住んでました」
「そうか、なら家事は問題ないと思っても?」
「頻度とか程度は分からないですけど、ひとりでの生活に困らないくらいはできます」
「こちらとしても気が楽だ。知っていると思うが、研究で籠る日もあるし」
「あ、別に面倒を見て欲しいわけでは…」
「すまない、出すぎたな。どうも人間との距離感が分からない。これからも踏み込み過ぎたら教えて欲しい」
「あ、はい」
レンからすれば、オスカーの言い分は本当に分からないのだろうと思わせる内容だった。どうやら、オスカーは家事分担をしないつもりだったらしい。レンが部屋を分けなくてもいいと言い張って、通してもらったくらいなのに、だ。
オスカーは研究者、レンは大学生兼写真家で、それぞれやることもあるし、むしろ家にいる時間も、今までのように約束しなければ合わないんじゃないかと、レンは考えていた。だから余計に、自室は特に必要ないと思った。
*
日に日に、吸血鬼界隈が騒がしくなっていることに、レンは気づいていないと、オスカーは感じていた。当然だ。レンは人間で、基本的に誰かが吸血鬼と分かった上で関わることはないのだから。
行方不明の人間が増え、未解決事件とされる。つまり、吸血鬼に血を全て飲まれてしまい、死体を処理されている。焼いてしまえば、その煙は人間に感知される。おそらく、人間が立ち入れないような山奥に埋められているだろう。その件数が増え、報道が大きくなってきた。
人間の血に飢えた吸血鬼に、レンが好液者だとは、ますます気付かれたくなかった。
レンには、血が出ることがあったら必ずすぐに教えるように頼んでいるし、学内にもレンの匂いは漂っていない。ただ、レンがいつ怪我をするかは分からない。気をつけていても、血が出てしまうことはあるだろう。
こうなれば、オスカーがレンを守るために取れる手段はひとつだ。ずっと、オスカーの頭を過っている。それを、レンは受け入れてくれるだろうか。
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