隠密王子の侍女

垣崎 奏

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「だいぶ、痕が薄くなりましたね」
「そうだな」
「車椅子はどの程度ご利用されて?」
「ここしばらく、全く使っていない」
「そうですか」

 医者と看護師の往診に、もちろんノアも同席している。私室に戻ってきた時よりも、セオドアの火傷は明らかに治っていたが、痕は予想通り残っている。

「もう、以前のように過ごしても問題ないでしょう」
「そうか、よかった」
「ただ、塗り薬は出しておきますので」
「ああ、ご苦労」

 ルーファスが医師と看護師を送り届けるために私室を出てすぐ、ノアが扉に鍵をかけた。

「薬を塗り直してもらったところだが」
「止める?」
「そんなわけない。ずっと、待っていた」

 互いに服を脱ぎ捨て、急いて唇をつけた。セオドアの舌がノアの口内へ入り、ノアの舌を追い、絡む。セオドアの勢いに押され、後退ったノアのふくらはぎにベッドの縁が当たり、そのまま倒される。

「ふあ……」
「ふっ、もう顔が蕩けてる」
「セオと、思いっきりできるから」
「ノアも待ってた?」
「うん」

「今日は、最後までもらっていい?」
「そのつもり」
「痛かったら、言っていいから」
「セオは、そんな風にしない」

 セオドアはノアの首や鎖骨にもキスを落とすと、そのまま胸の頂きへ吸い付いた。

「んん!」
「ノア、今日は挿れるまで果てないで、我慢して」
「ん、がんばる」

 そう返したものの、ノアには全く自信がなかった。怪我をしていたセオドアと、制限の中でしていても、ノアはめちゃくちゃに溶かされた。制限が無くなった今、直接触れられなくても大きく硬く、相当に滾ってしまっている自覚がある。

「んっ、はあっ……」
「ノア、腰が動いてる」
「だって……」
「はは」

 セオドアは、ノア自身には一切触れず、枕元に置いていた小瓶に手を伸ばした。潤滑油を手に取り、ノアの足を上げた後、割れ目へと塗り付けていく。

「待ち遠しい?」
「うん……」

 ノアの孔に入ったセオドアの中指が、内壁を正確に押していく。

「んんっ、あっ……、セオっ、セオっ!!」
「前に触れてはないけど、果てそう?」
「ん、出るっ、でるっ……」
「だめだよ、頑張って」

 セオドアが、ノアの感じる場所から指を離した。ノアが息を止め過ぎることがないように気をつけながら、ゆっくりと薬指も沈め、広げることに専念する。

 まだまだ違和感が強いだろうが、前には触れない。果てて欲しくはない。胸の突起を舐めるのも、今までよりは優しいはずだ。

「ん……、セオ……」
「ん、どうした?」
「も、欲しい…………」

 ノアからそんな言葉を聞くとは思っていなかったセオドアは、思わず動きが止まった。「変なことを言った?」と不安がるノアに、キスを落とす。

「……むしろ逆、嬉しいよ」
「よかった……」

 セオドアは指を引き抜き、そのまま自身に触れた。滾りすぎて、心配になる。この大きさが、目の前の孔に入るとは思えなかった。ただ、それでもずっと欲しいと願っていた行為ができる。その悦びに、セオドアは勝てなかった。

 潤滑油をしっかりと馴染ませ、まずは今までのように、ノア自身に擦り付ける。腰を揺らして自身の当たる範囲を、今までよりは広めに。そして、ノアの足を肩に担ぎ、入口に、セオドアの先端を当てる。

「……挿れるよ」
「んん、んっ…………!」
「っ…………!」

 指で届かないところもあるし、ゆっくり押し広げながらになると考えていたセオドアだったが、挿し始めた快感に、負けた。

「っノア……、思ったより、我慢できなかった……、痛い?」

 目と口をぎゅっと閉じてしまったノアに、キスを落とす。触れるだけの、優しいものだ。

「ゆっくり息を吐いて、ノア。馴染むまで、動かないから」

 ノアが目を開けると、そこには目を細めたセオドアがいて、手を伸ばすと抱きしめてくれた。言われた通りに息をしていると、セオドアの手は耳から鎖骨へと滑り、胸の頂きに触れた。

「んん」
「刺激しても?」
「うん」

 セオドアから与えられる快感を知ってしまったノアのそこは、少し指が触れるだけでも下半身に響く。今のセオドアは、初めて挿れていることもあって、すごく丁寧で、ノアは余計に気が狂いそうだった。

「……ノア、そんなに締めてこないで。動けない」
「しめ……?」
「無意識? 後ろ、締まってくる。感じている証拠だが」
「あっ、まって、セオっ!!」

 耳元でしゃべっていたセオドアが、耳や頬にキスをした後、ノアの突起を吸った。ノアの腰が浮くのを、今までと同じようにセオドアが身体で抑え込むと、より奥に入った気がした。

「ああっ、セオ……」
「気持ちいいね」
「……も、動いて」
「え」
「セオも、気持ちよくなって」

 そんなことを言われるとは、露ほどにも思っていなかった。セオドアはゆっくり息をひとつ吐いて、ノアの唇を奪った。

「……初めは拾いにくいらしいから、前にも触れる」
「んんっ! セオっ」
「苦しい?」
「んんっ……、あっ、ああっ、ふうっ……」

 止めどなく鳴き、背中を反って上半身を震わせるノアは、間違いなくセオドアを掻き立てているが、ここで激しく動くほど理性のない男ではない。一気に奥まで挿れてしまった後悔もあり、ゆっくり腰を振り自身を刺激しつつ、ノア自身を扱いていく。

「果てそうなら、教えて」
「んっ、んん……」

 明らかに、今までよりも快感を逃すのに必死なノアが、セオドアの目の前に居る。後ろでも、拾えていると思っていいだろうか。

「ノア、少し、強める」
「あっ、んああ!!」

 セオドアが、ノアの腰を掴んで奥に向かって打ちつける。ノアの高い嬌声は変わらず、苦痛ではなく快楽だ。

「ああっ、セオ、セオ!」
「出る?」
「ん、も、むりっ!!」
「っぐ…………」

 セオドアは一度最奥へ突いた後、辛うじて引き抜き、先に果てたノアに重ねるように吐き出した。感じすぎていたのだろう、ノアは目を閉じていて、その表情は穏やかだった。


 ◇


 ノアが目を覚ました時、すでにセオドアは居なかったが、扉の向こうで話し声がする。相手はルーファスだ。仕事のことかもしれないし、聞き耳を立てることじゃない。枕元に畳まれた侍女服を着て、洗面台で顔を洗って戻ってくると、ふたりが居室に入っていた。

「ノア、身体は大丈夫?」
「え、はい」
「ああ、ルーファスは知ってるから」
「あ、そうですか」

 知っていてもおかしくはないと思った。ノアをここへ連れてきたのは、ルーファスだ。この側近は、セオドアが女性と結婚する気がないことも知っている。

「ノアに、ひとつ提案がある」
「なんでしょう」

 セオドアに、ソファに座るよう指示される。ルーファスがいるから、ノアはセオドアに対して、少し公式的な態度を取る。何故か、ルーファスが茶を出してくれた。

「王宮を、出ようと思う」
「え?」
「元々隠密には向かない場所だ。出入りの記録もされるし、姿を隠すには面倒だった」

 セオドアは裏口から出入りをしていたし、私室も裏口から近いが、ノア以外に、姿を見られていたとしても不思議ではない。

 間を開ければ開けるほど、ノアは察するだろう。隠密なのに、セオドアは命を狙われた。爆発に巻き込まれたのは、偶然ではない。王子としてなのか、間者としてなのか、はっきりとは分からないが、どちらにしても王宮から市井に出ることは止めた方がいいと、前から思っていた。

 茶をすすって、セオドアは続けた。

「……それは建前と言ってもいい。ノアと、過ごす時間を増やしたい。王都から少し離れたところ、僕の親戚もいないような場所で、ふたりで暮らさないか。その格好をしなくてよくなるし、父上の了解は得ている」
「それ、選択権ないですよね」
「物分かりが早くて助かる。環境が変わるのは嫌?」
「いいえ。隠密がやりやすくなるのなら、その方がいい。怪我をするのは見たくない」
「うん、そう言ってくれると思ってたよ」

 セオドアからノアの額にキスをされる。ルーファスの目の前で、しっかり見られていて、ノアは戸惑った。

「ノア……、仕事の都合上、ルーファスは近所に住むことになる。多少、慣れて」
「……はい、かしこまりました」


 ◇


 引っ越してから、セオドアはより自由に隠密活動ができた。王都には貴族も多く、セオドアの存在や顔を知る者もいて、気を遣う場面も多かったのだ。今は屋敷に直帰できる。つまり、ノアを抱く頻度も増え、セオドアの狙い通りだった。

「ノア……、もし痛みが嫌じゃなければ、それ消そうか」
「あ、数字? 全然気にしてなかったけど」
「んー……、奴隷の名残だから、僕が耐えられない。最近、特にそう思う」

「墨だから、消しても痕は残るし……、上から何か新しく彫ろうかな」
「え」
「セオのお印とか、どう? 王子の紋、あるよね? 背中の痣も、セオの火傷痕に似てるし」
「ふっ、ノアはすごいな」
「え? なに?」

「ノア、愛してる」
「うん、お慕いしてます、セオ」

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