隠密王子の侍女

垣崎 奏

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 王宮の私室に、セオドアは車椅子で戻った。押すのはもちろんノアだ。すぐに日常に戻れるわけではなく、少しずつ動いて皮膚に痛みや違和感が出ないか確認しつつ、筋力を元に戻していく順序があると、退院前にノアも聞いていた。

 車で送ってくれたルーファスが、国王への報告へ向かって、私室にやっとふたりきりだ。

「ノア」
「ん」

 セオドアがソファに移り、すぐ横にノアも座ると、セオドアが待ちきれないとばかりにノアを抱き締めた。火傷の箇所に気をつけながら、ノアも腕を回す。病室に居た時には口に出さなかったが、看護師に薬を塗られるセオドアが、若干顔をしかめる箇所があることに、ノアは気づいていた。

「この匂い、久しぶりだ……」
「触れたり擦れたりしても、痛くない?」
「……お見通し?」
「…………」
「痛みがあったら、帰してもらえないだろうから。そうだろう?」

 セオドアは、医師に嘘をついた。結局、病院にいても、薬を塗って様子を見るだけだ。それなら、王宮でもやれる。

「セオドア」
「うん? どうした?」
「会いたかった……」
「心配を掛けたね」

 ノアは、セオドアの火傷がない方の肩に顔を埋めた。泣いている顔なんて、見られたくなかった。侍女として気を張っていれば堪えられたものの、慣れたこの部屋に帰って、そのあたたかさに触れてしまえば、もう我慢はできなかった。

 セオドアはノアの肩が震えていることに気づき、その小さな背中を撫でた。感情が分からないと言っていた、ここへ来た当初のことを思い出すと、ノアを泣かせているのは自分なのに、嬉しさが込み上げる。入院するほどの失態は初めてで、隠密として危うい立場になったのは間違いないが、ノアの首や頭にも触れ、安心させるようにあたたかさを分けてやった。


 ◇


「……ノア、落ち着いてきた?」
「ん、ごめんなさい」
「いい。咎めるつもりなんてない」

 セオドアがノアと目を合わせ、流れた涙を拭った。頬を包んだ手をそのままに、唇を重ねた。セオドアが本調子でないのは明白で、ただ触れるだけのキスだ。数回音を鳴らした後、セオドアが少し離れ、ノアの手を握った。

「話したいことがあると言ったのを、覚えている?」
「うん」

 セオドアの問いに、ノアはどう応えるのだろう。病室でせっせと働くノアを見ながら、セオドアはずっと考えていた。

「どうして、僕がいないことを恐れた? どうして、『会いたかった』?」
「セオドアが、僕を助けてくれた恩人だから。いない世界は考えたくない。奴隷時代は、人生なんてどうでもよくて、痛みも辛さもなくて、公爵家が取り潰しになった時に処刑されてもいいと思った」
「……え?」

 ノアにしては饒舌で、そのことにセオドアはまず戸惑ったし、その内容もすぐには理解できなかった。

「今は思ってない、むしろ生きていたい。セオドアの傍で。痛みも辛さも、今なら分かるから。火傷も代わってあげられるなら、代わってあげたい」
「……ノア、何を言っているか、自覚はある? そんな風に思うのは……」
「セオドアに、離れてほしくない。ずっと一緒にいたい」

 ノアは、セオドアに「ずっとここに居て欲しい」と言われたことをしっかりと覚えていた。だから、それに応えるつもりで、いつか自分の言葉で、セオドアに伝えられたらと思っていた。そのための語彙を、本を読んで身につけたかった。

 セオドア専属の侍女であること。それがノアの存在意義で、セオドア以外の他人とは関わらない。例外は側近のルーファスと、給仕室の使用人くらいだろう。だから余計に、セオドアが予定通り帰ってこなかったことに動揺した。

 ノアの言葉を、セオドアは受け入れ、立て直した。元奴隷で、自分を殺していたノインは、もう目の前に居ない。

「……ノア、一度言ったことがあると思う。僕は、ノアのことが恋愛的に好きだ。いきなり連れてきたのに嫌がらず仕えてくれることも、慣れない感情を言葉にしようとするのも、ノアの全てが愛おしい。ノアに、そういう感覚は生まれた?」

 しばらく考えた後、ノアはセオドアの両頬に触れた。セオドアに、その意図が分からないわけがない。ゆっくりと目を伏せてやると、唇に触れる感覚があり、またゆっくり目を開けると、真っ赤になったノアがいた。

 セオドアは初めて、ノアからキスをもらった。

「……答えで、いいんだね?」

 ノアの目からは、また涙が零れる。そっと拭いて、セオドアからキスをすると、ノアは笑った。


 ◇


「ノア、背中が痒い。包帯を替えてくれないか」
「うん」

 ノアは水桶とタオル、薬と包帯をてきぱきと用意した。セオドアは入院中、王子であることを理由に、病室から出る事はできず、長時間寝たきりだった。身体を起こしておくことが辛く、ソファにだらしなく上半身を預けているのも、そのせいだ。

 ノアがソファにタオルを引き、その上に服を脱いだセオドアが座り直す。病院で見た初日に比べれば、確実に痕は薄くなっている分、痒みと戦うことになっているが、果たしてどこまで治るだろうか。

「今の体勢は、辛くない?」
「何より辛いのは、ノアに触れられないこと」
「…………」

 ノアが包帯を取り、セオドアは全裸だ。ノアが水に浸し絞った手拭でセオドアの身体を拭いていく。ノアにはもちろん、熱を持ったセオドア自身が目に入っていた。ノア自身も硬くなっているが、侍女服で目立たないことを願った。

「……とりあえず、薬を塗って包帯を巻く」
「ああ、そうして」

 看護師の塗り方を病室で見ていたノアは、手際よくセオドアに触れていく。その間も、セオドア自身はどんどん硬さを増しているようだった。

「終わった。違和感はない? 痒みはどう?」
「楽になった。どうしようもないほど滾っている以外は、完璧」

 広げられたセオドアの足の間に、ノアが座る。その頬は、赤く染まっていた。互いに、思っていることは同じだったに違いない。

「舐めても?」
「好きにしていい、っ」

 ノアはセオドア自身を手で支えながら、その大きさを確かめるように、先端から付け根へとキスを落とした。舌を出して、付け根から先端へ舐め上げるのは、セオドアが好きな動きだ。

「はっ……、ん、ノア」

 火傷のない左手が伸ばされ、ノアはそれを握って、先端を咥えた。早いのも分かっているが、久々で、セオドア自身がいつもより熱い気がした。

「んんっ……」

 セオドアの手に力が入って、いつものセオドアらしい余裕がない。舌でゆっくり形を確認したいが、もう片方でセオドア自身を握り、吸い付きながら頭を動かす。

「はあっ……、あ、ノア、もう出る……っ!」

 ノアが口内で受け止めた精はかなり大量で、口からどんどん零れてしまう。ノアはできる限り飲み込んで、せっかく巻いた包帯が汚れないように、セオドア自身を舐めて綺麗にし、その上で新しいタオルで拭き直した。その際に、袋にも触れた。何せ、久々だったのだ。

「……まだ、重たいね」
「ノア、そんなに触れてたら、また……」
「いいよ、抜いてあげたい」

「とりあえず、次はノアの番」
「え」
「服を脱いで、前に立って」

 ノアは素直に、侍女服を脱いだ。下着は濡れていて、しっかり反り上がったノア自身が、窮屈そうだった。下着も脱いでしまうと、さらに熱が集まり、セオドアの方を向いている。セオドアが体勢を変えずに済むよう、ノアは自分から近づいた。

 滾って仕方ないノア自身に、セオドアの左手が触れる。形を確認するように、先走りを馴染ませるように全体を撫でた後、親指で先端の出口を押しつぶす。

「んんっ、あっ、セオっ!」
「なに、そんなに?」
「あ、それ、そこっ……」
「すごくあふれてくるね。僕がいない間、ひとりでは?」
「心配でっ、それどころじゃっ……」
「そうか」
「んんっ、ちょっ、ああっ!」
「いいだろう、これ」

 セオドアは、人差し指と中指の間にノアの先端を挟み込むと、ぐるぐると手首を捻った。ちょうど、先端の形をなぞるように、指が這う。当然、親指は出口に触れたままだ。セオドアとの触れ合いで感じやすくなっているノアには、少し強すぎる刺激かもしれない。

「ノア、立っているのは辛いだろうが、堪えられる?」
「ん、んんっ」

 ノアは片手をセオドアの奥、ソファの背もたれに置き、片膝は座面に付いて、力の抜ける身体の支えとした。耐えているノアの顔は座ったままのセオドアに近くなり、セオドアは待っていたとばかりにノアの唇を奪った。舌を入れるのと同時に、ノア自身を手で包み込み、先端から付け根へと動かしていく。

「んあっ……、んんっ、ふうっ……、ああっ」

 キスをしていても、ノアは声を止められない。口は多少、塞がれているはずなのに。

「ノア、出していいよ」
「んっ、もっ、んくっ……!」

 ノアの放出の瞬間、セオドアは手を少し離し、指で刺激しつつ手のひらでノアを受け止めた。跳ねるノア自身が落ち着いた後、その精を口に運んだ。舐めて飲み込んだ後、倒れ込むように横に座ったノアが差し出したタオルで拭った。

「……ノア」
「うん?」
「僕が痛みなく動けるようになったら……、ノアが欲しい。後ろを、使いたい」

 意味を理解し真っ赤になったノアは、頷いた。

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