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しおりを挟む「これは……?」
「市井に降りた時に、いかがわしい店で手に入れた」
セオドアは仕事上、国内の裏事情に詳しい。違法行為はもちろん、国家の汚点になりそうなものを制御する役割も担う。その意味で、玩具として売られていたこの機械を、私室に持ち込んだ。ノアの反応が、気になったのだ。
「『いかがわしい』?」
「女性を大勢買い込んで、男性の相手をさせる店。おそらく、女性たちは奴隷だ。当然、裏を掴みにかかっている」
元奴隷のノアの背中に、ぞわっと悪寒が走る。すでにふたりとも湯浴みを終え、そのまま下着一枚でベッドへ腰掛けていた。
「ああ、やっぱり……、する気分じゃなくなった?」
「セオドアがしたいなら」
「僕より、ノアがどうしたいか聞きたい」
珍しく、ノアが言い淀んだ。それに気付かないセオドアでは、当然ない。
「…………ぎゅってして」
「喜んで」
奴隷にも、さまざまな種類がある。ノアはたまたま貴族に買われ、使用人よりも下の立場で雑用をしていればよかったが、もっと酷いことをされるのを耳にしたこともある。特に女性は、そういったことに消費され、捨てられるとも。
ノアの脳裏に過ぎったのは、屋敷の敷地で見た白骨だった。ノアが入ったこともない、人気のない路地など、なんとなくあり得そうな場所は思い当たる。
ノアが今いるのは王宮、しかも王子セオドアの私室だ。ノアはセオドアの専属使用人として連れてこられてから、それまでの生活とは全く違って、随分とよくしてもらっている。やるべき仕事はもちろんあるが、のびのび時間を過ごせている気がして、ここに居たいと望んでしまう。
セオドアの腕の中であたたかさを感じて、呼吸を整えた後、ゆっくりと離れた。
「……それで、これは何に使う物?」
「一応は、気になる?」
仕事を私室に持ち込むセオドアは珍しく、ノアは興味が湧いた。ノアが尋ねてもいいから、目の前に出しているのだ。
手のひらに収まる半球状の物体がふたつ、コードに繋がっていて、何やらねじとスイッチもある。使用人として働いている中では、目にしたことのない機械だった。
「威力を、確かめたかった。嫌だったらすぐに外す」
仰向けに押し倒されたノアは、セオドアに抵抗しない。元奴隷が、どうして王子に歯向かえるのかと、いろんな場面で思ってきた。でもきっと、ノアが拒否すれば、セオドアはそれを尊重してくれるとも思える。
「んっ」
セオドアが、いきなり胸の頂きを舐めた。いつものように息が上がるほど攻めてくるのかと思いきや、優しく一舐めしただけだった。
「多少濡れている方が、吸引しやすいから」
そう言いながら、セオドアがその機械をノアの突起につける。確かに、吸われる感覚がある。もう片方をつける前に、セオドアが説明してくれた。
「この中に、羽がついているのが見える?」
ノアは頷いた。そして、何が起きるのか、なんとなく分かって、身構えた。
「電源を入れれば、これが回る」
「んんっ!」
まだ左にしかついていないその羽が、ノアの頂きの周りをくるくると回る。身体を捻っても外れないように、吸引されていると気づいてしまった。
「こっちにも、つけるよ」
「んっ……」
セオドアとの夜の中で、すっかり刺激されることに快感を覚えたノアの突起は、どんどん上を向いて刺激を求める。
「悦い?」
「んあっ、はっ……、セオっ……」
セオドアがノアの横に寝転んで、顎を支えながらキスを落とす。触れるだけではなく、ノアの口内を攻め立てていく。
「んっ、んんっ!」
なんだか羽の回る速度が上がった気がして、ノアは腰が浮くのを止められない。耐えないと、このまま下着の中で出してしまう。
「んっ、はあっ……っ」
「こんなに硬くして」
「わあっ!」
下着の上から、セオドアがノア自身に触れている。優しく手を添えて、ただ撫でているだけだが、すでに上半身を攻められているノアは、限界も近かった。
「セオっ、も、だめっ……」
「果てそう?」
「んっ……」
セオドアがノアの下着を下げ、勢いよくノア自身が空気に触れる。ぶるっと身震いをしたノアは、セオドアがベッドのどこにいるのか、把握するのが遅れた。
「好きに、果てていいよ」
「んああっ?!」
ノアが見たセオドアは、ノア自身に口をつけ、更に舌を出して舐めていた。快感に溺れつつ、これは流石に抵抗しなければ。
「セオっ、だめだ、そんなの……」
「嫌? 不快?」
「そうじゃなくてっ……」
「ならいいらろう?」
「んんっ、はっ、はっ…………」
やりたいからと、すっかり口に咥えて頭ごと上下する王子を、元奴隷には止められない。セオドアの口の中は、柔らかくてあたたかい。舌と内頬で包まれ、十二分な刺激を受けてしまった。
「……んっ、んぐっ」
ノアは耐えきれず、セオドアの口内に精を吐き出した。ノアが果てた後、動けなくなってしまうのはいつものことで、目でセオドアを追った。どうやらセオドアは、初めて受けたノアの精を飲み込んだらしい。タオルを出す様子もなく、水差しで汲みおいた水を飲んでいた。
「お疲れ様、威力が分かってよかった」
セオドアに、胸元の機械を外される。果てた後も動いたままだったが、再度ノアが感じてくる前には外してもらえ、少し安心した。続けられたら、胸だけで果ててしまうと、内心焦っていた。
セオドアと裸で過ごすこの時間は、身分を忘れがちになってほぼ対等だが、セオドアが王子であることは変わらない事実だ。ノアは奴隷から使用人に身分が一段回復しているものの、王家とは大きな隔たりがあるまま。絶対に忘れてはならない。セオドアがしたいという行為を拒否することが、ノアにとっては一番抵抗感のあることだった。
ノアの頬に触れキスを落とすセオドアは、優しい表情だった。やりたいことをやれて、満足しているようにも見えた。
「……セオドア」
「ん、どうした?」
「勃ってないの」
「気づいていたのか」
「まあ……」
セオドアに、もう数えきれないほど身体を預けているノアにとっては、むしろセオドアが興奮していないと思う方が難しかった。
「ノアはもう、疲れているだろう?」
「セオドアだけ、すれば?」
ノアは寝転んだまま、近くに座ったセオドア自身に手を伸ばす。抵抗しないセオドアの下着から取り出し、身体はベッドに投げ出したままだが、上半身を肘で支え顔を近づける。大きく反り返ったセオドア自身に口をつけると、セオドアが震えた。
「……したこと、あるの?」
「ないけど、さっきされた」
「ああ……、そのつもりはなかったが……、僕のいいところ、覚えて」
「ん」
「ふふ、ノア、上手。下から上に、そう、その動きすごく悦い」
どうして欲しいのか、セオドアがノアに言葉で教えてくれる。ノアはそれに従い、すでに硬いセオドア自身を攻めていく。攻めると言っても、速い動きはなく、セオドア自身に沿って上下に舐めるだけだ。
「……ノア」
名前を呼ばれたのを合図に、ノアはその先端をぱくっと咥えた。
「あ、こら、吸うな……っ!」
セオドアの太腿が震えているのを、ノアは挟みこまれた頭で感じた。きっと、果てるのが近い。頭を引き離そうとするセオドアの手を感じるが、少し吸ったまま、セオドア自身を喉元まで受け入れ、戻す。歯を立てないように、舌と頬の内側で包むように。
「っく……、ノア、したことある……?」
「いいへ、さっひもいった」
「はっ……、すごく、上手い……、あっ、ぐっ……」
ノアが上目で見ると、快楽に顔を歪めているセオドアがそこにいた。その手の力は抜け、とっくに沿えるだけになっている。もう何度も抜き合っているが、ノアがセオドアの表情を確認できたのは、初めてだった。
「っ……」
「んんっ!」
「……煽った、ノアが悪い」
目が合ってしまい気まずくなったセオドアは、ノアの頭を両手で挟み固定すると、そのまま腰を動かした。辛いと分かっているのに、ノアの喉元へ自身を当ててしまう。
「んっ、んぐっ!」
「……っ出すよ、ノア」
「んんっ」
奥にひと突き、ぎりぎりノアが吐くことのないところで、セオドアが果てた。ノアはどくどくとセオドア自身が波打つのを感じた後、セオドアが引き抜く時に、少し零してしまった。
「そんなに出たか……、苦しかっただろう、平気?」
ノアは何とか飲み込み、セオドアに頷いた。その瞳は怒っていない。ノアがセオドアを煽ったことは間違いないが、咎めはない。セオドアに対して、正しい言動を取れた証拠だ。
口周りに零れた精も、ノアは舐め取って口に入れる。その様子を見ていたセオドアは堪えられず、ノアの横に寝転び口を奪った。
「んんっ……」
「そんなに欲しいなら、また口でして欲しい」
「うん」
セオドアが求めることになら耐えられると、ノアは思った。奴隷時代に比べれば、ずっといい暮らしをさせてもらっているし、人間のあたたかさも感じられる。それを叶えてくれるのは、セオドアただひとりだ。
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