とあるオッドアイ魔術師と魔の紋章を持つ少女の、定められた運命

垣崎 奏

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後日譚:エピローグにかえて

13.オッドアイの会合 中

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「ミアの父親である領地主は、旧エスト王国と繋がり、セントレ王国に東の脅威を差し向けていた張本人でした。公表されたはずです。僕が制裁し、その褒賞としてミアと婚約しました」

 ルークが記録魔術で、エスト王国の魔術師に囲まれたときのことを見せる、全員が、同郷の魔術師の証明である模様の入ったマントを着ていた。

 オルディスを見ると、何かに驚いているようだった。王家の一員だったオルディスだ、この魔術師の中に、知り合いがいたのかもしれない。

「魔の紋章は、オッドアイが生まれるときに、その子自身が自分を呪ってできる模様で、魔の紋章を持つ子どもは三歳まで生きられないとされています。その理由は不明と、セントレ王国に遺る書物には記載があります」

 皆が皆、ルークの次の言葉を待っている。話がどう進むのか、知っているミアは微笑んでいる。

(ああ……、本当によかった)

「『紋章持ちが成長できないのは、子ども自身の魔力と紋章の魔力が干渉し、中和できないから』とすれば、いかかでしょう。僕が出会ったときのミアはすでに十六歳でした」

 ルークが言葉を切ると、またざわざわと声が聞こえてくる。魔の紋章は伝説級の話で、かろうじて頭の片隅にあるような知識だ。珍しいことを話すと、こうして皆で情報交換をしながら会合は進んでいくものらしい。

「実際、ミアに会ってすぐのころは、僕がミアの魔力を感じることはできませんでしたが、ミアは魔術を扱えました。積極的に使ってもらうようになってからは、紋章が徐々に薄まっていきました」

 屋敷の場所が分からないように加工しつつ、ミアが初めて魔術を使った場面を見せる。ここにいるのはオッドアイ魔術師だけだから、魔力の使い始めとしては、皆に共通するような場面だろう。オルディスだけが、驚いてのけぞっていた。

「匂いでミアが番だと分かっていたため婚約し、結婚しました。もちろん、その先には交わりがあります。心の距離を縮めることは問題ありませんでしたが、肝心のミアの魔力は全く感じられないまま、初夜を迎えました」

 その危うさが分からないような、この話題を笑う人はいない。皆オッドアイ魔術師で、交わりの相手がいるのであれば、その行為には細心の注意を払っている人しか居ない。心が通っていても、相手を思って交わらないペアも多いだろう。

「結果的に、初夜の最中に中和が起き、ミアの魔力を感じることができました。紋章が消え、ミアの瞳の色が漆黒からピンクに代わりました。その後は常に、ミアの魔力を感じられています。『紋章の魔力をミアが使えるようになり、ミアの魔力に置き換わった』とすれば、今ミアが紋章なしでここにいることも説明がつきます」

 驚きと戸惑いの交じったような声が、そこかしこから聞こえる。魔の紋章持ちに出会うことがそもそもないが、オッドアイの番になれる魔術師が存在するかもしれない。魔術師としての魔力増強に希望のある話だ。確認もしたくなるだろう。

「つまり、もし魔の紋章を持って生まれた子どもから魔力を感じられるなら、それはその子自身の魔力であると考えられます。それを封印し、魔の紋章だけを持った状態を作り出せば、成長することができるかもしれません。さらに、番を見つけ初夜を迎えることができれば、紋章を解放しオッドアイとして生きられると言えるのではないでしょうか」

 ミアを使って、そんな仮説を検証したかったわけではない。本当に、ミアを失いたくなかった。それだけで動いていた。あの時の緊張を共有できる人はいないだろう。

 報告すべき話題を、ひとつ終えられた。少し、肩の荷が下りた。ミアを見ると、頷いてくれた。ゆっくりと息を吸って、吐いて、また吸った。

 このあとの、エスト王国で何をされていたのかを話すほうが気が重い。新聞での報道は間違いなく皆が目を通しているが、裏があったことも分かっているだろう。

 ミアが監獄にルークを助けに来てくれたとき、ジョンの他にも強い魔力を感じた。あの場にいたのも、オッドアイだ。エスト王国の内部事情に関しては、オルディスに丸投げするが、魔術講師としてどう過ごしたのかは、ルークが話す必要がある。精神的な負担が大きいため、記録魔術は使わないし、ミアに代わってもらうことも選択肢になかった。

 セントレ王国に来てから、実年齢以上に幼く見え、何かとルークを挑発してきたオルディスも、元王子、元第一王位継承者だ。人の前に立つと引き締まって見えた。さっきまでルークが立って話していた辺りまで進んで、エスト王国が何をやろうとしていたのか、しっかりと報告を終え、戻ってきた。


 ☆


 人工的にオッドアイ魔術師を増やしそうとし、国力増強を図ったが、当然無理だったこと。
 オッドアイについては、魔術師であり国王だった父親が知っていて、そこからオッドアイへの憧れが広がったこと。
 人工オッドアイの手術とその経過。そして、魔術講師として来たルークとミアに、何をしたのか。

 オルディスも、記録魔術を出すことはしない。セントレ王国に来て、ふたりと話せば話すほど、自分の記憶を改変したくなる。

 あんな国王、もっと早くに消しておけばよかった。タイミングなんて図らずに、無理にでも反抗しておけばよかった。

 でも、今セントレ王国で暮らしているのは、オルディスにとって苦痛ではない。エスト王国が国際会議の主催となる年まで待って、ルークとミアに出会えてよかったと思えるほどに、セントレ王国での暮らしは満足できるものだ。

 そのふたりは、オルディスの後ろで、ルークがミアの腰に手を回し支えている。魔力を使わずに、人体のあたたかさだけでミアの震えを止めてしまうルークは、やはりミアに相当想われているし、逆もそうなのだろう。
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