とあるオッドアイ魔術師と魔の紋章を持つ少女の、定められた運命

垣崎 奏

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後日譚:エピローグにかえて

7.式準備 1 仕立て屋との会話 前

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 ルークとミアがセントレ王国に帰ってきてからも、ゆったりと書物を読みに行ったり、オルディスの話し相手をしたり、なんだかんだと王宮には出向いていた。夕食会で話したとおり、今までにないほど休暇を貰っていると感じられた。

 そのうち、何もすることがなくなるのではと思うほどだが、今のところはまだまだ国内ですら行ったことのない場所ばかりで、順番に行ってみようとしているところだ。外でどんな顔をするのか知らないまま、夫婦となった。ミアの反応に、ルークが飽きることはない。


 普段どおり、エリザベスの執務室にミアを送り届け、チャールズの執務室に向かおうとすると、エリザベスに直々に呼び止められた。エリザベスの使用人の他に、専門職がいるのだろう、何やら器具を持って待ち構えている。

「私たちの宝飾具やドレス全般を担ってくれている方よ。ミアは仕立て屋を知っているわね?」
「はい、覚えています」
「今回も、よろしくお願いね」
「精一杯務めます、王妃様」

 ミアのドレスは、ルークの知らないところで採寸されたものだ。淑女教育のなかで測っていたのだろう。そうでなければ、ドレスが屋敷に届くこともなかった。

「まずは結婚式用のドレスの採寸から。ルーク、別室のほうがいい? 私が部屋を出たほうが?」
「チャールズが気にしないなら、ここに居たままでも」

 ルークをいつも茶化そうとするあの幼馴染も、独占欲は強い。チャールズとエリザベスとの婚約前に、ルークも何度か茶会に参加しているが、ルークがエリザベスと言葉を交わすと、例え挨拶でも睨まれた。本人は、覚えていないようだが。

「…分かった、退席するわ。皆、いいようにしてあげてね。ジェームズのところにいるから、何かあったら呼んで」

 使用人に指示をして、部屋の主であるエリザベスが執務室から出て行った。聞いた話によると、ジェームズ王子は相変わらず元気に動き回っていて、大人は何人いても振り回されるのだそうだ。

 採寸のために、鏡の前でワンピースを脱いで、薄着になったとき、ミアははっと何かに気付いて肩に手をやった。

(あ、しまった…)

 服を脱ぐとは思っていなかったのだ。ルークがミアの白い肌に付けた痕が、まだ残っている。普段のワンピースであれば隠れているところで、採寸がなければルークだけが知っているものだ。

「ウィンダム公爵夫人様、どうかお手を」
「……」
「愛されている証拠ですよ、どうぞ恥ずかしがらず」

 仕立て屋はこういったものを見るのにも慣れているのだろう。愛されている証拠というのも、間違ってはいない。それでも、ミアは顔を仕立て屋から逸らしたままだ。恥ずかしくて当然だ。

 顔を赤らめたミアの様子をルークも直視できず、大きく息を吐いた。仕立て屋もエリザベスの使用人たちも居る場、ここはエリザベスの執務室だ。やましい気など起きないと思っていたが、大きな任務がないとチャールズに言われてから、制御が利きにくくなった。ミアと交わるまで、娼館にすら行かなかったのが嘘のように、身体は素直だ。

 このままでは作業が進まないと、諦めたミアが腕を肩の高さで広げている間に、手慣れた仕立て屋が採寸を終える。同じようにルークも採寸された。

「ウィンダム公爵様、覚えておりますでしょうか。私は、貴方の採寸をするのは初めてではありません」
「…申し訳ない」
「そうでしょう。あのころの貴方は、こういった衣服に全く興味をお持ちでなかったので」

 使用人に羽織物を借りたのだろう、包まりながら、ミアが不思議そうに会話を聞いている。ルークにも、いつの話をしているのか分からなかったが、少し考えると思い当たった。こんな採寸の必要があるタイミングは、ひとつしかない。

「…あのときか、最初のエリザベスの茶会の前だな?」
「左様でございます」

 ミアが聞きたそうな目線を送ってくるため、エリザベスの使用人たちもいるが、話すことにした。この場に使用人たちはおそらく、エリザベスからその執着ぶりも含め、チャールズのことは聞いているだろう。

「チャールズがまだ王子で、僕が騎士学校の生徒だったときに、『エリザベス・ゴードン公爵令嬢の茶会に行きたい』と言われたんだ。知ってると思うけど、僕はそういうのに全く興味がなくて、茶会用のスーツもコートも持ってなかったから、採寸されるとしたらそこだけだ」
「そのとおりでございます。当時の王子様、現在の国王様に、『急ぎで男性物の仕立てを頼みたい』とうかがい、何事かと思ったのです。こんな美青年の礼服を仕立てることになるとは、頭の片隅にもありませんでしたから」

 美青年と言われたことに、ルークは少し顔をしかめたが、ミアが笑ったため特に言い返すことはしなかった。ミアを初めて確認した、今は王家の別荘となったあの屋敷でも、この顔を利用して使用人に取り入った。今も昔も、自覚がないわけではない。ただ、寄り付いてくる女性が鬱陶しいだけだ。

 結婚して公表しても、ミアの正体が謎だったこともあって、色目は使われていたが、ここ最近は各段と過ごしやすくなった。世の中の女性がどう頑張っても、ルークと同じオッドアイ魔術師のミアには勝てない。番である以上、匂いや容姿もミア以外は身体が受け付けない。その代わり、必要以上にミアの表情に振り回されているが。

「ちなみに、お気付きになっているか分かりませんが、ウィンダム公爵様の騎士の制服も、同じ数値を流用しておりますので、特注のお品でございます」
「聞いていない」
「そうでしょうとも、国王様のご配慮ですから」

 確かに、ルークは騎士としては小柄で華奢だ。着れる制服があるのかと揶揄されたこともあったが、ルークのもとにはきちんと合った制服が届いた。あれも、チャールズの仕業だったらしい。

「私は嬉しいのです。こうして国王様と幼いころから仲の良い方の晴れ舞台に関わることができるなんて。ウィンダム公爵夫人様も、可憐な方でいらっしゃいますし、気合を入れてお仕上げいたします」
「ありがとう」

 昔話をしているうちに、仕立て屋の部下が書物を持ってふたりの目の前にやってくる。礼服の、見本集だ。
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