上 下
86 / 103
後日譚:エピローグにかえて

5.初めての街歩き 中

しおりを挟む

 ふたりには内緒で、王宮からこっそりジョンの魔術を使ってその様子を見ていたエリザベスは、こんな純愛、演劇でも見たことがないと騒いでいた。

 隣にはもちろん、チャールズもいる。大方の予想どおり、ミアは表情をころころと変化させ、素直に喜んでいて年相応に可愛いし、ルークは余裕が無さすぎて、普段とは人が違ったように子どもっぽくて面白い。ルークもミアも、互いを理解しているから見せられる表情で、甘え合っているのだろう。

 世間のふたりのイメージは、やはりオッドアイによる恐怖だった。そもそも、民衆がオッドアイを避けるのはオッドアイの強力さを隠すための情報操作で、大昔に発端はあるらしい。ルークもミアも、生まれたときから運命が決まっていた。

 今では、ふたりはオッドアイ魔術師としてセントレ王国に貢献したことが報道され、圧倒的に強力な魔術師として有名になった。おそらく、ルークとミアもその評判に慣れていない。市場を歩き進めるなかで、人前に出る緊張が少しずつ解れていくのが見て取れた。

 だからこそ民衆にとって、特にルークの優しい表情は印象に残るはずだ。まだふたりから離れている人たちも、ふたりのまとう雰囲気を見れば、冷たい視線を送ることはなくなる。ミアも、普段よりは少しメイクをして行ったようで、買ってもらった髪飾りを早速ルークに着けてもらっていた。

 エリザベスは、ルークがそんなことをする人だとは思っていなかった。普通の貴族子息は、女性の髪を結うことをまずしない。使用人がやることだと言って、女性側が頼み込んでもやってはくれない。他人に見られにくい路地に移動していたのも、ルークらしい。とにかくミアを隠したいのだろう。

 ルークは、ミアに対してなら、本当に努力を惜しまない。何かしてあげられると思えば、それを計画立てて実践する人だ。ミアからも、もっとルークに希望を言えばいいのにと、ふたりを見ていると感じてしまう。それだけ、ミアはルークとの生活に満足している証拠でもあるけれど。

 このルークの行動は、他の貴族令嬢たちからも羨ましがられるだろう。ルークの女性経験の無さは、余裕の無さに現れていて理解できるし、そんななかでもミアに楽しんでほしいと思っているのが伝わってくる。

 また夜会に出て、貴族社会の夫婦の手本となってほしいものだ。ふたりは喜ばないと分かっているけれど、その準備も勝手にしておくことにした。任務のひとつと言えば、ふたりは断れないのだから。


 ☆


 ジョンは、こんなことに魔術を使うために呼び出されたのかと、内心国王夫妻に毒ついていた。極稀に、こういった私情に魔術を使われる。

 昔、まだチャールズがエリザベスと婚約していなかったころ、ルークがチャールズに呼び出され、今回のエリザベスの茶会の相手は誰で、どんな話をしているのかと、こっそり魔術で見ていたことを思い出す。国王になってからも、そういった遊び心を忘れていないのは、国政に利益を生むこともあるだろうが、あまり褒められるものではない。

 今回、ジョンは注意深く、魔術の気配を消している。相手はジョンの弟子とはいえ、セントレ王国一番のオッドアイ魔術師ふたりだ。ルークもミアも気を張っているわけではないため、見つからないはずだが、果たして。

 国王夫妻に、このデートの様子を実は見られていたと知ったルークを想像すると、恐怖でしかない。冷静に怒りを溜め爆発させる性格ゆえ、しばらく口を利いてくれなくなるだろう。

 この王家の権力を行使した魔術に感じることは、心配だけではない。弟子の成長を見ることができたという意味で、居合わせることができてよかった。

 ルークのことは五歳から知っていて、もう二十年以上の付き合いになる。正式に魔術を教え始めてからは十五年ほどだろうか。幼児から少年、青年へと成長し、ジョンは見つからないだろうと諦めている番を持つ弟子を、誇らしく思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

好きな人に好きと言われたら死ぬ病と診断されたので、俺は君に告白させない

長岡更紗
恋愛
俺、菊谷紀一郎。陸上部所属の高校二年。……彼女? いねぇよ! でも、気になる子がいるけどな。 サラサラのショートボブが可愛い、陸上部のマネージャー、山下藍美。(なんと、俺んちのお隣さんなんだぜ!) 藍美は俺のことを「きっくん」って呼ぶし、何かっつーと俺に優しいし、これって……イケるんじゃねえ? そう思っていたら、医者からとんでもない宣告を受けた。 『好きな人に好きと言われたら死ぬ病』だって。 ────は?! マジで?! 小説家になろうにも掲載しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

女性執事は公爵に一夜の思い出を希う

石里 唯
恋愛
ある日の深夜、フォンド公爵家で女性でありながら執事を務めるアマリーは、涙を堪えながら10年以上暮らした屋敷から出ていこうとしていた。 けれども、たどり着いた出口には立ち塞がるように佇む人影があった。 それは、アマリーが逃げ出したかった相手、フォンド公爵リチャードその人だった。 本編4話、結婚式編10話です。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ブラック企業を退職したら、極上マッサージに蕩ける日々が待ってました。

イセヤ レキ
恋愛
ブラック企業に勤める赤羽(あかばね)陽葵(ひまり)は、ある夜、退職を決意する。 きっかけは、雑居ビルのとあるマッサージ店。 そのマッサージ店の恰幅が良く朗らかな女性オーナーに新たな職場を紹介されるが、そこには無口で無表情な男の店長がいて……? ※ストーリー構成上、導入部だけシリアスです。 ※他サイトにも掲載しています。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

処理中です...