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後日譚:エピローグにかえて
5.初めての街歩き 中
しおりを挟むふたりには内緒で、王宮からこっそりジョンの魔術を使ってその様子を見ていたエリザベスは、こんな純愛、演劇でも見たことがないと騒いでいた。
隣にはもちろん、チャールズもいる。大方の予想どおり、ミアは表情をころころと変化させ、素直に喜んでいて年相応に可愛いし、ルークは余裕が無さすぎて、普段とは人が違ったように子どもっぽくて面白い。ルークもミアも、互いを理解しているから見せられる表情で、甘え合っているのだろう。
世間のふたりのイメージは、やはりオッドアイによる恐怖だった。そもそも、民衆がオッドアイを避けるのはオッドアイの強力さを隠すための情報操作で、大昔に発端はあるらしい。ルークもミアも、生まれたときから運命が決まっていた。
今では、ふたりはオッドアイ魔術師としてセントレ王国に貢献したことが報道され、圧倒的に強力な魔術師として有名になった。おそらく、ルークとミアもその評判に慣れていない。市場を歩き進めるなかで、人前に出る緊張が少しずつ解れていくのが見て取れた。
だからこそ民衆にとって、特にルークの優しい表情は印象に残るはずだ。まだふたりから離れている人たちも、ふたりのまとう雰囲気を見れば、冷たい視線を送ることはなくなる。ミアも、普段よりは少しメイクをして行ったようで、買ってもらった髪飾りを早速ルークに着けてもらっていた。
エリザベスは、ルークがそんなことをする人だとは思っていなかった。普通の貴族子息は、女性の髪を結うことをまずしない。使用人がやることだと言って、女性側が頼み込んでもやってはくれない。他人に見られにくい路地に移動していたのも、ルークらしい。とにかくミアを隠したいのだろう。
ルークは、ミアに対してなら、本当に努力を惜しまない。何かしてあげられると思えば、それを計画立てて実践する人だ。ミアからも、もっとルークに希望を言えばいいのにと、ふたりを見ていると感じてしまう。それだけ、ミアはルークとの生活に満足している証拠でもあるけれど。
このルークの行動は、他の貴族令嬢たちからも羨ましがられるだろう。ルークの女性経験の無さは、余裕の無さに現れていて理解できるし、そんななかでもミアに楽しんでほしいと思っているのが伝わってくる。
また夜会に出て、貴族社会の夫婦の手本となってほしいものだ。ふたりは喜ばないと分かっているけれど、その準備も勝手にしておくことにした。任務のひとつと言えば、ふたりは断れないのだから。
☆
ジョンは、こんなことに魔術を使うために呼び出されたのかと、内心国王夫妻に毒ついていた。極稀に、こういった私情に魔術を使われる。
昔、まだチャールズがエリザベスと婚約していなかったころ、ルークがチャールズに呼び出され、今回のエリザベスの茶会の相手は誰で、どんな話をしているのかと、こっそり魔術で見ていたことを思い出す。国王になってからも、そういった遊び心を忘れていないのは、国政に利益を生むこともあるだろうが、あまり褒められるものではない。
今回、ジョンは注意深く、魔術の気配を消している。相手はジョンの弟子とはいえ、セントレ王国一番のオッドアイ魔術師ふたりだ。ルークもミアも気を張っているわけではないため、見つからないはずだが、果たして。
国王夫妻に、このデートの様子を実は見られていたと知ったルークを想像すると、恐怖でしかない。冷静に怒りを溜め爆発させる性格ゆえ、しばらく口を利いてくれなくなるだろう。
この王家の権力を行使した魔術に感じることは、心配だけではない。弟子の成長を見ることができたという意味で、居合わせることができてよかった。
ルークのことは五歳から知っていて、もう二十年以上の付き合いになる。正式に魔術を教え始めてからは十五年ほどだろうか。幼児から少年、青年へと成長し、ジョンは見つからないだろうと諦めている番を持つ弟子を、誇らしく思った。
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