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6.未来に向けて

5.王室内客室にて 3 ※

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 ミアの紋章解放の報告をしたときや、王子の発表をした夜会のあとにも泊まった、王宮の客室に今回も入った。断る文言を特に考えることもなく、ここに泊まるのだろうと思ってしまっていた。

 ルークは先に座らせたミアのぶんも正装のマントを壁に掛けながら、結界を張り直す。

「他の魔術師の結界は信用できない」
「ふふっ」

 少し、期待の交じった、上ずったミアの声だ。ミアも、望んでくれている。

「ミア…」
「んっ」

 隣に腰掛けそのままミアを引き寄せる。甘い、甘い口づけだ。番だからこそ、感じられる甘さだろう。まだ唇に触れただけなのに、こんなにも感じてしまう。

「あ…、ミア、ごめん」
「ん?」
「シャワーだけ、浴びてきてもいい? 監獄にずっといたし…」
「やだ」
「いいの?」
「うん、先にしたい」

 セントレ王国に帰ってきた当日だが、ミアの身体と魔力は耐えられるのだろうかと、少し不安が過ぎったが、期待しているのも伝わってきた。その言葉を信じつつ、ただ一度冷静になって思い当たる懸念も、聞いてみなければ分からない。

「…ショックじゃない? さっきの話」
「やっと、全部繋がった気がする。お父様はいてもいなくても今更一緒だし」

 予想どおりの答えで安心したと同時に、そばから離れてほしくないと強く思った。抱き締めながら唇を寄せると、すぐに舌を受け入れてくれる。歯列をなぞって絡ませ、少し身体を離し、目を閉じたままゆっくり息を吐く。目を開けると、ヘーゼルとピンクの瞳と目が合った。

「ミア。左目、色濃くなったね」
「魔力量?」
「たぶん」

 ミアのナイトドレスを脱がせて、ルークも生まれたままの姿になってから、押し倒す。顔から順番に、キスを落としていく。耳の後ろにある、封印魔術の印に重ねるように、その肌を吸った。

 ミアの弱いところは、考えなくても身体が覚えている。臍まで降りてから、異変に気付いた。

「あれ、ミア…」
「ん?」
「印がないよ」

 ルークが掛けた、守護魔術の印が消えている。これが消えるほどの攻撃を、ミアは受けたのだろうか。ミアの仕草を見る限り、それを隠しているようには感じられない。

「…もしかしたら、あのときに消えたのかも」
「あのとき?」
「ルークの暴走を中和したとき。とにかくルークを守りたかったから」
「ああ……」

 ミアの上に乗って、ぎゅっと抱き締める。その仮説が出てくるということは、その感覚もミアにはあったのだろう。もしかしたら、ルークの魔力を送り返していたのかもしれない。ルークの魔術が内側から破られるほど、ミアは強くなった。顔を見られたくなくて、腕の力を緩められない。

「ルーク?」
「ん…、辛かったなって」
「うん」

 無理に抜け出たミアに、キスをされる。こういう、安心を感じたタイミングに弱い。ミアは頬に流れた涙も舐めとってくれる。

「甘い」
「番だからね…」
「そうなの?」
「あれ、言ってなかった? 番だと体液を甘く感じるんだよ、匂いもそうだけど」


 ☆


 ミアはとにかく必死で、ルークの暴走した魔力を中和させたとき、どうやったのかも、どんな量の魔力を使ったのかも覚えていなかった。疲れているのは確かだけど、国際会議の調印式の途中までは寝ていたし、さっきの報告でもずっと座って、ひさびさの王家の焼菓子と紅茶を楽しんだ。ある程度は休息が取れている。

(王子様が泣くところ、見たくなかったのにな…。かわいいのはなんでなの?)

 少し、落ち着いただろうか。そろそろ大丈夫かと離れると、ルークは頬を自分で拭った。

 ちょうど、ミアの目の前、ルークの肩に、見慣れない傷があった。ここから、人工オッドアイの魔力を入れられたのだろう。刃物で切られた綺麗な痕ではない。魔力を集めて消毒するように、切られてから閉じることのなかっただろう粗い傷に、そっと口を寄せる。

「ありがとう」
「痛い?」
「今はなんともないよ」

 ルークがまたミアの唇を啄んで、今度は胸へと降りた。その幸せそうな、満たされた表情を見ると、今言うことではないと分かっていても、言いたくなる。

「ルーク」
「ん」
「生きててくれて、ありがとう」
「そんな簡単に、僕は死なないよ」
「知ってる」
「ひさびさ、何も考えずにミアを抱ける」
「ふふっ」

 これから得られる快感に、期待しかなかった。


 ☆


 すでに溶けている蜜壷に自身を突き立て、腰を動かしつつ、少しずつ角度を変えてやる。魔力暴走を起こしている最中、どんなふうに動いていたかなんて覚えていなかったはずだが、今こうしてミアを前にすると、その時の記憶が蘇ってくる。暴走していたときに、どう動いていたかを、身体が覚えている。

「…ねえ、ミア」
「ん、あっ、なに、んああっ!?」

 ミアの両足をルークの肩に載せ、親指をそっと蕾に添えて、最奥を突いたまま押し付けて腰を回す。余裕のなさそうなミアを見つつ、親指を左右に動かして刺激してやる。

「んああ、ルーク!」
「やっぱり、これ気持ちいい?」
「ああ、だめ、また、んんっ!」
「はは、これ、いいんだね?」

 ミアが口に出して認めなくても、ミアの中が締まって、ルークを搾り取ろうとしてくる。魔力暴走があったから知ることのできた、ミアの感じる抱き方なんて、思いたくはないが。

「ん、だめ…、またくるっ」
「いいよ、いっぱいいって」
「んっ、っ、んああっ!」

 暴走していないルークは、ミアが達して震えている間、優しく抱き締めて落ち着くのを待つ。もう、声が出ないほどに感じて、腕の中で呼吸を整えるミアに、話しかける。

「ミア…、今日、中に出していい?」
「ん、……ん?」

 軽いキスを落としながら、ルークはミアの下腹部に手を当て、自身に掛けた無効化の医療魔術を解いた。ミアに掛けていた魔術は、もう印がないから解けている。ミアがまだぼんやりしていて、きちんと考えられていなさそうなのも分かる。それでも、今日のルークはそうしたかった。

「…中で出したくなった。後のことはまた考える」

 また唇を奪って、舌を絡ませ、ミアに考える隙を与えない。体調の変化を負うのはミアだ。分かっていて、ミアなら受け入れてくれるだろうと信じている。

 もし本当に今のタイミングが嫌なら、魔術を使っても抵抗できる。蕩け切っているミアに、そうする理性は残っていないとも思うが。

「ん、あ、あっ、う…」

 ルークが身体を起こして律動を始めると、ミアにも伝わって中が締まる。

(ああ…、ミア)

「…そろそろだよ」
「ん、ルーク…」
「っ……」

 放出しながら、ミアに倒れ込む。ミアの最奥に、ルークの子種が注ぎ込まれる。

 今も昔も、ルークにはミアしかいない。ミアは、ルークの番だ。そうでなければ、こんなにも快感を得られるわけがない。あまりポジティブに捉えたくはないが、監獄での生活があったから知り得たことではある。

「…ミアの中で果てるの、すごく気持ちいい」
「うん…?」

 馴染みの流れで、ミアの肌を再度舐めていく。ミアの甘い匂いを嗅ぐだけでも、興奮する。今日は特に、ミアが締まるのをよく感じられて、余計に止まらない。

「ルーク…」
「嫌?」

 果てたにもかかわらず挿れたまま、再度ゆっくりと腰を動かし始める。硬さが、戻ってきた。もっと、何度でもミアを抱きたい。

「…やじゃない」
「ん、ありがと」
「んんん…」

 ミアの弱いところは知り尽くしている。ひさびさの番との交わりでもしっかり覚えていたし、感じてくれるミアが可愛すぎて、魔力もあたたかくて心地よくて、ルークはミアの中で何度も達した。


 ☆


「ごめんね、暴走してなくても抱き潰しちゃったね…」

 後悔先に立たずとはまさにこのことで、最中は気持ちよくて楽しくてもっとミアが欲しくなって、その欲に従ってしまった。初夜に対して思い詰めていた自分が嘘のようで、呆れる部分もある。今回はミアの意識が飛ばなかったぶん思いやれたのだとは感じるが、それを口に出していいのはルークではない。

「いいの、暴走してるときよりもずっと優しいから」
「ほんと?」
「うん」

 そんなふうに言ってくれるのも予想がついて、だから余計に止められなくなる。仰向けに寝転ぶミアの隣に腰掛けて、ミアの臍の下辺りに手を当て、回復魔術を全身に掛ける。

「…できるかな、赤ちゃん」
「どうだろうね、ミアはまだ…」

 ルークは言いかけて、口を噤む。気付いてはいるが、ミアに対して直接話したことがなかったのだ。

「やっぱり分かってたんだね」
「まあ…、昔に比べたらずっと女性らしくなったし、この一年でまた狂ったかもしれないけど、これからはいつ授かっても大丈夫だよ」
「子ども、苦手じゃないの?」
「ミアとの子なら、大丈夫。やっと、向き合う気になった」

 そっと指でミアの肌をなぞる。胸の膨らみに触れると、頂きには当たっていないが、ミアが身体を捩った。

「ん、またされたくなってくる?」

 伸ばされた手を包んで、唇を寄せる。ちゅっと触れるだけのキスをしたあと、突起を咥えて、舌先でちろちろと弄ぶ。

「…ミア、もう身体は限界だよね?」
「うん、でもこれだけでも、すごく満たされるの」
「…僕が、そうじゃないのは、どうしたらいい?」
「回復掛けてくれてるから…」
「それは、いいように受け取るよ?」

 寝転んだままのミアに、後ろを向くように促す。ミアの片足を持ち上げ、そのまま突き立てた。

「んっ!」
「痛い?」
「だいじょうぶ…」

 さっきまで濡れていたし、時間もそこまで空いていない。ミアの蜜壷はルークをあっさり受け入れた。

 ミアの背中や首筋に舌を這わせながら、腰を揺らす。動きにくいが、上に乗るよりはミアの身体が楽かと思った体勢だ。だんだんとルークの我慢が利かなくなってくる。ベッドに手をつかせ、腰を掴んで最奥を目指し突いてやる。

「んああ!?」
「ミア?」
「あっ、ルークっ、これだめ! だめっ!」
「奥まで入る? 気持ちいい?」
「ああっ! きもちいっ…!」

 考えることをとっくに止めているミアは、ルークの言葉を素直に繰り返す。手だけでは身体を支えられないようで、肘をつき額や頬、肩もついて、また何度か連続で達した。

 ミアの綺麗な背中を見ながらするのも興奮するが、やはり果てるのは顔が見えるほうがいい。結局ミアを返し、腰に負担が掛かる体勢を取る。キスをして、余裕のない吐息を聞きながら、抱き締める。当然、腰は動いたままだ。

「っ…、っ」
「いっしょに、いこうか」
「ん…」

 ミアの肩に吸いついて、赤い痕をいくつか付ける。普段のワンピースでは見えないところだ。さすがのルークも、もう何度果てたか分からない。

「…ごめんね」

 負担がかかると分かっていても、暴走していなくても止められない。ミアの片足を肩まで上げ、より奥を穿つ。その数回で、ルークはミアの中に吐き出した。

 なんでこんなにも、大事にしたいのに、気持ちよくて止められないのだろう。番とは、ここまで離れられなくなるものなのか。それとも暴走したことで、自制が利きにくくなったのだろうか。

 声は出ないようだが、ミアの目は開いていて、恨めしそうにルークを見ている。回復魔術を掛け直しつつ、唇へ触れるだけのキスを落とす。

「ごめん」


 ☆


 ミアはもちろん、怒っているわけではなかった。だって、ルークだから。

 もし明日、ミアが動けなくても、その世話をしてくれるのは分かっているし、今だって全身に回復魔術を掛けてくれている。この気持ちよさは番から来るものだとはっきりと分かってしまった以上、一度交わりたくなったら止められないのも、番のせいだろう。

 その優しい目を向けられたら、どんなにたくさん打ち付けられてもきっと許してしまう。ミアは、ルークのあたたかさを感じながら目を閉じた。
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