上 下
71 / 103
6.未来に向けて

2.オッドアイの公表

しおりを挟む
「ルーク。手紙は見たし、だから期限よりも前に攻めることになったわけだが、詳しく聞きたい」
「分かりました」

 チャールズが頼むと、ルークは一度ミアを見て頷いたのを確認してから、エスト王国での生活で見たものを話した。

 魔術師のレッドの目を外科的手術で入れ替えて、片目が他の魔術師の目となることを人工オッドアイと呼んでいた。成功して生きているのはこの場にいるオルディスのみで、旧エスト王国にいる魔術師は極端に少ないこと。

 オルディスも完全な一種類の魔力ではなく、なぜか二種類の魔力を持ったままであること。ルークは魔力暴走を起こし、完全に飲まれる前にミアと交わり助かったこと。

(番以外と交わったことは、ミアもいるし話したくないだろうな…)

「…ご苦労だった」

 ルークの話を聞いていたチャールズは、その一言を発するのが精一杯だった。国王目線では、やはりこの一年はセントレ王国の平和にとって大きかった。ルークとミアの犠牲で、セントレ王国には攻撃の来ない日々が訪れる。ふたりの一年を犠牲にするだけで、そのほか大勢の年月が救われたのだ。

 ただ、友人としては思うところが多々ある。まだ新婚と呼んでもいい期間だったふたりには、明らかに重い任務だった。離れ離れでなかっただけよかったとか、感情を推し量るのすらおこがましい。

 ルークのことだ、ミアが居るこの場で全てのことを話しているとも限らないし、隠していることをチャールズに話すかどうかも分からない。ルークが旧エスト王国で再度魔力暴走を起こしたことは事実で、それだけでも心が重くなる。

 その間、ミアはどう過ごしたのだろう。ジョンが助けに入るまでの期間は、短かったのだろうか。聞いてみたいことも多いが、今日は他にも話すことが多い。ルークにとって思い出すのも酷かもしれないが、日数が経ってもまだ折り合いがつかなければ、問うことを許されるだろうか。


 ☆


「…これからオルディスをどう扱っていくのかを決めなければならないが、急ぎではない。魔力制限がかかっていれば何もできないだろうし、あの様子なら何かしようとも思わないだろう」
「同意します。ここにはオッドアイが三人います。何かしても抑えられることも分かっていると思います」

 ルークは、変わらず結界を突いたり手のひらを当てたりして遊んでいるオルディスを見た。その表情からは狂気的なものは感じず、囚われているにもかかわらず、吹っ切れたように明るい楽し気な表情だった。

 魔力に触れて、使うのが楽し気な子どもが、そこにいた。ただし、見た目は相応に大人で、こればかりは話を聞いてみないと分からない。


 会話が一度落ち着くと、皆が紅茶や焼菓子に手を伸ばす。その隙に、チャールズが使用人を呼び温かい紅茶や追加の焼菓子を持って来させた。背を向けて立ち去る使用人に、ジョンが忘却魔術をかける。

「…それから、ルークとミアがオッドアイ魔術師であることを、全国民が知ることになった。旧エスト王国が、人工オッドアイに手を出すことになった理由は、貴重で強力な魔術師を手に入れたかったからであると、報道されるだろう。そのための魔術講師として、ふたりが派遣された。人工オッドアイの講師になれるのは、本物のオッドアイだけなことも分かるだろうし、男女の魔術師が派遣されたとなれば、魔術師にはルークとミアが番であることも予想できる。稀有なオッドアイ魔術師であることが、公になってしまった」

 そうなるだろうなとは、想定していた。近隣の一国が滅ぶ事態に、平和慣れした国民も危機感を持ったのではないか。もうすでに脅威は去っているが、しばらく世間の話題から消えることはないだろう。

 そして、そんなセントレ王国の危機を救ったのがまたルークであることも、しばらくは語られる。今回は、ミアについても話題となってしまう。

 人工オッドアイに関わる脅威を、騎士であるルークとその妻ミアが探りに行っていたのは不自然すぎる。ふたりともが魔術師だと明らかになるほうが自然なのは間違いない。

 チャールズは国王として、報道される内容に関しては前もって目を通している。報道官や文官によって、チャールズが許可した範囲でしか情報は公開されない。

 ただ、情報というものは厄介で、いつどこから漏れているか分からないものだ。基本的にはジョンの結界の中でのみ、情報の伝達をしているため何事もないのだが、万一もある。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

好きな人に好きと言われたら死ぬ病と診断されたので、俺は君に告白させない

長岡更紗
恋愛
俺、菊谷紀一郎。陸上部所属の高校二年。……彼女? いねぇよ! でも、気になる子がいるけどな。 サラサラのショートボブが可愛い、陸上部のマネージャー、山下藍美。(なんと、俺んちのお隣さんなんだぜ!) 藍美は俺のことを「きっくん」って呼ぶし、何かっつーと俺に優しいし、これって……イケるんじゃねえ? そう思っていたら、医者からとんでもない宣告を受けた。 『好きな人に好きと言われたら死ぬ病』だって。 ────は?! マジで?! 小説家になろうにも掲載しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

女性執事は公爵に一夜の思い出を希う

石里 唯
恋愛
ある日の深夜、フォンド公爵家で女性でありながら執事を務めるアマリーは、涙を堪えながら10年以上暮らした屋敷から出ていこうとしていた。 けれども、たどり着いた出口には立ち塞がるように佇む人影があった。 それは、アマリーが逃げ出したかった相手、フォンド公爵リチャードその人だった。 本編4話、結婚式編10話です。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ブラック企業を退職したら、極上マッサージに蕩ける日々が待ってました。

イセヤ レキ
恋愛
ブラック企業に勤める赤羽(あかばね)陽葵(ひまり)は、ある夜、退職を決意する。 きっかけは、雑居ビルのとあるマッサージ店。 そのマッサージ店の恰幅が良く朗らかな女性オーナーに新たな職場を紹介されるが、そこには無口で無表情な男の店長がいて……? ※ストーリー構成上、導入部だけシリアスです。 ※他サイトにも掲載しています。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

処理中です...