とあるオッドアイ魔術師と魔の紋章を持つ少女の、定められた運命

垣崎 奏

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5.番の魔術講師

20.国際会議 後

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 魔力制限の掛けられた手枷を着けたあの魔術師に、他国の騎士がその切っ先を向け、広間の中央に押しやっている。これから、処分を決めるのだろう。

「オルディスと言ったか、エスト王国の王子。記録魔術を出すことは可能か?」
「…国王との場面ですね」

(この魔術師、王子だったのか…)

 これだけのオッドアイに囲まれていれば、手枷を外しても攻撃できないのは目に見えている。記憶の改変などしようものなら、この会議の中心にいるチャールズの護衛筆頭、ジョンが攻撃魔術を出すだろう。ルークが出る幕もない。

 人工オッドアイであるエスト王国の王子オルディスは、記録魔術でその場の全員に、国王を攻撃した一部始終を見せた。

(っ……)

 この王子は、自国の崩壊が始まったことに気付いていて、父親を自分で殺したのだ。補足するように話すオルディスの声は明るく、監獄でルークに話しかけていたときとは別人のようだ。

 ルークは、記録魔術を出し終え再び手枷をはめられたオルディスをじっと見た。この国王とこの王子が、ルークはともかくミアにしたことは許せないが、国王と違って、王子はまともな考え方を持っているかもしれない。

 ルークを暴走させたあのとき、どんな表情をしていたのだろう。居室で見た涙は、後悔から来るものだったのだろうか。

 例え自分が間違っていると分かっていて、ルークに攻撃していたとしても、簡単に許せるわけはない。この場には部下の魔術師などもいて、王子の立場もあり、自分を偽り続けているようにも見える。今のオルディスはあまりに素直で幼く、むしろ疑うべきかもしれない。

「…この者を、どうするおつもりで」
「今の記録を見る限り、更生の余地があると感じた。セントレ王国の優秀なオッドアイ魔術師、ミッチェル教授の下で罪を償うのはいかがだろうか。特別攻撃的なようにも見えない」
「チャールズ国王様がそれで良いのなら、従います」

(チャールズには、この魔術師は害がないんだ。予知でも悪いものがないんだろうな)

 オルディスとジョンを含め、その場の全員が了承した。ルークも、それが最善だと思った。オルディスの魔力は、ルークが自分の魔力だけでは抑えられなかった魔力だ。他国に渡って、例えば別のオッドアイが暴走を起こすなどの被害が出るよりも、ルークに近いところで監視するべきだろう。

 ルークが暴走させられるぶんには、ミアが居れば回復できる。オルディスにとっても、目の前にいるルークは、すでに魔力暴走から回復した天然オッドアイ魔術師だ。その番もそろっているとなれば、抵抗はますます難しい。


 ☆


 周辺国は単に、面倒事を自国に押し付けられたくなかったのだろう。いくら同盟を組んでいるからといって、自国の利益を全て放棄するような国王はいない。

 確かに、セントレ王国にはオッドアイ魔術師が三人もいるし、実際にエスト王国へ入っていたルークとミアもいる。チャールズも自分で提案しておきながら、セントレ王国に委ねるのが最善だという自負もあった。

 オルディスの更生を担うのは、オルディスの魔力に負けても回復できるルークが最適だと考えたが、それを公に発表するにはルークは若すぎて説得力がない。ジョンの他にもオッドアイがいると正式に公表したのはこの会議の場だ。一旦ジョンと発表したが、実際にはルークが担うことになるだろうし、それをルークも察している。

 それならば、エスト王国の事後処理も担当しようではないか。きっと、エスト王国と仲が良かった国でも、もう王族が居ない以上、率先してやりたがる国はいないはずだ。

「エスト王国の内部調査と臨時政府も、セントレ王国に任せてほしい。すでに優秀なふたりが講師をしていたこともあり、進めやすいだろう」

 やはり、こちらも異論は出なかった。同盟とは、強国が推し進めていくしかないのだ。他国のことまで考えられる余裕を、皆持ち得ない。セントレ王国に余力があるのは、オッドアイ魔術師が三人いるからにすぎない。だからエスト王国は倫理に反し、人工だとしても魔術師として最強のオッドアイを増やそうとしたのだ。


 ☆


 国際会議での調印を見届けて、各国のトップたちが帰り支度をしている間、オッドアイがジョンに一言かけに近寄ってくる。ちらっと、ルークとミアを盗み見ていく。

「ミッチェル、また会合を」
「ああ、ルークとミアが整ったらな」
「会合?」
「学会のことだ。皆、堅苦しいのが嫌で、会合と呼んでいる。今まで外交関係が不安定で任務に忙しかったが、もうしばらく心配ない」

 納得して、そのあとに来たオッドアイには会釈を返した。次に会うときは、学会発表だ。ルークはおそらく、魔力暴走からの回復について、話すことになる。

「次の学会、会合はルークが何時間話すことになるだろうな」
「どういう意味ですか」
「人工オッドアイから受けた攻撃魔術による、魔力暴走からの回復についてがひとつ。それから、ミアの魔の紋章の解放についても話さなければならない」
「…………」

 ミアのほうを向くと、目が合った。もう、当たり前になっていて忘れていた。皆はまだ、ミアが紋章持ちだったことを知らない。それも議題に上がるとすれば、確かにルークは話し続けることになるだろう。今まで受けてきた特別任務よりは気楽だが。

「さ、ルーク。転移をかけてくれ」

 チャールズの準備が整ったらしい。チャールズとジョンを連れてきたであろう馬車は、空のまま他の護衛の者と、すでにこの王宮を出発している。

 円形に集まって、皆が自分の身体の前に手を差し出し、それぞれが重ねていく。よく分かっていないオルディスには、ルークがもう片方の手で肩に触れた。

 想像するのは、王の間だ。あの部屋は、二十四時間ずっと結界によって守られているが、ルークの魔術なら通過できる。オルディスが王の間に入るのは、国民に明かされなければ何も起こらないだろう。チャールズが一緒にいるのだ。後からどうとでもできる。

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