とあるオッドアイ魔術師と魔の紋章を持つ少女の、定められた運命

垣崎 奏

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5.番の魔術講師

19.国際会議 中

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 ルークが広間に降り立つと、そこにはふたりをぐるっと囲むように、分かりやすく威厳のある格好をした各国のトップと、魔術師の制服であるマントを羽織ったオッドアイ魔術師がいた。学会にも出たことのないルークは、オッドアイが他国にもいることは知っていたが、こんなに集まるのを見るのは当然、初めてだった。

 目立つところに転移してしまった。そこまで考えは回らなかった。とりあえず、知っている景色を想像して、中央に降りた。よく見知った場所なら隅に転移することもできるが、分からないまま転移すると、こういう事態になる。

 ルークを視認して、場の空気が静まり返る。人がふたり、突然現れたのだから、驚くだろう。しかも、ふたりとも魔術師のマントを羽織っている。オッドアイがこれだけいる場だ。オッドアイのなかでも使える人間の限られる、転移魔術で来たことは明らかだろう。ひそひそと、おそらくルークとミアについて話す声が聞こえる。

(こういうの、騎士の宿舎以来だな…)

「皆さま」

 もう一度転移魔術をかけ、チャールズの下へ行こうとしたが、魔術を掛ける前にチャールズの声がして、動けなくなった。魔術を掛けられて動けないわけではなく、余計に視線が集まり、下手に動けば攻撃されるかもしれない。ここはチャールズの指示を待つほうが得策だ。ルークとミアが味方だと知っているのは、さっきジョンと一緒にいた魔術師だけで、それがどの人なのか、ルークには分からなかった。

「この一年、条約締結の条件により、このエスト王国に捕らえられていた、我がセントレ王国のルーク・ウィンダム公爵と、ミア・ウィンダム公爵夫人である」

 チャールズが手を叩くと、戸惑っている他からも拍手される。状況はよく分からないが、ミアを抱えているため、腰を折り浅く頭を下げて応える。普段なら、膝をつくところだ。

(……公爵? いや侯爵か?)

 ルークが冠するには聞きなれない爵位に、チャールズを見るが、これだけ国王ばかりが揃うこの場で、何か分かる反応をくれはしなかった。

「ルーク、こちらへ」
「はい」

 チャールズへの返事と同時に、ジョンの横に転移した。どよめきが聞こえる。転移魔術は本当に珍しいらしい。

 ルークの転移魔術は、ルーク自身だけでなく、触れている人や物までもまとめて転移できる。しかも、転移で広間の中央へ降りて、そこからまた自国の席へと、転移を繰り返している。

 オッドアイ魔術師や、その他護衛のために来ている魔術師には、今のルークが回復魔術なしでは立てないのも分かっているだろう。魔術の気配は、追加で魔術を掛けないと消せない。ただ、これだけオッドアイが居れば、気配を消しても感づかれるはずだ。

 ルークは意図せず、自分の魔力量が膨大であることを示してしまっていた。チャールズの反応から察するに、ルークの魔力を見せつけたかったのだろう。つまり、これもチャールズの想定内だ。

「ルーク」
「はい、チャールズ国王様」

 正式な場での呼び方を使って、ミアを抱えたままチャールズに耳を寄せる。他国の目もあって、チャールズもルークも普段のように気軽には振る舞えない。

「さっきの景色を、五年前に見たんだ…。ふたりが、国際会議の中央にいる景色を。そこから他にもいろいろと手がかりを見てきた。辛いことをさせて、すまなかった」
「っ……」

 驚きすぎて、何も言葉が出てこなかった。五年も前から、この国際会議に向けた計画は始まっていたのだ。それが分かったとしても、ルークは混乱したままだったが、とりあえず姿勢を戻した。ここが国際会議の場で、皆の注目が集まっているのをその視線で思い出した。

「それでは、今回の国際会議では、友好の調印を交わしたいと思う」

 チャールズが、全体に向けて声を張る。ジョンが魔術をかけているが、チャールズは要らないくらい声が通る人だ。それだけ、直接話せば国民へも伝わりやすい人物で、これ以上国王向きな人はいないだろう。

 他の国王のことをルークはよく知らないが、これだけの国王が揃ったなか、チャールズがこの場を仕切ることができるのは、この求心力と、オッドアイ魔術師がいることが理由であることは見当がつく。ルークとミアを、エスト王国へ入れていたことで、周辺国はセントレ王国に反発できないはずだ。

 各国のトップがこれだけ集まっているなら、きっとこの王宮の周りは同盟国が組んだ連合軍で囲まれている。調印が終われば、チャールズの目的は達成される。

「…ルーク」
「ミア、気が付いたんだね」

 腕の中で小声で呼ぶミアを、ぎゅっと抱き締める。チャールズが調印を進めているため、他国の国王やオッドアイの目線がセントレ王国の席へ集まってはいるが、ミアと見つめ合う。ルークの暴走後、ミアは目覚めることなくこの場に来ている。まだ、ふたりで話すこともできていないのだ。

「ルーク、降ろして」
「え?」
「魔術で支えるのは、自分でできる。総量が戻ったのは私も同じだし」
「……」

 そこを突かれるのは、痛い。少しは、甘えてくれてもいいのだが。
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