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5.番の魔術講師
18.国際会議 前
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「暴走から戻ってすぐに、転移とは…」
「ジョン、お前の弟子、強すぎない?」
「番がオッドアイなんだ、あり得ない話じゃない」
「うらやましい限りだぜ、マジで」
呑気に話すオッドアイ魔術師たちを後目に、ジョンはミアに会ったあの部屋に急いだ。
暴走を起こしていたルークが中和されれば、きっとふたりでしばらくの時を過ごしたくはなるだろうと、その甘えを受け入れ、通信魔術が飛んでくるのを待っていた。ジョンをはじめ、複数のオッドアイがエスト王国に入っている。ルークとミアが少々休憩をとっても、手は打てる。
エスト王国の王はもう始末済み、その王子も魔力制限がかかっている。王妃がこの一年、姿をくらましていることも掴んではいるが、チャールズの目的は王とその権力を継ぐ王子だけだ。もう達成しているが、それでも、弟子のルークの姿を見るまでは、安心できるわけがなかった。
☆
扉が急に開く。近付いてきているのは気配で分かっていたが、反射的にミアの手を離した。ジョンを先頭に、魔術師たちがベッドに腰掛けるルークの下へやってくる。
「ルーク…」
ジョンが目の前に立ったところで、ようやくルークも立った。その瞬間、抱き締められた。慣れていないルークは棒立ちで、ジョンが離れるのを待つことしかできなかった。
「…よかった、魔力に変化はないようだな」
「ええ、ほぼ以前の僕のままですよ、多少暴走しやすくなった以外は」
「自覚があるのか」
「なんとなく。ミアがいれば大丈夫です」
チャールズにする前の軽い報告に近い。ジョンの後ろのいる魔術師たちが、「会ってすぐの会話がそれでいいのか」と口にしているが、ジョンが無視しているため、ルークも無視することにした。
おそらく、他国のオッドアイ魔術師数名が、ジョンと共に入ってきたのだろう。各国の王の護衛にも回っているはずだ。魔力の気配が一気に増えている。
何が起きてこうなったのか、正確なことは分からないが、おそらくチャールズの指示でオッドアイ魔術師が乗り込んだのだろう。それで、王宮や居室にかかっていた結界が消えた。魔術協定と不可侵を含めた条約の期間が、終わったのだ。
目の前で手枷をされている魔術師が、ルークを暴走させた張本人だろう。目が合うと、睨まれた。当然だ、この魔術師にしてみれば、国を乗っ取られたと同義だ。ただ、その目には涙が溜まっているようにも見え、ルークは目を細めた。
(大の大人が、恨みを募らせて人前で泣く…? いや、意外とまだ幼いのか?)
「失礼します!」
元気のいい声が扉から聞こえ、全員がそちらを向いた。ルークも魔術師から目を逸らす。セントレ王国の証を胸につけている青年は、チャールズの伝令官のひとりだ。
「ミッチェル教授はじめ、各国オッドアイ魔術師の皆さまに、セントレ王国チャールズ国王様より伝令、『各国首脳、王宮広間に集合済み。至急戻られよ』とのことです」
「ルーク、行けるか?」
「はい、ミアを連れて転移します」
「では、広間で」
伝令官と一緒に、ジョンとオッドアイ魔術師たち、それから手枷をされたままの魔術師が部屋から出て行った。妙なリアクションを見たとは思ったが、ゆっくり考えている暇はなく、チャールズのところへ行かなければならない。
ミアの頬を撫で、指が通った場所に口づける。ここでは、たくさんの無理をさせた。やっと、解放の時だ。安堵するほど目から涙がこぼれそうになるが、今はまだ任務中で、チャールズに報告してやっと、任務完了になる。ぐっと奥歯を噛みしめ、堪える。
自分に回復魔術を再度掛け、ミアをマントで包んで抱え上げ、何度か入った広間を想像した。
☆
「チャールズ」
「ジョンか、よく戻った。ルークとミアは?」
「すぐ転移してくるはず、無事だ」
チャールズにとっても、ルークとミアの無事をこの目で確認することを最優先したいところだが、周辺国にとっては、あまり大きな意味を持たないだろう。条約締結の条件として、エスト王国に関わったオッドアイ魔術師のふたりが、自国の者ではないからだ。
それすらも分かったうえで、若いふたりの一年を犠牲にした。多少の嫌味も言いたくなる。
「しかし壮観だな。ここまで各国のトップとオッドアイが揃うと…」
「この方たちに、事情は?」
「大まかに話してある。この国を攻撃する理由としてな」
セントレ王国のオッドアイ魔術師ふたりが、講師としてではなく奴隷として扱われていることを、魔術師本人から報告を受けた。そのためチャールズは、条約期間中ではあるが、準備が整い次第攻め入ると同盟国に通達したのだ。
セントレ王国に反発することは、同盟国全てに反発することと同義である。準備を引き延ばしているような国もあったが、実際はこうして条約期間が終わる前に武力行使ができた。しかも、王宮の制圧でのみで済み、無用な戦闘は行われなかった。オッドアイ魔術師たちの先陣が乗り込んだときにはすでに、エスト王国国王は事切れていたらしい。
エスト王国民は、同盟国で編成された連合軍隊が道を通ると恐れて建物に隠れた。エスト王国の軍隊は統率が取れておらず、指示系統が破綻しているのはすぐに見て取れ、王宮まで辿り着くまで、大きな邪魔は入らなかった。
何よりオッドアイ魔術師が三人も存在するセントレ王国には、周辺国では勝てない。セントレ王国に圧倒的強さのオッドアイ魔術師がいると誇示できるだけで、今回の進軍と国際会議の意味がある。国際会議で例え調印がなされなくとも、すでに今後数十年の平和が約束されたようなものだ。
「ジョン、お前の弟子、強すぎない?」
「番がオッドアイなんだ、あり得ない話じゃない」
「うらやましい限りだぜ、マジで」
呑気に話すオッドアイ魔術師たちを後目に、ジョンはミアに会ったあの部屋に急いだ。
暴走を起こしていたルークが中和されれば、きっとふたりでしばらくの時を過ごしたくはなるだろうと、その甘えを受け入れ、通信魔術が飛んでくるのを待っていた。ジョンをはじめ、複数のオッドアイがエスト王国に入っている。ルークとミアが少々休憩をとっても、手は打てる。
エスト王国の王はもう始末済み、その王子も魔力制限がかかっている。王妃がこの一年、姿をくらましていることも掴んではいるが、チャールズの目的は王とその権力を継ぐ王子だけだ。もう達成しているが、それでも、弟子のルークの姿を見るまでは、安心できるわけがなかった。
☆
扉が急に開く。近付いてきているのは気配で分かっていたが、反射的にミアの手を離した。ジョンを先頭に、魔術師たちがベッドに腰掛けるルークの下へやってくる。
「ルーク…」
ジョンが目の前に立ったところで、ようやくルークも立った。その瞬間、抱き締められた。慣れていないルークは棒立ちで、ジョンが離れるのを待つことしかできなかった。
「…よかった、魔力に変化はないようだな」
「ええ、ほぼ以前の僕のままですよ、多少暴走しやすくなった以外は」
「自覚があるのか」
「なんとなく。ミアがいれば大丈夫です」
チャールズにする前の軽い報告に近い。ジョンの後ろのいる魔術師たちが、「会ってすぐの会話がそれでいいのか」と口にしているが、ジョンが無視しているため、ルークも無視することにした。
おそらく、他国のオッドアイ魔術師数名が、ジョンと共に入ってきたのだろう。各国の王の護衛にも回っているはずだ。魔力の気配が一気に増えている。
何が起きてこうなったのか、正確なことは分からないが、おそらくチャールズの指示でオッドアイ魔術師が乗り込んだのだろう。それで、王宮や居室にかかっていた結界が消えた。魔術協定と不可侵を含めた条約の期間が、終わったのだ。
目の前で手枷をされている魔術師が、ルークを暴走させた張本人だろう。目が合うと、睨まれた。当然だ、この魔術師にしてみれば、国を乗っ取られたと同義だ。ただ、その目には涙が溜まっているようにも見え、ルークは目を細めた。
(大の大人が、恨みを募らせて人前で泣く…? いや、意外とまだ幼いのか?)
「失礼します!」
元気のいい声が扉から聞こえ、全員がそちらを向いた。ルークも魔術師から目を逸らす。セントレ王国の証を胸につけている青年は、チャールズの伝令官のひとりだ。
「ミッチェル教授はじめ、各国オッドアイ魔術師の皆さまに、セントレ王国チャールズ国王様より伝令、『各国首脳、王宮広間に集合済み。至急戻られよ』とのことです」
「ルーク、行けるか?」
「はい、ミアを連れて転移します」
「では、広間で」
伝令官と一緒に、ジョンとオッドアイ魔術師たち、それから手枷をされたままの魔術師が部屋から出て行った。妙なリアクションを見たとは思ったが、ゆっくり考えている暇はなく、チャールズのところへ行かなければならない。
ミアの頬を撫で、指が通った場所に口づける。ここでは、たくさんの無理をさせた。やっと、解放の時だ。安堵するほど目から涙がこぼれそうになるが、今はまだ任務中で、チャールズに報告してやっと、任務完了になる。ぐっと奥歯を噛みしめ、堪える。
自分に回復魔術を再度掛け、ミアをマントで包んで抱え上げ、何度か入った広間を想像した。
☆
「チャールズ」
「ジョンか、よく戻った。ルークとミアは?」
「すぐ転移してくるはず、無事だ」
チャールズにとっても、ルークとミアの無事をこの目で確認することを最優先したいところだが、周辺国にとっては、あまり大きな意味を持たないだろう。条約締結の条件として、エスト王国に関わったオッドアイ魔術師のふたりが、自国の者ではないからだ。
それすらも分かったうえで、若いふたりの一年を犠牲にした。多少の嫌味も言いたくなる。
「しかし壮観だな。ここまで各国のトップとオッドアイが揃うと…」
「この方たちに、事情は?」
「大まかに話してある。この国を攻撃する理由としてな」
セントレ王国のオッドアイ魔術師ふたりが、講師としてではなく奴隷として扱われていることを、魔術師本人から報告を受けた。そのためチャールズは、条約期間中ではあるが、準備が整い次第攻め入ると同盟国に通達したのだ。
セントレ王国に反発することは、同盟国全てに反発することと同義である。準備を引き延ばしているような国もあったが、実際はこうして条約期間が終わる前に武力行使ができた。しかも、王宮の制圧でのみで済み、無用な戦闘は行われなかった。オッドアイ魔術師たちの先陣が乗り込んだときにはすでに、エスト王国国王は事切れていたらしい。
エスト王国民は、同盟国で編成された連合軍隊が道を通ると恐れて建物に隠れた。エスト王国の軍隊は統率が取れておらず、指示系統が破綻しているのはすぐに見て取れ、王宮まで辿り着くまで、大きな邪魔は入らなかった。
何よりオッドアイ魔術師が三人も存在するセントレ王国には、周辺国では勝てない。セントレ王国に圧倒的強さのオッドアイ魔術師がいると誇示できるだけで、今回の進軍と国際会議の意味がある。国際会議で例え調印がなされなくとも、すでに今後数十年の平和が約束されたようなものだ。
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