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5.番の魔術講師

13.守護魔術

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「へえ、一回暴走して回復できなくても、まだ自我を保ってられるんだ?」

 交わりの途中で、あの魔術師の声がする。魔力を向けると他にも、暴走していない、まともな魔術師を何人か連れてきているのが分かる。何度繰り返しても、ルークとミアが暴走状態の魔術師を回復させることはない。ルークが暴走するのを、見るためなのだろう。

 隣に居るのが感じられるミアを、暴走させなければそれでいい。

「さあ、オレの仲間を助けるために頑張ってよ」
「ぐっ……」

 同じ傷口を広げられ、魔力を注がれる。完全に治る前に何度も開かれるその傷がどうなっているか、確かめる術はない。

 相手の魔力が、ルークの体内に増えていく。より制御しにくく、暴走しやすくなる。

 ルークの中に入ってきた魔力は、やはり一人の魔力とするには違和感がある。この魔術師は間違いなく、魔力制御に成功している人工オッドアイだ。

 当然のように目隠しをされていて見えないが、鈍ったルークの感覚でも気配で分かる。魔術師が、ミアに近づいている。あの妙な魔力が、動いた。

「なっ、守護魔術だと…?」

(よかった、ちゃんと利いたんだね)

 起きたことは、だいたいルークの想定どおりだろう。

 おそらく、魔術師がルークにしたように、ミアにも傷を作ろうとした。それを、ミアが弾いたのだ。正確には、ミアに掛けたルークの守護魔術が弾いた。

 ミアの臍の印は、妊娠を防ぐための医療魔術の印だ。ミアに伝えたことは事実だが、それに加えて、守護魔術も同じタイミングで掛けた。ルークに何かあっても、ミアを護ることができるようにと願い、相当な魔力を入れ込んだ。この一度きりの発動ではないはずだ。

「お前、やるじゃん。もっと、オレの魔力に酔えよ」
「うう……」

 ルークの体内に入り込む魔力が、さらに増える。ただでさえ、ルークの魔力は相手の魔力に削られているし、自分を保つためのメンタルもすり減っている。かろうじて繋いでいた理性は、すぐに消え去った。


 ☆


 ミアは、何も聞かされていなかった。ルークがミアに掛けたのは、妊娠しないようにする医療魔術のはずで、守護魔術も掛けられていたなんて、聞いていない。目隠しもあって、状況は耳から入る声と魔力の気配からしか読み取れず、正確なものは分からない。

「ミアだっけ」

 交わりの途中で話しかけられても、そこに向けられる意識は限られている。暴走する魔術師が無理矢理交わってくるその魔力から、自分を保っていなければ、生き残れない。集中したいのは、自衛のほうに決まっている。

 ルークが暴走状態である今、ミアは何としても自我を保つ必要がある。解放されてルークと交われるときが来れば、暴走していないミアがルークを助けられる。

「この女には触れられない」
「どういうことでしょう」
「男が掛けてる守護魔術が強すぎる。この女に攻撃が通らない。魔術も物理も無理」
「そんな…、オルディス様をもってしても?」
「崩すには、人工オッドアイが十人は要る。いや、もっと要るな」
「十人…?」
「とんでもない魔力量だよ。一般人が近くにいたら、さっきの跳ね返しでとっくに死んでる」

 一人はルークを暴走させた人の声だと思うけど、もう一人は分からない。従者の声とも違う気がする。本能のまま垂れ流されているルークの魔力を浴びても話していられるなら、この人も強い魔術師なのかもしれない。

 ばたばたと走ってくる音がして、人の気配が増えた。この人も、魔術師だ。

「…オルディス様、緊急事態です! 国王様がお呼びです!」
「はあ…、ここに来ている間は呼ぶなと言っただろう。お前に言っても無駄なのは分かってる、とりあえず向かうから、お前はミアを部屋に」
「はっ」
「暴走状態のみんな、部屋に戻るよ」

 一番偉そうにしていた声が、もう一度大きく溜息を吐いて、魔力放出を行った。ミアの周りで喚いていた、魔力暴走を起こした魔術師の気配が消え、まとめて監獄から出ていった。

(緊急事態……)

 魔術協定に定められた講師としてエスト王国にやってきて数ヶ月、一度始まれば全員を鎮めるまで止まることのなかった交わりが、その一言で中断された。

 あの国王に呼ばれることは、この国の人にとっても荷の重いことなのだろうか。他国から来た、思いどおりに事を進ませないミアたちに、横柄な国王は苛立っている。ルークを暴走させたあの魔術師が指揮官なら、きっと文句を言われるのだろう。

 ミアを暴走させることはできない。指示どおりに磔を解かれ、強い結界の居室に戻される。従者に状況を確認する気力はなくて、居室の扉が閉まると、そのままベッドへと倒れ込んだ。
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