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5.番の魔術講師
12.魔力暴走 ※
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協定の期間が守られるなら、残りは三ヶ月といったところだろうか。居室には記録を取れるような紙などの用意がなく、ただ一日が過ぎていくだけで、日数感覚は大まかなものになっていた。
当然のように目隠しのまま磔にされるが、暴走を起こした者の気配は遠い。
「今日はふたりに訪問者だ」
気配を探ろうとしても、判断がつかない。気配を消すように魔力を張っているのかもしれないが、中途半端で隠しきれてはおらず、不思議な魔力が漂っている。強い結界のある居室では上手く休息を取れないため、魔力を良い状態で使えないことも関係しているだろう。
ミアも、魔力を張っていた。監獄で会話することはできないが、同じことを試みたと分かるだけでも安心できる。
「…久しぶりだな」
(この声、この妙な魔力……、っ!)
おそらく二種類の魔力を体内に持っていても平気な、ルークに攻撃魔術を当てたあの魔術師だ。その気配が近付いてきて、ルークの目の前に立ったのだろう。
「一応言うと、魔力を張っても無駄だぜ? この管理下じゃ、さすがのオッドアイも回復できないんだろ? お前は、ここで攻撃されたらどうなるんだ?」
嫌な予感がする。魔力制限のある手枷をされているから、魔術で応戦することは不可能だ。威嚇の魔力を張るくらいしか、許されていない。
ミアの魔力が動いた感じはしなかった。ルークが攻撃されそうになっても、ルークの指輪なしで動揺を隠せるようになった。ミアが強くなった証拠だ。
「ぐっ…!」
何か鋭利なものが左肩に触れ、そこから血が流れている。傷を作られ、他人の魔力がルークの体内へと押し込まれる。魔力を傷口に集め防御しようとしても、手枷の制限や入り込んでくる魔力のせいで、上手く支配することができない。
小瓶への魔力封印、ミアやルーク自身への魔術など、エスト王国に来る前に使った魔力も多い。ミアと何度も交わっていたから、総量は増えるばかりで、魔力量においては何も気にしていなかった。暴走と魔力量は、関連がないのかもしれない。
そんなことを考えている暇は、もう少ない。目の前にいる魔術師は、確実に魔力暴走を起こさせようとしている。
「あれ、お前の魔力この程度? オレ、こんなやつに負けたと思いたくないんだけど」
「はあ、はっ……」
他人の魔力が入った状態で、これ以上魔力を放出するとなると、制御が利かなくなってしまう。耐えていても、暴走するまで魔力を流し込まれるのだろう。
「ううっ…」
「きたきた、魔力暴走! オッドアイの暴走だ!」
「これが…、こんなにも強い魔力を感じたことは…」
どさっと、人が倒れた音がする。魔術師のくせに、ルークの魔力放出に耐えきれなかったのだろう。手枷の先にある鎖を握り締め、身体を引き上げるように力を込めたあと、抜いて腰を下ろした。少しでも意識を逸らすものが欲しい。拘束されていなければきっと、ミアに乗りかかっていただろう。
身体が、熱い。何も身に着けていないのに、痛いほど下半身が滾って、交わりたくて仕方ない。
「はあっ、はあっ、くっ……」
「どう対処するのか、楽しみにしてるよ。さ、暴走状態のみんな、交わっておいで」
扉の閉まる音は、かろうじて分かった。上に乗るために触れられただけで、身体は跳ねた。もうすでに、感覚は制御できず、快感のままに腰を振ってしまう。感じ取る魔力が多すぎて、中和はしないまま入り混じって、頭がおかしくなる。入れ替わり立ち代わり、ルークに触れる人の気配が変わる。
「は、あっ…、あ、うぐっ、…っあああ!」
いくら叫んで果てても、熱さが落ち着かない。また別の気配に触れられる。相手がミアではないから、中和できず暴走を終えられない。気を失うまで、この苦しさが続く。
(……っ!)
ミアだ、ミアの魔力が近くにある。どれがミアの魔力なのか、必死に掴もうとするが、大量の魔力が溢れてしまっているこの部屋で、魔力暴走を起こしたルークが、ひとつの魔力を掴むことは難しかった。
果てるたびに、目隠しで真っ暗な視界がちかちかと光り、意識の遠のく瞬間が増えた。一度、魔力に完全に飲まれるタイミングが近い。前に暴走したときは、ミアに中和してもらえたから助かった。
(早く、終わっ…、っ)
☆
(あっ……)
ルークの気配が、消えた。同じように暴走状態と言われる人たちが、こうして交わりに来てる人たちだから、その状態になったルークが、今すぐに死んでしまうことにはならないはずだけど、目隠しはされたままで何も分からない。
魔力暴走のせいで、叫びながら鎖の音を立てていたルークは、もう何の音も立てていない。魔力も感じないし、意識を失ったのだろう。
これが、ルークが教えてくれていた事態で、ルークはルークだし、ミアはミアだ。一生隣にいたいのは間違いないけど、それはふたりともが正気でいられた場合の話で、今は割り切って、流れに身を任せる。心配はするけど、動揺はしないし、抵抗もしない。ルークだって、それを望んでいるはずだ。
「お疲れさまでした。本日はミア様のみ部屋へお連れします」
(やっぱり、そうなんだ)
魔力暴走を起こしたルークは、監獄に繋がれたままだ。たぶん、意識が戻っても、居室に戻されはしない。
ぎゅっと、唇を結ぶ。ルークの意識があるうちに、辿り着けなかったのは悲しかった。でもルークは、暴走を強制的に引き起こされるかもしれないと、予想していた。
だからミアにできることは、ルークを信じて耐えるだけだ。条約の期間は残り三ヶ月くらいで、ここまでふたり揃っていられたのが奇跡だったのかもしれない。近いうちに、ミアもルークと同じ状態にされるのかもしれない。
いつもルークがしてくれていたように、秘部をタオルで冷やしながら、ルークの温もりを思い出す。うっすらと出す自分の魔力で、自分を覆う。回復はしないけど、少しでもあたたかくなりたかった。
☆
ルークが目を覚ましても、真っ暗な視界は変わらない。手枷もまだついているし、何より身体が怠い。腰が重い。相当、欲のままに振ったのだろう。誰の気配も周辺にはない。ミアは、居室に戻ったのだろう。
記憶が曖昧だ。暴走して、気を失うまで果てたのだろう。ルークの魔力には当然大きな違和感があって、何か魔力が滾るようなきっかけがあれば、また暴走状態になるのは明らかだ。それが繰り返されれば、魔力が浸食され、全て相手の魔力に置き換わってしまう。交わりに来る暴走状態の魔術師と同じで、ただ快感を得たいがために動く獣になる。
ルークの魔力は暴走して制御できずに放出されている。相手にも魔力暴走が起こっていれば、強力な魔力にも耐えられるのだろうかなどと考えたところで、何かの成果に繋がることはない。今の任務はエスト王国の王の機嫌を取りつつ、条約の期限を待つだけだ。推論を持ち帰ることができたとしても、再現実験は倫理的に不可能で、チャールズに求められるのは、見聞きしたことの報告だけだろう。
(意外と、まだ冷静でいられる…)
どれくらいの時間が経っているのだろうか。目隠しもあって全く分からないが、条約の期間中に、自分の魔力を失うわけにはいかない。自分を見失わなければ、小瓶の魔力とミアの魔力でどうにかできるはずだ。
そういえばあのとき、ミアの魔力を掴めなかった。ミアは後悔しているだろうか。いや、しないように伝えてきた。想い合っているからこそ、生き延びるために。ミアは強くなった。大丈夫だと、信じるだけだ。
当然のように目隠しのまま磔にされるが、暴走を起こした者の気配は遠い。
「今日はふたりに訪問者だ」
気配を探ろうとしても、判断がつかない。気配を消すように魔力を張っているのかもしれないが、中途半端で隠しきれてはおらず、不思議な魔力が漂っている。強い結界のある居室では上手く休息を取れないため、魔力を良い状態で使えないことも関係しているだろう。
ミアも、魔力を張っていた。監獄で会話することはできないが、同じことを試みたと分かるだけでも安心できる。
「…久しぶりだな」
(この声、この妙な魔力……、っ!)
おそらく二種類の魔力を体内に持っていても平気な、ルークに攻撃魔術を当てたあの魔術師だ。その気配が近付いてきて、ルークの目の前に立ったのだろう。
「一応言うと、魔力を張っても無駄だぜ? この管理下じゃ、さすがのオッドアイも回復できないんだろ? お前は、ここで攻撃されたらどうなるんだ?」
嫌な予感がする。魔力制限のある手枷をされているから、魔術で応戦することは不可能だ。威嚇の魔力を張るくらいしか、許されていない。
ミアの魔力が動いた感じはしなかった。ルークが攻撃されそうになっても、ルークの指輪なしで動揺を隠せるようになった。ミアが強くなった証拠だ。
「ぐっ…!」
何か鋭利なものが左肩に触れ、そこから血が流れている。傷を作られ、他人の魔力がルークの体内へと押し込まれる。魔力を傷口に集め防御しようとしても、手枷の制限や入り込んでくる魔力のせいで、上手く支配することができない。
小瓶への魔力封印、ミアやルーク自身への魔術など、エスト王国に来る前に使った魔力も多い。ミアと何度も交わっていたから、総量は増えるばかりで、魔力量においては何も気にしていなかった。暴走と魔力量は、関連がないのかもしれない。
そんなことを考えている暇は、もう少ない。目の前にいる魔術師は、確実に魔力暴走を起こさせようとしている。
「あれ、お前の魔力この程度? オレ、こんなやつに負けたと思いたくないんだけど」
「はあ、はっ……」
他人の魔力が入った状態で、これ以上魔力を放出するとなると、制御が利かなくなってしまう。耐えていても、暴走するまで魔力を流し込まれるのだろう。
「ううっ…」
「きたきた、魔力暴走! オッドアイの暴走だ!」
「これが…、こんなにも強い魔力を感じたことは…」
どさっと、人が倒れた音がする。魔術師のくせに、ルークの魔力放出に耐えきれなかったのだろう。手枷の先にある鎖を握り締め、身体を引き上げるように力を込めたあと、抜いて腰を下ろした。少しでも意識を逸らすものが欲しい。拘束されていなければきっと、ミアに乗りかかっていただろう。
身体が、熱い。何も身に着けていないのに、痛いほど下半身が滾って、交わりたくて仕方ない。
「はあっ、はあっ、くっ……」
「どう対処するのか、楽しみにしてるよ。さ、暴走状態のみんな、交わっておいで」
扉の閉まる音は、かろうじて分かった。上に乗るために触れられただけで、身体は跳ねた。もうすでに、感覚は制御できず、快感のままに腰を振ってしまう。感じ取る魔力が多すぎて、中和はしないまま入り混じって、頭がおかしくなる。入れ替わり立ち代わり、ルークに触れる人の気配が変わる。
「は、あっ…、あ、うぐっ、…っあああ!」
いくら叫んで果てても、熱さが落ち着かない。また別の気配に触れられる。相手がミアではないから、中和できず暴走を終えられない。気を失うまで、この苦しさが続く。
(……っ!)
ミアだ、ミアの魔力が近くにある。どれがミアの魔力なのか、必死に掴もうとするが、大量の魔力が溢れてしまっているこの部屋で、魔力暴走を起こしたルークが、ひとつの魔力を掴むことは難しかった。
果てるたびに、目隠しで真っ暗な視界がちかちかと光り、意識の遠のく瞬間が増えた。一度、魔力に完全に飲まれるタイミングが近い。前に暴走したときは、ミアに中和してもらえたから助かった。
(早く、終わっ…、っ)
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(あっ……)
ルークの気配が、消えた。同じように暴走状態と言われる人たちが、こうして交わりに来てる人たちだから、その状態になったルークが、今すぐに死んでしまうことにはならないはずだけど、目隠しはされたままで何も分からない。
魔力暴走のせいで、叫びながら鎖の音を立てていたルークは、もう何の音も立てていない。魔力も感じないし、意識を失ったのだろう。
これが、ルークが教えてくれていた事態で、ルークはルークだし、ミアはミアだ。一生隣にいたいのは間違いないけど、それはふたりともが正気でいられた場合の話で、今は割り切って、流れに身を任せる。心配はするけど、動揺はしないし、抵抗もしない。ルークだって、それを望んでいるはずだ。
「お疲れさまでした。本日はミア様のみ部屋へお連れします」
(やっぱり、そうなんだ)
魔力暴走を起こしたルークは、監獄に繋がれたままだ。たぶん、意識が戻っても、居室に戻されはしない。
ぎゅっと、唇を結ぶ。ルークの意識があるうちに、辿り着けなかったのは悲しかった。でもルークは、暴走を強制的に引き起こされるかもしれないと、予想していた。
だからミアにできることは、ルークを信じて耐えるだけだ。条約の期間は残り三ヶ月くらいで、ここまでふたり揃っていられたのが奇跡だったのかもしれない。近いうちに、ミアもルークと同じ状態にされるのかもしれない。
いつもルークがしてくれていたように、秘部をタオルで冷やしながら、ルークの温もりを思い出す。うっすらと出す自分の魔力で、自分を覆う。回復はしないけど、少しでもあたたかくなりたかった。
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ルークが目を覚ましても、真っ暗な視界は変わらない。手枷もまだついているし、何より身体が怠い。腰が重い。相当、欲のままに振ったのだろう。誰の気配も周辺にはない。ミアは、居室に戻ったのだろう。
記憶が曖昧だ。暴走して、気を失うまで果てたのだろう。ルークの魔力には当然大きな違和感があって、何か魔力が滾るようなきっかけがあれば、また暴走状態になるのは明らかだ。それが繰り返されれば、魔力が浸食され、全て相手の魔力に置き換わってしまう。交わりに来る暴走状態の魔術師と同じで、ただ快感を得たいがために動く獣になる。
ルークの魔力は暴走して制御できずに放出されている。相手にも魔力暴走が起こっていれば、強力な魔力にも耐えられるのだろうかなどと考えたところで、何かの成果に繋がることはない。今の任務はエスト王国の王の機嫌を取りつつ、条約の期限を待つだけだ。推論を持ち帰ることができたとしても、再現実験は倫理的に不可能で、チャールズに求められるのは、見聞きしたことの報告だけだろう。
(意外と、まだ冷静でいられる…)
どれくらいの時間が経っているのだろうか。目隠しもあって全く分からないが、条約の期間中に、自分の魔力を失うわけにはいかない。自分を見失わなければ、小瓶の魔力とミアの魔力でどうにかできるはずだ。
そういえばあのとき、ミアの魔力を掴めなかった。ミアは後悔しているだろうか。いや、しないように伝えてきた。想い合っているからこそ、生き延びるために。ミアは強くなった。大丈夫だと、信じるだけだ。
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