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5.番の魔術講師
11.チャールズとジョン 3
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ルークとミアがエスト王国に囚われてから、半年ほど経っただろうか。居室の扉が開き、普段監獄へ連れていかれるときの魔術師とは別の人物が立っていて、少し驚いた。その体躯は騎士ではなく、目の色も魔術師ではない。
「セントレ王国に手紙を書け。魔術協定の講師なんだ。報告義務もあるだろう」
文官なのだろう人物から紙と筆記用具をルークが受け取り、目線を感じたまま書き始める。表向きは講師で、確かに報告義務もあるが、半年も連絡させなかったのは誰かと問いたくなる。食事が届けられるときや監獄へ行くときなど、何度か手紙を書かせてほしいと交渉したのだが、全て却下されていた。
チャールズは、もっと頻繁な連絡を待っていただろう。もう半年経ってしまえば、国際会議だ。領土不可侵を盛り込んだエスト王国とセントレ王国の二国間条約が更新されないのは読めているが、その先、チャールズはどうするつもりなのだろうか。
「妙なことを書けばどうなるか、分かっているな?」
送りたくても送れなかったのだ。手紙の文面はとっくに考えてあった。文官がルークの書いた文面を読み、満足したように部屋を出ていく。緊張を解くように、一息大きく吐いた。
「何を書いたの?」
「大した事はないよ、講師としての役目を果たしていますって、それだけ」
ミアに聞かれ、当たり障りなく答えた。チャールズが見れば、内容は正確に伝わるはずだ。返信があったとしても、ルークの手元に届くことはない。ミアだって、ただそれだけを書いたとは思っていないだろう。
魔術は使わなかったが、チャールズの執務室の本棚にあった、暗号を潜ませておいた。それが、チャールズの外交に役に立つと信じて。
☆
チャールズに届く文書は、文官によってその送り主で仕分けされる。一番上、つまり最重要だと文官が判断したものには、エスト王国の封がされていた。
大きく深呼吸をしてから、その封を開ける。ルークの筆跡だ、間違いない。衛兵にジョンを呼ぶように伝え、内容を一読した。
ルークは、見張りがいるなかで書いたとしても、当たり障りのないことだけを伝えてくるような男ではない。ジョンが到着し、結界を張り直してもらったあと、本棚から書物を一冊取り出し、当てはまる暗号を探す。
(また懐かしいものを使ってきたな…)
チャールズが学生のころ、同じ立場のように遊べたのは五歳下のルークだけだった。学校で会う人たちは、チャールズが王子であるために距離を置いたり、逆に何かと取り入ろうとしたりした。
ルークとは、王家の予知とオッドアイ魔術師の強力さで釣り合いの取れた関係だ。身分差の関係がないように感じられたが、きっと一般的な友人関係とは異なるのだろう。それでも、友人と呼べるのはルークだけだ。
ルークからの手紙に使われているのは、使用人など周りの大人を欺くためにふたりで作った暗号だ。当時も、ジョンだけは騙されなかったが。
「…人道に、反している」
「……」
ひと月に一度、手紙を書かせるように条約締結の際に伝えたにもかかわらず、半年も連絡がなかった。エスト王国が制限していることは予知がなくても分かっていたし、やはりルークは情報を持っていた。暗号の読み方を知っているジョンに、手紙を渡して読んでもらう。
人工オッドアイの手術とその後の魔力暴走の仮説。そしてルークとミアに求めている、心を通わせない交わりで魔力を回復させようとしている言動。全てが、この世界での人道に反する。見えていたことではあるが、現実になると衝撃も大きい。
魔力を持つかどうかは、生まれるまで分からない。セントレ王国の王家が予知能力を持ちやすいのは遺伝として明らかだが、魔力に関しては遺伝の確率が下がる。魔術師の両親から一般人が生まれることもあるし、魔力の弱い魔術師が一般人と恋に落ちて、魔術師を授かった話もないわけではない。
なぜ、そのような尊い能力を、力づくで手に入れようとするのか。チャールズには全く理解できなかった。
今回、チャールズの下に集まる同盟国は、セントレ王国の味方だ。他国の魔術師事情に詳しいのは当然ジョンだが、人工オッドアイの件を知らなくても、嫌悪感を持つのに足る理由があるのが、エスト王国なのだ。
何もかも、全てを意のままにしようとする、典型的な独裁体制を取っている。魔術師であることを誇りに思っていることは許せるが、洗脳魔術を簡単に使う国王であり、国民も疲弊しているだろう。その報道は、当然と言えばそうだろうが、エスト王国内では全て、洗脳魔術を行った国王やその側近が正しいことになっている。
洗脳された者は、その魔術を掛けられている間の言動を全く覚えていないそうだ。操られた状態で配偶者に暴行を加え、突き放され別居となり、その受け皿として国家に尽くすことを求めるなど、情愛を破壊する内容ばかりが手元に届く。
少しでも意見すれば反逆者扱いとなり、洗脳魔術による非道な現実を突きつけられ精神を病み、忠誠を誓わされるのだ。恐怖政治と揶揄されていることすら、褒め言葉だと受け取る国である。
条約の期限はまだ半年も残っている。ルークとミアの犠牲と、この情報を、何としても国益に繋げなければならない。
「…冷静に、チャールズ」
ルークからの文面を読み終えたジョンが、手紙をチャールズに返してきた。もう一度、目を通す。苛立っても、今できることは限られる。
「敵国はもう包囲されているも同然」
「そうだな…」
「私の仲間たちも、団結している」
「仲間?」
チャールズの耳には入っていない話だ。視線を送ると、ジョンが説明し始める。
「他国にいるオッドアイ魔術師だ。今回、チャールズが表立って動いているのを見て、心配してくれた」
「そうか、ありがたい。どれくらいいるんだ?」
「近隣のオッドアイ全員と思ってもらっていい。同盟国五ヶ国に八名ほど」
「私に仕えてくれるオッドアイが一番多いのだな」
「そうだ」
オッドアイの生まれる仕組みとは不思議で、突然変異に近いものだと、国王だった父のジョージに聞いた覚えがある。貴重で強力で、王家の管理下に置く必要があると説かれた。間違っても、その強力さと対立してはならないと、教わってきた。
しかも、セントレ王国に仕えるオッドアイ魔術師のうちのひとりは、さらに珍しい魔の紋章持ちだった。予知があるとはいえ、先王よりは弱いものだと自覚するチャールズが、ここまでの世界を背負うとは思ってもいなかった。
「…どうやって連絡を取っている?」
「日常的に使うのは通信魔術で、紙など手元に残るものは使わない」
「なるほどな…」
魔力量が多いからこそ、できることだ。普通の魔術師では、通信魔術をそう何回も掛けることは難しいと聞く。
「学会があれば一気に情報交換ができるが、最近は行えていない。私としても物足りないが」
「ああ、そうか」
オッドアイ魔術師の学会は定期的に行われているが、東方の脅威を中心に国際情勢が不安定となり、ここ数年は開催されていない。同盟国も含めオッドアイ魔術師が一ヶ所に集まり顔を合わせるのだ。国防が危ういときにはできない。
魔力量が多く強力なオッドアイ魔術師には王都に居てほしいと、どこの国王も考えていることは同じだろう。あと半年、条約の期間が終わり国際会議を迎えられれば、収拾がつけられるはずだ。
「エスト王国にオッドアイは存在しない。だから、求めるのも分からなくはない」
「オッドアイとは、それほど…」
「チャールズにとってルークは年も近く身近だろうが、オッドアイにも寿命がある。人数を減らしているのが現状で、ルークはともかくミアまで増えたセントレ王国は、異端とも取られかねない」
「それほどに…」
「未だ仲間にも、ルークとミアがオッドアイの番だとは言えていない。明かすとすれば、国際会議の直前だ」
チャールズは、一度会話を切るために、情報を整理するために、ジョンにも分かるよう息を吐いた。
「そこまで、あのふたりは珍しいのか」
「私が知っているオッドアイの番は、歴史上でもルークとミアだけだ。私を含め、他国のオッドアイたちも、魔術師の番を見つけることがまず難しく、誰かしら相手がいたとしても、相手の魔力量に気を遣って十分に交わらない。魔力は睡眠や食事でも回復する。生まれ持った魔力量が多いし、それで十分だ」
「……」
「普通の魔術師と比べて、番とだと分かった相手ですら上手く関係を作れないことも多い。呪われていると言われるのも、ある意味で間違っていない」
「そうか…」
改めて、未来予知があったとはいえ、ルークとミアのふたりを送り出してしまったことを後悔する。それでも、国王として、取れる手段はそれしかなかったのだと、チャールズは自分を肯定しようともする。もう、何度考えたことか。
「チャールズ。国際会議での調印を急いだほうがいい。人工オッドアイがいくら姑息に勝負したところで、番のミアと共にいるルークには勝てはしないが、エスト王国が焦って何をするか分からない」
「確かにあの国王ならやりかねないが、予知では、すでに国王は居ない状態だった。内部で何かが起きるんだ」
「その『何か』は見えていないのだな、酷なことを言う…。あのふたりの覚悟が報われるなら、それでいい」
「分かっている」
頷き返すと、ジョンは一礼すると出ていった。
(唯一の弟子だからな…)
あのふたりに今回の任務を告げたときの、ジョンの怒声を覚えていないわけがない。
忘れもしない夢だった。少し大人びたルークが、華奢な女性を横抱きして、昔訪れたことのある王宮の中央に立っていた。その周囲には、護衛と共に各国の面々が順に着席しているが、エスト王国の代表には席すらない。
そんな景色をどうやって実現に導けばいいのだろうと、初めは戸惑った。ルークの年齢は、定期開催される国際会議の暦で想定ができたが、抱えていた女性の情報は当初、全くなかったのだ。少しずつ場面を紐解いて、やっと近いところまで来た。
予知はあくまでも未来のことであり、現在からの行動ひとつで変えることができてしまう。現状のエスト王国を看過できないのは、セントレ王国だけではない。エスト王国代表のいない国際会議が、エスト王国内で開催されるのなら、きっとそれは良い未来だ。予知の方向へ未来を導くことが正しいと思えるなら、全ての手順を間違えてはならない。
「セントレ王国に手紙を書け。魔術協定の講師なんだ。報告義務もあるだろう」
文官なのだろう人物から紙と筆記用具をルークが受け取り、目線を感じたまま書き始める。表向きは講師で、確かに報告義務もあるが、半年も連絡させなかったのは誰かと問いたくなる。食事が届けられるときや監獄へ行くときなど、何度か手紙を書かせてほしいと交渉したのだが、全て却下されていた。
チャールズは、もっと頻繁な連絡を待っていただろう。もう半年経ってしまえば、国際会議だ。領土不可侵を盛り込んだエスト王国とセントレ王国の二国間条約が更新されないのは読めているが、その先、チャールズはどうするつもりなのだろうか。
「妙なことを書けばどうなるか、分かっているな?」
送りたくても送れなかったのだ。手紙の文面はとっくに考えてあった。文官がルークの書いた文面を読み、満足したように部屋を出ていく。緊張を解くように、一息大きく吐いた。
「何を書いたの?」
「大した事はないよ、講師としての役目を果たしていますって、それだけ」
ミアに聞かれ、当たり障りなく答えた。チャールズが見れば、内容は正確に伝わるはずだ。返信があったとしても、ルークの手元に届くことはない。ミアだって、ただそれだけを書いたとは思っていないだろう。
魔術は使わなかったが、チャールズの執務室の本棚にあった、暗号を潜ませておいた。それが、チャールズの外交に役に立つと信じて。
☆
チャールズに届く文書は、文官によってその送り主で仕分けされる。一番上、つまり最重要だと文官が判断したものには、エスト王国の封がされていた。
大きく深呼吸をしてから、その封を開ける。ルークの筆跡だ、間違いない。衛兵にジョンを呼ぶように伝え、内容を一読した。
ルークは、見張りがいるなかで書いたとしても、当たり障りのないことだけを伝えてくるような男ではない。ジョンが到着し、結界を張り直してもらったあと、本棚から書物を一冊取り出し、当てはまる暗号を探す。
(また懐かしいものを使ってきたな…)
チャールズが学生のころ、同じ立場のように遊べたのは五歳下のルークだけだった。学校で会う人たちは、チャールズが王子であるために距離を置いたり、逆に何かと取り入ろうとしたりした。
ルークとは、王家の予知とオッドアイ魔術師の強力さで釣り合いの取れた関係だ。身分差の関係がないように感じられたが、きっと一般的な友人関係とは異なるのだろう。それでも、友人と呼べるのはルークだけだ。
ルークからの手紙に使われているのは、使用人など周りの大人を欺くためにふたりで作った暗号だ。当時も、ジョンだけは騙されなかったが。
「…人道に、反している」
「……」
ひと月に一度、手紙を書かせるように条約締結の際に伝えたにもかかわらず、半年も連絡がなかった。エスト王国が制限していることは予知がなくても分かっていたし、やはりルークは情報を持っていた。暗号の読み方を知っているジョンに、手紙を渡して読んでもらう。
人工オッドアイの手術とその後の魔力暴走の仮説。そしてルークとミアに求めている、心を通わせない交わりで魔力を回復させようとしている言動。全てが、この世界での人道に反する。見えていたことではあるが、現実になると衝撃も大きい。
魔力を持つかどうかは、生まれるまで分からない。セントレ王国の王家が予知能力を持ちやすいのは遺伝として明らかだが、魔力に関しては遺伝の確率が下がる。魔術師の両親から一般人が生まれることもあるし、魔力の弱い魔術師が一般人と恋に落ちて、魔術師を授かった話もないわけではない。
なぜ、そのような尊い能力を、力づくで手に入れようとするのか。チャールズには全く理解できなかった。
今回、チャールズの下に集まる同盟国は、セントレ王国の味方だ。他国の魔術師事情に詳しいのは当然ジョンだが、人工オッドアイの件を知らなくても、嫌悪感を持つのに足る理由があるのが、エスト王国なのだ。
何もかも、全てを意のままにしようとする、典型的な独裁体制を取っている。魔術師であることを誇りに思っていることは許せるが、洗脳魔術を簡単に使う国王であり、国民も疲弊しているだろう。その報道は、当然と言えばそうだろうが、エスト王国内では全て、洗脳魔術を行った国王やその側近が正しいことになっている。
洗脳された者は、その魔術を掛けられている間の言動を全く覚えていないそうだ。操られた状態で配偶者に暴行を加え、突き放され別居となり、その受け皿として国家に尽くすことを求めるなど、情愛を破壊する内容ばかりが手元に届く。
少しでも意見すれば反逆者扱いとなり、洗脳魔術による非道な現実を突きつけられ精神を病み、忠誠を誓わされるのだ。恐怖政治と揶揄されていることすら、褒め言葉だと受け取る国である。
条約の期限はまだ半年も残っている。ルークとミアの犠牲と、この情報を、何としても国益に繋げなければならない。
「…冷静に、チャールズ」
ルークからの文面を読み終えたジョンが、手紙をチャールズに返してきた。もう一度、目を通す。苛立っても、今できることは限られる。
「敵国はもう包囲されているも同然」
「そうだな…」
「私の仲間たちも、団結している」
「仲間?」
チャールズの耳には入っていない話だ。視線を送ると、ジョンが説明し始める。
「他国にいるオッドアイ魔術師だ。今回、チャールズが表立って動いているのを見て、心配してくれた」
「そうか、ありがたい。どれくらいいるんだ?」
「近隣のオッドアイ全員と思ってもらっていい。同盟国五ヶ国に八名ほど」
「私に仕えてくれるオッドアイが一番多いのだな」
「そうだ」
オッドアイの生まれる仕組みとは不思議で、突然変異に近いものだと、国王だった父のジョージに聞いた覚えがある。貴重で強力で、王家の管理下に置く必要があると説かれた。間違っても、その強力さと対立してはならないと、教わってきた。
しかも、セントレ王国に仕えるオッドアイ魔術師のうちのひとりは、さらに珍しい魔の紋章持ちだった。予知があるとはいえ、先王よりは弱いものだと自覚するチャールズが、ここまでの世界を背負うとは思ってもいなかった。
「…どうやって連絡を取っている?」
「日常的に使うのは通信魔術で、紙など手元に残るものは使わない」
「なるほどな…」
魔力量が多いからこそ、できることだ。普通の魔術師では、通信魔術をそう何回も掛けることは難しいと聞く。
「学会があれば一気に情報交換ができるが、最近は行えていない。私としても物足りないが」
「ああ、そうか」
オッドアイ魔術師の学会は定期的に行われているが、東方の脅威を中心に国際情勢が不安定となり、ここ数年は開催されていない。同盟国も含めオッドアイ魔術師が一ヶ所に集まり顔を合わせるのだ。国防が危ういときにはできない。
魔力量が多く強力なオッドアイ魔術師には王都に居てほしいと、どこの国王も考えていることは同じだろう。あと半年、条約の期間が終わり国際会議を迎えられれば、収拾がつけられるはずだ。
「エスト王国にオッドアイは存在しない。だから、求めるのも分からなくはない」
「オッドアイとは、それほど…」
「チャールズにとってルークは年も近く身近だろうが、オッドアイにも寿命がある。人数を減らしているのが現状で、ルークはともかくミアまで増えたセントレ王国は、異端とも取られかねない」
「それほどに…」
「未だ仲間にも、ルークとミアがオッドアイの番だとは言えていない。明かすとすれば、国際会議の直前だ」
チャールズは、一度会話を切るために、情報を整理するために、ジョンにも分かるよう息を吐いた。
「そこまで、あのふたりは珍しいのか」
「私が知っているオッドアイの番は、歴史上でもルークとミアだけだ。私を含め、他国のオッドアイたちも、魔術師の番を見つけることがまず難しく、誰かしら相手がいたとしても、相手の魔力量に気を遣って十分に交わらない。魔力は睡眠や食事でも回復する。生まれ持った魔力量が多いし、それで十分だ」
「……」
「普通の魔術師と比べて、番とだと分かった相手ですら上手く関係を作れないことも多い。呪われていると言われるのも、ある意味で間違っていない」
「そうか…」
改めて、未来予知があったとはいえ、ルークとミアのふたりを送り出してしまったことを後悔する。それでも、国王として、取れる手段はそれしかなかったのだと、チャールズは自分を肯定しようともする。もう、何度考えたことか。
「チャールズ。国際会議での調印を急いだほうがいい。人工オッドアイがいくら姑息に勝負したところで、番のミアと共にいるルークには勝てはしないが、エスト王国が焦って何をするか分からない」
「確かにあの国王ならやりかねないが、予知では、すでに国王は居ない状態だった。内部で何かが起きるんだ」
「その『何か』は見えていないのだな、酷なことを言う…。あのふたりの覚悟が報われるなら、それでいい」
「分かっている」
頷き返すと、ジョンは一礼すると出ていった。
(唯一の弟子だからな…)
あのふたりに今回の任務を告げたときの、ジョンの怒声を覚えていないわけがない。
忘れもしない夢だった。少し大人びたルークが、華奢な女性を横抱きして、昔訪れたことのある王宮の中央に立っていた。その周囲には、護衛と共に各国の面々が順に着席しているが、エスト王国の代表には席すらない。
そんな景色をどうやって実現に導けばいいのだろうと、初めは戸惑った。ルークの年齢は、定期開催される国際会議の暦で想定ができたが、抱えていた女性の情報は当初、全くなかったのだ。少しずつ場面を紐解いて、やっと近いところまで来た。
予知はあくまでも未来のことであり、現在からの行動ひとつで変えることができてしまう。現状のエスト王国を看過できないのは、セントレ王国だけではない。エスト王国代表のいない国際会議が、エスト王国内で開催されるのなら、きっとそれは良い未来だ。予知の方向へ未来を導くことが正しいと思えるなら、全ての手順を間違えてはならない。
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