とあるオッドアイ魔術師と魔の紋章を持つ少女の、定められた運命

垣崎 奏

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5.番の魔術講師

5.新規任務 後

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 一度目を閉じ、チャールズの目線から逃げ、ゆっくりと息を吐いた。

「…オッドアイ、ですね」
「オッドアイ? あの忌々しい異なった目を持つ人間ですかい?」
「キャンベル騎士副団長、私から説明しよう」

(っ……)

 チャールズが、わざわざ立ち上がった。セントレ王国で虐げられるオッドアイを、今から団長格には公表するのだ。どんな表情をしていいか困り、ただチャールズを見続けることしかできなかった。

「ジョン・ミッチェル教授、ルーク・ウィンダム魔術爵三男、そしてその妻ミア。この三人が我が国にいるオッドアイで、三人とも強力な魔術師だ」

 さっきまで話に食いついていたアーサー以外の団長格がふたりとも、あまりに驚いたのか何も言わない。チャールズがゆったりと全員を見回して、情報の受け止め方を確認している。少しずつ渡さないと、上手く次の手段が取れない者もいるのは、ルークも経験済みだ。普段三人で軽く会話するような形では、進められない。

「…ルーク、魔術師なのか」
「はい、隠していてすみませんでした」
「いや、構わない」

 目でチャールズに発言の許可を得たアーサーに言われた。ルークが王家直属になるまで、ほとんどの任務の上司がアーサーで、本当によかった。

「オッドアイ魔術師は、魔力の総量が一般の魔術師よりも多い。この三人のなかでも、特にウィンダムが最も強い魔力を有する」

 チャールズが団長格への説明を続ける。一体、どうしてオッドアイが条約締結の条件なのだろうか。オッドアイを手に入れ戦力としたいだけなら、期間が決まっている条約は面倒だ。しかも今回は魔術協定で、オッドアイがエスト王国に出向いたとしても、期間が終われば、セントレ王国に返還される。

(っ、そういうことか)

「騎士として名を上げているが、ルークは魔術師として、私の補佐を今までも務めてくれていた。その妻ミアもオッドアイとして、支えてくれている。その事実は、覚えておいてくれ。共有事項はここまでだ」
「かしこまりました」

 すぐに返事をして、しっかり受け止めたのだろう、ルークが団長格のなかで一番の信頼を置くアーサーが出て行った。慌てて、他の団長たちも出ていく。

 チャールズがわざわざ団長格を呼び集め、オッドアイを明かした意図は、分かりやすかった。まるで、セントレ王国からオッドアイがいなくなるような口ぶりで、忘れられないよう団長格を集めて宣言したようだった。

 普段と同じメンバーが残り、扉の開閉があったためジョンが結界を張り直す。チャールズが姿勢を崩し、口を開く。

「ルーク、先日の戦いで魔力暴走を起こしたそうだな」
「はい」
「暴走から回復したことを、確認したらしい」
「え?」

 思わず、ミアが普段の調子でチャールズに返してしまう。無理もない。魔力暴走から回復する手段は、繰り返し暴走を起こす前に中和をすることだ。ルークに、魔力的に耐えられる交わりの相手がいることも、敵には知られたのだ。

 ジョンはオッドアイの学会にも出席していて、国内では生活のためにも眼帯をしているが、魔術学校の教授であり魔術師である。ルークとは、同じオッドアイでも、魔術師であることを隠しているかどうかが異なる。

 魔術師のマントに仮面をしていたあの任務で、騎士のルークが実はオッドアイ魔術師であると明らかになったと確定することはできないだろうと、思い直していた。ジョンの他にオッドアイがいるのが分かったところで、それが新聞を賑わせている騎士のルークと同一人物だとは思えていないのではないか。

(甘かった…、僕が騎士かどうかなんて、オッドアイかどうかに比べればどうでもいい)

 普段とは違ってミアがずっと不安がっていたのは、団長格がいたこの場に慣れていなかったからではない。賢いミアの勘に、妙に納得してしまった。

「ふたりがいれば、魔力暴走を起こして捕えているだけの魔術師を復活させられると、考えたそうだ」
「それはつまり…」
「ルークとミアに、番以外と交わらせる気だ」
「させられない!」

 ジョンが一歩前に出て、大声を出した。確かに、今までなかった任務なのは明らかだ。魔術師の尊厳に関わる。ジョンはチャールズに対して非礼を詫びることもなく、浅く息をしながら、チャールズを諭そうとする。

「そもそも魔力の回復には、心の繋がりが必要だ。それがなければ、何をしても増強や大幅な回復はしない!」
「だが、この条約が成立すれば、我が連合、同盟国は再び安定する。ここ数年の東方からの攻撃は、オッドアイを狙ったもので、他国も同じような攻撃に遭っている」
「僕たちに、命を捨てろと?」

 ルークは、ジョンを遮って思い切った聞き方をした。怒っているわけではない。チャールズが命を粗末にするような国王でもないのも、ジョンが納得できないのも分かる。ルークとミア、二人のオッドアイの命と引き換えに、同盟国を含んだ大勢の国民のが脅威に晒されずに済む。

「……ほぼ同義だ。認める」

 チャールズの言葉に、普段感情を表に出さないジョンが、ルークとミアに声を掛けようと口を開いて、閉じた。魔術師の交わりに、心の繋がりが必要なことなど、ルークが一番分かっている。予想どおりだったこともあり、チャールズを見返した。

「ここにいるオッドアイは番で、他国のオッドアイとは、圧倒的に魔力量が異なる。周辺国のオッドアイより、エスト王国に入った場合の生存率が高い」

(そうだろうね…)

 オッドアイのなかでも、ルークとミアは番だ。魔力量は桁違いで、確かに他国よりはずっと、敵地に向かっても対処できる可能性が残っている。

 ふと、チャールズとのある会話が蘇る。少し前、チャールズは、王家はいい人では居られないと言っていた。その時の違和感が、今、繋がった気がした。結婚してすぐのころ、子どものことをしきりに意識させられたのも、この未来が見えていたからだろうか。記憶を辿っている時間はあまりない。

 ルークとミアがエスト王国へ送られることは確定事項で、しかも、番以外と交わらなければならない。調べなければいけないことがある。

「…少し、調べたいことがあります」
「分かった、ただしあまり待てない。近日中には、条約締結だ」
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