とあるオッドアイ魔術師と魔の紋章を持つ少女の、定められた運命

垣崎 奏

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4.茶会・夜会にて

8.ミアの質問

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 ベッドに寝転んでいる時間は、いつの間にかミアの質問の時間になっていた。ルークが気を張っていない時間帯だから、話しかけやすいタイミングでもある。

 最近のルークは、ミアといても何か考え、難しい顔をしていることが多い。おそらく、チャールズと調べている内容が頭から離れないのだろう。

 エリザベスの使用人たちが話していたことで、ルークに直接確認してみたいことがあった。彼女たちは、結婚をしたミアが今でもまだ普通に出歩いていることに疑問を持ち始め、ルークが、騎士なら誰でも行っている場所に通っているのも、噂すら聞いたことがないと話していた。

 前者は、妊娠していないから当たり前なのだが、後者についてその場所がどんな場所なのか、使用人たちは教えてはくれなかった。

(王子様だもん、言い寄られてもおかしくないし…)

「…ルークは、私との初夜が初めての交わりだったの?」
「そうだよ、ミアが初めての相手。言ってなかった?」
「いや、聞いてた。でも騎士の人は…」
「ああ、娼館のことか」

 ふっと笑いながらミアを抱き寄せ言うルークに、ほっと胸を撫でおろした。思い詰めるとすぐ笑顔を忘れてしまうルークのことを、エリザベスから聞かされ納得していたから、余計に安心した。

「エリザベスの使用人が何か言ったんだね?」
「うん」
「僕は行ったことないよ。お金で合意を取れるとは言え、行かなくてよかったと思うね。魔術師の交わりを知ったあとだとね」

 魔術師であることを隠しているから、もし騎士として娼館に行って交わっていたら、相手が気絶するだけでは済まなかったかもしれない。魔術師の交わりは、その魔力量が鍵になる。魔力を持たない一般人との交わりが危険なのは、教わった。

 ルークが嘘をついているとか、そんなことは一切思っていなかった。ただ、エリザベスの使用人たちから話を聞いて、ルークの容姿を改めて見ると、女性が放っておかないと感じて、少し不安になる。ミアの容姿はルークのおかげで、だいぶ女性らしく丸みを帯びてきたけど、それでもまだ子どもっぽい。

 淑女教育中、ルークについての話をたくさん聞いた。あんな任務やこんな任務もこなして、一代爵ではあるけど国王からの覚えもよくて、ルーク自身に爵位が与えられるのも時間の問題だから、婚約者になりたいと思う令嬢は多かったそうだ。

 いつも前髪で顔を隠しているけど、きっと整った顔立ちをしていると、その容姿も貴族令嬢の間で話題だったらしい。それでも、ルークは女性経験がなく、ミアとの交わりが初めてだった。

 ルークに聞いてみたいことがあるのは伝わっていて、髪を撫でながら話し出すのを待ってくれた。

「…あとね、初夜って痛いらしいんだけど」
「うん、記録魔術で見た」
「なんで…」

 その先の言葉をミアは言えなかった。キスで口を塞がれたわけではなく、ルークが強い意志を持って目を合わせてきたからだ。ミアの疑問は、淑女教育やエリザベスとの会話から出てくるもので、ルークにも分かっているのだろう。

 王家から尋ねるように言われたのは、子どもを授かる気があるかどうか、あの質問だけだ。ルークに負けないように、目を逸らさずぐっと見返す。

「…僕が上手かったわけではないと思うよ。そもそも緊張しすぎて余裕もなかったし。番に助けられたんじゃないかな」
「番って、そんなにすごいの?」
「らしいよ。ミアしか知らないから分からないけど」

 ミアにとっても、ルークが全てだ。誰からも避けられていたあの屋敷から連れ出してくれたのはルークで、王都に向かう日と買い物へ向かう日以外なら、ミアの魔術の訓練もしてくれる。

 ルークがどれだけ大変なものを背負っていようと、番なのはミアだ。オッドアイの魔力量に釣り合えるのは、オッドアイしかいない。ジョンに番がいないのはそのせいだ。

 ルークが離れるわけはない。大の大人、しかも王家直属になれるほどの騎士が、泣くほどのプレッシャーを感じながら手に入れたのがミアだ。自惚れている気もしつつ、それでも漠然とした不安は消えてくれなかった。
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