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4.茶会・夜会にて
7.国王からの確認
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チャールズの執務室に出入りして、東方関連の外交記録を読んでいると、たまにチャールズが話しかけてくる。軍隊や国政に関わる会議以外は、執務室にチャールズもいる。同じ部屋に居る時間が増え、ふたりきりで私的に話す機会も以前より当然増えている。
「…ルークは、子は残さないのか?」
「いきなりなんですか」
「いや…、あの親を見ていると、ルークが親になることを考えるのは難しいのかもなって」
「チャールズらしくないですね、そんなことを気に掛けるなんて」
チャールズに、遠回しに聞かないで欲しいと伝えたつもりだが、やはり通じなかった。今のチャールズの言葉は、おそらく幼馴染としてのものだ。
「今度のウィンダム魔術爵の茶会も、一応こちらから提案はしたが、きっかけは向こうの文句だ。ミアも幸福を知らないし、余計に良いイメージではなくなっただろうな」
(ああ、茶会か……)
近々、実家へ帰らなければならない。父親がルークの褒賞に関して、顔を見せて報告しないことをチャールズに抗議したのだ。決して忘れてはいないが、頭の痛い、できれば避けたいものであることは変わりない。
「ミアと、番としての交わりはあるのだろうが、それ以上の関係になるのかはまた別の話だろう。何か考えがあるのかと思ってな」
蘇ったのは、ミアの言葉だ。つい最近、ミアに「どうして外に出すの」と聞かれた。チャールズの前だが、隠すこともなく一息吐いた。
ミアは、エリザベスのところに通っているから、国王夫妻がオッドアイ魔術師夫妻の家族計画について聞きたがっていると考えるべきか。友人のチャールズではなく、国王としてのチャールズが目の前にいるのか。そうだとすれば、何か未来を予知したのだろうか。
「何か、見たんですか」
「いや、あまり個人の未来は見ないが…」
チャールズは言葉を選ぶように間を開ける。その表情は苦し気で、ぎゅっと手を握りしめてから、手元に用意された紅茶を口に運んだ。話せはしないのだろうが、何かルークに都合の悪い予知が見えているような、そんな雰囲気だ。
「……国王からの褒賞で婚約、結婚して初夜があれば、次は懐妊の報告だ。このままミアの報告がなければ、ルークはまた、例えば不能だとか、騒がれることになる。ミアを巻き込むことにもなるから、それについてどう思うのかと。私がさせたことではあるが、若すぎる偉業は、世間を騒がせるいい話題の種としてずっとついて回る」
チャールズから目を逸らし、ルークも紅茶を一口啜った。若すぎることが理由で、目立つことになるのが嫌だと、ミアに話した。もちろんそれも偽っていないし、ルークの本心のひとつだ。
貴族や一般市民の間で、褒賞として一代爵のルーク側から、無理に公爵令嬢のミアを引き込み夫婦になったと思われていてもおかしくはない。そもそも、ルークの父親であるウィンダム魔術爵が、褒賞で一代爵の爵位と侯爵令嬢を手に入れている。
魔術師であることを公表していないため、ミアが番であることも公表できない。ミアが公爵令嬢であることは公になっているが、家名は明かされていない。学校にも通っていないミアは、誰の目にも触れたことがない公爵令嬢で、これもまた異例だ。
もうすでに、相当な曰く付きとなってしまっている。元から、ルークとミアの褒賞婚約は、ジョンが噂を流したとはいえ、良いイメージは持たれていない。
思えば、結婚したのが早いのだから、チャールズとエリザベスの初夜は当然早かったはずだが、第一子である王子、ジェームズが生まれたのはつい最近だ。おそらく、ルークが知らされていないだけで、このふたりもいろいろ騒がれた立場なのだろう。ふたりに健康的に問題があるような話は聞いていない。故意に妊娠を避けたとするなら、理由は予知以外にない。
ミアとの子どもは、現実的ではない。ミアの体調についてはずっと気に掛けている。気付いていないはずがない。
「……ミアを巻き込むのは嫌ですが、まだミアは…」
「あの家での何かを引きずっているのか?」
女性の体調のことだ。普通であれば軽々しく口にするべきではないと思うが、今のチャールズは国王のチャールズだ。笑い転げている幼馴染のチャールズではない。
「…月経が安定してないんですよ。だから僕たちにはまだ早いんです」
「そういうことか…」
「僕たちは、僕たちのタイミングで進んでいきます、周りが何と言おうと。僕は今更何を言われても気にならないですし、ミアは今までどおり、僕と居ればいいですから」
「そうだな…」
騎士学校に転入したころから、異例と言われることばかりをやってきた。騒がれることも、ミアを巻き込んでしまっていることにも、もう諦めがつく。ミアを手放す選択肢などないし、何があってもルークがミアを守ればいいだけだ。
気になるのは、国王のチャールズが、なぜルークとミアの子どもを気に掛けるのか。個人の未来は見ないと言うが、何かきっかけ、例えば任務の依頼がないと、国王としてチャールズがルークに話しかけることはなかった。
(…何か、裏がある。やっぱり、予知関連の…)
そう思いつつも、その内容については聞かなかった。きっと、近々聞かされることになるだろう。
特別任務の報告をするときでさえ、姿勢を崩した友人のチャールズを見せるのに、今のチャールズは異なる。重い何かが関わっていると見て、間違いない。少し前の、「ずっといい人ではいられない」という言葉も引っかかったままだ。
☆
チャールズは、ルークの意志を聞いて、それ以上踏み込むことはしなかった。
幼いころから知っているせいで、ミアのことを話すルークの目が優しいことに慣れなかったし、女性に興味のなかった、情愛を持てなかったルークが惚れこんでいるのも、手に取るように伝わってきた。これ以上チャールズが深く関わろうとするのを、ルークは嫌うだろう。
ミアへの愛情があって、ミアの体調を把握しているルークだからこそ、まだ子を成そうとはしていないのだ。ミアの準備が整えば、子どもに気持ちを向けられるよう、ルークが動くことは容易に想像できる。
(まだ、希望はある)
「…ルークは、子は残さないのか?」
「いきなりなんですか」
「いや…、あの親を見ていると、ルークが親になることを考えるのは難しいのかもなって」
「チャールズらしくないですね、そんなことを気に掛けるなんて」
チャールズに、遠回しに聞かないで欲しいと伝えたつもりだが、やはり通じなかった。今のチャールズの言葉は、おそらく幼馴染としてのものだ。
「今度のウィンダム魔術爵の茶会も、一応こちらから提案はしたが、きっかけは向こうの文句だ。ミアも幸福を知らないし、余計に良いイメージではなくなっただろうな」
(ああ、茶会か……)
近々、実家へ帰らなければならない。父親がルークの褒賞に関して、顔を見せて報告しないことをチャールズに抗議したのだ。決して忘れてはいないが、頭の痛い、できれば避けたいものであることは変わりない。
「ミアと、番としての交わりはあるのだろうが、それ以上の関係になるのかはまた別の話だろう。何か考えがあるのかと思ってな」
蘇ったのは、ミアの言葉だ。つい最近、ミアに「どうして外に出すの」と聞かれた。チャールズの前だが、隠すこともなく一息吐いた。
ミアは、エリザベスのところに通っているから、国王夫妻がオッドアイ魔術師夫妻の家族計画について聞きたがっていると考えるべきか。友人のチャールズではなく、国王としてのチャールズが目の前にいるのか。そうだとすれば、何か未来を予知したのだろうか。
「何か、見たんですか」
「いや、あまり個人の未来は見ないが…」
チャールズは言葉を選ぶように間を開ける。その表情は苦し気で、ぎゅっと手を握りしめてから、手元に用意された紅茶を口に運んだ。話せはしないのだろうが、何かルークに都合の悪い予知が見えているような、そんな雰囲気だ。
「……国王からの褒賞で婚約、結婚して初夜があれば、次は懐妊の報告だ。このままミアの報告がなければ、ルークはまた、例えば不能だとか、騒がれることになる。ミアを巻き込むことにもなるから、それについてどう思うのかと。私がさせたことではあるが、若すぎる偉業は、世間を騒がせるいい話題の種としてずっとついて回る」
チャールズから目を逸らし、ルークも紅茶を一口啜った。若すぎることが理由で、目立つことになるのが嫌だと、ミアに話した。もちろんそれも偽っていないし、ルークの本心のひとつだ。
貴族や一般市民の間で、褒賞として一代爵のルーク側から、無理に公爵令嬢のミアを引き込み夫婦になったと思われていてもおかしくはない。そもそも、ルークの父親であるウィンダム魔術爵が、褒賞で一代爵の爵位と侯爵令嬢を手に入れている。
魔術師であることを公表していないため、ミアが番であることも公表できない。ミアが公爵令嬢であることは公になっているが、家名は明かされていない。学校にも通っていないミアは、誰の目にも触れたことがない公爵令嬢で、これもまた異例だ。
もうすでに、相当な曰く付きとなってしまっている。元から、ルークとミアの褒賞婚約は、ジョンが噂を流したとはいえ、良いイメージは持たれていない。
思えば、結婚したのが早いのだから、チャールズとエリザベスの初夜は当然早かったはずだが、第一子である王子、ジェームズが生まれたのはつい最近だ。おそらく、ルークが知らされていないだけで、このふたりもいろいろ騒がれた立場なのだろう。ふたりに健康的に問題があるような話は聞いていない。故意に妊娠を避けたとするなら、理由は予知以外にない。
ミアとの子どもは、現実的ではない。ミアの体調についてはずっと気に掛けている。気付いていないはずがない。
「……ミアを巻き込むのは嫌ですが、まだミアは…」
「あの家での何かを引きずっているのか?」
女性の体調のことだ。普通であれば軽々しく口にするべきではないと思うが、今のチャールズは国王のチャールズだ。笑い転げている幼馴染のチャールズではない。
「…月経が安定してないんですよ。だから僕たちにはまだ早いんです」
「そういうことか…」
「僕たちは、僕たちのタイミングで進んでいきます、周りが何と言おうと。僕は今更何を言われても気にならないですし、ミアは今までどおり、僕と居ればいいですから」
「そうだな…」
騎士学校に転入したころから、異例と言われることばかりをやってきた。騒がれることも、ミアを巻き込んでしまっていることにも、もう諦めがつく。ミアを手放す選択肢などないし、何があってもルークがミアを守ればいいだけだ。
気になるのは、国王のチャールズが、なぜルークとミアの子どもを気に掛けるのか。個人の未来は見ないと言うが、何かきっかけ、例えば任務の依頼がないと、国王としてチャールズがルークに話しかけることはなかった。
(…何か、裏がある。やっぱり、予知関連の…)
そう思いつつも、その内容については聞かなかった。きっと、近々聞かされることになるだろう。
特別任務の報告をするときでさえ、姿勢を崩した友人のチャールズを見せるのに、今のチャールズは異なる。重い何かが関わっていると見て、間違いない。少し前の、「ずっといい人ではいられない」という言葉も引っかかったままだ。
☆
チャールズは、ルークの意志を聞いて、それ以上踏み込むことはしなかった。
幼いころから知っているせいで、ミアのことを話すルークの目が優しいことに慣れなかったし、女性に興味のなかった、情愛を持てなかったルークが惚れこんでいるのも、手に取るように伝わってきた。これ以上チャールズが深く関わろうとするのを、ルークは嫌うだろう。
ミアへの愛情があって、ミアの体調を把握しているルークだからこそ、まだ子を成そうとはしていないのだ。ミアの準備が整えば、子どもに気持ちを向けられるよう、ルークが動くことは容易に想像できる。
(まだ、希望はある)
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