上 下
38 / 103
4.茶会・夜会にて

4.情報公開

しおりを挟む
 新聞には、世継ぎとなる王子、ジェームズが誕生したことが一面で掲載された。

 その端に、戦果を上げ婚約し結婚したルークが、約半年の休暇を終えて、王家直属騎士として復帰したこと、褒賞の相手が美人であることなど、貴族や一般市民にとって話題になりそうなことが一気に公開された。

 茶会は公式だったものの非公開だったこともあり、出席者などは伏せられていた。父親が一代爵、ルーク本人にはまだ爵位はないにもかかわらず、チャールズとエリザベスの国王夫妻は王子であるジェームズを一番に見せた。このことが報道されれば、貴族からは大反発が起きるだろう。王家に直接文句を言うのはルークの父親くらいだが、今回の件では皆が声を上げるに違いない。

 チャールズの執務室で、ウェルスリーの資料集めついでに新聞を読んだルークは、そのタイミングに違和感を覚えた。

「僕が結婚して王家付きになったの、今発表なんですか」
「王子の誕生と被せたほうが、印象が薄くなるからな」
「…ありがとうございます」

 チャールズの言葉も間違っていないし、日数もそこまで空いたわけではないが、情報操作をするとだんだんと信頼されなくなっていく。王家の権力は、できる限り発揮しないほうがいい。

「今日の新聞は情報量がありすぎて、不審に思うものも多いだろうがな。国民の平和慣れに期待している」
「ずいぶんと酷いことをしますね」
「そうか? 部下を捨てていいと言った私だぞ?」
「…そうですね」

 チャールズはルークの唯一の幼馴染ではあるが、それ以前に王家、今は国王として目の前にいる。冷静にセントレ王国の状況を見て、予知も使いながら、警備隊や騎士団に所属する騎士や魔術師を動かしている。意見することはあっても、大きく反対したことはない。チャールズが、権力に溺れるような人間ではないのも、幼いころからの付き合いで知っている。

「…これが王家だよ、ずっといい人では居られないんだ」
「どういう意味ですか」
「いや、なんでもない」

 気になる言い方をされた。唇をきゅっと結んだチャールズの表情を見る限り、それ以上は言えないようだったから、無理に追及もしなかった。

 妙なざわつきのある言葉だが、今の言葉は国王チャールズから、オッドアイ魔術師ルークに対して言われたもので、友人としての言葉ではない。国王とオッドアイ魔術師の関係性があっても、チャールズから教えてもらえるのは任務に関わることだけだ。ルークとは関係のないところで、事件が起きている可能性もある。いくら幼馴染で右腕の自負があっても、全てを知るわけではない。

 きっと、この緊張した様子のチャールズを、エリザベスは上手くフォローするだろう。王妃として、さまざまな予知の内容を教えてもらうと聞いたことがある。それが、例えば今年の式典の日は絶対に晴れるといった平和なものだったとしても、内容を聞かせてもらえることがチャールズの妻の役目だからとも言っていて、誇らしそうだった。


 その日、ルークが見た資料には、興味深いものが残っていた。ウェルスリーが、エスト王国からオッドアイに関する書物を集めていたことが、交易記録に残っていたのだ。

 公爵だったウェルスリーなら、書物を専門に扱っている業者でなくても、セントレ王国の外から書物を取り寄せられる。オッドアイの強力さは国家機密だ。魔術師であることを隠していたウェルスリーがオッドアイについて何か調べていたとすると、危険度が増す。

 ただの魔術師が、山賊を率いて都市を攻撃していただけではなくなる。東の脅威と、オッドアイ。何か大きな組織が動いている気がする。

 ウェルスリーが魔の紋章についてまで知識を持っていたとは考えにくい。一般的な魔術師ですら知らない情報で、出回りもしていないからだ。

 それに、もし魔の紋章を知っていたなら、ミアをひとりで屋敷に置いておくことはせず、自らの手元に置いておくだろう。紋章を解放できればミアが有用なことは、オッドアイへの知識があればたどり着けるかもしれない。ウェルスリーの知識は、そこまでは及んでいなかったと見ていい。

 ルークが東方について考えるようになったのは、ミアとの初夜を終え夕食会に出席してからだ。ウェルスリーと対峙して夕食会を迎えるまでの約半年の間にも、何かしら予知はあったはずだ。

 チャールズは、どこまで未来を見ているのだろうか。

 会議のために執務室の外へ出ていたチャールズが戻り次第、資料の内容と導いた推論を報告し、国王の指示を仰いだ。チャールズとルークの意見は一致していて、今までと同じように東方関連の資料を確認することが必須だ。

 オッドアイの書物がウェルスリーの屋敷にあるとするなら、おそらくルークが立ち入れなかった書斎か資料室、もしくはウェルスリーの後ろ盾となっていた組織に流れている可能性がある。普通には集められない資料で、機密事項であることは分かっていただろうから、それを屋敷に停滞させるのは危険だ。

 ルークが滞在することが分かった時点で、立ち入り禁止にし、屋敷の外へ持ち出していると考えるほうが自然か。執事を使えば、使用人の行動管理は楽だ。姿を見られずに屋敷に出入りすることも、難しくなかっただろう。あの屋敷には魔力が漂ってはいなかったし、ルークが屋敷に滞在を始めた時点ですでに、ウェルスリーは自宅への出入りを止めていた。

 繋ぎ合わせると、ウェルスリーが取引していたオッドアイ関連の書物は、屋敷には残っておらず、東方に戻っている可能性が高い。ウェルスリーはオッドアイの知識を手に入れたあと、明確な目的を持って山賊、もしくは賊に扮した組織の一部である魔術師の隊を率いた。

 そうなると、ルークがなぜ眼帯をして騎士として任務についているのか、対面し魔術を使ったときに気付いた可能性もある。誰一人残さず、抹消しておいてよかった。そして、旧ウェルスリー領からさらに東へ向かうと行きつくのは、次回の国際会議の開催国、エスト王国だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

戦神、この地に眠る

宵の月
恋愛
 家名ではなく自身を認めさせたい。旧家クラソン家の息女エイダは、そんな思いを抱き新聞記者として日々奮闘していた。伝説の英雄、戦神・セスの未だ見つからない墓所を探し出し、誰もが無視できない功績を打ち立てたい。  歴史への言及を拒み続ける戦神の副官、賢人・ジャスパーの直系子孫に宛て、粘り強く手紙を送り続けていた。熱意が伝わったのか、ついに面談に応じると返事が届く。  エイダは乗り物酔いに必死に耐えながら、一路、伝説が生まれた舞台の北部「ヘイヴン」へと向かった。  当主に出された奇妙な条件に従い、ヘイヴンに留まるうちに巻き込まれた、ヘイヴン家の孫・レナルドとの婚約騒動。レナルドと共に厳重に隠されていた歴史を紐解く時間が、エイダの心にレナルドとの確かな絆と変化をもたらしていく。  辿り着いた歴史の真実に、エイダは本当に求める自分の道を見つけた。  1900年代の架空の世界を舞台に、美しく残酷な歴史を辿る愛の物語。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

【完結】この運命を受け入れましょうか

なか
恋愛
「君のようは妃は必要ない。ここで廃妃を宣言する」  自らの夫であるルーク陛下の言葉。  それに対して、ヴィオラ・カトレアは余裕に満ちた微笑みで答える。   「承知しました。受け入れましょう」  ヴィオラにはもう、ルークへの愛など残ってすらいない。  彼女が王妃として支えてきた献身の中で、平民生まれのリアという女性に入れ込んだルーク。  みっともなく、情けない彼に対して恋情など抱く事すら不快だ。  だが聖女の素養を持つリアを、ルークは寵愛する。  そして貴族達も、莫大な益を生み出す聖女を妃に仕立てるため……ヴィオラへと無実の罪を被せた。  あっけなく信じるルークに呆れつつも、ヴィオラに不安はなかった。  これからの顛末も、打開策も全て知っているからだ。  前世の記憶を持ち、ここが物語の世界だと知るヴィオラは……悲運な運命を受け入れて彼らに意趣返す。  ふりかかる不幸を全て覆して、幸せな人生を歩むため。     ◇◇◇◇◇  設定は甘め。  不安のない、さっくり読める物語を目指してます。  良ければ読んでくだされば、嬉しいです。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

処理中です...