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4.茶会・夜会にて
4.情報公開
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新聞には、世継ぎとなる王子、ジェームズが誕生したことが一面で掲載された。
その端に、戦果を上げ婚約し結婚したルークが、約半年の休暇を終えて、王家直属騎士として復帰したこと、褒賞の相手が美人であることなど、貴族や一般市民にとって話題になりそうなことが一気に公開された。
茶会は公式だったものの非公開だったこともあり、出席者などは伏せられていた。父親が一代爵、ルーク本人にはまだ爵位はないにもかかわらず、チャールズとエリザベスの国王夫妻は王子であるジェームズを一番に見せた。このことが報道されれば、貴族からは大反発が起きるだろう。王家に直接文句を言うのはルークの父親くらいだが、今回の件では皆が声を上げるに違いない。
チャールズの執務室で、ウェルスリーの資料集めついでに新聞を読んだルークは、そのタイミングに違和感を覚えた。
「僕が結婚して王家付きになったの、今発表なんですか」
「王子の誕生と被せたほうが、印象が薄くなるからな」
「…ありがとうございます」
チャールズの言葉も間違っていないし、日数もそこまで空いたわけではないが、情報操作をするとだんだんと信頼されなくなっていく。王家の権力は、できる限り発揮しないほうがいい。
「今日の新聞は情報量がありすぎて、不審に思うものも多いだろうがな。国民の平和慣れに期待している」
「ずいぶんと酷いことをしますね」
「そうか? 部下を捨てていいと言った私だぞ?」
「…そうですね」
チャールズはルークの唯一の幼馴染ではあるが、それ以前に王家、今は国王として目の前にいる。冷静にセントレ王国の状況を見て、予知も使いながら、警備隊や騎士団に所属する騎士や魔術師を動かしている。意見することはあっても、大きく反対したことはない。チャールズが、権力に溺れるような人間ではないのも、幼いころからの付き合いで知っている。
「…これが王家だよ、ずっといい人では居られないんだ」
「どういう意味ですか」
「いや、なんでもない」
気になる言い方をされた。唇をきゅっと結んだチャールズの表情を見る限り、それ以上は言えないようだったから、無理に追及もしなかった。
妙なざわつきのある言葉だが、今の言葉は国王チャールズから、オッドアイ魔術師ルークに対して言われたもので、友人としての言葉ではない。国王とオッドアイ魔術師の関係性があっても、チャールズから教えてもらえるのは任務に関わることだけだ。ルークとは関係のないところで、事件が起きている可能性もある。いくら幼馴染で右腕の自負があっても、全てを知るわけではない。
きっと、この緊張した様子のチャールズを、エリザベスは上手くフォローするだろう。王妃として、さまざまな予知の内容を教えてもらうと聞いたことがある。それが、例えば今年の式典の日は絶対に晴れるといった平和なものだったとしても、内容を聞かせてもらえることがチャールズの妻の役目だからとも言っていて、誇らしそうだった。
その日、ルークが見た資料には、興味深いものが残っていた。ウェルスリーが、エスト王国からオッドアイに関する書物を集めていたことが、交易記録に残っていたのだ。
公爵だったウェルスリーなら、書物を専門に扱っている業者でなくても、セントレ王国の外から書物を取り寄せられる。オッドアイの強力さは国家機密だ。魔術師であることを隠していたウェルスリーがオッドアイについて何か調べていたとすると、危険度が増す。
ただの魔術師が、山賊を率いて都市を攻撃していただけではなくなる。東の脅威と、オッドアイ。何か大きな組織が動いている気がする。
ウェルスリーが魔の紋章についてまで知識を持っていたとは考えにくい。一般的な魔術師ですら知らない情報で、出回りもしていないからだ。
それに、もし魔の紋章を知っていたなら、ミアをひとりで屋敷に置いておくことはせず、自らの手元に置いておくだろう。紋章を解放できればミアが有用なことは、オッドアイへの知識があればたどり着けるかもしれない。ウェルスリーの知識は、そこまでは及んでいなかったと見ていい。
ルークが東方について考えるようになったのは、ミアとの初夜を終え夕食会に出席してからだ。ウェルスリーと対峙して夕食会を迎えるまでの約半年の間にも、何かしら予知はあったはずだ。
チャールズは、どこまで未来を見ているのだろうか。
会議のために執務室の外へ出ていたチャールズが戻り次第、資料の内容と導いた推論を報告し、国王の指示を仰いだ。チャールズとルークの意見は一致していて、今までと同じように東方関連の資料を確認することが必須だ。
オッドアイの書物がウェルスリーの屋敷にあるとするなら、おそらくルークが立ち入れなかった書斎か資料室、もしくはウェルスリーの後ろ盾となっていた組織に流れている可能性がある。普通には集められない資料で、機密事項であることは分かっていただろうから、それを屋敷に停滞させるのは危険だ。
ルークが滞在することが分かった時点で、立ち入り禁止にし、屋敷の外へ持ち出していると考えるほうが自然か。執事を使えば、使用人の行動管理は楽だ。姿を見られずに屋敷に出入りすることも、難しくなかっただろう。あの屋敷には魔力が漂ってはいなかったし、ルークが屋敷に滞在を始めた時点ですでに、ウェルスリーは自宅への出入りを止めていた。
繋ぎ合わせると、ウェルスリーが取引していたオッドアイ関連の書物は、屋敷には残っておらず、東方に戻っている可能性が高い。ウェルスリーはオッドアイの知識を手に入れたあと、明確な目的を持って山賊、もしくは賊に扮した組織の一部である魔術師の隊を率いた。
そうなると、ルークがなぜ眼帯をして騎士として任務についているのか、対面し魔術を使ったときに気付いた可能性もある。誰一人残さず、抹消しておいてよかった。そして、旧ウェルスリー領からさらに東へ向かうと行きつくのは、次回の国際会議の開催国、エスト王国だ。
その端に、戦果を上げ婚約し結婚したルークが、約半年の休暇を終えて、王家直属騎士として復帰したこと、褒賞の相手が美人であることなど、貴族や一般市民にとって話題になりそうなことが一気に公開された。
茶会は公式だったものの非公開だったこともあり、出席者などは伏せられていた。父親が一代爵、ルーク本人にはまだ爵位はないにもかかわらず、チャールズとエリザベスの国王夫妻は王子であるジェームズを一番に見せた。このことが報道されれば、貴族からは大反発が起きるだろう。王家に直接文句を言うのはルークの父親くらいだが、今回の件では皆が声を上げるに違いない。
チャールズの執務室で、ウェルスリーの資料集めついでに新聞を読んだルークは、そのタイミングに違和感を覚えた。
「僕が結婚して王家付きになったの、今発表なんですか」
「王子の誕生と被せたほうが、印象が薄くなるからな」
「…ありがとうございます」
チャールズの言葉も間違っていないし、日数もそこまで空いたわけではないが、情報操作をするとだんだんと信頼されなくなっていく。王家の権力は、できる限り発揮しないほうがいい。
「今日の新聞は情報量がありすぎて、不審に思うものも多いだろうがな。国民の平和慣れに期待している」
「ずいぶんと酷いことをしますね」
「そうか? 部下を捨てていいと言った私だぞ?」
「…そうですね」
チャールズはルークの唯一の幼馴染ではあるが、それ以前に王家、今は国王として目の前にいる。冷静にセントレ王国の状況を見て、予知も使いながら、警備隊や騎士団に所属する騎士や魔術師を動かしている。意見することはあっても、大きく反対したことはない。チャールズが、権力に溺れるような人間ではないのも、幼いころからの付き合いで知っている。
「…これが王家だよ、ずっといい人では居られないんだ」
「どういう意味ですか」
「いや、なんでもない」
気になる言い方をされた。唇をきゅっと結んだチャールズの表情を見る限り、それ以上は言えないようだったから、無理に追及もしなかった。
妙なざわつきのある言葉だが、今の言葉は国王チャールズから、オッドアイ魔術師ルークに対して言われたもので、友人としての言葉ではない。国王とオッドアイ魔術師の関係性があっても、チャールズから教えてもらえるのは任務に関わることだけだ。ルークとは関係のないところで、事件が起きている可能性もある。いくら幼馴染で右腕の自負があっても、全てを知るわけではない。
きっと、この緊張した様子のチャールズを、エリザベスは上手くフォローするだろう。王妃として、さまざまな予知の内容を教えてもらうと聞いたことがある。それが、例えば今年の式典の日は絶対に晴れるといった平和なものだったとしても、内容を聞かせてもらえることがチャールズの妻の役目だからとも言っていて、誇らしそうだった。
その日、ルークが見た資料には、興味深いものが残っていた。ウェルスリーが、エスト王国からオッドアイに関する書物を集めていたことが、交易記録に残っていたのだ。
公爵だったウェルスリーなら、書物を専門に扱っている業者でなくても、セントレ王国の外から書物を取り寄せられる。オッドアイの強力さは国家機密だ。魔術師であることを隠していたウェルスリーがオッドアイについて何か調べていたとすると、危険度が増す。
ただの魔術師が、山賊を率いて都市を攻撃していただけではなくなる。東の脅威と、オッドアイ。何か大きな組織が動いている気がする。
ウェルスリーが魔の紋章についてまで知識を持っていたとは考えにくい。一般的な魔術師ですら知らない情報で、出回りもしていないからだ。
それに、もし魔の紋章を知っていたなら、ミアをひとりで屋敷に置いておくことはせず、自らの手元に置いておくだろう。紋章を解放できればミアが有用なことは、オッドアイへの知識があればたどり着けるかもしれない。ウェルスリーの知識は、そこまでは及んでいなかったと見ていい。
ルークが東方について考えるようになったのは、ミアとの初夜を終え夕食会に出席してからだ。ウェルスリーと対峙して夕食会を迎えるまでの約半年の間にも、何かしら予知はあったはずだ。
チャールズは、どこまで未来を見ているのだろうか。
会議のために執務室の外へ出ていたチャールズが戻り次第、資料の内容と導いた推論を報告し、国王の指示を仰いだ。チャールズとルークの意見は一致していて、今までと同じように東方関連の資料を確認することが必須だ。
オッドアイの書物がウェルスリーの屋敷にあるとするなら、おそらくルークが立ち入れなかった書斎か資料室、もしくはウェルスリーの後ろ盾となっていた組織に流れている可能性がある。普通には集められない資料で、機密事項であることは分かっていただろうから、それを屋敷に停滞させるのは危険だ。
ルークが滞在することが分かった時点で、立ち入り禁止にし、屋敷の外へ持ち出していると考えるほうが自然か。執事を使えば、使用人の行動管理は楽だ。姿を見られずに屋敷に出入りすることも、難しくなかっただろう。あの屋敷には魔力が漂ってはいなかったし、ルークが屋敷に滞在を始めた時点ですでに、ウェルスリーは自宅への出入りを止めていた。
繋ぎ合わせると、ウェルスリーが取引していたオッドアイ関連の書物は、屋敷には残っておらず、東方に戻っている可能性が高い。ウェルスリーはオッドアイの知識を手に入れたあと、明確な目的を持って山賊、もしくは賊に扮した組織の一部である魔術師の隊を率いた。
そうなると、ルークがなぜ眼帯をして騎士として任務についているのか、対面し魔術を使ったときに気付いた可能性もある。誰一人残さず、抹消しておいてよかった。そして、旧ウェルスリー領からさらに東へ向かうと行きつくのは、次回の国際会議の開催国、エスト王国だ。
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