とあるオッドアイ魔術師と魔の紋章を持つ少女の、定められた運命

垣崎 奏

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3.ふたりのオッドアイ魔術師

9.任務報告

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 女性ふたりが退席したあと、チャールズは一度使用人を入れた。テーブルを片付けさせ、紅茶を用意させ、下がらせる。ジョンが結界を確認したのが、その手の動きで分かる。いつもの、任務報告の時間だ。

「それでルーク、成功でいいんだな」
「これからどうなっていくのかは分かりませんが、少なくとも紋章は目立たなくなりました」
「ご苦労様」

 ミアのピンク色の瞳を見せた時点で、報告は終わっていたようなものだったが、チャールズからの労いの言葉を改めて聞くと、実感が湧いてくる。

「なぜ目の色がピンクなのか、見当はついているのか」
「全く。これから濃くなってレッドに近づくとか、可能性はあると思いますが、確定的なものは何も」

 何をして濃くなる可能性があるのかは、触れなかった。魔術師が魔力を強めようと思えば、することはひとつだ。

「ミアの魔力は?」
「感じました。目の色が変わってからも魔術を使っていましたし、確実に存在しています。今感じられないのは、ミアが僕の指輪を嵌めているからかと」

 ジョンに聞かれて、思っていることをそのまま話した。魔の紋章が消えて、レッドの目が薄いこと以外の見た目はオッドアイと同じになった。ルークにはミアの魔力が感じられるし、紋章の魔力はなくなったと考えていいのだろう。紋章があったころのミアから魔力を感じることはなかったし、紋章の魔力がミアの魔力に置き換わったとも言えるかもしれない。

「ということは…」
「私の知る限り、初めての事象だ。魔の紋章を解放し、オッドアイ魔術師となった例など…、そもそもオッドアイに番が見つかることも…」

 珍しく、ジョンが狼狽えているように見える。ルークの師匠であるジョンは、番を持っていない。だからルークも番探しをしていなかったし、必要ないものだと思っていた。ミアに出会うまで、生活にも魔力にも、困ることはなかった。

「あえて言わなかったが、失敗する可能性もあったからな…。ルークはある程度、予想していたんだろうが」

 チャールズのその言葉を聞いて、ルークの頭の中で何かが弾けた。

 相当に悩んで、最悪の想定を避けられるようにと、対策を考えた。最終的には任務のことを忘れたいと思うほど素直に、ミアと交わることを選んだ。失敗した先に起こりうることを知った上で、チャールズは笑っていたのか。

「それでよく、僕をあんなふうに笑いましたね」
「まあ、昔からの馴染みだから、度を越えた緊張を見せられたら笑いたくもなる。今日とは別人だったぞ」
「仕方ないでしょう。任務が重すぎです」
「普通の初夜だったら、ああはならなかったと?」
「特別任務で初めて交わらないといけない状況なんて、僕以外にないでしょう?」

「ルークならやってくれると思ったよ」
「笑っていい理由にはなりません」
「そもそも私的なルークをあまり知らないからな。ここに来るときは基本任務絡みだ。女性慣れしていない噂も、本当だったんだな」
「チャールズ、そろそろ止めないとこの先、ルークに協力してもらえなくなる」

 ジョンが間に入ってくれなければ、どうなっていただろう。幼馴染で遠慮がないぶん、今までもぶつかることはもちろんあった。たいていの場合、立場もあってルークが引くことになるが、今回は引きたくなかった。

「それで、この魔の紋章解放の件、セントレ王国としてはどう対応する? 学会で発表するのが基本だが、次の国際会議まで待ってもいい」
「東からの攻撃が止まっているのが気になる。外部には出さず、とりあえずはここだけの話にしよう」

 歴史上初めての、魔の紋章の解放だ。本来ならセントレ王国が学会を主催しそこで発表するが、情勢が悪いらしい。

 学会は、近隣国の研究者たちが新しい発見や仮説を共有する場だ。表向きは騎士のルークが出席したことはないが、ジョンはその内容を教えてくれる。

 東からの攻撃ということは、ウェルスリーが絡んでいた山賊からの襲撃が、あれ以来止まっているということでいいのだろうか。これからチャールズの元で知る外交はそのことだと確信したが、何か忘れているような気もする。

(あれ……)

「次の国際会議って…」
「そうだ、二年後、エスト王国が主催だ」

 いろいろと、タイミングが重なっている。

 エスト王国は、セントレ王国の東にある魔術師の国だ。旧ウェルスリー領からさらに東へ向かうと、国境に張られた結界が見えてくる。なかなかに横暴な政策を実行する国王がいると聞くが、詳しくはこれから知ることになるのだろう。

 未来予知ができるチャールズに、どこまで見えているのかは分からないが、ルークがウェルスリーの屋敷に滞在した理由がミアで、ミアの父親が東の緩衝地帯に居た山賊に加担していて、さらに二年後の国際会議の主催国は東、エスト王国だ。全て、繋がってきている。

 すでに冷えた紅茶を飲みながら、ルークはまたひとつ、大きく息を吐いた。
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