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3.ふたりのオッドアイ魔術師
3.番の威力
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「ん」
「どうかした?」
「ごめん、通信が返ってきた」
ミアが驚くのも当然だろう。密着していたのに、引き剥がすようにいきなり距離を取った。通信魔術を受け取るのはルークで、ミアに内容が分かるわけではないが、反射的に構えてしまった。
「ミアもオッドアイだから、チャールズに会わないとね」
「国王様に?」
「そう、式にもいたよ」
「国王、様、がっ…!?」
ミアが目を見開いて、まっすぐにルークを覗き込んでくる。思わず笑ってしまったルークは、誤魔化すようにミアの額にキスを落とした。ミアの反応は決して大袈裟ではなく、ルークが王家に慣れすぎているのだろう。
「幼馴染だから、名前で呼ぶ方が多いんだ。驚かせて、ごめん」
昨日の結婚式の場で、ルークを盛大に笑っていた幼馴染と、正直言えば顔を合わせたくはない。ただ、任務報告はどうしても必要で、まだ正式には、特別任務は完了していない。
「明日の夕刻、夕食会も含むって」
「……?」
「はは、いつも通りで大丈夫だよ、ミア」
ミアにはそう言いつつも、事の大きさがだんだんと実感に変わってくる。夕食会に招かれることは何度かあったが、初めて謁見するミアが同席するのは異例だろう。オッドアイが国家に増えることが、それだけ国益である証拠だ。
成功したとはいえ、ミアのピンクの目がこれからどうなっていくのか、注意しておく必要はある。書物に残っていないということは、過去に登場しなかったということ。何が起きてもおかしくないのは、今までと同じだ。
ずっとそばに居てくれる髪を触っていると、急に顔を上げたミアと目が合う。ピンクとヘーゼルでまだ見慣れないが、どちらの瞳も色素が薄く可愛い色だ。ミアが先に目を逸らして、ルークの胸元にぎゅっと顔を押し付けてくる。
「ルーク」
「ん?」
「あれ、すごく気持ちいい」
いきなりすぎて何のことか理解できず、一瞬固まったが、ミアの真っ赤な耳を見て、思い当たった。
「…軽く、誘わない方がいい」
ミアの耳を軽く噛みながらソファに押し倒しても、抵抗はされない。唇を舐めて吸うと、ミアの魔力が漂い始める。
「番は、快感が桁違いらしいよ」
何も言わないミアを抱き締めて、寝室のベッドへ転移した。とんとマットレスに沈む感覚に、「え」とミアが声を上げる。
「転移魔術。ちゃんと話すのは初めてだね。オッドアイ魔術師の中でも、使えないのが普通なくらい、高度な魔術だよ」
「ん…」
ミアの返事を聞く前に、馬乗りになって唇を奪った。話しかけようとしていた隙間から舌を入れ、口内を貪る。舌を絡めとったあと、抱き締めたまま首筋に這わせながら、ミアの服を取ってしまう。
まだ特別任務は完了していない。だが、昨夜のような緊張感もない。ミアに許され甘え、何度も果てた。そのたびに放出した魔力が混ざり、体内へ戻ってくると、ぐんと魔力総量が上がる。
これが、魔術師の交わりで、番である分、効率もいいとされる行為だ。他を知らないルークには、それが本当かどうか確かめようがないが、ずっと溺れていたいと思うほどに、ミアの匂いとあたたかさが好きだった。
☆
すっかり陽は落ちてしまった。明日の夕食会について尋ねてくるミアに答えながら、食事を取ったあと、シャワーを浴びるために書斎へ戻ったが、出られずにいた。読み返そうと机に置いてある書物を手に取って開いても、内容が頭に入ってこない。
(まるで、獣だな…)
番の絆だといわれれば、そうなのかもしれない。ミアに出会うまではほぼ興味がなく、騎士が任務帰りに寄る娼館にも手を出さなかった。
あの広いベッドでミアと一緒に朝を迎えたいが、間違いなく襲ってしまう。せっかく許されたのだ、嫌われたくはない。
ジョンが使えない転移魔術を、一日に何度も使えてしまうルークの魔力に、ミアは負けなかった。魔術師と、例えば魔力を持たない一般人が交わると、一般人は魔力を感じられないが圧倒され気を失うという。最悪の場合は、そのまま魔力に押しつぶされ亡くなってしまう。
交わること自体が初めてだったルークが、放出する魔力を加減できていたかと問われれば、できなかったと答える。自分の魔力放出について考えている余裕など、なかったのだ。
ミアを貫いたあとに、ミアから出た魔力を見て、そこでルークも魔力を放出していたことにやっと気付いた。ミアの魔力も相当強力だろう。そして、番である限り、増強され続ける。
(そういえば……)
ルークの父親は魔術師で、その父親が褒賞として得た母親は侯爵令嬢で一般人だ。ウィンダム家が代々魔術師を輩出する家系だとしても、息子が三人とも魔術を扱えるのは遺伝的に奇跡に近いと、幼いころにジョンが言っていた。
魔術師は基本的に、魔術師の男女から生まれる。魔力増強のための番が存在するのだから、当然である。ただし、魔術師同士で心を通わせた同意があれば、番でなくとも交わりは可能なのだろう。騎士には、娼館が用意されている。魔術師にも、そういった施設がないわけではない。同化魔術で隠されていて、普段は一般人や騎士の目に入らないし、金で合意は取れる。
行為に慣れてしまえば、魔力放出をせずに交わることができるのだろうか。もし可能なら、魔術師と魔力を持たない人間との交わりもあり得るが、珍しいのは確かで、ルークは両親以外にその組み合わせを知らなかった。そもそも良い記憶もなく、両親について思い出そうともしなかった。
大きくひとつ、溜息を吐く。ルーク自身が交わりを経験したことで、新たな疑問が浮かぶ。
(僕の母親は、本当にあの人か…?)
父親が横暴なのはチャールズからも聞くことで、褒賞として妻になったルークの母親に対し、父親が魔力を気に掛ける様子が全く想像できない。父親には、魔力増強のために魔術師の女性が別にいたのではないか。最悪の場合、兄二人を含め三人とも、母親が異なる可能性すらある。
あくまで私情だ。この先どんな任務に就くことになるのかは分からないが、時間があれば調べてみようか。
(いや、知らないままでいたほうが…)
こんこんと、扉が叩かれる。顔を向けると、少し開いた隙間から、ミアが覗いていた。
「ごめんなさい、邪魔をした?」
「いや…」
むしろ、思考が途切れてちょうどよかった。普段どおりのナイトドレスを着たミアに近付く。風呂に入ったばかりなのか、顔が火照っていて良い匂いが漂ってくる。
「…一緒に、寝たくて」
その言葉に応えるようにミアを抱き寄せ、そのまま寝室のベッドへ転移した。好きな匂いすぎて、それだけでも刺激されてしまう。ミアに気付かれたくはなく距離を取ろうとするが、背中に回した腕の力を緩めてくれない。
「いいの、されたいから」
「だから、軽く誘わないでって」
「乱暴にはしないでしょ?」
大きく一息吐いたあと、ミアと唇を重ねた。半年一緒に過ごし、敬語も取れて遠慮のなくなった番のミアに、我慢することは諦めていいのかもしれない。
「どうかした?」
「ごめん、通信が返ってきた」
ミアが驚くのも当然だろう。密着していたのに、引き剥がすようにいきなり距離を取った。通信魔術を受け取るのはルークで、ミアに内容が分かるわけではないが、反射的に構えてしまった。
「ミアもオッドアイだから、チャールズに会わないとね」
「国王様に?」
「そう、式にもいたよ」
「国王、様、がっ…!?」
ミアが目を見開いて、まっすぐにルークを覗き込んでくる。思わず笑ってしまったルークは、誤魔化すようにミアの額にキスを落とした。ミアの反応は決して大袈裟ではなく、ルークが王家に慣れすぎているのだろう。
「幼馴染だから、名前で呼ぶ方が多いんだ。驚かせて、ごめん」
昨日の結婚式の場で、ルークを盛大に笑っていた幼馴染と、正直言えば顔を合わせたくはない。ただ、任務報告はどうしても必要で、まだ正式には、特別任務は完了していない。
「明日の夕刻、夕食会も含むって」
「……?」
「はは、いつも通りで大丈夫だよ、ミア」
ミアにはそう言いつつも、事の大きさがだんだんと実感に変わってくる。夕食会に招かれることは何度かあったが、初めて謁見するミアが同席するのは異例だろう。オッドアイが国家に増えることが、それだけ国益である証拠だ。
成功したとはいえ、ミアのピンクの目がこれからどうなっていくのか、注意しておく必要はある。書物に残っていないということは、過去に登場しなかったということ。何が起きてもおかしくないのは、今までと同じだ。
ずっとそばに居てくれる髪を触っていると、急に顔を上げたミアと目が合う。ピンクとヘーゼルでまだ見慣れないが、どちらの瞳も色素が薄く可愛い色だ。ミアが先に目を逸らして、ルークの胸元にぎゅっと顔を押し付けてくる。
「ルーク」
「ん?」
「あれ、すごく気持ちいい」
いきなりすぎて何のことか理解できず、一瞬固まったが、ミアの真っ赤な耳を見て、思い当たった。
「…軽く、誘わない方がいい」
ミアの耳を軽く噛みながらソファに押し倒しても、抵抗はされない。唇を舐めて吸うと、ミアの魔力が漂い始める。
「番は、快感が桁違いらしいよ」
何も言わないミアを抱き締めて、寝室のベッドへ転移した。とんとマットレスに沈む感覚に、「え」とミアが声を上げる。
「転移魔術。ちゃんと話すのは初めてだね。オッドアイ魔術師の中でも、使えないのが普通なくらい、高度な魔術だよ」
「ん…」
ミアの返事を聞く前に、馬乗りになって唇を奪った。話しかけようとしていた隙間から舌を入れ、口内を貪る。舌を絡めとったあと、抱き締めたまま首筋に這わせながら、ミアの服を取ってしまう。
まだ特別任務は完了していない。だが、昨夜のような緊張感もない。ミアに許され甘え、何度も果てた。そのたびに放出した魔力が混ざり、体内へ戻ってくると、ぐんと魔力総量が上がる。
これが、魔術師の交わりで、番である分、効率もいいとされる行為だ。他を知らないルークには、それが本当かどうか確かめようがないが、ずっと溺れていたいと思うほどに、ミアの匂いとあたたかさが好きだった。
☆
すっかり陽は落ちてしまった。明日の夕食会について尋ねてくるミアに答えながら、食事を取ったあと、シャワーを浴びるために書斎へ戻ったが、出られずにいた。読み返そうと机に置いてある書物を手に取って開いても、内容が頭に入ってこない。
(まるで、獣だな…)
番の絆だといわれれば、そうなのかもしれない。ミアに出会うまではほぼ興味がなく、騎士が任務帰りに寄る娼館にも手を出さなかった。
あの広いベッドでミアと一緒に朝を迎えたいが、間違いなく襲ってしまう。せっかく許されたのだ、嫌われたくはない。
ジョンが使えない転移魔術を、一日に何度も使えてしまうルークの魔力に、ミアは負けなかった。魔術師と、例えば魔力を持たない一般人が交わると、一般人は魔力を感じられないが圧倒され気を失うという。最悪の場合は、そのまま魔力に押しつぶされ亡くなってしまう。
交わること自体が初めてだったルークが、放出する魔力を加減できていたかと問われれば、できなかったと答える。自分の魔力放出について考えている余裕など、なかったのだ。
ミアを貫いたあとに、ミアから出た魔力を見て、そこでルークも魔力を放出していたことにやっと気付いた。ミアの魔力も相当強力だろう。そして、番である限り、増強され続ける。
(そういえば……)
ルークの父親は魔術師で、その父親が褒賞として得た母親は侯爵令嬢で一般人だ。ウィンダム家が代々魔術師を輩出する家系だとしても、息子が三人とも魔術を扱えるのは遺伝的に奇跡に近いと、幼いころにジョンが言っていた。
魔術師は基本的に、魔術師の男女から生まれる。魔力増強のための番が存在するのだから、当然である。ただし、魔術師同士で心を通わせた同意があれば、番でなくとも交わりは可能なのだろう。騎士には、娼館が用意されている。魔術師にも、そういった施設がないわけではない。同化魔術で隠されていて、普段は一般人や騎士の目に入らないし、金で合意は取れる。
行為に慣れてしまえば、魔力放出をせずに交わることができるのだろうか。もし可能なら、魔術師と魔力を持たない人間との交わりもあり得るが、珍しいのは確かで、ルークは両親以外にその組み合わせを知らなかった。そもそも良い記憶もなく、両親について思い出そうともしなかった。
大きくひとつ、溜息を吐く。ルーク自身が交わりを経験したことで、新たな疑問が浮かぶ。
(僕の母親は、本当にあの人か…?)
父親が横暴なのはチャールズからも聞くことで、褒賞として妻になったルークの母親に対し、父親が魔力を気に掛ける様子が全く想像できない。父親には、魔力増強のために魔術師の女性が別にいたのではないか。最悪の場合、兄二人を含め三人とも、母親が異なる可能性すらある。
あくまで私情だ。この先どんな任務に就くことになるのかは分からないが、時間があれば調べてみようか。
(いや、知らないままでいたほうが…)
こんこんと、扉が叩かれる。顔を向けると、少し開いた隙間から、ミアが覗いていた。
「ごめんなさい、邪魔をした?」
「いや…」
むしろ、思考が途切れてちょうどよかった。普段どおりのナイトドレスを着たミアに近付く。風呂に入ったばかりなのか、顔が火照っていて良い匂いが漂ってくる。
「…一緒に、寝たくて」
その言葉に応えるようにミアを抱き寄せ、そのまま寝室のベッドへ転移した。好きな匂いすぎて、それだけでも刺激されてしまう。ミアに気付かれたくはなく距離を取ろうとするが、背中に回した腕の力を緩めてくれない。
「いいの、されたいから」
「だから、軽く誘わないでって」
「乱暴にはしないでしょ?」
大きく一息吐いたあと、ミアと唇を重ねた。半年一緒に過ごし、敬語も取れて遠慮のなくなった番のミアに、我慢することは諦めていいのかもしれない。
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