とあるオッドアイ魔術師と魔の紋章を持つ少女の、定められた運命

垣崎 奏

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1.今回の特別任務

6.休暇申請

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 外が明るくなりきる前に、ルークはベッドを出た。子犬の姿では扉も開けられないし、音を立てて起こしたくもないから、その場で変身魔術を解き、転移魔術を使った。虐げられている彼女が魔力の気配を感じたとしても、誰にも報告しないと踏んだのだ。

 この屋敷に来たときから、誰の魔力の気配もしなかった。生きていれば何でも気配を持っているが、魔力の気配とはまた別物だ。ルークの番であるなら、間違いなく彼女も魔力を持つはずだが、彼女は魔力の気配を出さないし、感じられないのかもしれない。

 客間に戻ってすぐに、通信魔術をジョンに飛ばし連絡を試みた。誰にも傍受されることがないほど、魔力を込めた通信魔術を送る。大量の魔力を消費するが、オッドアイには造作もない。

「公爵には未届の子どもがいる。左目に魔の紋章を持っており、調べに帰りたい」
「受け取った。待っている」

 短い返信を受け取り、外が明るくなるのを待って、執事を呼んだ。ルークはウェルスリー公爵領に滞在している警備隊の副隊長で、唯一屋敷内にいる隊員だ。屋敷の外に勝手に出ることはできず、隊長であるアーサーを屋敷に呼んでもらうために執事が必要だった。

 ルークの希望を聞いた執事はすぐに確認を取ってくれたらしく、一時間もしないうちにアーサーに会うことができた。客間に入ってきたアーサーを見て、その気配と客間の結界に変化がないかさっと確認してから、口を開く。

「対面で会うのは久々だな、ルーク」
「はい、手紙での状況報告、大変助かります」

 ルークはチャールズの王命によって屋敷内にいるため、アーサーもよっぽどでない限り近寄らないよう、取り計らってくれている。それぞれの任務の状況は、執事を介して数日に一度、手紙でやり取りしていて、その中身は特に意味がない。形式上、隊長と副隊長として、日々の活動を共有しているだけだ。封が開けられた様子もなく、執事は素直に手渡しているのだろう。

「それで?」
「王都で確認したいことがあります。一時、帰還したいのです」
「その間、ここの警備はどうする?」
「必要ないかと。ここ二ヶ月と少し、何も目立った動きはありません」

 チャールズがルークを通して確認したいのはおそらく、あの少女が魔の紋章を持っていることとその影響、それから番についてで、執事も使用人たちも警備隊には無害だ。そうでなければ、屋敷内に滞在するのがルークだけでいいわけがない。昼夜交代制が必要ない時点で、この屋敷に警備は要らない。

「そうか、ここの警備を離れるのは?」
「二日もあれば」
「思ったより短いな、誰か連れて戻るか?」
「いえ、ひとりで十分です」
「承知した。であれば、好きに帰還するといい」
「ありがとうございます」

(任せてもらえるのは、本当にありがたい)

 ルークは、アーサーの寛容さが好きだった。ルークが一部下のときから好き勝手に特別任務をこなせていたのは、このアーサーが居たからである。部下であるルークがやることを、基本的に止めない。今回、ルークは副隊長であるにもかかわらず、だ。

「気を付けて帰れ。そして戻ってこい。副隊長でも、部下に変わりはないからな」
「はい、ありがとうございます」

 アーサーに頭を下げ、略式の礼を取った。疑う様子を見せないアーサーの寛容さは、王家も十二分に理解しているだろう。だから、ルークの上司はほぼ常にアーサーなのだ。

 アーサーを見送ったあと、再度客間に執事を呼んだ。二日ほど屋敷を空けるため、食事の準備は要らないこと、馬や馬車の手配も要らないと伝えた。警備隊には守秘義務があり、詳しい内容を話せないことは執事も分かっている。「承知しました」と、すぐに引いてくれた。

 そもそも、ルークには休暇は二日も要らない。魔力の気配がないこの屋敷から、王都のジョンの書斎に転移し、書物を確認、夜には帰ってきてまた彼女の部屋へ向かう。ただ、王都への帰還は早馬を乗り継いでも半日はかかるため、不自然に思われないための偽装だ。

 客間の結界を確認して、次の瞬間にはジョンの書斎にいた。昼間に来ると、たいていジョンはいない。魔術学校で教えている人だから、昼間にいるほうが珍しい。

 主に確認したいのは、ふたつだ。魔の紋章と、魔術師の番について。書かれている書物の見当はついている。この大量の整理されていない、積み上げられた書物の中から探すのは骨が折れるが、前もってジョンが見つけておいてくれたのだろう。通信魔術で触れた、魔の紋章についての書物は、すでに机の上に並べられていた。
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