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大学3年_冬
第44話:摩央との来店_4
しおりを挟むパクパクとすごい速さでパスタを食べながら、同時に元彼の話もしている摩央は、よほど当時腹に据えかねていたものがあったのかもしれない。ときどき相槌を打ちながら自分の話も交えていると、気づいたころには目の前のパスタは綺麗サッパリ無くなり、お互い空になったお皿だけが残されていた。
「やばい、ほんと美味しかった」
「作ってくれたの誰だろ。祐輔かオミさんか……」
「メインそのふたり?」
「だいたいね」
「――あー、俺だよ、パスタ作ったの。いらっしゃい、おふたりさん」
「オミさん!?」
目の前にオミさんが立っていて、その手にはデザートプレートとドリンクの載ったトレーがある。
「え? キッチン平気なの?」
「オーダーラッシュ終わったしね? お友達と来てくれたんでしょ? 一応俺もご挨拶」
「やだオミさんありがとう」
「別にこれくらい。……晴臣です。初めまして」
「初めまして、摩央です」
「摩央ちゃんね、いらっしゃいませ。これ、サービス。来てくれてありがとう。食べていって」
そう差し出してくれたのは、店のメニューにはないデザートの盛り合わせだった。普段並んでいるデザートが何種類か一口サイズにカットされており、生クリームやストロベリーソースでデコレーションされていた。
「良いの? デザート頼んでないのに……」
「良いの良いの。気持ちだから。……他のお客さんには内緒ね?」
「オミさんありがとう!」
「ありがとうございます!」
「いやいや。それじゃ、ごゆっくり」
オミさんは言うだけ言ってさっさとキッチンへと戻っていく。
「……あの人がオミさん? 所作がカッコ良過ぎんか?」
「イケメンなのよ。こうして仕事してるのを見ているぶんにはめちゃカッコイイ」
「なんなのこの職場。眼福だわ」
「良いでしょ? ……まぁ、みんな黙っていれば、ねぇ……」
バイトに入った当初、広絵に言われた言葉が蘇る。
(そうなのよ。雑談しなければ良いのよ。余計な話をしなければ……!)
「……それで、どうでしたか私のバイト先は」
「ご飯美味しかった。店員さんカッコ良かった。また来る。以上!」
「ふふふ。それは良かったよ」
摩央は満足してくれたらしい。私も概ね話したいことは話したし、当初の予定、航河君と顔を合わせることはできた。やはり、仕事中に喋ることは難しかったが、席にも来てくれた。相崎さんにオミさんも話しかけてくれたのだから、万々歳だろう。
「……あ、祐輔」
今からバイトだろう、お店に入ってきた祐輔と目が合った。なにも反応しないのは気まずいと思い、手を振る。すると、それに気が付いた祐輔がこちらへ向かって歩いてきた。
「千景さんお疲れさまです。今日お休みですか?」
「うん。だから友達と来てみたの」
「初めまして。千景と同じ大学に通っている、摩央です」
「初めまして、祐輔です。キッチンでバイトしてます」
こういう場にあまり慣れないのだろうか。祐輔はたどたどしく答えた。
「これからバイト?」
「はい。ひとり休みになっちゃったから、入れるなら入ってほしいって、オミさんから連絡があって」
「そうなんだ、大変だね。頑張ってね!」
「ありがとうございます。……それじゃ、失礼します」
軽くお辞儀をして、祐輔は席から離れていった。
「……祐輔いたじゃん」
「私結構会ってみたいな、って思った人に会えてる気がする。ラッキー」
「強運じゃない? ちゃんと声かけてくれたし」
「いやー。来て良かった。うん。間違いない」
いくつかお皿に乗っていたケーキはいつの間にか消え去り、ドリンクも飲み干していた。お腹もいっぱいになり、急激に眠気が襲ってくる。『ごちそうさまでした』と手を合わせる摩央は、本当にニコニコしていた。いろいろ含めて満足そうな摩央を見ていると、私まで嬉しくなる。そんなにみんなと会話はできなかったが、十分だ。
伝票を持って席を立ち、レジへと向かう。レジには航河君が立っていた。
「どうでしたか? 料理」
「うん、美味しかったよ! ……もっと、航河君とお話してみたかたんだけどねぇ」
「それなら、また食べに来てください。……摩央さんが良いなら、ふたりが遊んでる時とか僕乱入しますよ?」
「ふふふっ。私は全然オッケーだよー? 航河君、千景をこれからもよろしくね?」
(は? それどういう意味!?)
突然の摩央の言葉に驚いた。深い意味はないのだろうが意味ありげな発言に聞こえる。
「もちろんです。僕がいるんで安心してください」
(え? こっちもどういう意味!? ついでに僕って言ってる!? いつもは俺なのに!?)
航河君の返答もよくわからない。なにによろしくして、なにが安心できるというのだろうか。
「それなら大丈夫だね。うんうん。今日はご馳走様でした!」
「あ、お会計は、社員割って。引いときますね」
「えっ、良いの? 嬉しいー! 店長さんにも、お礼言っておいてほしいな?」
「伝えておきますね」
会話はどんどん進んで、さっきの会話を気にしたまま会計をし、笑顔で手を振って見送ってくれる航河君を背に、私たちはお店を後にした。
「……なに? 最後のやつ」
「あれ? 挨拶よ、ただの。……しかしまぁ、千景も大変な人好きになっちゃったかもね?」
「えぇ……」
「ありゃ、天然のたらしか、自覚ありの仲良い人は手放したくないタイプか。……どっちにしても、航河君の姿勢は変わらないと思うなぁ。現状の関係を続けている限り」
「……耳が痛い」
「他に出会い探すのは、やっぱりありだと思うよ?」
「……検討します」
「場はいつでも提供するからね?」
背中をポンポンと叩かれ、思わぬ形で慰められるような帰り道になったが、私は苦い思いを胸の中で握り潰していた。
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