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大学3年_秋
第39話:泊まる泊まらないの攻防_3
しおりを挟む航河君とギャルゲの話をするときが来るとは思わなかったが、そんな話をしているうちにコンビニへと到着した。通路をいくつか覗くと、お酒を物色しているオミさんを見つけた。
「オミさんお疲れっす」
「お疲れさまです」
「よぉ。航河、千景ちゃんお疲れ。悪いね急に」
「ほんとですよ……なんで私が」
「だってさー、友達にも声かけたんだけど、誰も来てくんねぇんだもん」
「人格の問題じゃないですか?」
「私もそう思う」
「お前ら酷くない?」
「酷くないよねぇ? 千景ちゃん」
「うんうん。酷くない酷くない」
「じゃあ逆に、なんでお前ら来てくれたの?」
「行かないとオミさん翌日から仕事来ないんじゃないかと思ったから」
「千景ちゃんひとりでオミさんの家に泊まらせる訳にはいかないから。オミさんの用事はついで?」
「……とりあえず優しさはあるんだな」
オミさんは持っていた籠に私と航河君が選んだデザートを入れると、そのままお会計へと向かった。
「これバイト代ね」
「ういっす」
「ありがとーオミさん」
三人でオミさんの車へと乗りこみ、家へと向かった。
「わぁ、オミさんち綺麗だね!」
案内されたのは1DKのマンションだった。まだ新築のようで、外観も綺麗、共有エリアも、勿論内装も綺麗だった。自分が住んでいるアパートも、築年数も浅いしそこそこ綺麗ではあるが、やはり新築には劣る。隣の芝生はなんとやら……というのは本当で、自分が持っていないものは羨ましく感じた。
「帰って寝るだけだけどさ。綺麗な方がテンション上がらない?」
「確かにね。綺麗だと帰って嬉しい気分になるかも」
「でしょでしょー。あ、適当に荷物置いて」
オミさんの部屋は、綺麗に片付けてあった。余分なものはあまりなく、整理整頓されている。
「ゲームはテレビの横に並べてあるやつね。あれ、ハードに入れたままだっけ……」
「横ね、見てみる」
オミさんに言われた通り、テレビの横に、ゲームやCD、DVDのケースが幾つか並んでいた。ハードはテレビ台の下に見える。
(えーっと。中身入ってるかは出してみれば良いか)
ハードの取り出しボタンを押す。すると、中からDVDが出てきた。
「……オミさん?」
「なに?」
「……こういうものは、できれば来る前にしまっておいてほしいんだけど」
「は? え? ……あっ!」
オミさんは私の手からDVDを奪うと、テレビ横に並べてあったケースをひとつ手に取り、その中へとしまった。
(……知りたくないのにオミさんの趣味がわかってしまった……)
本来なら、一生知ることはなかったであろうオミさんの趣味を知ってしまい、軽く凹みつつギャルゲのパッケージを探す。
(オミさん……ゲームとCDと一緒に、大人作品並べるのやめてくれないかな……)
「オミさーん。趣味全開だよー」
「わっ! あんまり見るな!」
航河君は航河君で、本棚から漫画を取り出そうとして、アレに気付いたらしい。
(せめて一箇所にまとめれば良いのに)
「男なら持ってるだろ!」
「オミさん、巨乳好きなのね」
「マジやめて。女の子に言われると辛い」
「千景ちゃん、そっちなにが入ってたの?」
「え? えーっと、さ」
「だぁぁぁぁ! 千景ちゃんそんなこと口にしちゃダメ! 絶対ダメ! 航河も聞かない! 聞かないで! お願いします! マジでごめんなさい!!」
「はいオミさん片付けてー。千景ちゃんの目に入らない所にね?」
「……はい。すみません」
盛大に性癖がバレてしまったオミさんは、しょぼんとしたままDVDを床下収納へとしまった。
「……千景ちゃん、電源入れて中身確かめなくて良かったね?」
「ほんとそれ……」
自分の行動を褒めつつ、一本しかないギャルゲをハードへ入れた。
「で? なにがクリアできないの?」
「隠しキャラがクリアできない」
「どの子? ……これ、やったことある」
オミさんが持っていたゲームは、古いギャルゲだった。それでも恐らく当時からなかなか人気があり、いくつか続編が出ている。私がやったことのあるゲームと、偶然にも同じ物だった。
「この子。普通にデートとか誘えないじゃん? ちゃんとクリアできるんだよね?」
「あー、この子ね。できるよ。めんどくさいけど。一回でもフラグ立て忘れるとクリアできないし。リカバリ不可なんだよね」
「えっ、そうなの? ……なんてシビアな」
「告白もランダムだよ。フラグ全部立てた上で他の女の子の告白断わったあとに確率で乱入だから、もうひとり仲良い子作って振ったあと来なかったら告白前からやり直し」
「なんちゅーめんどくさい仕様。それにしても詳しいね」
「私もクリアできなくて、悩んだから」
「それで、エンディング見られた?」
「見られたよ? 頑張った甲斐あった」
「楽しみじゃん。先生よろしく」
「……教えるから、自分でやってね?」
「……はぁい」
(知ってるゲームで助かった……のかな?)
私とオミさんがゲームをやっていると、隣のベッドで寝っ転がって航河君が漫画を読み始めた。
「頑張ってー」
「お前なにしに来たの」
「千景ちゃんの番犬としてきました」
「……千景ちゃん、コレ必要?」
「うーん……わかんない」
「酷いなもう。心配したのに」
そのまま漫画を読み進める航河君をおいて、私とオミさんはただひたすらゲームを進めた。
「あ、ちょ、ごめん、俺先シャワー浴びてくる。やってて」
「はいはい」
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