上 下
39 / 94
大学3年_秋

第39話:泊まる泊まらないの攻防_3

しおりを挟む

 航河君とギャルゲの話をするときが来るとは思わなかったが、そんな話をしているうちにコンビニへと到着した。通路をいくつか覗くと、お酒を物色しているオミさんを見つけた。

「オミさんお疲れっす」
「お疲れさまです」
「よぉ。航河、千景ちゃんお疲れ。悪いね急に」
「ほんとですよ……なんで私が」
「だってさー、友達にも声かけたんだけど、誰も来てくんねぇんだもん」
「人格の問題じゃないですか?」
「私もそう思う」
「お前ら酷くない?」
「酷くないよねぇ? 千景ちゃん」
「うんうん。酷くない酷くない」
「じゃあ逆に、なんでお前ら来てくれたの?」
「行かないとオミさん翌日から仕事来ないんじゃないかと思ったから」
「千景ちゃんひとりでオミさんの家に泊まらせる訳にはいかないから。オミさんの用事はついで?」
「……とりあえず優しさはあるんだな」

 オミさんは持っていた籠に私と航河君が選んだデザートを入れると、そのままお会計へと向かった。

「これバイト代ね」
「ういっす」
「ありがとーオミさん」

 三人でオミさんの車へと乗りこみ、家へと向かった。

 「わぁ、オミさんち綺麗だね!」

 案内されたのは1DKのマンションだった。まだ新築のようで、外観も綺麗、共有エリアも、勿論内装も綺麗だった。自分が住んでいるアパートも、築年数も浅いしそこそこ綺麗ではあるが、やはり新築には劣る。隣の芝生はなんとやら……というのは本当で、自分が持っていないものは羨ましく感じた。

「帰って寝るだけだけどさ。綺麗な方がテンション上がらない?」
「確かにね。綺麗だと帰って嬉しい気分になるかも」
「でしょでしょー。あ、適当に荷物置いて」

 オミさんの部屋は、綺麗に片付けてあった。余分なものはあまりなく、整理整頓されている。

「ゲームはテレビの横に並べてあるやつね。あれ、ハードに入れたままだっけ……」
「横ね、見てみる」

 オミさんに言われた通り、テレビの横に、ゲームやCD、DVDのケースが幾つか並んでいた。ハードはテレビ台の下に見える。

(えーっと。中身入ってるかは出してみれば良いか)

 ハードの取り出しボタンを押す。すると、中からDVDが出てきた。

「……オミさん?」
「なに?」
「……こういうものは、できれば来る前にしまっておいてほしいんだけど」
「は? え? ……あっ!」

 オミさんは私の手からDVDを奪うと、テレビ横に並べてあったケースをひとつ手に取り、その中へとしまった。

(……知りたくないのにオミさんの趣味がわかってしまった……)

 本来なら、一生知ることはなかったであろうオミさんの趣味を知ってしまい、軽く凹みつつギャルゲのパッケージを探す。

(オミさん……ゲームとCDと一緒に、大人作品並べるのやめてくれないかな……)

「オミさーん。趣味全開だよー」
「わっ! あんまり見るな!」

 航河君は航河君で、本棚から漫画を取り出そうとして、アレに気付いたらしい。

(せめて一箇所にまとめれば良いのに)

「男なら持ってるだろ!」
「オミさん、巨乳好きなのね」
「マジやめて。女の子に言われると辛い」
「千景ちゃん、そっちなにが入ってたの?」
「え? えーっと、さ」
「だぁぁぁぁ! 千景ちゃんそんなこと口にしちゃダメ! 絶対ダメ! 航河も聞かない! 聞かないで! お願いします! マジでごめんなさい!!」
「はいオミさん片付けてー。千景ちゃんの目に入らない所にね?」
「……はい。すみません」

 盛大に性癖がバレてしまったオミさんは、しょぼんとしたままDVDを床下収納へとしまった。

「……千景ちゃん、電源入れて中身確かめなくて良かったね?」
「ほんとそれ……」

 自分の行動を褒めつつ、一本しかないギャルゲをハードへ入れた。

「で? なにがクリアできないの?」
「隠しキャラがクリアできない」
「どの子? ……これ、やったことある」

 オミさんが持っていたゲームは、古いギャルゲだった。それでも恐らく当時からなかなか人気があり、いくつか続編が出ている。私がやったことのあるゲームと、偶然にも同じ物だった。

「この子。普通にデートとか誘えないじゃん? ちゃんとクリアできるんだよね?」
「あー、この子ね。できるよ。めんどくさいけど。一回でもフラグ立て忘れるとクリアできないし。リカバリ不可なんだよね」
「えっ、そうなの? ……なんてシビアな」
「告白もランダムだよ。フラグ全部立てた上で他の女の子の告白断わったあとに確率で乱入だから、もうひとり仲良い子作って振ったあと来なかったら告白前からやり直し」
「なんちゅーめんどくさい仕様。それにしても詳しいね」
「私もクリアできなくて、悩んだから」
「それで、エンディング見られた?」
「見られたよ? 頑張った甲斐あった」
「楽しみじゃん。先生よろしく」
「……教えるから、自分でやってね?」
「……はぁい」

(知ってるゲームで助かった……のかな?)

 私とオミさんがゲームをやっていると、隣のベッドで寝っ転がって航河君が漫画を読み始めた。

「頑張ってー」
「お前なにしに来たの」
「千景ちゃんの番犬としてきました」
「……千景ちゃん、コレ必要?」
「うーん……わかんない」
「酷いなもう。心配したのに」

 そのまま漫画を読み進める航河君をおいて、私とオミさんはただひたすらゲームを進めた。

「あ、ちょ、ごめん、俺先シャワー浴びてくる。やってて」
「はいはい」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つかぬことをお伺いいたしますが、私はお飾りの妻ですよね?

恋愛
少しネガティブな天然鈍感辺境伯令嬢と目つきが悪く恋愛に関してはポンコツコミュ障公爵令息のコミュニケーションエラー必至の爆笑(?)すれ違いラブコメ! ランツベルク辺境伯令嬢ローザリンデは優秀な兄弟姉妹に囲まれて少し自信を持てずにいた。そんなローザリンデを夜会でエスコートしたいと申し出たのはオルデンブルク公爵令息ルートヴィヒ。そして複数回のエスコートを経て、ルートヴィヒとの結婚が決まるローザリンデ。しかし、ルートヴィヒには身分違いだが恋仲の女性がいる噂をローザリンデは知っていた。 エーベルシュタイン女男爵であるハイデマリー。彼女こそ、ルートヴィヒの恋人である。しかし上級貴族と下級貴族の結婚は許されていない上、ハイデマリーは既婚者である。 ローザリンデは自分がお飾りの妻だと理解した。その上でルートヴィヒとの結婚を受け入れる。ランツベルク家としても、筆頭公爵家であるオルデンブルク家と繋がりを持てることは有益なのだ。 しかし結婚後、ルートヴィヒの様子が明らかにおかしい。ローザリンデはルートヴィヒからお菓子、花、アクセサリー、更にはドレスまでことあるごとにプレゼントされる。プレゼントの量はどんどん増える。流石にこれはおかしいと思ったローザリンデはある日の夜会で聞いてみる。 「つかぬことをお伺いいたしますが、私はお飾りの妻ですよね?」 するとルートヴィヒからは予想外の返事があった。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

愛されない女

詩織
恋愛
私から付き合ってと言って付き合いはじめた2人。それをいいことに彼は好き放題。やっぱり愛されてないんだなと…

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

王女殿下の秘密の恋人である騎士と結婚することになりました

鳴哉
恋愛
王女殿下の侍女と 王女殿下の騎士  の話 短いので、サクッと読んでもらえると思います。 読みやすいように、3話に分けました。 毎日1回、予約投稿します。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈 
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

強い祝福が原因だった

恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。 父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。 大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。 愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。 ※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。 ※なろうさんにも公開しています。

処理中です...