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大学3年_秋
第38話:泊まる泊まらないの攻防_2
しおりを挟む「――おっ。今日も仲良く出勤?」
からかうように相崎さんが話しかけてくる。このやり取りも、もう何度目だろうか。飽きるくらいには同じ台詞を聞いていると思う。
「相崎さんも飽きないですね」
「反応がなくなってきて寂しい」
「めんどくさいですもん」
「……最近対応が広絵に似てきたよね」
「そうですか?」
広絵はサッパリしているから、何でも『はいはいめんどくさい』と、軽くいなしていくだろう。私もそれが出来たら良いなと思っていた節は確かにあった。それを考えれば、それなりに上手く対応できるようになってきたのかもしれない。
(何か既に疲れた気がする……。全然時間進んでる気もしないし……。気のせいかな……)
今日はどうも時間の流れが速い。この後特に楽しみでもない予定が控えているからだろうか。
(それにしても……何で私、泊りがけでバイト先の社員さんの家でギャルゲすることになってるんだろう……)
ゲーム自体は好きだし、まぁ特にギャルゲをするのにも抵抗はないが、男性の家で泊りがけというのがイマイチ納得いかない。了承したのは確かに自分なのだが、流された感は否めなかった。
(航河君がいるから良いけど……。って、航河君も男の人じゃん。女私しかいないじゃん!?)
今更気付いた。が、特に手を出してくるような2人でもないし、航河君が来ても平気ということは、私のみでないとダメな理由もないのだろう。……他のみんなが来てくれないだけで。広絵に話したら、簡単に一蹴されそうな未来が見える。
(……あれ? むしろ航河君だけじゃダメだったの? 別に良くない?)
航河君がついてきてくれる、という部分のみクローズアップしてしまったが、航河君が来てくれるなら、私行かなくても良いんじゃないか? と思い始めた。航河君だってゲームはするし、ギャルゲをしたことがあるのかは分からないが、同性同士盛り上がる話もあるだろう。
「航河君?」
「なにー?」
「今日のオミさんち行くのさ、別に航河君だけでも良くない?」
「……良くない」
「なんで!?」
「千景さん行かないなら俺も行かない」
「えっ!? なんで!?」
「別に俺1人でオミさんち泊まりたくない」
「なんという……私も別にオミさんちに泊まりたいわけじゃないんだけど……」
「断らなかったんだから、行くしかないでしょう」
「くそぅ……」
その場で断らなかった私が悪いのは分かっている。それでも、『断れないだろうから俺もついて行く』ではなくて、『断らなきゃだめだよ』『断りな』と強くいってほしかった自分もいる。……が、それは断った場合の責任を航河君に転嫁するだけで、よくないなと思い立った。結局、自分の責任なのである。仕方なしに再度腹をくくったが、やはりイマイチ納得がいかないまま、ラストまで仕事をこなしていった。
(もうなんか慣れてきちゃったけど、やっぱり距離感が独特だよなぁ、このお店の人達。世間ではこれが当たり前なのかしら……)
距離感の近さと、男女の区別のなさ。今までなかった状態は、ふわふわと時々頭の中にモヤを作っていた。
(楽しいんだけどさ。なんて言ったら良いんだろうなぁ……。分かんないんだよね……)
「店の前で待ってれば良いのかな」
「迎えに来てくれるんだよね? 駐車場には車なさそうだけど」
「うん。一応電話してみようかな? 終わったメールは入れたけど」
私はオミさんへ電話を掛けた。
『もしもーし』
「あ、お疲れ様です。千景です」
『おー、お疲れ。終わった?』
「終わったよー。今お店の前にいます!」
『今近くのコンビニ来てるから、そこまで来てくれる? 飲み物調達中』
「あ、そうなんですか? 了解です。航河君と一緒に向かいますね」
『よろしく』
「はーい。じゃあまた後で」
『はいよ』
「……コンビニにいるってさ。こっちの方来てって」
「はいはい。行きますか」
コンビニを目指して歩き始める。ちょうど少し、お腹も空いていた。
「何のゲームなんだろうね」
「んー……有名どころの新作じゃない? なんとなく、オミさんってミーハーなイメージ」
「私でクリア出来るのかしら、ってか、私役に立つのかしら……」
「ハード、パソコンじゃないと良いね」
「……だったら帰るわ」
そんなものイキナリやらせないだろう。そう思ったが、万が一パソコンのゲームで年齢指定が入るものだったら、遠慮なく帰ろう――そう心に誓った。
「千景ちゃん、ギャルゲなんかやるの?」
「好きなのはRPGとかシミュレーションだけど。やったことはあるよ」
「敢えて選んだ?」
「なんか、こう、どんな風に作ってあるのかやってみたくて」
「面白い?」
「んー……どうだろう。私のやったゲームは、イベントはあったけど割と単調な作業多めだったからなぁ。好き嫌いが分かれるかも。あと、結構キャラが極端」
「そうなの? カラフルな髪の毛してるイメージなんだけど」
「それは結構あるね。個性を付けるんだろうけどね」
「あとは、好きなものに嫌いなもの、性格がはっきりしてるイメージ」
「分かりやすい?」
「うーん。見た目に引きずられてるのもあるし、『え? そうなの? 意外!』みたいな設定は、あんまりない印象かな」
「ふーん。そうなんだ」
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