これはデスゲームを見守る簡単なお仕事です。

三嶋トウカ

文字の大きさ
上 下
55 / 56
Stage1_D

ショウカクシケン_コウ_4

しおりを挟む

「『立場わかってる』んですか? 実川さん?」
「ぐうぅぅぅぅぅぅぅ――!!」
「え、元気ですね。ホントに目玉落ちちゃいますよ?」
「じ……じね……! じごぐに!! おぢろ!!」
「そうですね。こんなことしてる僕は、地獄に落ちるかもしれません。……でもね? 実川さん」

 ズズズズズ――ズズッ――ズルウゥゥゥゥゥ――

「あがぁぁぁぁぁぁ!!」
「実川さんだって、地獄に落ちるんですよ? 会いたくないですね? お互いに」

 実川の目の際から、上手に指を滑らせて、ゆっくりと眼球をほじくり出した。くっついた神経や血管は途中でちぎれて、見たことのない汁がまとわりついている。

「酷い性格してても、目はそこそこ綺麗なんだなぁ。……気持ちわる」

 クチャッ。

「ギイィィィィィィ!!」

 ――ピッピッ――ザリザリザリザリ。

「要らないですもんね。もう」

 手のひらで転がした後、改は眼球をそっと包み込んで優しく潰した。そうして出来上がった残骸を床へ投げ捨て、足で丁寧に部見潰した。

「あぁぁぁ……あぁぁぁ……」
「うへぇ。実川さん、なんか無残な姿になっちゃいましたね」

 まるで他人事のように改は口にした。そして持て余していたマチェットに手をかける。

「じゃあ、そろそろバイバイですね」
「ううう……うぐっ……ふうぅぅぅ……あぁぁぁぁ……」
「全然なんていうか、スッキリしなかったですけど。最後に一言だけ」
「うぅぅ……あぁぁ……」
「さよなら実川さん。お世話にはなっていませんが、どうぞ泣かせてきた人たちに、死んで詫びてくださいね」

 ドスッ――

「――!? ゴフッ……お、あ……」
「僕、本当に。アナタのことが大嫌いでした」

 ズズズ――

「カッ――アァ――オエェェェ――ゴホッ、ゴホッ――オ……ア……ッ……」

 ピチャッ――ピチャッ。

 胸から縦に割いたお腹の中から、実川の臓物が溢れ出る。

「……きたな……。げ、なんかニオイする……うえぇ……おえっ、げぇぇぇぇ……」

 終わったことで緊張の糸が切れたのか、改はその場で嘔吐していた。この場に残ったのは、内臓が飛び出し血まみれになった身体も欠損している実川の死体と、その死体がまき散らす異臭に自分が潰した眼球の感触、そしてたった今自分が放出した吐しゃ物だった。

「はぁー……はぁー……」

 『もう慣れたから吐くことはないだろう』と、改はそう思っていたが、実際はそんなことはなかった。確かに慣れはしたものの、知らないところの自身のキャパシティを、軽く超えてきていたらしい。

「……」
「……え、あ……。ありがとう、ございます。すみません、なんか、変なところお見せしてしまって」
「……」

 サポートに入っていたうちの一人が、改にタオルとペットボトルに入った水を手渡した。どこから持ってきたのかはわからないが、吐き出すことは想定の範囲内だったらしい。貰ったタオルで口元を拭き、口内を水ですすぎその場に吐き出した。

「……はぁ、はぁ」

 途中から目の色が変わり、まるで別人のように実川に接していた改も、憑き物が落ちたように穏やかな表情を見せた。

「みなさん、お手伝いありがとうございました。本当に助かりました。……誰かが近くにいるっていうのは、力強いですね。お陰様で、最後まで頑張ることができました」

 お辞儀をする改に、三人も同じようにお辞儀をして返す。

「……ええっと。……嘉壱さん……? 聞こえていますか……?」
『――あぁ、聞こえているよ改君』
「実川ですが、さすがにこの状況は生きていないと思いますが……。掃除班の方々、お願いできますでしょうか」
『すぐに向かわせよう。もう少しそこで待っていてくれ』
「わかりました」

 正確には、まだ試験は終わっていない。掃除班が実川の死を確認したそのあとで、嘉壱と三律がこの部屋へやってくる。そうして二人にも確認してもらってようやく、今回の試験が合格か不合格かの判定が下りるのだ。実川は死んでいる。が、直接『合格』の言葉を聞くことができなければ安心できない。

 改は祈りながらまず掃除班の到着を待った。

 ――ゴゴゴゴゴ――ゴゴゴゴゴ。

 この部屋へ入る時に聞いた、ドアの開く音が微かに聞こえた。

 カツカツカツカツ――。

 靴の鳴る音が近づいてくる。

「――お待たせいたしました。お相手の方は……こちらですね。ルールですので、念のために確認いたします」
「よろしくお願いします」

 掃除班が実川に近づく。

「――呼吸無し。心肺停止。――よし、全員同意見。実川アオサの死亡を確認しました」
「はぁ……良かった……」

 改はほっと胸を撫で下ろした。

「社長たちを呼んでもらって構いません。私たちはこのまま掃除を始めます。少々気にはなるかもしれませんが、どうぞ、そのまま」
「すみません……あの、内臓結構ぶちまけてしまって……」
「いえいえこれくらい。掃除のしがいがあって、逆にこちらとしては面白いですよ」
「あはは、ありがとうございます。あ、それにその、僕も戻してしまって……」
「よくあることですから。気分は大丈夫ですか? 吐き気止めや胃薬なんかもあるので、辛かったら教えてくださいね」
「は、はい……!」

 掃除班の優しさと守備範囲の広さに感動しながら、改は嘉壱へ再度繋いだ。

「――嘉壱さん、改です。実川アオサの死亡を確認していただきました」
『ありがとう。それじゃあ、そちらへ向かうよ。……お疲れ様、改君』
「はい。ありがとうございます」

 一気に力の抜けそうな身体を奮い立たせ、改は嘉壱と三律の到着を待った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

最終死発電車

真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。 直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。 外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。 生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。 「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!

配信者幽幻ゆうなはかく怪奇を語りき

福留しゅん
ホラー
午後10時、Vdolと呼ばれる動画配信者である幽幻ゆうなによる怪奇語りの配信が行われる。リスナーからの投稿だったり体験談だったり、日常の中に突然遭遇する怪奇にまつわる話を送り届ける。そこそこの人気を集めているが、リスナーの誰もが想像もしていないし考察もしていない。語られる話のどこまでが空想でどこまでが現実なのかを。やがて現実と怪奇の境目が曖昧になっていき、現実は脅かされていく。他でもない、幽幻ゆうなを中心として。 ※他のサイトでも公開中ですが、アルファポリス様が最速です。

[全221話完結済]彼女の怪異談は不思議な野花を咲かせる

野花マリオ
ホラー
ーー彼女が語る怪異談を聴いた者は咲かせたり聴かせる 登場する怪異談集 初ノ花怪異談 野花怪異談 野薔薇怪異談 鐘技怪異談 その他 架空上の石山県野花市に住む彼女は怪異談を語る事が趣味である。そんな彼女の語る怪異談は咲かせる。そしてもう1人の鐘技市に住む彼女の怪異談も聴かせる。 完結いたしました。 ※この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体、名称などは一切関係ありません。 エブリスタにも公開してますがアルファポリス の方がボリュームあります。 表紙イラストは生成AI

不動の焔

桜坂詠恋
ホラー
山中で発見された、内臓を食い破られた三体の遺体。 それが全ての始まりだった。 「警視庁刑事局捜査課特殊事件対策室」主任、高瀬が捜査に乗り出す中、東京の街にも伝説の鬼が現れ、その爪が、高瀬を執拗に追っていた女新聞記者・水野遠子へも向けられる。 しかし、それらは世界の破滅への序章に過ぎなかった。 今ある世界を打ち壊し、正義の名の下、新世界を作り上げようとする謎の男。 過去に過ちを犯し、死をもってそれを償う事も叶わず、赦しを請いながら生き続ける、闇の魂を持つ刑事・高瀬。 高瀬に命を救われ、彼を救いたいと願う光の魂を持つ高校生、大神千里。 千里は、男の企みを阻止する事が出来るのか。高瀬を、現世を救うことが出来るのか。   本当の敵は誰の心にもあり、そして、誰にも見えない ──手を伸ばせ。今度はオレが、その手を掴むから。

意味が分かると怖い話【短編集】

本田 壱好
ホラー
意味が分かると怖い話。 つまり、意味がわからなければ怖くない。 解釈は読者に委ねられる。 あなたはこの短編集をどのように読みますか?

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...