上 下
54 / 56
Stage1_D

ショウカクシケン_コウ_3

しおりを挟む

「どうせ死ぬんだから良いじゃないですか。目玉のひとつやふたつくらい」
「おあぁぁぁぁぁぁあぉぉぉぉ――!!」
「ま、ふたつともなんですけどね」

 ズズズ、ズズズ――ズズズ、ズズズ――

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ――!!」
「これ、ない方が良いや」

 ――カランカラン、カラン。

 改は実川の頬に貫通していた串を抜くと床へ投げ捨てた。

「や、やあぁ……やめ、へぇ……」

 大きく空いた頬の穴から、血液と一緒に空気も漏れ出している。

「あのー、目を開いたまま固定する道具ってあります? なんていうのかわからなくて。こう、ガッと開いて……」

 一人、武器の元へと向かい置いてある物を漁る。その中からワイヤーできた器具を手に取ると、改の元まで運んできた。

「あー! こういうのです! ありがとうございます! ……これ、どうやってはめたら良いんですか?」

 器具を運んできた相手は、少し考えてから使い方の分からない改のために、代わりに実川へ器具を装着し始めた。

「やべろやべろやべろやべろやべろおぉぉぉぉぉおおおぉぉぉお!!」
「……」
「ヒィィィィィィィィ――!!」
「……」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「なんでみんな謝るんでしょうね? 誰一人自分のなにが悪いかなんて、なぁんにもわかってないのに」
「いだいいだいいだいいだいいだいいだいいいぃぃあぁぁぁぁぁぁ!!」
「……」
「ありがとうございました。へぇ、こうやってはめるんだ。勉強になるなぁ」

 涼しい顔で器具を装着し終えると、一歩下がって改の出方を窺った。

「目って、かなり水分が多いですよね? 乾燥すると痛くなるから、涙も出てくるし。……このままどこまで放置したら、カピカピになっちゃうと思います?」
「お、おねがいだ……や、やべで、ぐれ……」
「それもう聞き飽きちゃったんですよ」
「いやだ、いやだいやだいやだぁぁぁぁぁぁ――!!」
「あ、もう白目が充血してきた」
「あぁぁぁぁぁぁ!!」
「なにこれ。僕がなにもしなくても、勝手に落ちてきそうじゃん目玉」
「ぎいぃぃぃぃぃぃいいぃいぃいいぃいいぃ!!」

 歯を食いしばるも、それだけではどうしようもない。無駄に力をかけて、身体に負担を強いるだけだったが、どうにかして器具を外せないか、改の考えを変えることができないかと焦る実川はそのことに気が付かないでいる。わざとらしく深く差し込まれた器具は、興奮している実川の身体から眼球を取り出そうとするかの如く、圧のかかっている眼球においでおいでと手招きをしていた。

「……ふぅー」
「あぁぁぁぁ!! やめ、やべっ……えぇぇ」
「あはは! そんな顔しないでくださいよ! ちょっと目に息吹きかけただけじゃないですか」
「ぐうぅぅぅぅぅ――!!」
「片方は時間経過見るのに使いたいけど、二個あるからもう片方は良いよね? 目の神経って、どうやって繋がってるんでしたっけ?」
「ふぅぅ……ううううううう!!」

 実川が大きく揺れる。改の言葉を聞いて『このままだと片方の目が取られてしまうこと』に気が付いたのだ。しかも、今はとりやすいように器具も装着されている。手は動かず抵抗することもできない。できるのは、ただ謝り続け気紛れもしくは罪悪感を感じて改がやめるのを願うことと、身体をよじって抵抗し少しでも時間を稼ぐことだった。

「指……指……? やだな、自分の指で抉るの。……そうだ!」

 『良い考えを思いついた』といわんばかりにキラキラとした笑顔を見せる改に、実川は恐怖した。きっとその良い考えは、実川にとっては碌な考えではない。

「実川さぁん。指、貸してください!」

 バチン――ギリギリギリギリ――ミチミチミチ――ギリギリギリギリ――ミチミチミチ――ブチン!

「いっ――あぁぁぁぁぁぁぁ!! いぃぃぃぃ――っいいいいいい――!!」

 改は実川の左手の人差し指を裁ちばさみとナイフでもぎ取ると、笑顔でもいだ指を実川に見せた。

「取れましたよ! お借りします!」
「……あぁぁ……ゆび、お、おれの……ゆび、い……」
「自分で自分の眼球抉るって、結構狂気じゃないですか? 実際に抉るのは僕なんですけど」
「な、なんでも! じまず……! なんでもじまず、がらぁ……! お、おでがぁい! じまず……!!」
「え? なんですって?」
「なんでも!! じまず!! だがら!! やべで!! ぐだざい!! ……ゴホッ、ゴホッ……えぇぇぇぇ……」
「なにをやめるの?」
「めっ……めだま、どらないでぐだざい! ごろざないでぐだざい……! ご、ごうぞぐも……! はっ、はずじで、ばずじでぐだざいぃ!!」
「んんー……」
「きっ、きずもぉっ……! な、なおじでぇ……!」
「ふーん……」
「いぎで! いぎでがえりだいんでずうぅぅぅぅぅぅ!! うぅぅぅぅぅぅぅ!! いえに! いえにがえりだいぃぃぃ!!」
「『なんでもします』『目玉とらないで』『殺さないで』『拘束を外して』『傷も治して』『生きて』『家に帰りたい』……であってます?」
「あっ、あ、あ、あっでまず……! おでがいじまず!!」
「えーっと。なんだっけ? 『色々条件つけてくる子って、すごーくやりづらい』んですよね? 実川さん」
「……へ?」
「やだなぁ。実川さん、僕に言ったじゃないですか。いつだったか、僕が異動をお願いした時に。忘れちゃいました? ダメですよぉ。そんなこと言ったくせに、自分が条件こんなにつけてくるなんて。すごーく、それはもうすごーくやりづらいんで」
「ぞ、ぞんな……」
「今のこの状況は、『自分の能力足りてないんじゃない?』ですかね? 『もっと頑張れば?』良いんじゃないですか?」

 改はひとつひとつ実川に言われたことを思い出しながら、そっくりそのままお返しすると言わんばかりに投げかけていく。

 ――あの時は、本当に意味がわからなかったし、すべていなされる悔しさしかなかった。が、今の改には実川にはない力と環境があった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕が見た怪物たち1997-2018

サトウ・レン
ホラー
初めて先生と会ったのは、1997年の秋頃のことで、僕は田舎の寂れた村に住む少年だった。 怪物を探す先生と、行動を共にしてきた僕が見てきた世界はどこまでも――。 ※作品内の一部エピソードは元々「死を招く写真の話」「或るホラー作家の死」「二流には分からない」として他のサイトに載せていたものを、大幅にリライトしたものになります。 〈参考〉 「廃屋等の取り壊しに係る積極的な行政の関与」 https://www.soumu.go.jp/jitidai/image/pdf/2-160-16hann.pdf

【実話】お祓いで除霊しに行ったら死にそうになった話

あけぼし
ホラー
今まで頼まれた除霊の中で、危険度が高く怖かったものについて綴ります。

最終死発電車

真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。 直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。 外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。 生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。 「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

【一話完結】3分で読める背筋の凍る怖い話

冬一こもる
ホラー
本当に怖いのはありそうな恐怖。日常に潜むあり得る恐怖。 読者の日常に不安の種を植え付けます。 きっといつか不安の花は開く。

人形の輪舞曲(ロンド)

美汐
ホラー
オカルト研究同好会の誠二は、ドSだけど美人の幼なじみーーミナミとともに動く人形の噂を調査することになった。 その調査の最中、ある中学生の女の子の異常な様子に遭遇することに。そして真相を探っていくうちに、出会った美少女。彼女と人形はなにか関係があるのか。 やがて誠二にも人形の魔の手が迫り来る――。 ※第1回ホラー・ミステリー小説大賞読者賞受賞作品

岬ノ村の因習

めにははを
ホラー
某県某所。 山々に囲われた陸の孤島『岬ノ村』では、五年に一度の豊穣の儀が行われようとしていた。 村人達は全国各地から生贄を集めて『みさかえ様』に捧げる。 それは終わらない惨劇の始まりとなった。

『ショート怪談』訪れるもの

見崎志念
ホラー
何が来ても受け入れてはいけません

処理中です...