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Stage1_D
ショウカクシケン_チュウ_2
しおりを挟む「な……たひゅけ、たひゅけへ……」
始めに目を合わせた時の、実川のあの勢いはどこへ行ったのだろうか。打って変わって、今は『助けて』と懇願している。
「はや、く、はやっ……あ……ゲホッ……」
「――あの、聞こえますか?」
『――あぁ、改君。聞こえているよ』
「ちょっと、自分が思っていたよりもささらないというか……」
『――あぁ。言いたいことはわかるよ。サポートが必要かな?』
「お願いって、できるのでしょうか?」
『もちろんだよ。何人ほしい?』
「そうですね……。三人ほど、お願いできますか? 多いほうが作業しやすいのかと思いまして。でも、多過ぎるとお互い邪魔になりそうですし」
『構わないよ』
「それと、あの、できれば吊るすか壁に立った状態で拘束したくて」
『――了解。もう少しだけ、時間を稼いでもらえるかな?』
「わかりました」
『まぁ、喋らせておけば時間ももつと思うけどね。全然喋り足りないみたいだし』
「あ、はは……」
『そうだね、五分はほしいかな』
「……はい、大丈夫です」
『それじゃあ、待っててね。……あ、会話はしないけれど、『なにか持ってきて』とか『ちょっと捕まえてて』とか、そんなお願いなら聞いてくれるから』
「ありがとうございます!」
インカムを通して嘉壱にヘルプをお願いする。実川を殺すのは自分一人で構わないが、少しだけ手伝いがほしいと思っていた。
「みんな、こうやって殺ってきたのかなー……」
ふと、天井を見上げた。照明の光が眩しい。
「う、うぅ……」
「ねぇ実川さん」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
「今どんな気分?」
「はぁ……はぁ……あぁ!?」
「や、だから、今どんな気分?」
「ふー……ふー……ぐ、うぅ……」
「やだなぁ。日本語わかんなくなっちゃいました? ずっとずっと見下してサンドバックにしてたクソ社員に、逆にサンドバックにされるの、どういう気分ですかー?」
「ひ、ひね……ひね、っ……!!」
「『死ね』って言いました? たったの二文字すら、上手く喋れないんですか? あ、歯が削れちゃってますもんね。発音が難しいのかな? 口の中もボロボロだろうし。可哀想ですね。……ま、やったの僕なんですけど」
「あぁ……あ……ああああああああああああああああああああ!!」
わかって改は実川を煽っていた。今の実川には、なにもできない。今まで自分がされてきたことを考えて、実川のこの状態を見ると、一切の同情や哀れみは感じなかった。
実川は、まだ生きている。口の中と頬を怪我したものの、まだまだ元気だ。出血もこちらが心配するほど多くもないし、なにより良く喋る。喋っていないと死ぬのかと思えるほどに。
「こういうことは、ちゃんと知っておいた方が良いかなと思うんですけど。実川さん、この後死ぬんですよ」
「……あ?」
「死ぬんです」
「……あぁ?」
「だから、思い残したことがあったら言ってくださいね? 聞くだけですけど。こんなところでなにもできないし、別になにかするつもりもないんで」
「……はなひへくえ……」
「ん? なんです?」
「は、な、ひ、て、く、え」
「多分『離してくれ』って言ってます? 解放してほしいってことですか?」
実川はこくこくと頷いた。
「え、無理ですよ。死ぬんですし」
「お、え、が、い」
「無理です」
「お、え、が――」
――ゴッ。
「お、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――!!」
「うえっ……汚いなぁ……」
肉叩き棒でまた頬に一撃食らわせると、改の目の前で、実川が失禁した。
――ゴッ。
「うぇっ」
――ゴッ。
「ひっ、ぎ、ぃ」
――ゴッ。
「ぐ、ぅ」
――ゴッ。
「う……ぅ」
頬を殴るのはやめにして、次は二の腕めがけて何度も肉叩きをスイングする。着ていた服に穴が開き、多少の出血が見られた。
「まだ殺さないんで大丈夫ですよ? じゃなきゃ、さっさと殺ってます。これで頭何十回と殴ったらさすがに死ぬだろうし、マチェットも関節に入れば色々切り落とせそうだし」
「ぐぅ……うぅぅ……!」
「あーあ。威勢の良い実川さんが良かったなぁ? こんな……なんでしたっけ? クソ? みたいな僕にいいようにされて、悔しくないんですかぁ?」
「うぅひぁ……うぅひゃい……」
「『うるさい』ね。そうそう。そうこなくっちゃ」
普段の改とは口調も違う。今まで見てきたデスゲームと、それぞれの資料や司会に感化されているのかもしれない。――もしくは、改から見た実川を倣っている可能性もある。
「そういや、別にそんなにハッキリ喋れなくなるほど、歯、無くなってましたっけ? もしかして弱気になってます? ――らしくないなぁ、本当に」
「ぐ、ぐぐ……」
「ま、良いですけど。……それにしても、知らなかったなぁ。圧倒的な力で相手をねじ伏せるって、こんなに気持ち良かったんですね? 思わず顔もニヤついちゃうし、そりゃあ、実川さんも毎日毎回誰かしらに高圧的な態度取りますよね。スッキリしますもん」
「はい、え……はいえ、え……」
「え? なんですか?」
「はい、え……た、たしゅけ……へ……」
「それ『灰根』ですか? ……あぁ、そういうこと。僕のこと馬鹿にしてます?」
「しょ、しょんなこ、ほ、ぉ」
「……」
「たしゅけ、へ、くだし、あ……」
「……喋れるのにわざとそうしているなら、お望み通りまともに喋れなくしてあげますけど。……どうなんだよ、実川」
「……チッ」
途中泣きそうな顔で改に助けてと懇願していたのに、舌打ちをした後は一転酷い形相で睨みつけている。恐らく、喋り辛さを利用しながら弱さも見せて、同情でも引くつもりだったのだろう。これだけの目に遭いながら、また、これだけのことをしてくるほど自分にとって負の感情しか持っていない改を、まだ見下していたのだ。『押してダメなら引いてみろ』を、この場で実践した。が、当然ながらそんなことをしても改がやめるはずもなく、火に油を注ぐだけだった。
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