これはデスゲームを見守る簡単なお仕事です。

三嶋トウカ

文字の大きさ
上 下
46 / 56
Stage1_D

ショウカクシケン_ゼン_6

しおりを挟む

「――っ――はぁ――!! はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
「……」
「ゴホッ、ゴホッ……コホッ、コホッコホッ……うっ……」
「……」
「はぁー……はぁー……はぁー……はぁー……」
「……」
「んんっ……だ、誰か、助けに来てくれた、のか……?」
「……」

 その声は、確かに改の記憶にある実川のものだった。

「た、頼む! この縄を解いてくれ! 目も! 暗くてなにも見えないんだ!」
「……」
「な、なぁ……!」

 ――ゴッ。

「ご、ぉっ」

 改はなにも言わないまま、肉叩きで実川の頬を殴った。彼は別に実川の自由を増やすために麻袋を取ったわけではなく、単純に殴る部分がなかったから麻袋を取っただけだった。

「いっ、いだい……っ!!」
「……」
「な、なんだ……? やめ、やめて……やめてくれ……!」

 ――ゴッ。

「――ぉっ」

 二発目が実川の頬に入る。肉叩きの棘は実川の頬を抉り、当たった棘の数だけ頬に穴を開けていた。

「おっ、おねがい……えす……こ、ころひゃ、ないで……」

 まだたった二発食らっただけだというのに、実川の呂律は既に回っていなかった。突然行われた暴力に、頭がついていかないのかもしれない。

「……」

 改はなにも言わず実川を見ていたが、ニヤッと笑うとアイマスクも外した。

「だ、だれ、れすか……!! こ、こんなこと、ひて……ぇ……!!」

 ――ゴッ。

「ぶっ――!!」

 三発目が入る。

「あぁ……あー……あー……ゴホ、ゴホッ」

 口の中を傷つけたのか、実川は血の混じった唾を吐いた。

「――はぁあ。みっともな……」
「……あ?」

 『正体がバレても構わない』と、そう思ったのだろう。改は口を開いた。そんな改を、実川はじっと見つめている。

「命乞いとかするんだ、アンタ」
「え、あ……」
「なーんだ。つまんな。あれだけ強気だったから、もっと骨があると思ってたのに」
「……え、え……?」
「お久しぶりです。実川さん」
「え、あ、なん、て……?」
「やだなぁ。僕のこと、忘れちゃいましたか? 仕方ないかなぁ? 髪型も違うし、ちょっと筋肉もついたでしょう? 最後に会った時は、ヒョロヒョロのしょぼい男でしたし」

 そう言って改は、自分がはめていたゴーグルを外した。

「――なっ」
「……あぁ、凄く良いですよその顔」
「お、おま……はいね、ェ……!!」

 実川は理解した。自分を今殴った男が、灰根改であることに。

「おい! どういうことだ! さっさとこれを外せ! 死にたいのかクソガキ! ぶっ殺すぞ!!」
「やだなぁ実川さん。自分の置かれた状況わかってないんです?」
「うるせぇ!! お前ごときが俺にたてつくんじゃねぇよ! オラ! 外せ!! クソが!!」

 一気に威勢が良くなった実川を見て、改は苦笑いした。それに、どう見ても死ぬのは自分のほうなのに、なぜそんなことが言えるのか。改はまったくもって理解できなかった。

「ま、良いですけど。そのほうがやりがいもあるし、罪悪感も無くなるんで」
「聞いてんのかクソ野郎!! 上司の命令だぞ!!」
「え? 僕もう会社辞めてますよね? 上司じゃないですよ? そんなこともわからないんですか?」
「るせぇ! 殺してやる!! さっさと外せこの無能!! クズ!! ゴミが!!」

 実川が吠えるのをBGMにして、改は次のルーレットを回した。先ほど、部位を決めずに殴ってしまったことを思い出し、部位を決めるためのルーレットも回す。

「おい! 俺の話を聞け!」
「実川さん、これ、なんのルーレットか知ってます?」
「さっさとしろ! お前に俺を助ける以外の価値なんかないんだぞ!?」
「こっちで実川さんを痛めつけるための武器を決めて、こっちでどこを痛めつけるか決めるんですよ。ルーレットだからランダムだし、もしかしたら次は一発で死んじゃうかもしれないですけど」
「はぁ!? なに言ってんだお前!!」
「えーっと……。次の武器はこれか。【マチェット】だって。部位は? 指? 地味だなー。あ、マチェットって知ってます? 僕、名前は知ってましたけど、実物は初めて見ましたよ」
「おっ、おい……は? あ?」
「あ、あった――! これこれ! これですよ! ……うわぁ、大きいなぁ……」
「おい、なんだよ、下ろせよそんな物騒な物……!」
「お、なんかちょっとギザギザだな? ……へぇー、片刃で鈍器みたいなのを想像してたけど、実物は違うんだ」
「おい! 聞けよクソが!! 下ろせっつってんだろ!!」
「え、これで指とか難しくない? 小型ナイフとか包丁だったら小回りきくけど、これどうやって指落とせば良いんだろう……?」
「クソ! クソ!! 無視してんじゃねぇ!」
「ルーレット、ハードル上がるなぁ……。別に無視でも良いし、取り敢えず使ってみようかな……?」
「やっ……やめろ! くるな! くるな!!」
「あんまり扱い易そうじゃないけど、肉を切るにはやっぱり良さそうですよね。よく切れるんじゃないかな」
「あっちにいけ! 寄るな! クソ! クソ!!」
「あ、でも、一般家庭だと収納に困りそう。しまえるのかなこれ」

 ブツブツと独り言のように話す改の耳には、実川の言葉は入っていなかった。今の改にとって、実川の暴言も恫喝も、なにも怖くなかった。むしろ、これから自分がすることへのスパイスになると、そんなことすら思っていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

最終死発電車

真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。 直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。 外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。 生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。 「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!

配信者幽幻ゆうなはかく怪奇を語りき

福留しゅん
ホラー
午後10時、Vdolと呼ばれる動画配信者である幽幻ゆうなによる怪奇語りの配信が行われる。リスナーからの投稿だったり体験談だったり、日常の中に突然遭遇する怪奇にまつわる話を送り届ける。そこそこの人気を集めているが、リスナーの誰もが想像もしていないし考察もしていない。語られる話のどこまでが空想でどこまでが現実なのかを。やがて現実と怪奇の境目が曖昧になっていき、現実は脅かされていく。他でもない、幽幻ゆうなを中心として。 ※他のサイトでも公開中ですが、アルファポリス様が最速です。

[全221話完結済]彼女の怪異談は不思議な野花を咲かせる

野花マリオ
ホラー
ーー彼女が語る怪異談を聴いた者は咲かせたり聴かせる 登場する怪異談集 初ノ花怪異談 野花怪異談 野薔薇怪異談 鐘技怪異談 その他 架空上の石山県野花市に住む彼女は怪異談を語る事が趣味である。そんな彼女の語る怪異談は咲かせる。そしてもう1人の鐘技市に住む彼女の怪異談も聴かせる。 完結いたしました。 ※この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体、名称などは一切関係ありません。 エブリスタにも公開してますがアルファポリス の方がボリュームあります。 表紙イラストは生成AI

不動の焔

桜坂詠恋
ホラー
山中で発見された、内臓を食い破られた三体の遺体。 それが全ての始まりだった。 「警視庁刑事局捜査課特殊事件対策室」主任、高瀬が捜査に乗り出す中、東京の街にも伝説の鬼が現れ、その爪が、高瀬を執拗に追っていた女新聞記者・水野遠子へも向けられる。 しかし、それらは世界の破滅への序章に過ぎなかった。 今ある世界を打ち壊し、正義の名の下、新世界を作り上げようとする謎の男。 過去に過ちを犯し、死をもってそれを償う事も叶わず、赦しを請いながら生き続ける、闇の魂を持つ刑事・高瀬。 高瀬に命を救われ、彼を救いたいと願う光の魂を持つ高校生、大神千里。 千里は、男の企みを阻止する事が出来るのか。高瀬を、現世を救うことが出来るのか。   本当の敵は誰の心にもあり、そして、誰にも見えない ──手を伸ばせ。今度はオレが、その手を掴むから。

意味が分かると怖い話【短編集】

本田 壱好
ホラー
意味が分かると怖い話。 つまり、意味がわからなければ怖くない。 解釈は読者に委ねられる。 あなたはこの短編集をどのように読みますか?

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...