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Stage1_D
ショウカクシケン_ゼン_6
しおりを挟む「――っ――はぁ――!! はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
「……」
「ゴホッ、ゴホッ……コホッ、コホッコホッ……うっ……」
「……」
「はぁー……はぁー……はぁー……はぁー……」
「……」
「んんっ……だ、誰か、助けに来てくれた、のか……?」
「……」
その声は、確かに改の記憶にある実川のものだった。
「た、頼む! この縄を解いてくれ! 目も! 暗くてなにも見えないんだ!」
「……」
「な、なぁ……!」
――ゴッ。
「ご、ぉっ」
改はなにも言わないまま、肉叩きで実川の頬を殴った。彼は別に実川の自由を増やすために麻袋を取ったわけではなく、単純に殴る部分がなかったから麻袋を取っただけだった。
「いっ、いだい……っ!!」
「……」
「な、なんだ……? やめ、やめて……やめてくれ……!」
――ゴッ。
「――ぉっ」
二発目が実川の頬に入る。肉叩きの棘は実川の頬を抉り、当たった棘の数だけ頬に穴を開けていた。
「おっ、おねがい……えす……こ、ころひゃ、ないで……」
まだたった二発食らっただけだというのに、実川の呂律は既に回っていなかった。突然行われた暴力に、頭がついていかないのかもしれない。
「……」
改はなにも言わず実川を見ていたが、ニヤッと笑うとアイマスクも外した。
「だ、だれ、れすか……!! こ、こんなこと、ひて……ぇ……!!」
――ゴッ。
「ぶっ――!!」
三発目が入る。
「あぁ……あー……あー……ゴホ、ゴホッ」
口の中を傷つけたのか、実川は血の混じった唾を吐いた。
「――はぁあ。みっともな……」
「……あ?」
『正体がバレても構わない』と、そう思ったのだろう。改は口を開いた。そんな改を、実川はじっと見つめている。
「命乞いとかするんだ、アンタ」
「え、あ……」
「なーんだ。つまんな。あれだけ強気だったから、もっと骨があると思ってたのに」
「……え、え……?」
「お久しぶりです。実川さん」
「え、あ、なん、て……?」
「やだなぁ。僕のこと、忘れちゃいましたか? 仕方ないかなぁ? 髪型も違うし、ちょっと筋肉もついたでしょう? 最後に会った時は、ヒョロヒョロのしょぼい男でしたし」
そう言って改は、自分がはめていたゴーグルを外した。
「――なっ」
「……あぁ、凄く良いですよその顔」
「お、おま……はいね、ェ……!!」
実川は理解した。自分を今殴った男が、灰根改であることに。
「おい! どういうことだ! さっさとこれを外せ! 死にたいのかクソガキ! ぶっ殺すぞ!!」
「やだなぁ実川さん。自分の置かれた状況わかってないんです?」
「うるせぇ!! お前ごときが俺にたてつくんじゃねぇよ! オラ! 外せ!! クソが!!」
一気に威勢が良くなった実川を見て、改は苦笑いした。それに、どう見ても死ぬのは自分のほうなのに、なぜそんなことが言えるのか。改はまったくもって理解できなかった。
「ま、良いですけど。そのほうがやりがいもあるし、罪悪感も無くなるんで」
「聞いてんのかクソ野郎!! 上司の命令だぞ!!」
「え? 僕もう会社辞めてますよね? 上司じゃないですよ? そんなこともわからないんですか?」
「るせぇ! 殺してやる!! さっさと外せこの無能!! クズ!! ゴミが!!」
実川が吠えるのをBGMにして、改は次のルーレットを回した。先ほど、部位を決めずに殴ってしまったことを思い出し、部位を決めるためのルーレットも回す。
「おい! 俺の話を聞け!」
「実川さん、これ、なんのルーレットか知ってます?」
「さっさとしろ! お前に俺を助ける以外の価値なんかないんだぞ!?」
「こっちで実川さんを痛めつけるための武器を決めて、こっちでどこを痛めつけるか決めるんですよ。ルーレットだからランダムだし、もしかしたら次は一発で死んじゃうかもしれないですけど」
「はぁ!? なに言ってんだお前!!」
「えーっと……。次の武器はこれか。【マチェット】だって。部位は? 指? 地味だなー。あ、マチェットって知ってます? 僕、名前は知ってましたけど、実物は初めて見ましたよ」
「おっ、おい……は? あ?」
「あ、あった――! これこれ! これですよ! ……うわぁ、大きいなぁ……」
「おい、なんだよ、下ろせよそんな物騒な物……!」
「お、なんかちょっとギザギザだな? ……へぇー、片刃で鈍器みたいなのを想像してたけど、実物は違うんだ」
「おい! 聞けよクソが!! 下ろせっつってんだろ!!」
「え、これで指とか難しくない? 小型ナイフとか包丁だったら小回りきくけど、これどうやって指落とせば良いんだろう……?」
「クソ! クソ!! 無視してんじゃねぇ!」
「ルーレット、ハードル上がるなぁ……。別に無視でも良いし、取り敢えず使ってみようかな……?」
「やっ……やめろ! くるな! くるな!!」
「あんまり扱い易そうじゃないけど、肉を切るにはやっぱり良さそうですよね。よく切れるんじゃないかな」
「あっちにいけ! 寄るな! クソ! クソ!!」
「あ、でも、一般家庭だと収納に困りそう。しまえるのかなこれ」
ブツブツと独り言のように話す改の耳には、実川の言葉は入っていなかった。今の改にとって、実川の暴言も恫喝も、なにも怖くなかった。むしろ、これから自分がすることへのスパイスになると、そんなことすら思っていた。
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