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第1章

02 予想していなかった事態

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 学園を卒業し、予定通り領地に戻りのんびりとした日々を過ごしていたラズベルトは、ある日父に呼ばれて書斎に赴いた。先程まで食事を共にしていたというのに何の用事なんだと思ったが、話忘れたことでもあったのだろうと、あまり深く考えなかった。

「父上、来ましたよ。あれ、母上も居たのですね」
 書斎の扉を軽くノックして、返事を待たずにラズベルトは扉を開く。なぜか母も室内にいた。
「ラズベルト……お前は、礼儀作法をもう一度習って来た方が良いんじゃないか?」
「家以外ならちゃんとしてますよ」
 父が呆れたようにため息を吐くが、ラズベルトは気にしない。実際、家の外では、それなりに礼儀作法はきちんとしているつもりだ。
「それよりも、話って何でしょう?」
「婚約者が決まったぞ」
「……はあ?」
 父親から言われた内容が理解出来ず、ラズベルトは、おもいっきり首を傾げて聞き返す。
「婚約者が決まったと言ったんだよ。相手はレティシア・オルティース公爵令嬢」
「誰の?」
「お前の」
 他に誰が居るんだ? という表情で再度告げられる。
「レティシア・オルティースって、あのレティシア・オルティース?」
 自分でも阿呆みたいな質問をしているなと思ったが、案の定、父は呆れ顔で「そうだ」と答えた。
 『レティシア』という名前なら他にも居るだろうが、オルティース公爵令嬢は一人だけだ。レティシア・オルティースで間違いないのだ。
(なんで僕と?)
 レティシアと王太子の婚約が正式に破棄されたことは領地に戻ってしばらくしてから、風の噂で聞いた。
 王太子が卒業パーティーで婚約破棄を宣言したからといって、王家と公爵家の政略的な婚約のはずだ。簡単には破棄出来ないのでは? と思っていたが、随分と簡単に破棄されたことにラズベルトは驚いた。
 そして、婚約破棄されたレティシアの新しい婚約者として、ラズベルトが選ばれたということらしい。
 意味がわからなかった。
(確かにへルマン家は侯爵位だけどさ)
 公爵家に次ぐ爵位だが、へルマン侯爵家は辺境の領地を治める地味で目立たない一族だ。全体的に出世欲がなく、必要がなければ領地に引っ込んでいるような一族なので、王宮で役職を担っている者も居ない。へルマン侯爵家と聞いても、「そういえば、そんな家紋もあったかな」程度の知名度である。伯爵、男爵でもへルマン侯爵家よりも知名度の高い一族は、その辺に沢山いる。
 そんな辺境侯爵家のラズベルトと、公爵家の中でも高位に位置するオルティース公爵家の令嬢がどうして婚約する話になるのか。
「あと彼女、王都では色々あっただろう? だから、お前との婚約を期にこちらの屋敷に住むことになったから」
「は? 何でそんな展開に……」
 王太子との婚約破棄で王都に居づらいのは理解できるが、展開が早過ぎやしないかとラズベルトは疑問に思った。
「オルティース公爵家の別邸は王都近くばかりだからな。王都から離れるなら、いっそ一緒に住めば良いってことになったんだ」
「三日後には屋敷に到着するらしいわよ~」
 混乱するラズベルトに、母親が緊張感のないのほほんとした笑顔で付け加えた。
「三日後っ!?」
 ラズベルトは思わず大きな声になった。
 王都からこの領地まで馬車で五日はかかるため、レティシアは既にこちらに向かっていることを意味する。
 ということは、この婚約話は、それよりも前に決まっていたはずである。
「あのさ……婚約の話が決まったのっていつなの?」
 ラズベルトは恐る恐る父親に尋ねる。
「二週間くらい前だったかな?」
「二週間……え? なんで、早く教えてくれなかったの?」
 もしかして教えられない理由でもあったのだろうか。まさか、忘れてたとかバカみたいな理由であって欲しくない。
「いやー、お前に伝えるの忘れてたんだよなぁ」
 語尾に(笑)が見えそうなのりだった。
 父に悪びれもなく一番嫌な理由を告げられたラズベルトは、ガックリと膝をついた。
「そんな大事なことを伝え忘れるなーっ!!」
 ラズベルトの叫びが、屋敷に虚しく響いたのだった。



 それから三日後、レティシア・オルティース公爵令嬢が予定通りへルマン家に到着した。
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