前世を思い出したのは“ざまぁ”された後でした

佐倉穂波

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第二章

12 嫉妬

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 ウォルトとエミリオの協力を得られることになり、キアラからの相談事については一歩進むことが出来た。有力な情報が得られるかどうかはまだ分からないが、無理なときは別の手段を考えるしかない。取り合えずレイチェルたちが今、出来るのはここまでだろう。

「授業があるから俺は王宮に帰るが、レイチェルはもう少しここにいるんだろう?じゃあ、またな」
 時間を確認したアルヴィンは、慌てた様子で、レイチェルの返事も待たずに部屋から足早に出ていった。アルヴィンのいう授業とは学園の授業ではなく、王宮での授業のことだ。これまでサボっていた分、今はまじめに取り組んでいると聞いている。「チェリーも頑張ってるんだ。俺も頑張らないわけにはいかないだろ? それに“次期王としてこの国の民が誇れる王になるように努力する”とレイチェルにも宣言したしな」と、少し恥ずかし気に話していたことを思い出す。
  アルヴィンが改心し王位継承者としての自覚を持ってくれたことは純粋に嬉しいことだ。
「アルヴィン様も頑張ってますわね」
 レイチェルは、思わず呟いていた。
「嬉しそうですね」
 エミリオの言葉にレイチェルは頷く。
「ええ、少し昔とは随分と変わられましたから」
 今のアルヴィンは、とても努力している。だから、レイチェルも素直に応援したいと思える。
「アルヴィンが、もっと早く今のように頑張っていたら……貴女は……」
 エミリオが何か言いかけて口ごもる。
 その表情はどこか暗い。
「エミリオ様?」
 どうして表情を曇らせたのか分からず、レイチェルは心配そうにエミリオを覗き込んだ。
「えっと……」
 エミリオが気まずそうにレイチェルから目線を反らし、言葉を探すように目を閉じた。
「その……呆れないで聞いて頂けますか?」
 しばらく考え込んでいたエミリオは、反らしていた目線をレイチェルに合わせると、緊張したように尋ねてきた。
「え、ええ。どうされたのですか?」
 レイチェルは、戸惑い、目を瞬きながら頷いた。
「その……アルヴィンがもっと早く……以前から今のように真面目だったら…レイチェルさんとの婚約を破棄することもなかったはず……そう思ってしまったのです」
 それにと、エミリオは続ける。
「闇属性であることは、随分前に自分なりに受け入れているつもりでした。一人で過ごす事にも慣れているはずでした。でも、学園でアルヴィンとレイチェルさんが楽しそうに話をしている姿を見かけると、とてももどかしい気持ちになるんです」
 エミリオは、自分が人々の畏怖の対象となっていると自覚している。そのため、必要以上に人前に出ないように静かに過ごしていた。それは学園内でも同じで、授業以外では、人が来ないような場所を選んで休憩している。
 レイチェルは学園でもエミリオと一緒に過ごしたいと思っているが、「教室が遠いので、毎回レイチェルさんに来てもらうのは申し訳ない」と遠回しに断られていた。確かに2年生のレイチェルと3年生のエミリオの教室は階数も違うし、距離もかなり離れている。また、人気のない場所もレイチェルの教室からは遠い。エミリオは人目を避けているため、会うためには、必然的にレイチェルがエミリオの元に行くことになる。
 レイチェルに要らぬ噂が立たないように、エミリオは配慮しているのだろう。
 そんなエミリオが、アルヴィンとレイチェルの姿を見て、もどかしい気持ち──つまり嫉妬してくれている。
(呆れるはずなんてないわ)
 会えなくて寂しいと思っているのは自分だけではないと知って、レイチェルは嬉しかった。
「確かにアルヴィン様が昔から真面目でしたら、あのように目立った婚約破棄はされなかったかもしれません。でも……きっとそれでもチェリーさんを選んで、私との婚約は破棄していたと思います。あの婚約破棄や、その後の色々があったからこそ、アルヴィン様と今の関係が築けているのだと思うんです」
 前世の記憶を思い出したからこそ分かる。ゲームのようにアルヴィンが真面目になったとしても、それはチェリーの存在によるものだ。どのみちレイチェルとアルヴィンの婚約は破棄されるものだったのだ。前世を思い出す前のレイチェルでは、アルヴィンを変えることは出来なかっただろう。
「エミリオ様」
「はい」
 レイチェルは、エミリオの右手を包み込むように握った。
「以前の私は、アルヴィン様を婚約者として好きだと思っていました。だけどそれは、命を救われた事への感謝を、恋愛感情と勘違いしていたのだと思います」
 エミリオに恋をしたことで、前世を思い出す前にアルヴィンへ向けていた感情が、どういうものだったのか理解出来た。
「私はエミリオ様と一緒に居ると、とてもドキドキして、温かい気持ちになります。学園でエミリオ様が私と会わないようにしているのは、私のためなのだと分かっています。でも、他の人に何と噂されても良いので、エミリオ様と一緒にもっと居たいです」
「……ありがとうございます」
 エミリオが左手を優しくレイチェルの手の甲に添え、今度はレイチェルの手が包まれる形になる。見上げれば、少し顔を赤くさせたエミリオが微笑んでいた。
 添えられたエミリオの手に、ほんの少し力がこもる。
「私も、学園で貴女と過ごす時間を作っていきたいです。目立つのは、やはり抵抗があるので、貴女に迷惑をかけてしまいますが……」
「迷惑だなんて思いませんわ!嬉しいです」
 会えなくて寂しいと思っていた分、嬉しくて力が入ってしまい、身を乗り出した拍子にレイチェルは、ふらついてしまった。
「──っと」
 少し驚いた表情のエミリオが、慌ててレイチェルの身体を支え、そのまま優しく抱き締める。
「貴女の恋人になれて、私は幸せです」
 耳元で聞こえた少し低く耳障りの良い声と、その台詞に、レイチェルが赤面したのはいうまでもない。


 普段よりも物理的に距離が近付いた二人だったが、我に返るとお互いに照れてしまった。この後どうすれば……と固まってしまったが、ウォルトが新しい魔法道具を持って部屋に入ってきたので、甘酸っぱい空気は霧散したのだった。
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みんなの感想(45件)

るそお
2019.06.24 るそお

書籍から来ました。続きの更新楽しみにしています。
ウォルトの日常 回で、
難解 が 何回 になっていました。
またお時間あると 時にご確認ください。

佐倉穂波
2019.06.24 佐倉穂波

誤変換のご指摘ありがとうございます🙇修正致しました。
書籍から来て頂いたと言うことで……本当に感謝です。なかなか続きが更新出来ずに、すみません😣
これからも、宜しくお願いいたします❗

解除
うさぎん
2018.12.25 うさぎん

パティの名前がチェリーになってる?

佐倉穂波
2018.12.25 佐倉穂波

人物紹介のところですね!ありがとうございます

解除
毎日幸せ
2018.11.16 毎日幸せ

面白くて一気読みしちゃいました‼
アルヴィンがどのように更正していくのか、楽しみですd(⌒ー⌒)!!
レイチェルとエミリオの思いがどう交わっていくかも気になります(゜∇^d)!!
続き待ってます!

佐倉穂波
2018.11.16 佐倉穂波

毎日幸せさん

感想ありがとうございます🙇

解除

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