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第二章

11 協力者

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「今からウォルトに会いに行くが、レイチェルも来るか?」
 そう言われてレイチェルはアルヴィンとともに魔術協会を訪れていた。
 レイチェルも、騎士団と聞いて思い浮かべたのは、ウォルトの兄だった。
 ウォルトの兄は騎士団長補佐だ。もしかしたら、キアラの兄について情報を掴めるかもしれないとアルヴィンも考えたようだ。
「騎士団に関することだから俺だけで来ても良かったんだが……ウォルトと仲が良いお前がいる方が話が進みそうだからな。俺だけだと、適当にあしらわれる気がするし」
 馬車の中、アルヴィンはばつが悪そうに言った。
 相変わらず、アルヴィンはウォルトに苦手意識があるようだ。
「ウォルトさんって、相手の身分など関係なく思ったことを言いますからね。でも悪い方ではないですよ。話し方や態度で勘違いされやすいですけど」
 初対面の時を思い出し、レイチェルは笑う。
「悪いやつじゃないのは、わかっているんだがな」
 アルヴィンも、エミリオの友人が悪い人間だとは思っていない。自分の行いが悪かったのが原因だが、以前、ウォルトに棘のある言葉や態度をされたことが、少し気にかかっているだけなのだ。

 魔術協会に到着し、アルヴィンが職員にウォルトと面会したい旨を伝えようとしたが、それよりも先にレイチェルが職員に話しかけていた。
「ウォルトさんに会いたいのですが──今は他の方と面会中ですか? でしたら、その後に会いたいことを伝えて頂いても良いかしら」
 そういうとレイチェルは、躊躇うこともなく魔術協会の中へ入っていった。
「おい、今ので大丈夫なのか?」
 レイチェルの後を追って中に入って来たアルヴィンが困惑気味に聞いてくる。
 どこで待つとか、用件とか、そういった事は伝えなくても良いのかということだろう。
「ええ、いつも使わせて頂いているお部屋がありますので、そちらで待ちましょう」
 事も無げにレイチェルは言う。
「ここにはよく来るのか?」
「そうですね。魔力の検査とかで」
「魔力……そうか」
 レイチェルの魔力に関しては、アルヴィンは詳しく聞いていないが、チェリーが拐われた時に、複数の属性が混ざった結界を容易に解除したのを思い出す。「気が向いたら教える」と言われた手前、アルヴィンからは詳しくは聞きにくい話題だった。
「いつでも使って良いとウォルトさんから許可を貰っていますので、大丈夫ですわよ」
 アルヴィンの心情を知ってか知らずか、レイチェルはその話題には特に触れなかった。そうこうしている内に目的の部屋に辿り着いた。
(ここはウォルトの研究室にも近い部屋だな)
 一度ウォルトを訪ねたことのあるアルヴィンは、彼の研究室の場所を知っていた。
(自分の研究室の近くを、いつでも使って良いというくらいに、レイチェルは信用されているということか)
 レイチェルがウォルトと関わるようになったのは最近になってからだが、短い時間の中でお互いに信頼関係を築いてきたのだろう。そういう関係は、純粋に羨ましいとアルヴィンは思った。

 その後、ウォルトはすぐに部屋にやって来た。
 「今日は王子様も一緒だって聞いたけど、どうしたの~?」
  気の抜けるような声とともに部屋に入って来たウォルト。その後ろから、エミリオが顔を覗かせた。
「兄上」
「エミリオ様」
 アルヴィンとレイチェルの声が重なる。
「ウォルトと話していましたら、アルヴィンとレイチェルさんが来たと聞いたので……」
 ウォルトと面会していた相手は、エミリオだったようだ。
エミリオは「もし込み入った話でしたら席を外します」と遠慮気味に付け加えた。
「いえ、兄上が居てくださっても全く問題ありません。寧ろ相談させて下さい」
 アルヴィンの言葉にレイチェルも同意の意を示し頷いた。 
「で、何かあったの? お嬢さんはともかく、王子様がわざわざ僕を訪ねて来るのは珍しいよねぇ」
 近くの椅子に腰掛けながらウォルトが訪ねる。
「少し協力して貰いたいことがあって来たんだ。実は……」
 そう言って、アルヴィンとレイチェルは、キアラの兄デニス・マイヤーが騎士団内で怪しい行動をしていないか、ウォルトの兄に協力を得られないか相談した。
「うーん、兄さん時々しか帰って来ないから、最近顔を会わせること自体ないんだよな~。でもまぁ、連絡を取ることは出来るから、それとなく聞いてみるよ」
「助かる」
「アルヴィン、私も少しなら協力出来ると思うよ」
 話を聞いていたエミリオが口を開いた。
「本当ですか!」
「私の部屋から、騎士団の訓練場が見えるからね。それに、デニス・マイヤーは隣のクラスだったはずなので、それとなく行動を観察するくらいなら」
「ありがとうございます。助かります」
 願ってもない提案である。アルヴィンとレイチェルと表情を明るくさせたのだった。
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