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第二章
08 逢瀬
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翌日、レイチェルは魔術協会の図書館を訪れていた。
魔術協会には先日もチェリーと訪れたし、魔力検査のためにも度々来ているが、今回訪れた理由は別にあった。
昨日、アルヴィンが去り際に「明日、兄上は図書館に行くと言っていたぞ」と耳打ちしていったのだ。
リアとの会話でもあったように、レイチェルとエミリオが会うのは魔術協会の図書館が多い。それは黒髪黒眼を気にして生活しているエミリオが、自由に過ごせる場所の一つが図書館だからである。それに静かな図書館は、レイチェルにとってもお気に入りの場所だった。
想いが通じる前も今も、エミリオに対してドキドキしているのは変わらないが、今は無言になると、どうしたら良いのか分からず、「何か話さねば」とレイチェルは思ってしまう。エミリオも同じようで、お互い同時に何か話そうとして、譲り合い、そして気まずい無言の空気が流れるのが、最近の二人の様子だった。
それでも、少しでも一緒に過ごしたいと思ってしまう。
このままでは、何も進展しないのではないかと自分でも分かっていた。
しかし、恋愛初心者のレイチェルは現状で、いっぱいいっぱいなのだ。
(どうしたら良いのかしら……)
「あ、お嬢さん。今日は図書館に来たの?王子も、もう来てたよ~」
図書館へと続く廊下で立ち止まったレイチェルに声を掛けてきたのはウォルトだった。図書館からの帰りだろうか、両手で持っている箱の中には本や書類が沢山入っている。そして、ウォルトが言う“王子”はエミリオのことである。因みにアルヴィンのことは“王子様”と呼んでおり、言い方に少し棘が見え隠れしているのが特徴だ。
「こんにちは、ウォルトさん。前回、魔力検査をしたとき以来ですわね」
先日チェリーと魔術協会を訪れたときは、ウォルトは珍しく姿を現さなかったため、二週間ぶりくらいである。
「そうだね~。何だか難しい顔して悩んでるみたいだったけど、どうしたの?」
「ええ……ちょっと……」
エミリオとの関係を進展させるためにはどうしたら悩んでいるなんてウォルトに相談できないため、レイチェルは言葉を濁す。
(それに、ウォルトさんに色恋沙について相談しても……)
ウォルトは恋愛したことあるのだろうか?魔術大好き人間のウォルトが恋をしている姿が思い浮かばない。寧ろ、魔術や実験が恋人のように思う。
「なんか、失礼なこと考えた~?」
「いえ!何でもありませんわ!!」
異常に鋭いウォルトに、慌ててレイチェルは首を左右に振った。
「まぁ、いいけど……悩み過ぎても思考が迷子になるだけだから、話せる相手がいたら、ちゃんと相談するんだよ~。じゃあ、僕は研究室に戻るから、ゆっくりしていってね~」
どこまで分かって言っているのか分からないが、悩み事を無理やり聞きだすのではなく、的確なアドバイスをしてウォルトは去っていった。
図書館に入ると、すぐにエミリオの姿を見つけた。エミリオもレイチェルにすぐに気が付いたようだ。
「レイチェルさん、こんにちは。もうすぐ来る頃かなと思っていました」
ふわりと表情を崩すエミリオにドキッと胸が高鳴る。
「こんにちは、エミリオ様。もしかして、アルヴィン様から私が来ることを聞いていましたか?」
「はい。『兄上が図書館に行くこと伝えたから、予定を変えずに絶対に図書館に行ってくれ』と。誰にとは言いませんでしたが……私が会いたいと思う方は貴女以外にいませんので」
エミリオのこの発言は、おそらく無意識である。
時々、このような爆弾発言をされるため、レイチェルの心臓はいくつあっても足りない。
「あ、ありがとうございます」
思わず口から出たお礼の言葉に、エミリオも自分の発言に気が付いたようで、お互い耳まで赤くなってしまった。
「と、とりあえず……座って話をしましょうか……」
コホンと咳払いをしたエミリオが、レイチェルに手を差し伸べてきた。
普段とは違うエミリオの行動に、レイチェルは目を瞬く。エミリオを見れば、まだ顔と耳を赤くしたまま視線を泳がしている。普段の落ち着いた雰囲気とのギャップに、少しレイチェルの緊張が和らいだ。
「はい」
伸ばされた手のひらに、レイチェルが笑顔でそっと手を乗せると、エミリオがホッとしたように、肩の力を抜いたのが分かった。
「では、こちらへ」
案内された席に座り、レイチェルは最近の出来事――チェリーに礼儀作法の特訓をしていることや、同じクラスに休学していたソフィアが復学したことなどを話した。
エミリオはレイチェルの話に相槌を打ちながら、穏やかな表情で聞いてくれていた。
繋いだ手を離すタイミングが分からず、レイチェルの迎えが来るまでの一時間近く、そのまま二人は手を繋いで過ごしていたため、視線が絡まったときに甘酸っぱい空気になったのは言うまでもない。
丁度向かい側の二階から、ウォルトにその様子が見られていた事を二人は知らない。
魔術協会には先日もチェリーと訪れたし、魔力検査のためにも度々来ているが、今回訪れた理由は別にあった。
昨日、アルヴィンが去り際に「明日、兄上は図書館に行くと言っていたぞ」と耳打ちしていったのだ。
リアとの会話でもあったように、レイチェルとエミリオが会うのは魔術協会の図書館が多い。それは黒髪黒眼を気にして生活しているエミリオが、自由に過ごせる場所の一つが図書館だからである。それに静かな図書館は、レイチェルにとってもお気に入りの場所だった。
想いが通じる前も今も、エミリオに対してドキドキしているのは変わらないが、今は無言になると、どうしたら良いのか分からず、「何か話さねば」とレイチェルは思ってしまう。エミリオも同じようで、お互い同時に何か話そうとして、譲り合い、そして気まずい無言の空気が流れるのが、最近の二人の様子だった。
それでも、少しでも一緒に過ごしたいと思ってしまう。
このままでは、何も進展しないのではないかと自分でも分かっていた。
しかし、恋愛初心者のレイチェルは現状で、いっぱいいっぱいなのだ。
(どうしたら良いのかしら……)
「あ、お嬢さん。今日は図書館に来たの?王子も、もう来てたよ~」
図書館へと続く廊下で立ち止まったレイチェルに声を掛けてきたのはウォルトだった。図書館からの帰りだろうか、両手で持っている箱の中には本や書類が沢山入っている。そして、ウォルトが言う“王子”はエミリオのことである。因みにアルヴィンのことは“王子様”と呼んでおり、言い方に少し棘が見え隠れしているのが特徴だ。
「こんにちは、ウォルトさん。前回、魔力検査をしたとき以来ですわね」
先日チェリーと魔術協会を訪れたときは、ウォルトは珍しく姿を現さなかったため、二週間ぶりくらいである。
「そうだね~。何だか難しい顔して悩んでるみたいだったけど、どうしたの?」
「ええ……ちょっと……」
エミリオとの関係を進展させるためにはどうしたら悩んでいるなんてウォルトに相談できないため、レイチェルは言葉を濁す。
(それに、ウォルトさんに色恋沙について相談しても……)
ウォルトは恋愛したことあるのだろうか?魔術大好き人間のウォルトが恋をしている姿が思い浮かばない。寧ろ、魔術や実験が恋人のように思う。
「なんか、失礼なこと考えた~?」
「いえ!何でもありませんわ!!」
異常に鋭いウォルトに、慌ててレイチェルは首を左右に振った。
「まぁ、いいけど……悩み過ぎても思考が迷子になるだけだから、話せる相手がいたら、ちゃんと相談するんだよ~。じゃあ、僕は研究室に戻るから、ゆっくりしていってね~」
どこまで分かって言っているのか分からないが、悩み事を無理やり聞きだすのではなく、的確なアドバイスをしてウォルトは去っていった。
図書館に入ると、すぐにエミリオの姿を見つけた。エミリオもレイチェルにすぐに気が付いたようだ。
「レイチェルさん、こんにちは。もうすぐ来る頃かなと思っていました」
ふわりと表情を崩すエミリオにドキッと胸が高鳴る。
「こんにちは、エミリオ様。もしかして、アルヴィン様から私が来ることを聞いていましたか?」
「はい。『兄上が図書館に行くこと伝えたから、予定を変えずに絶対に図書館に行ってくれ』と。誰にとは言いませんでしたが……私が会いたいと思う方は貴女以外にいませんので」
エミリオのこの発言は、おそらく無意識である。
時々、このような爆弾発言をされるため、レイチェルの心臓はいくつあっても足りない。
「あ、ありがとうございます」
思わず口から出たお礼の言葉に、エミリオも自分の発言に気が付いたようで、お互い耳まで赤くなってしまった。
「と、とりあえず……座って話をしましょうか……」
コホンと咳払いをしたエミリオが、レイチェルに手を差し伸べてきた。
普段とは違うエミリオの行動に、レイチェルは目を瞬く。エミリオを見れば、まだ顔と耳を赤くしたまま視線を泳がしている。普段の落ち着いた雰囲気とのギャップに、少しレイチェルの緊張が和らいだ。
「はい」
伸ばされた手のひらに、レイチェルが笑顔でそっと手を乗せると、エミリオがホッとしたように、肩の力を抜いたのが分かった。
「では、こちらへ」
案内された席に座り、レイチェルは最近の出来事――チェリーに礼儀作法の特訓をしていることや、同じクラスに休学していたソフィアが復学したことなどを話した。
エミリオはレイチェルの話に相槌を打ちながら、穏やかな表情で聞いてくれていた。
繋いだ手を離すタイミングが分からず、レイチェルの迎えが来るまでの一時間近く、そのまま二人は手を繋いで過ごしていたため、視線が絡まったときに甘酸っぱい空気になったのは言うまでもない。
丁度向かい側の二階から、ウォルトにその様子が見られていた事を二人は知らない。
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