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第二章

04 ソフィアの印象

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「ソフィア・ベルナールですわ。宜しくお願い致します」
 教員室に呼ばれたレイチェルに、穏やかな笑顔で挨拶したのは、真っ白い髪と赤い瞳の儚げな少女だった。
 
「こちらが訓練室です。それから、あちらが更衣室ですわ」
 レイチェルは放課後、ソフィアに校内を案内していた。
 リアムが言っていたように学園に通う生徒で公爵家出身はレイチェルとハルトだけだ。ソフィアはレイチェルと同い年のため、当然のように同じクラスに配属された。そして、担任からも「学園に慣れるように、色々とフォローして欲しい」と頼まれたのだった。
(それは全く問題ないのですが……)
 レイチェルとしては、同じ公爵家の者として交流も深めたいと思っていたし、全く知らない環境に馴染めるように配慮することは当然だと思っている。なので、ソフィアに色々と教えることに対しては、特に疑問や不満はない。
(問題は……ものすごく、注目を集めていることですよね)
 これまでほとんど知られていなかった公爵令嬢の存在を、生徒たちは興味津々にみている。
 レイチェルが婚約破棄された後やチェリーと一緒にいる時にも皆の注目を集めたが、その時と同じくらい注目されていた。
(何だか、前世を思い出してから人目に晒されることが増えましたわね……)
 出来るのであれば静かに過ごしたいという気持ちがあるが、そうは問屋が卸さないらしい。今回の場合、注目を集めているのはレイチェルではなくソフィアなのだが……一緒にいるレイチェルも見られていることには相違ない。
(というか、私なんかよりもソフィアさんの方が居心地悪いですわよね。今まで領地で暮らしていたということは、こんなに人の多いところに来る機会もなかったでしょうし……)
 自分の心配よりも外の環境に慣れないソフィアを気にするべきだと思考を切り替え、レイチェルはチラリと隣を見る。しかし、当のソフィアは好奇の視線に全く動じているようには見えなかった。
(意外に大丈夫……のようですね?)
 説明に対して、微笑みながら静かに頷いているソフィアは、周囲の視線など気にしていないように見えた。その様子に少し安堵しながら、レイチェルはソフィアに尋ねた。
 
「何か分からない事や知りたい場所はありますか?」
 授業で使用する教室や食堂には案内したが、学園の敷地は広く全てを説明し案内するのは大変時間がかかる。一日はは無理だ。それに、日常生活は普通に行えると言っても、レイチェルに比べれば体力はないだろう。事実、ソフィアは復学初日の午後に体調を崩したため早退し、昨日も休んでいたのだ。
「いえ……その、こんなに広い場所に来るのは初めてで……一度には覚えきれそうにないですわ」
 ソフィアは少し困った表情でレイチェルの問いに答えた。その表情に少し疲労も窺える。
(少し歩き過ぎてしまったかしら……どこか休憩できる場所──そうだわ、今の時間ならカフェが良いですわね。ここから近いですし)
「まだ案内できていない場所もありますが、それはまた追々案内するとして、今日はここまでにしておきましょう。ソフィアさんは寮ではなくお屋敷から通われるのでしたよね?」
 ベルナール公爵家の領地は王都から少し離れているが、別邸がいくつか王都に存在しており、ソフィアはその別邸から通学していると聞いた。
「ええ、もう少ししたら迎えの馬車が来るはずですわ」
「では、それまでカフェで少し休みましょう。こちらですわ」
 レイチェルは、先程より少しゆっくりと歩くように心がけ、ソフィアをカフェへと案内したのだった。
 
「良かった、人が少ないのでゆっくり休めそうですわ。何か冷たいものを貰ってきますので、ソフィアさんは腰掛けていて下さい」
 レイチェルの予想していた通り、食堂に併設されている小さなカフェの店内には数人の生徒が居るのみで静かな空気が流れていた。ゆったりとしたソファに腰掛けるようにソフィアを促すと「すみません。ありがとうございます」と小さく返事が聞こえた。腰掛けたソフィアがホッと表情を崩したところを見ると、やはり疲れが溜まっていたのだろう。
 今日ほぼ一日共に過ごしたが、ソフィアは初めの印象通り“儚げな深窓の令嬢”だった。物静かな性格のようで、他の生徒から話しかけられたときも、静かな笑みを浮かべて対応していた。前世を思い出す前のレイチェルも物静かな令嬢だったが──“無表情”の印象が強く“物静か”を打ちけしていたようだ。
(昔の自分を悔やんではいませんが、もう少し表情筋が仕事をしてくれても良かったと思いますわ)
 そんなことを考えながらレイチェルは、冷たい果実水を受け取るとソフィアが座る席へ戻ろうと振り替える。


「レイチェル」
 聞き馴染みのある声に話しかけられ振り向くと、カフェの入り口にアルヴィンが立っていた。
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