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第二章
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──ガシャンッ
「お嬢様!?」
室内から何かが割れる音が聞こえ、驚いた侍女は慌てて扉を開けた。
部屋の主である少女は座り込み、周囲には割れた花瓶の破片が飛び散っている。
侍女は少女に走り寄る。
「大丈夫ですか?──お嬢様?」
侍女が少女に声を掛けるが返事はない。
訝しんだ侍女が少女の顔を覗き込むが、彼女は侍女が近付いたことにも、声を掛けられていることにも気が付いていないようで、うつろな目で虚空を見つめていた。
少女はつい先ほど父親から聞いた言葉が頭の中から離れなかった。
『アルヴィン様とコーリッシュ男爵令嬢が婚約した』
確かにそう聞いた。
「──っ、嘘よ……」
掠れた小さな声が、少女の喉から洩れる。
アルヴィンに相応しいのは自分だ……邪魔だと思っていたレイチェル・ヘーゼルダインはこちらが策を講じる前に、アルヴィンが婚約破棄してくれた。きっとアルヴィンも自分を婚約者にするために彼女との婚約破棄をしてくれたに違いない。だから、アルヴィンの婚約者になるのは自分だと、少女は信じて疑っていなかった。
チェリー・コーリッシュがアルヴィンの恋人であることは知っていたが、所詮男爵令嬢だ。愛人にでもするつもりだろうと思っていた。本当はそのことも腹立たしい気持ちになったが、自分は寛大な人間だから許してあげようと心の余裕をみせていたのに──まさか、婚約者にするなんて思いもよらなかった。
「そんなの……駄目よ……」
少女は目の前に散らばる花瓶の欠片をおもむろに手に取ると、側にあったクマのぬいぐるみを目掛けて手を振り落とした。
──ブツッ、ザクッ、ザクッ……。
布が裂け、中の綿が出てくる様を、狂気に満ちた目で少女は見る。
「そうよ……許されないわ……ふふふっ……あははははっ」
小さかった声は徐々に大きくなり、少女の壊れた笑い声は部屋に響き渡った。
「お嬢様!?」
室内から何かが割れる音が聞こえ、驚いた侍女は慌てて扉を開けた。
部屋の主である少女は座り込み、周囲には割れた花瓶の破片が飛び散っている。
侍女は少女に走り寄る。
「大丈夫ですか?──お嬢様?」
侍女が少女に声を掛けるが返事はない。
訝しんだ侍女が少女の顔を覗き込むが、彼女は侍女が近付いたことにも、声を掛けられていることにも気が付いていないようで、うつろな目で虚空を見つめていた。
少女はつい先ほど父親から聞いた言葉が頭の中から離れなかった。
『アルヴィン様とコーリッシュ男爵令嬢が婚約した』
確かにそう聞いた。
「──っ、嘘よ……」
掠れた小さな声が、少女の喉から洩れる。
アルヴィンに相応しいのは自分だ……邪魔だと思っていたレイチェル・ヘーゼルダインはこちらが策を講じる前に、アルヴィンが婚約破棄してくれた。きっとアルヴィンも自分を婚約者にするために彼女との婚約破棄をしてくれたに違いない。だから、アルヴィンの婚約者になるのは自分だと、少女は信じて疑っていなかった。
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「そんなの……駄目よ……」
少女は目の前に散らばる花瓶の欠片をおもむろに手に取ると、側にあったクマのぬいぐるみを目掛けて手を振り落とした。
──ブツッ、ザクッ、ザクッ……。
布が裂け、中の綿が出てくる様を、狂気に満ちた目で少女は見る。
「そうよ……許されないわ……ふふふっ……あははははっ」
小さかった声は徐々に大きくなり、少女の壊れた笑い声は部屋に響き渡った。
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