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1巻

1-2

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「待って、私がお父様の部屋に行くわ……一緒に来てくれる?」

 関係のないパティを巻き込むのははばかられたが、怒られることが分かっているところに一人で行くのには勇気が必要だ。
 少し弱気になったレイチェルは、パティにお願いしてみた。

「くっ……お嬢様から、こんなに可愛らしくお願いされる日が来るなんて! どこにでも一緒に行きますわ!」

 ベッドに腰掛けたままの体勢で上目遣いをしたレイチェルに、パティは大きく頷いたのだった。


 レイチェルの父であるリアム・ヘーゼルダインは、公爵であり、この国の宰相でもある。

(悪役令嬢が宰相の娘って、王道よね)

 そんなことを考えながら、レイチェルは廊下を歩く。
 リアムは、銀髪ぎんぱつ碧眼へきがん容姿端麗ようしたんれい、無表情……レイチェルは確実にリアムの血を受け継いでいた。
 もっとも、父リアムの場合は、無表情が“クールで格好良い”と言われている。妻子のいる今でも、貴婦人たちからひそかに人気なのだ、と使用人が話しているのを、レイチェルは聞いたことがあった。
 ちなみに若い頃は『氷の貴公子』と呼ばれていたらしい。

「お父様、レイチェルです。入ってもよろしいですか?」

 リアムの書斎の前にたどりいたレイチェルは、一回深呼吸をすると扉をノックする。

「入りなさい」

 それに応えて、部屋の中からリアムの重低音の声がした。

「――っ、失礼いたします」

 部屋の中に入ると、廊下に比べて室温が数度低い。
『氷の貴公子』の異名は、外見の特徴だけを示していたのではない。
 彼もレイチェルと同じ水属性の魔力を持っており、感情――特に怒りが、周囲の温度に影響を与えるのだ。
 つまり、部屋の温度が下がっているということは、リアムが怒っているということだった。

「レイチェル、体調はもう大丈夫なのか?」

 だが、レイチェルの体調を心配する声からは怒りを感じない。少し安心したレイチェルは、小さく息をついた。

「はい。熱はもう下がりました……それで、その……アルヴィン王子との婚約の件につきまして……――っ」

 レイチェルが婚約と言葉にした瞬間、一気に室温が下がる。

(あああっ、やっぱり怒ってる! 怖い!!)

 レイチェルはこの場から逃げたい気持ちで一杯になった。

「も、申し訳ありませんでした!」

 スライディング土下座を披露したいくらいの心境で、レイチェルはリアムに頭を下げる。

「レイチェル……その謝罪は何に対するものだ?」

 リアムが静かに問う。

「それは……その、身に覚えがないこととはいえ、私のせいで婚約を破棄されてしまったことについてです」

 実はレイチェルには、先程のパティの反応から一つの懸念を抱いていた。
 それは、これまでのレイチェルが無表情だったために、他者を“見下している”と誤解されていた可能性だ。

「そうか。確かに私が聞いた話によると、お前の行動が原因で婚約破棄を言い渡されたとなっている……身に覚えはないんだな?」

 リアムはもう一度、強く尋ねた。レイチェルは答える。

「はい。無表情ゆえ、誰かを不快にさせてしまったのかもしれませんが、他人を見下したことなどありません」

 それは胸を張って宣言できることだ。

「アルヴィン様は、それについて、問いただしたりはしなかったのか?」
「なさいませんでした」

 あの時、久しぶりにアルヴィンの声を聞いたくらいだ。
 そもそも、少しでもレイチェルの話を聞いてくれていたら、あんな結末には至らなかったはずである。

「……あのアホ王子が……っ」

 レイチェルの返事を聞いたリアムが絞り出すような声でつぶやくと、部屋の温度がさらに下降する。
 急激な温度変化により室内がビキビキと音を立てた。

(寒い! 窓、凍ってるんじゃ!?)

 リアムは魔力コントロールにけており、余程のことがなければこのような状況を起こしはしない。つまり今のリアムはそれほど怒っているということだ。

「王がなんとしてもレイチェルを嫁に欲しいと言って聞かないから、渋々婚約を許したというのに……こうも容易たやすく破棄するとは……しかも、原因をこちらになすりつけた上に、公衆の面前で――アホだアホだとは思っていたが、ここまでとは!」
(王様が私を望んだ? なんで? というか、寒いよ、お父様!!)

 自分の婚約は王家との結びつきを強くするために父親が望んだものだと思っていたレイチェルは、リアムの言葉に疑問を持った。
 けれど、今はそれ以上にこの寒さが問題だ。吐く息が白くなるほどに寒い。

(あ、パティは大丈夫かな……)

 パティが寒さにとても弱いことを思い出したレイチェルが後ろを振り返ると、彼女は青ざめた顔で立っているのがやっとの状態であった。

「お父様、パティがこごえてしまいます!!」

 レイチェルはあわててパティに駆け寄ると、魔力で防壁シールドを張る。

「すまない、怒りで魔力があふれてしまっていたんだな……」

 レイチェルの声でリアムも我に返り、気を静めた。いくらか寒さがましになる。
 ところが、レイチェルに支えられて立っているパティが、困惑の声を上げた。表情も戸惑とまどっている。

「……お嬢様?」
「どうしたの?」
「あ、あの……水属性のお嬢様が、なぜ風の防壁シールドを?」
「え?」
(風の防壁シールド? そんなもの張った覚えない……というか、張れないけど?)

 パティの言っている意味が分からず、レイチェルは自分の張った防壁シールドを見る。そこにはパティが言うとおり、風の防壁シールドがあった。

「え? ええ? なんで!?」

 基本的にこの世界で一人の人間が持つ魔力の属性は、生まれつき一つと決まっている。
 まれに何種類かの属性の魔力を持つ者もいるが、使いこなすには特別な修練が必要だ。間違っても無意識に使えるようなものではない。

(私、風の魔力なんて持ってないはずなのに、どうして使えるの!?)
「レイチェル、ちょっと良いか」

 驚愕きょうがくで固まるレイチェルに近付くと、リアムは彼女のひたいに手を当てた。

「確かに風の魔力を感じる……いや、風だけではないな……どういうことだ?」

 目をつむって真剣な表情で魔力を分析する父の姿に、レイチェルは不安を覚えた。
 水属性のレイチェルに風の魔力があるだけでも異常事態なのに、“風だけではない”とは、一体何が起こったのだろうか。

「魔術協会で調べたほうが良いな。朝食の後に出掛けるから、支度をしておきなさい」

 リアムが静かに宣言した。
 魔術協会とは、その名のとおり魔術にかかわる全ての事象を管理、研究している機関だ。
 この国では一歳の誕生日を迎えると、そこで属性検査を受けることになっている。もちろん、レイチェルも検査を受け、水属性と判断されていたのだが……
 婚約破棄の件でリアムのもとを訪れたはずが、思いもよらない展開になった。

「あの、お父様……先程までのお話は……」
「ああ、それは後で良い……馬車の中でも話せる」

 リアムにひかえめに声を掛けたものの、あっさりと流される。
 ついさっきまでアルヴィンに怒りをあらわにしていたリアムだが、娘の属性変化のほうが心配ということであろう。
 こうしてレイチェルは、父と共に魔術協会に行くことになった。


     *****


 朝食を済ませたレイチェルは、リアムに付き添われて魔術協会にやって来ていた。

「お父様、お仕事は大丈夫なのですか?」

 こうして一緒にいてくれるのは嬉しいが、リアムは同じ屋敷に住んでいてもほとんど会えないくらい多忙なのだ。

「しばらく休暇をもらっているから、大丈夫だ」

 レイチェルの心配をよそに、リアムはサラリと言う。
 ふとレイチェルが従者を見ると、彼はなんとも言えない苦笑をしていた。
 だが、リアム自身が何も言わないので、「大丈夫」なのだということにする。正直、一人で魔術協会の偉い人と会うのは心細い。
 あの後すぐにリアムが協会に使いを出していた。レイチェルの属性については、属性管理局局長が直々に対応すると連絡をもらっているらしい。
 二人は職員に案内され、協会本部の会議室のような部屋に通された。

「あっ、宰相様。何かお嬢さんが面白いことになってるって?」

 部屋の中に入ると、軽い調子でリアムに話し掛ける声が聞こえてきた。
 声のほうを見ると、二十代なかばのいかにもチャラそうな外見の青年が椅子に座っている。
 白衣を着ているので、研究員だろう。

(面白いことって婚約破棄のこと? それとも属性が変化した件? 魔力の属性変化が“面白いこと”なら、まぁ、研究員ならそう思うかもしれないけど、……婚約破棄のことだったら、すごく失礼だわ!)

 レイチェルは心の中で不満をこぼす。
 リアムも同じことを思ったようで、青年に問い掛けた。

「ウォルト……その“面白いこと”は、何に対して言っているんだ?」
「両……――やだなぁ、属性の変化に決まってるじゃないですか~」
(今、絶対「両方」って言いかけた……)

 レイチェルの中で、青年は『失礼な奴』認定される。

「お父様、この方はどなたですか?」
「ああ、ウォルト・ハネスト。属性管理局の局長だよ……見えないがね」

 溜息ためいきをつきながら、リアムが青年を紹介する。
 よく考えれば、属性管理局局長が対応すると言われてこの部屋に案内されたのだから、彼がそうであると判断できても良かったのだが……あまりにチャラかったので分からなかったのだ。

「よろしくね、お嬢さん」

 驚きの表情のまま固まるレイチェルに、ウォルトはヒラヒラと手を振って挨拶した。
 間違っても機関のおさのとる態度ではないが、父は特に何も言わない。
 ウォルトもリアムに気を遣う様子はなかった。普段から、このような態度なのだろう。

「じゃあ、さっそくお嬢さんの属性を見てみようか~。はい、この石を持って魔力を込めてみて」

 ウォルトは、軽い調子でそう言って、水晶のような透明な石をレイチェルに手渡す。
 石は判定石と呼ばれるもので、その名のとおり魔力の属性を判定する際に使用されている。水属性なら青、火属性なら赤といったように、伝わる魔力によって属性特有の色に変化するものだ。
 レイチェルはウォルトの言葉に従い、石に魔力を込めた。
 結果、石の中は青・赤・黄・緑が混ざり合ったマーブル模様に変化する。――そして砕け散った。


「……」
「……」

 予想外の事態に、レイチェルとリアムは言葉を失った。
 沈黙を破ったのはウォルトだ。

「わぁ、ホントに面白いことになってるねぇ。判定石が砕けるとか初めてだ~。砕け散る前の色は基本属性全部入ってたし……すっごいなぁ」

 口調は変わらず軽いが、表情は先程と違い、真剣なものになっている。

「基本属性全てだと? そんなことが有り得るのか?」
「まぁ、前例がないわけではないんですけど、稀少なんであんまり文献もないですねぇ~。お嬢さん、体調とか大丈夫なの?」
「え、えぇ……特になんともありません」

 いて言えば前世の記憶を思い出したせいで高熱を発したが、その説明はややこしくなりそうだったのでめておく。

「それなら良かった。けど……もう少し詳しく調べないと、本当にこの先も大丈夫かどうかは、なんとも言えないなぁ。お嬢さんは今から時間ある?」

 元々、学園には休みと届けている。
 時間に余裕があったレイチェルは、静かに頷いた。


 結局ウォルトの言う「もう詳しく」は、全く少しではなかった。
 レイチェルは検査に一日をついやしてしまう。
 リアムは途中で従者と一緒に、渋々屋敷に戻っていた。宰相であり公爵でもある身には、外せない仕事が多々あるのだ。

(……疲れた)

 全ての検査を終えたレイチェルは、初めに通された部屋で椅子に座り、小さく溜息ためいきをつく。

「お疲れ様~。結果は、う~ん、やっぱり原因は分からなかったんだよね……まぁ、他は正常だから、このまま様子を見てても大丈夫だと思うんだけど……お嬢さんは水属性以外の魔法も簡単に使えるんだよね?」
「ええ……」

 検査で分かったのは、使いたい力を思い浮かべるだけで、レイチェルが水以外の属性魔法も発動できることだった。

「それってさ、無意識に使っちゃう可能性もあるよねぇ……」

 自分の持つ魔力の属性が変化していることに気が付いたのは、無意識に風の防壁シールドを展開したせいだ。その可能性は大いに有り得る。
 レイチェルはこくりと頷く。

「属性が変化したことは、他の人に言わないほうが良いと思うんだけど……使っちゃったらバレちゃうね~」

 ウォルトの言うとおり、基本属性全ての魔術が使えることは不用意に他言するべきではない、とレイチェルも思っている。
 これは、とても便利で他人がうらやむ力だ。強大な力は、波乱の原因になりかねない。
 それに今は体調に問題がなくても、使用しているうちに負荷がかかる可能性もある。

「う~ん、何か良い方法――あっ、そうだ……お嬢さん、もう少し待ってもらっていい? 多分、今日は彼が来てるはずだから~」

 そう言うとウォルトは、レイチェルが「彼って、どなたですか?」と質問する前に、部屋から出ていった。


 ほどなくしてウォルトが誰かをともなって戻ってきた。

「お待たせ~。――こっちだよ、王子」

 レイチェルは「王子」という言葉に、一瞬身構える。けれど、姿を現したのはアルヴィンではなかった。

「ウォルト……せめて何か説明をしてくださ――レイチェルさん?」
「エミリオ様?」

 ウォルトに引っ張られるように部屋に入ってきたのは、第一王子のエミリオ・ランドールだ。

「なぜレイチェルさんがここに……?」

 エミリオが困惑の表情を浮かべているあたり、ウォルトはなんの説明もせずに彼を連れてきたのだろう。
 レイチェルもどうしてウォルトがエミリオを連れてきたのか分からず戸惑とまどった。

「……この度は弟が大変なご迷惑をお掛けしてしまい、本当に申し訳ありません」

 エミリオがレイチェルに申し訳なさそうに告げた。弟とはもちろんアルヴィンである。

「い、いいえ、エミリオ様が謝罪する必要なんてありませんわ!」

 エミリオが頭を下げたことで我に返ったレイチェルは、あわてて椅子から立ち上がり首と手を横に振った。

「しかし……」

 まだ表情をくもらせているエミリオに、「本当に大丈夫です」と笑顔を返す。
 アルヴィンに対していきどおりを感じているのは事実だが、兄であるからといってエミリオが謝る必要はない。
 レイチェルの笑顔を見たエミリオは、一瞬目を見張ったものの、強張こわばっていた表情を徐々にゆるめた。

「レイチェルさんは、少し……変わりましたね」
「ええっと……そうですね。少し前の私は、上手に表情を作れなかったので……」

 自分の笑みを見たパティの驚きようを思い出しながら、レイチェルは答える。
 魔術協会に来る馬車の中で、リアムにも「雰囲気が変わったな」と言われた。その時レイチェルは、なんと答えるべきか悩んだのだ。
 属性変化のことだけでも父に心配を掛けているのに、「前世を思い出した」など、さらに混乱させそうで言えない。
 なので、「アルヴィン様に婚約破棄されて、色々吹っ切れましたので」と誤魔化した。
 しかし、弟の所業に心を痛めているらしいエミリオに、同じようには返せない。レイチェルは歯切れ悪く答えた。
 けれどエミリオが言いたかったのは、表情のことではなかったらしい。

「あ、いえ……確かに表情というか雰囲気も変わったなと思ったのですが……その、以前は私と話す時、緊張していたように見えたので……」
「それは……」

 エミリオは聡明で品行方正、物腰も柔らかく優しい王子だ。れっきとした現国王と王妃の息子だし、第二王子のアルヴィンよりもよっぽど王位継承者に相応ふさわしい。
 それにもかかわらず、エミリオは王位継承権を持っていなかった。
 なぜなら、彼が黒髪に黒眼だからだ。
 前世では見慣れた色合いのそれは、この世界では違った意味を持っている。
 黒髪黒眼は“闇属性”のあかしだ。
 魔力の基本属性は、水・風・土・火であるが、ごくまれに光、または闇属性の魔力を持つ者が生まれる。
 そして、他の属性の魔力を持つ者は髪も目の色も決まっていないのに、闇属性の者だけは必ず黒髪黒眼で生を受けた。
 また、光属性の魔力保持者が崇拝されているのとは逆に、闇属性は畏怖いふの対象となっていた。
 それゆえに、エミリオは王位を継げないのだ。
 属性が違うからと差別するのは間違っている。
 元々のレイチェルもそう考えていた。けれど、心の奥ではエミリオを怖がる気持ちもあった。それを彼は、敏感に感じ取っていたのだろう。

「そう……ですね。以前の私は、エミリオ様の闇属性が少し怖かったみたいです。でも、今は全く怖いと思っていません! ――えっと、エミリオ様?」

 元日本人の感覚からすると、黒髪黒眼は馴染なじみ深くなつかしい色である。色とりどりの髪色をしたアルヴィンや他の攻略対象より親しみやすいくらいだ。
 意気込んで答えたレイチェルを見て、一瞬戸惑とまどったような表情をしたエミリオだったが、すぐに柔らかい笑みを浮かべた。

「いえ……その、ありがとうございます」
「――っ」

 アルヴィンの婚約者だったレイチェルは、これまでにもエミリオと会う機会があり、彼の笑顔も何度も見たことがあった。
 しかし、今のように少し照れを含んだ顔を見たのは初めてで――なぜか胸が、ドクンと跳ねる。

(……なんだか、顔が熱くなってきた気がする)

 顔に熱が集まってくるのを自覚したレイチェルは、誤魔化すように首を軽く振る。

「と、ところで、ウォルトさんは、なぜエミリオ様を引っ張ってきたのですか?」

 見ると、ウォルトは奥の小部屋に引きこもり、何かを探していた。ゴソゴソと物をける音が聞こえる。

「んー、ちょっと待って――あ、あった」

 目当ての物を見つけたらしい彼が、戻ってきた。その手には白い石を持っている。
 属性の判定石に似ているが、色が違った。

「お嬢さんの属性のことは他の人には言わないほうがいいってさっき言ったけど、王子には教えても良い? ちょっと協力してもらおうと思うんだ……王子の人となりは僕が保証するよ」
「エミリオ様のことは信用していますので、話しても大丈夫ですわ」

 エミリオが、他人に不利益をもたらすかもしれない話を吹聴ふいちょうしたり、利用したりするような人物ではないことは、知っている。レイチェルはウォルトの申し出を快諾した。

「あの……お二人が信用してくれるのは嬉しいのですが、全く話が見えません……」

 二人のやり取りを聞いていたエミリオが、困惑したように言う。何も説明されずに連れてこられたらしいから、当然の反応だ。

「あはは、ごめん、ごめん。実は――」

 軽い調子で謝った後、ウォルトがエミリオに説明した。


「――属性が変化……基本属性全てに、ですか? そんなことってあるんですね」

 説明を聞き終えたエミリオは、考え込むようにつぶやく。

「古い文献で読んだことはあるんだけどね~、実際に見たのは僕も初めて……珍しいよね~」

 珍獣みたいに言わないでほしいとレイチェルは思った。

「それで、私に協力させたいことがあると、先程言っていましたが……具体的に、何をしたら良いのですか?」
「うん、お嬢さんの魔力属性が変化したことは、あまり人に知られないほうが良いと思うんだ。だけど、今のままじゃ、無意識に力を使っちゃうかもしれないみたいなんだよね……それで、王子に魔力の調整をお願いしたいんだ~」

 ウォルトの説明を聞き「そういうことですか」と納得するように頷くエミリオ。
 逆にレイチェルは、なぜ、魔力の調整をエミリオに頼むのか分からず、首をかしげた。

「そっか、お嬢さんは知らないか……えっと、王子が闇属性なのは知っているよね? 闇属性はみんなに恐れられているせいで、どんな力なのかあまり知られていないけど、基本属性の力を制御できるんだよ。だから、王子の力を使えば、お嬢さんが水属性以外の力を無意識に使わないようにできるんじゃないかな~と思うんだ~」
「え? そう簡単にできるんですか?」
「理論的には可能だよ。この石に王子の魔力を蓄積させて、僕が、お嬢さんの魔力に合うよう細かく調整する。その石をお嬢さんが持っていれば、力の制御ができるって寸法さ~」

 ウォルトは軽く言ってのける。
 今までほとんど例のない事態だと言っていたのに、対応策をこんな短時間で出す彼に、レイチェルは驚いた。属性管理局局長の名は伊達だてではないらしい。
 エミリオもそう感じたのか、少し驚いた表情をしている。だが、すぐにウォルトに手を差し出した。

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