6 / 7
(リュカリスside)困惑
しおりを挟む
ある日、研究室の扉をノックする音がした。
誰かが僕の研究室を訪ねて来るのは珍しい。
たまたま資料を取るために扉の近くに居たから、何となく扉を開けてみた。
普段は面倒だから、居留守を使う事も多い。
扉を開けたのは気まぐれだった。
「こ、こんにちは、リュカリス様」
知らない女子だった。
僕は、扉を開けた事を後悔した。
「君は誰だ?僕は知らない人物とは関わりたくないんだ」
相手の反応を確認することもなく、僕は扉を閉めた。
こういう対応をしておけば、大概の者はもう来ない。
しかし、翌日も翌々日も少女は現れた。
何を好んで、こんなに冷たく接している相手に会いに来るのだろうか。
「またか……知らない人物とは関わりたくないと言っているだろう?」
「今日で三日顔を合わせました。なので、知らない人物ではありません」
そんな屁理屈を笑顔で言われても困るので、冷たい視線で見下ろす。
(あー、やっぱりリュカリス様かっこいい)
聴こえてきた少女の心の声。
いつもは心の声が聴こえる間もなく扉を閉めていたから、少女の声が聴こえたのは初めてだった。
(──!?)
驚いて、僕は反射的に扉を閉めていた。
「……は?」
聞きなれない好意的な内容に、理解が追い付かない。
笑顔で蔑まれることなら慣れている。
しかし、好意的な反応はほとんど経験ないから、反応に困る。
「いや、きっと聴き間違えたんだな」
果たして冷たく門前払いされてまで、嫌いな人間に毎日会いに来るものなのか?という疑問は考えないようにした。
その翌日も少女は現れた。
「ミリアと言います。リュカリス様」
ミリアと名乗った少女は、リュカリスが扉を開けると嬉しそうに笑顔になり、聞いてもないのに自己紹介してきた。
(今日もお話ができて嬉しい。それに、やっと名前を伝えられたわ)
(やっぱり、カッコいい)
そして、この心の声。
聞き間違いではなかった。
「はぁ……聞いてない。帰ってくれ」
どうもこれまで関わってきた人間とは毛色の違う思考で困る。
呆れ混じりの視線を投げ掛けても(目が合った!)と喜ぶ始末だ。
でも不快ではなかった。
こんな表情も心の声も同じ人間もいるんだな。
扉を閉めてミリアの姿が視界から消えたあとも、しばらく彼女の笑顔が脳裏から消えなかった。
ミリアが僕の研究室を訪ねて来るようになって五日目になった。
いつものように聞こえた扉をノックする音が聞こえたので、椅子から立ち上がり扉に向かう。
はじめは対応するのが億劫だったのに、たった数日で面倒だとは思わなくなった。好意を示してくれているとはいえ、あまり他人と関わりたくないのは変わらない。というより、正直あんな感情を示されたことがないから、どう対応すれば良いのかわからない。
今日も門前払いの予定だが、ミリアに会うこと自体に不快感はなかった。寧ろ──この、くすぐったい気持ちは一体どんな感情だろう。
扉を開けると、いつものように笑顔のミリアが立っていた。
(……顔が白い)
表情も心の声もいつもと同じ。だけど、顔色が明らかに悪かった。呼吸も乱れている。隠そうとしているみたいだが、具合が悪いのは一目瞭然だった。
「……入って」
ここで門前払いするのは気が引けた。
僕はミリアを研究室に入れた。
他人を研究室の中に入れたのは初めてだった。
おそらく、他の人間だったら躊躇なく扉を閉めていただろう。しかし、五日間も純粋な好意を示してくる相手に対して情が沸かないはずがない。
ソファーに座ると意識を失うように眠ってしまったミリアに、毛布を掛けてやる。
(いい匂い……ホッとする)
意識が消える前の残思でも、ミリアは僕に好意的だった。
ミリアの心の声は温かい。
「……どうしてだ?」
無意識に呟いた言葉は、眠ってしまったミリアには届かなかった。
しばらくして起きたミリアの顔色は、少し良くなっていた。
いつも通り素っ気ない態度で帰宅を促したが、「また明日」という言葉に「ああ」と応えていた。
僕は人間嫌いだ。
だけど、ミリアと明日の約束をするのは、嫌ではなかった。
誰かが僕の研究室を訪ねて来るのは珍しい。
たまたま資料を取るために扉の近くに居たから、何となく扉を開けてみた。
普段は面倒だから、居留守を使う事も多い。
扉を開けたのは気まぐれだった。
「こ、こんにちは、リュカリス様」
知らない女子だった。
僕は、扉を開けた事を後悔した。
「君は誰だ?僕は知らない人物とは関わりたくないんだ」
相手の反応を確認することもなく、僕は扉を閉めた。
こういう対応をしておけば、大概の者はもう来ない。
しかし、翌日も翌々日も少女は現れた。
何を好んで、こんなに冷たく接している相手に会いに来るのだろうか。
「またか……知らない人物とは関わりたくないと言っているだろう?」
「今日で三日顔を合わせました。なので、知らない人物ではありません」
そんな屁理屈を笑顔で言われても困るので、冷たい視線で見下ろす。
(あー、やっぱりリュカリス様かっこいい)
聴こえてきた少女の心の声。
いつもは心の声が聴こえる間もなく扉を閉めていたから、少女の声が聴こえたのは初めてだった。
(──!?)
驚いて、僕は反射的に扉を閉めていた。
「……は?」
聞きなれない好意的な内容に、理解が追い付かない。
笑顔で蔑まれることなら慣れている。
しかし、好意的な反応はほとんど経験ないから、反応に困る。
「いや、きっと聴き間違えたんだな」
果たして冷たく門前払いされてまで、嫌いな人間に毎日会いに来るものなのか?という疑問は考えないようにした。
その翌日も少女は現れた。
「ミリアと言います。リュカリス様」
ミリアと名乗った少女は、リュカリスが扉を開けると嬉しそうに笑顔になり、聞いてもないのに自己紹介してきた。
(今日もお話ができて嬉しい。それに、やっと名前を伝えられたわ)
(やっぱり、カッコいい)
そして、この心の声。
聞き間違いではなかった。
「はぁ……聞いてない。帰ってくれ」
どうもこれまで関わってきた人間とは毛色の違う思考で困る。
呆れ混じりの視線を投げ掛けても(目が合った!)と喜ぶ始末だ。
でも不快ではなかった。
こんな表情も心の声も同じ人間もいるんだな。
扉を閉めてミリアの姿が視界から消えたあとも、しばらく彼女の笑顔が脳裏から消えなかった。
ミリアが僕の研究室を訪ねて来るようになって五日目になった。
いつものように聞こえた扉をノックする音が聞こえたので、椅子から立ち上がり扉に向かう。
はじめは対応するのが億劫だったのに、たった数日で面倒だとは思わなくなった。好意を示してくれているとはいえ、あまり他人と関わりたくないのは変わらない。というより、正直あんな感情を示されたことがないから、どう対応すれば良いのかわからない。
今日も門前払いの予定だが、ミリアに会うこと自体に不快感はなかった。寧ろ──この、くすぐったい気持ちは一体どんな感情だろう。
扉を開けると、いつものように笑顔のミリアが立っていた。
(……顔が白い)
表情も心の声もいつもと同じ。だけど、顔色が明らかに悪かった。呼吸も乱れている。隠そうとしているみたいだが、具合が悪いのは一目瞭然だった。
「……入って」
ここで門前払いするのは気が引けた。
僕はミリアを研究室に入れた。
他人を研究室の中に入れたのは初めてだった。
おそらく、他の人間だったら躊躇なく扉を閉めていただろう。しかし、五日間も純粋な好意を示してくる相手に対して情が沸かないはずがない。
ソファーに座ると意識を失うように眠ってしまったミリアに、毛布を掛けてやる。
(いい匂い……ホッとする)
意識が消える前の残思でも、ミリアは僕に好意的だった。
ミリアの心の声は温かい。
「……どうしてだ?」
無意識に呟いた言葉は、眠ってしまったミリアには届かなかった。
しばらくして起きたミリアの顔色は、少し良くなっていた。
いつも通り素っ気ない態度で帰宅を促したが、「また明日」という言葉に「ああ」と応えていた。
僕は人間嫌いだ。
だけど、ミリアと明日の約束をするのは、嫌ではなかった。
37
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説
ポンコツ悪役令嬢と一途な王子様
蔵崎とら
恋愛
ヒロインへの嫌がらせに失敗するわ断罪の日に寝坊するわ、とにかくポンコツタイプの悪役令嬢。
そんな悪役令嬢と婚約者のゆるふわラブコメです。
この作品は他サイトにも掲載しております。
悪役令嬢ではあるけれど
蔵崎とら
恋愛
悪役令嬢に転生したみたいだからシナリオ通りに進むように奔走しよう。そう決意したはずなのに、何故だか思った通りに行きません!
原作では関係ないはずの攻略対象キャラに求婚されるわ悪役とヒロインとで三角関係になるはずの男は一切相手にしてくれないわ……! そんな前途多難のドタバタ悪役令嬢ライフだけど、シナリオ通りに軌道修正……出来……るのか、これ?
三話ほどで完結する予定です。
ゆるく軽い気持ちで読んでいただければ幸い。
美食家悪役令嬢は超御多忙につき
蔵崎とら
恋愛
自分が悪役令嬢だと気が付いているけれど、悪役令嬢というポジションを放棄して美味しい物を追い求めることにしました。
そんなヒロインも攻略対象キャラもそっちのけで珍しい食べ物に走る悪役令嬢のお話。
この作品は他サイトにも掲載しております。
お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました
群青みどり
恋愛
国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。
どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。
そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた!
「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」
こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!
このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。
婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎
「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」
麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる──
※タイトル変更しました
継母であるお義母様がある日を境に突然優しくなったのですが、そんなお義母様を怪しむ使用人達よりもっとお義母様に甘えたい
下菊みこと
恋愛
主人公はジュスティーヌのつもり。主人公では無く継母が転生者なお話。
小説家になろう様でも投稿しています。
(完結)妹の婚約者である醜草騎士を押し付けられました。
ちゃむふー
恋愛
この国の全ての女性を虜にする程の美貌を備えた『華の騎士』との愛称を持つ、
アイロワニー伯爵令息のラウル様に一目惚れした私の妹ジュリーは両親に頼み込み、ラウル様の婚約者となった。
しかしその後程なくして、何者かに狙われた皇子を護り、ラウル様が大怪我をおってしまった。
一命は取り留めたものの顔に傷を受けてしまい、その上武器に毒を塗っていたのか、顔の半分が変色してしまい、大きな傷跡が残ってしまった。
今まで華の騎士とラウル様を讃えていた女性達も掌を返したようにラウル様を悪く言った。
"醜草の騎士"と…。
その女性の中には、婚約者であるはずの妹も含まれていた…。
そして妹は言うのだった。
「やっぱりあんな醜い恐ろしい奴の元へ嫁ぐのは嫌よ!代わりにお姉様が嫁げば良いわ!!」
※醜草とは、華との対照に使った言葉であり深い意味はありません。
※ご都合主義、あるかもしれません。
※ゆるふわ設定、お許しください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる