余命宣告されたモブ令嬢と隠しルートの人見知り魔術師

佐倉穂波

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(リュカリスside)人嫌い

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 僕は人間が嫌いだ。
 善人顔していても、心の中では他人を蔑んでいる人間をこれまで幾人も見てきた。
 これは、僕の被害妄想ではない。

「あなたは大人しくて良い子ね」
(本当、ちっとも子供らしくない子)
 初めて他人の心の声が聴こえたのは子供の頃、母親の声だった。
 耳に聞こえる優しい声と、脳内に聴こえる冷たい声。相反する言葉に疑問を持ち、じっと母親を見つめた。
「どうしたの?」
(じっと見てきて何かしら、気味が悪い)
「……何でもない」
 この時、脳内に聴こえるのは心の声なのだと気が付いた。
 優しい母親だと思っていた。
 僕は愛されていると思っていた。
 しかし、本当は愛されて居なかったのだ。

 その出来事を皮切りに、他人の心の声が度々聴こえるようになった。

「リュカリス様は麗しいですね」
(顔は良いけど、この真っ赤な瞳は血の色みたいで気持ちが悪いな)
「その年で魔術師の試験に受かるなんて、素晴らしい」
(化け物みたいな魔力だな)
 耳障りの良い言葉とは裏腹に、心の声は酷く淀んだ負の感情。
 僕に対してだけだったら、「嫌われてるんだな」と悲しい気持ちになるだけだったけど、聴こえて来るのは僕に対してだけではなかった。
 一見仲が良さそうな友人たちが、心の中ではお互いを罵り合う。そんな場面を何度も経験した。

 こんなのを物心つく頃から経験してたら、人間嫌いになっても仕方ないだろ?

 幸い、入学してすぐに魔術師の資格を取ったおかけで、研究室を一室与えられた。
 僕は基本的に研究室で過ごすようになった。
 長期休暇も研究を理由に家には帰らなくてすむ。
 魔道具の作成の依頼は、通信系の魔道具を使っているから、他人と対面することはない。
 研究室は最適な環境だった。

 周囲から僕は「人嫌い」でなく「人見知り」だと認識されているみたいだけど、人とか関わりたくないのは同じだから、わざわざ訂正する気もなく過ごしていた。
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