上 下
13 / 13

13 お友達

しおりを挟む
 小さな時の記憶を思い出したディックは、正直に答えます。
「覚えてたというか……思い出したというか……ねぇ、何してるの?」
 座り込むディックの耳を、リリアが興味深そうにさわさわと触っていました。
「わぁっ、フワフワだぁ」
 リリアの目はキラキラ光っています。
「ちょっとっ、くすっぐったいからっ!」
 遠慮がちに触ってくるのが、逆にくすぐったくて、ディックは耳をパタパタと動かします。
「わっ……ごめんなさい、勝手に触って」
 リリアは謝って、手を離してくれましたが、今度はディックの尻尾をジッと見つめています。
「尻尾フサフサ……触っても良い?」
 勝手に触ったらダメなら、きちんと確認してから触ろうと、ウズウズした表情でリリアはディックに尋ねました。
「えー……強く引っ張らなければ……あ、弱すぎるのもちょっとイヤかも」
 あまりに期待に満ちた表情で聞かれたので、ディックは思わず触って良いと返事をしてしまいました。
「ありがとう! わぁ、やっぱりフサフサ! それにツヤツヤだわ」
 ディックの要望(?)通り、絶妙な力加減でリリアは尻尾を撫でます。
(なんだ、このやり取り……)
 リリアに対しては、もう「人間怖い」なんて感情は浮かんで来ないディックは、力が抜けたように息を吐きました。

「なのね、オオカミさん。さっきも、小さな時も助けてくれて、ありがとう」
 リリアはディックの尻尾を撫でながら、真面目な声でお礼を言いました。
「私、ずっとオオカミさんに会いたかったの。会えて嬉しい」
 ディックは、振り返ってリリアを見ます。リリアは、とても嬉しそうに微笑んでいました。その表情を見て、ディックの心臓はドキッと跳ねます。
「ど、どういたしまして」
 ディックは赤くなった顔を見られないように、リリアから顔を反らしながら返事をしました。でも、フワフワの耳はペタンッと伏せてしまっていますし、少し見える頬っぺたは赤くなっているのが、リリアには見えていました。
(良かった、嫌がられてはいないみたい)
 その反応にリリアは嬉しくなりました。
「オオカミさん、私とお友達になって下さい」
 リリアはディックに恋しているので、本当は恋人になりたいと言いたいところですか、きっとそんな事を言ったら困らせてしまいます。
(お友達から……そして、もっと仲良くなれたら告白しよう)
 そんな計画を考えつつ、リリアはディックに手を差し出しました。
 割とグイグイくるリリアに困惑しながら、ディックは差し出された手を反射的に握り返していました。
(あ、思わず握っちゃった……まぁ、良い子みたいだし、いいか)
「わかった。いいよ」
「ありがとう、オオカミさん!」
 まずは「友達」になることが出来て、リリアは喜びます。これで、森に会いに来る理由が出来ました。
「……ディック」
「え?」
「僕の名前。友達だから」
 照れ隠しなのか、少しぶっきらぼうにディックが名前を教えてくれました。
「ありがとう、ディックさん」
 本人の口から聞きたかった名前を、ようやく聞くことがでしました。これで、堂々と呼ぶことが出来ます。
 リリアは喜びのあまり、ディックの首に抱きつきました。

 その後、ディックの慌てたような、間抜けな悲鳴が森の中に響いたのでした。

─ 完 ─
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

マイマイン
2024.10.01 マイマイン

全部読ませていただきました。最後は二人が幸せになって良かったです。ほっこりな雰囲気が良いですね。
虹色市誕生が完成したので、良かったらどうぞ。

佐倉穂波
2024.10.01 佐倉穂波

感想ありがとうございます
ディックは、いざと言うとき便りになるヘタレです(*^▽^)/★*☆♪

マイマインさんの作品も、読ませて頂きますね(`・ω・´)ゞ

解除
マイマイン
2024.09.22 マイマイン

 新しく小説が載っていたので読んでみました。ほのぼの系の小説いいですね、狼の獣人のディック君、可愛いですし、いい子ですね。今、5章まで読みましたが、この後、どうなるか楽しみです。いいねのポイントを付けさせてもらいました。

佐倉穂波
2024.09.22 佐倉穂波

 いつも読んでくださり、ありがとうございます!ディックは、とても良い子なんですよ✨完結までの目処がたったので、今日から更新ペースを上げてます。続きをお楽しみ下さい(*^^*)

解除

あなたにおすすめの小説

すずめのチュンコ

こぐまじゅんこ
児童書・童話
おじいさんを亡くして、かなしんでいるおばあさんの家の庭に、 ある日、すずめがふらふらと落ちてきました。

ころころ どんぶらこ

文野志暢
児童書・童話
あるところに桃が川をどんぶらこと流れていました。 流れ着いた先はなんと……!?

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

おちゅうしゃ

月尊優
児童書・童話
おちゅうしゃは痛(いた)い? おさない人はおちゅうしゃがこわかったと思(おも)います。 大人のひとは痛くないのかな? ふしぎでした。

さんびきのぶたさん

みのる
児童書・童話
3匹のぶたさんのきょうだいが家を留守にする母親に『お手伝い』をお願いされる話。

川の者への土産

関シラズ
児童書・童話
 須川の河童・京助はある日の見回り中に、川木拾いの小僧である正蔵と出会う。  正蔵は「川の者への土産」と叫びながら、須川へ何かを流す。  川を汚そうとしていると思った京助は、正蔵を始末することを決めるが…… ‪     ‪*‬  群馬県の中之条町にあった旧六合村(クニムラ)をモチーフに構想した物語です。

こわモテ男子と激あま婚!? 〜2人を繋ぐ1on1、ブザービートからはじまる恋〜

おうぎまちこ(あきたこまち)
児童書・童話
 お母さんを失くし、ひとりぼっちになってしまったワケアリ女子高生の百合(ゆり)。  とある事情で百合が一緒に住むことになったのは、学校で一番人気、百合の推しに似ているんだけど偉そうで怖いイケメン・瀬戸先輩だった。  最初は怖くて仕方がなかったけれど、「好きなものは好きでいて良い」って言って励ましてくれたり、困った時には優しいし、「俺から離れるなよ」って、いつも一緒にいてくれる先輩から段々目が離せなくなっていって……。    先輩、毎日バスケをするくせに「バスケが嫌い」だっていうのは、どうして――?    推しによく似た こわモテ不良イケメン御曹司×真面目なワケアリ貧乏女子高生との、大豪邸で繰り広げられる溺愛同居生活開幕! ※じれじれ? ※ヒーローは第2話から登場。 ※5万字前後で完結予定。 ※1日1話更新。 ※第15回童話・児童書大賞用作品のため、アルファポリス様のみで掲載中。→noichigoさんに転載。

おなら、おもっきり出したいよね

魚口ホワホワ
児童書・童話
 ぼくの名前は、出男(でるお)、おじいちゃんが、世界に出て行く男になるようにと、つけられたみたい。  でも、ぼくの場合は、違うもの出ちゃうのさ、それは『おなら』すぐしたくなっちゃんだ。  そんなある日、『おならの妖精ププ』に出会い、おならの意味や大切さを教えてもらったのさ。  やっぱり、おならは、おもっきり出したいよね。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。