獣人ディックと赤ずきんちゃん

佐倉穂波

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 小さな時の記憶を思い出したディックは、正直に答えます。
「覚えてたというか……思い出したというか……ねぇ、何してるの?」
 座り込むディックの耳を、リリアが興味深そうにさわさわと触っていました。
「わぁっ、フワフワだぁ」
 リリアの目はキラキラ光っています。
「ちょっとっ、くすっぐったいからっ!」
 遠慮がちに触ってくるのが、逆にくすぐったくて、ディックは耳をパタパタと動かします。
「わっ……ごめんなさい、勝手に触って」
 リリアは謝って、手を離してくれましたが、今度はディックの尻尾をジッと見つめています。
「尻尾フサフサ……触っても良い?」
 勝手に触ったらダメなら、きちんと確認してから触ろうと、ウズウズした表情でリリアはディックに尋ねました。
「えー……強く引っ張らなければ……あ、弱すぎるのもちょっとイヤかも」
 あまりに期待に満ちた表情で聞かれたので、ディックは思わず触って良いと返事をしてしまいました。
「ありがとう! わぁ、やっぱりフサフサ! それにツヤツヤだわ」
 ディックの要望(?)通り、絶妙な力加減でリリアは尻尾を撫でます。
(なんだ、このやり取り……)
 リリアに対しては、もう「人間怖い」なんて感情は浮かんで来ないディックは、力が抜けたように息を吐きました。

「なのね、オオカミさん。さっきも、小さな時も助けてくれて、ありがとう」
 リリアはディックの尻尾を撫でながら、真面目な声でお礼を言いました。
「私、ずっとオオカミさんに会いたかったの。会えて嬉しい」
 ディックは、振り返ってリリアを見ます。リリアは、とても嬉しそうに微笑んでいました。その表情を見て、ディックの心臓はドキッと跳ねます。
「ど、どういたしまして」
 ディックは赤くなった顔を見られないように、リリアから顔を反らしながら返事をしました。でも、フワフワの耳はペタンッと伏せてしまっていますし、少し見える頬っぺたは赤くなっているのが、リリアには見えていました。
(良かった、嫌がられてはいないみたい)
 その反応にリリアは嬉しくなりました。
「オオカミさん、私とお友達になって下さい」
 リリアはディックに恋しているので、本当は恋人になりたいと言いたいところですか、きっとそんな事を言ったら困らせてしまいます。
(お友達から……そして、もっと仲良くなれたら告白しよう)
 そんな計画を考えつつ、リリアはディックに手を差し出しました。
 割とグイグイくるリリアに困惑しながら、ディックは差し出された手を反射的に握り返していました。
(あ、思わず握っちゃった……まぁ、良い子みたいだし、いいか)
「わかった。いいよ」
「ありがとう、オオカミさん!」
 まずは「友達」になることが出来て、リリアは喜びます。これで、森に会いに来る理由が出来ました。
「……ディック」
「え?」
「僕の名前。友達だから」
 照れ隠しなのか、少しぶっきらぼうにディックが名前を教えてくれました。
「ありがとう、ディックさん」
 本人の口から聞きたかった名前を、ようやく聞くことがでしました。これで、堂々と呼ぶことが出来ます。
 リリアは喜びのあまり、ディックの首に抱きつきました。

 その後、ディックの慌てたような、間抜けな悲鳴が森の中に響いたのでした。

─ 完 ─
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みんなの感想(2件)

マイマイン
2024.10.01 マイマイン

全部読ませていただきました。最後は二人が幸せになって良かったです。ほっこりな雰囲気が良いですね。
虹色市誕生が完成したので、良かったらどうぞ。

佐倉穂波
2024.10.01 佐倉穂波

感想ありがとうございます
ディックは、いざと言うとき便りになるヘタレです(*^▽^)/★*☆♪

マイマインさんの作品も、読ませて頂きますね(`・ω・´)ゞ

解除
マイマイン
2024.09.22 マイマイン

 新しく小説が載っていたので読んでみました。ほのぼの系の小説いいですね、狼の獣人のディック君、可愛いですし、いい子ですね。今、5章まで読みましたが、この後、どうなるか楽しみです。いいねのポイントを付けさせてもらいました。

佐倉穂波
2024.09.22 佐倉穂波

 いつも読んでくださり、ありがとうございます!ディックは、とても良い子なんですよ✨完結までの目処がたったので、今日から更新ペースを上げてます。続きをお楽しみ下さい(*^^*)

解除

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