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12 ディックの記憶
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リリアの悲鳴が聞こえた方向へ走るディックの耳に「グルグルグルッ」と低い唸り声が聞こえてきました。
ディックには、それが狼の唸り声だと、すぐに分かりました。
リリアが狼に襲われかけているのは明白です。
(この時間は、こんなところまで狼は出て来ないのにっ)
普段の昼間は、狼はもっと森の奥で眠っていることが多いので、油断していました。
ディックは「チッ」と舌打ちをして、走る速度をあげました。
焦る気持ちで草をかき分け、少し開けた場所に出ます。
「!」
目の前に、今にも狼に襲われそうになっているリリアの姿がそこにはありました。
それを見た瞬間、ディックの頭に小さな頃に見た光景を思い出します。
リリアと、小さな少女の面影が重なりました。
「……え?」
忘れていた思い出に、ディックの足が一瞬止まりますが、まずはリリアを助けるのが先だと気を引き締めました。
突然現れたディックに驚いた狼は、後退ったため、リリアから距離が少し離れました。今のうちだと、ディックは足元にあった太い枝を拾い上げると、狼とリリアの間に割って入りました。
「ヴゥーッ」
ディックを敵認定した狼が、身を低くし、毛を逆立てて威嚇するように唸ります。
ディックは狼の獣人ですが、本物の狼と意思疏通できるわけではありません。獣人は獣の特徴を持っているだけで、獣ではないのです。
説得することは不可能なので、戦うしかありません。
地を蹴って襲いかかってきた狼に、ディックは木の枝を振り下ろします。
森に住む者として、獣の弱点は物心つくころには教わっています。小さな時も、それで狼を撃退できたのです。
ディックの振り下ろした木の枝は、狼の眉間にクリーンヒットしました。
狼は目を回して、その場に倒れてしまいました。小さな時よりもディックの力も強くなっていますので、気絶させることに成功したのです。
「こっち」
ディックは座り込んでいるリリアの手を引っ張って立たせると、その場を離れるように促します。狼が目を醒ます前に、逃げるのです。
リリアも頷き、一緒に走り出しました。
しばらく走り、ディックの家の近くまで来たので、二人は足を止め、息を整えます。
「はぁ、はぁ、ここまで来れば、もう大丈夫だと思う」
リリアと手をつないだままだったのを、思い出して、ディックは慌てて手を離しました。
「えっと、ねぇ、君はあの時の女の子?」
まだ息を整えているリリアに、ディックは尋ねました。
その質問にリリアは、パッと表情を明るくさせて紅潮した顔でディックを見上げます。
「覚えてくれてたの?」
そう答えるということは、さっき思い出した女の子はリリアで間違いないということです。
「……状況を整理するから、ちょっと待ってて」
ディックは両手で頭を抱えると、その場に座り込みました。
あの思い出した記憶が正しいということは、ディックは小さな時にもリリアを助けたことになります。
(でも、僕は人間が怖いと思っていたのに……本当に助けたの?)
思い出した記憶を少し遡ってみることにしました。
(そうだ、「赤ずきん」の話を読んで、人間怖いから、人間が仕掛けたワナは危険だって……何故か森の近くに仕掛けられてるワナを見に行ったんだ)
どうして人間が怖いと思っているのに、人間の仕掛けたワナを見に行くという考えになったのかは、覚えていません。
(そしたらウサギがワナに掛かってて……可哀想だから外してあげてたら、自分も足がワナにかかちゃったんだ)
助けようとして、自分もワナに掛かったのは不運という他ありません。
(で、なんとかワナを外して……そしたら近くで女の子の悲鳴が聞こえて……)
それで、先ほどの光景に結びついたのでした。
ウサギとリリアを助けたディックでしたが、その後ケガによる高熱で、色々と記憶が混ざり合い、「人間は怖い」という一番強烈だった記憶だけが残ってしまったというわけでした。
ディックには、それが狼の唸り声だと、すぐに分かりました。
リリアが狼に襲われかけているのは明白です。
(この時間は、こんなところまで狼は出て来ないのにっ)
普段の昼間は、狼はもっと森の奥で眠っていることが多いので、油断していました。
ディックは「チッ」と舌打ちをして、走る速度をあげました。
焦る気持ちで草をかき分け、少し開けた場所に出ます。
「!」
目の前に、今にも狼に襲われそうになっているリリアの姿がそこにはありました。
それを見た瞬間、ディックの頭に小さな頃に見た光景を思い出します。
リリアと、小さな少女の面影が重なりました。
「……え?」
忘れていた思い出に、ディックの足が一瞬止まりますが、まずはリリアを助けるのが先だと気を引き締めました。
突然現れたディックに驚いた狼は、後退ったため、リリアから距離が少し離れました。今のうちだと、ディックは足元にあった太い枝を拾い上げると、狼とリリアの間に割って入りました。
「ヴゥーッ」
ディックを敵認定した狼が、身を低くし、毛を逆立てて威嚇するように唸ります。
ディックは狼の獣人ですが、本物の狼と意思疏通できるわけではありません。獣人は獣の特徴を持っているだけで、獣ではないのです。
説得することは不可能なので、戦うしかありません。
地を蹴って襲いかかってきた狼に、ディックは木の枝を振り下ろします。
森に住む者として、獣の弱点は物心つくころには教わっています。小さな時も、それで狼を撃退できたのです。
ディックの振り下ろした木の枝は、狼の眉間にクリーンヒットしました。
狼は目を回して、その場に倒れてしまいました。小さな時よりもディックの力も強くなっていますので、気絶させることに成功したのです。
「こっち」
ディックは座り込んでいるリリアの手を引っ張って立たせると、その場を離れるように促します。狼が目を醒ます前に、逃げるのです。
リリアも頷き、一緒に走り出しました。
しばらく走り、ディックの家の近くまで来たので、二人は足を止め、息を整えます。
「はぁ、はぁ、ここまで来れば、もう大丈夫だと思う」
リリアと手をつないだままだったのを、思い出して、ディックは慌てて手を離しました。
「えっと、ねぇ、君はあの時の女の子?」
まだ息を整えているリリアに、ディックは尋ねました。
その質問にリリアは、パッと表情を明るくさせて紅潮した顔でディックを見上げます。
「覚えてくれてたの?」
そう答えるということは、さっき思い出した女の子はリリアで間違いないということです。
「……状況を整理するから、ちょっと待ってて」
ディックは両手で頭を抱えると、その場に座り込みました。
あの思い出した記憶が正しいということは、ディックは小さな時にもリリアを助けたことになります。
(でも、僕は人間が怖いと思っていたのに……本当に助けたの?)
思い出した記憶を少し遡ってみることにしました。
(そうだ、「赤ずきん」の話を読んで、人間怖いから、人間が仕掛けたワナは危険だって……何故か森の近くに仕掛けられてるワナを見に行ったんだ)
どうして人間が怖いと思っているのに、人間の仕掛けたワナを見に行くという考えになったのかは、覚えていません。
(そしたらウサギがワナに掛かってて……可哀想だから外してあげてたら、自分も足がワナにかかちゃったんだ)
助けようとして、自分もワナに掛かったのは不運という他ありません。
(で、なんとかワナを外して……そしたら近くで女の子の悲鳴が聞こえて……)
それで、先ほどの光景に結びついたのでした。
ウサギとリリアを助けたディックでしたが、その後ケガによる高熱で、色々と記憶が混ざり合い、「人間は怖い」という一番強烈だった記憶だけが残ってしまったというわけでした。
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